この記事では『膝蓋下脂肪体(IFP:infrapatella fat pad)』について解説している。

 

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膝蓋下脂肪体とは

 

『膝蓋下脂肪体』は「膝蓋靭帯の深層に存在する脂肪組織」であり、関節包内や滑膜外に存在する。

 

膝蓋靭帯と横靭帯との間に存在し、膝関節の屈伸に伴い以下のように形態を変化させる。

  • 伸展位⇒膝蓋骨の尾側へ押し出される。
  • 屈曲位⇒膝蓋骨の後方へ滑り込む。
膝蓋下脂肪体

 

上記のように「膝関節屈伸に伴いその形態を変化させること」で、半月板の前方移動の誘導や後方移動の制動に作用する役割を持っている。

 

逆を言うと「膝蓋下脂肪体の拘縮」が生じて形態変化に異常をきたすと、「半月板の後方移動を阻害」⇒「(膝関節屈曲時における)半月板後節のインピンジメント」へ繋がる可能性がある。

 

また、膝蓋下脂肪体自体にも炎症が起こり、疼痛の原因になり得る。

 

膝蓋下脂肪体由来の疼痛

 

膝蓋下脂肪体には、大腿神経、閉鎖神経などの神経終末が分布していることから、それ自体が疼痛発生装置になり得ることが分かっている。

 

以下な症状を訴える場合、膝蓋下脂肪体由来ではないか考慮してみて損は無い。

 

膝関節の屈曲や伸展を伴う、膝関節前面の痛み

 

他組織のインピンジメントに間接的に関与している場合を除き、膝蓋下脂肪体由来の疼痛は「膝蓋骨前面に漠然と生じる痛み」として感知されることも多い。

 

 

手術と膝蓋下脂肪体

 

人工膝関節全置換術では、膝蓋下脂肪体を部分的に切除することもある(基本は温存を試みるが)。

 

あるいは関節鏡を用いて、変性した半月板や軟骨の切除増殖した滑膜・骨棘の切除をした場合、膝蓋下脂肪体が術侵襲されており、その部位の拘縮や癒着に着目する必要がある。

 

 

変形性膝関節症と膝蓋下脂肪体

 

変形性膝関節症は、O脚(内反変形)を呈しやすく、そうなると以下な理由で膝蓋下脂肪体が内側に溜まり易く、かつ硬くなり易い。

  • 内反している(つまり外側に脂肪体が貯まるスペースが無い)ため内側へ貯まる。
  • 膝の捻じれにより膝屈伸時における脂肪体滑動のルートが狭くなっているため、硬くなりやすい。

 

この問題により、膝屈曲可動域のみならず伸展制限にも繋がるため、膝蓋下脂肪体の評価・治療は大切になってくる。

 

 

膝蓋下脂肪体の疼痛誘発テスト

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膝蓋下脂肪体は、組織に加わる圧力と比例して疼痛も誘発されやすい。

そのため、以下の方法で軽度屈曲位(圧力弱)から完全伸展位(圧力高)にした際の疼痛を評価することで、膝蓋下脂肪体由来な疼痛かを鑑別できる。

 

  1. 膝関節を軽度屈曲位なポジショニング。
  2. セラピストは、膝蓋靭帯部を前方より圧迫(この際は、まだ圧力が弱いため疼痛は誘発されない)。
  3. セラピストは圧迫を持続したまま、患者に膝を完全伸展するよう指示する。
  4. 完全伸展することで関節内圧が上昇し、膝蓋下脂肪体由来の疼痛であれば誘発される。

 

  • 膝蓋靭帯の外側で圧迫すれば、膝蓋下脂肪体の外側に起因した疼痛を誘発できる。
  • 膝蓋靭帯の内側で圧迫すれば、膝蓋下脂肪体の内側に起因した疼痛を誘発できる。

 

ピンとこない方は、以下の動画も参考にしてみてほしい。

 

 

 

「Hoffa の疼痛誘発テスト」と「Jason の疼痛誘発テスト

 

類似した膝蓋下脂肪体の疼痛誘発テストに「Hoffa の疼痛誘発テスト」と「Jason の疼痛誘発テスト」を記載しておく。

 

Hoffaの疼痛誘発テスト

  1. 膝30~60°屈曲位にて膝蓋下脂肪体を圧迫しつつ、反対手は足底を触れておく(要するに運動療法でいうところのキッキング抵抗運動のファーストポジション)。
  2. 患者に「抵抗に逆らって足を伸ばす(セラピストの手をける)よう指示する。
  3. この際に膝関節も伸展するが、膝蓋下脂肪体に線維化などの変性があれば圧迫部に疼痛を生じる。

 

Jasonの疼痛誘発テスト

  1. 膝軽度屈曲位にて膝蓋下脂肪体を圧迫しつつ、反対手は膝窩部に(膝が伸展しないように、膝を救い上げるように)添えておく。
  2. 患者にはリラクスしてもらいつつ、セラピストは他動的に(膝をすくい上げていた手の力を緩めることで)他動的に膝関節を伸展させる。
  3. 膝蓋下脂肪対に線維化などの変性があれば圧迫部に疼痛を生じる。

 

いずれのテストも「膝艤下脂肪体の内圧を高めることで疼痛が誘発されやすい」といった原理を利用したテストなので、使いやすい方法を選ぼう。

 

 

膝蓋下脂肪体へのアプローチ例

 

膝蓋下脂肪体に対するアプローチには、テーピングや運動療法を含め様々なものが提唱されているが、ここでは一例として以下の動画を添付しておく。

 

以下は、膝蓋下脂肪体を含めた「膝関節周囲の脂肪体へのアプローチも意識しながらの膝蓋骨モビライゼーション」になる。

 

振幅も利用するなど、刺激の入れ方を色々と工夫するのも一つのアイデア。

 

 

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以下の動画は、2分20秒からが膝蓋下脂肪体へのアプローチとなる。

 

 

※膝OAの患者に対して、内側へ溜まって硬くなった膝蓋下脂肪体を内側(膝蓋方向)へ誘導しつつ柔らかくするイメージ。

 

※手指の点ではなく面を利用するのがポイント。

 

この動画は、セミナーなどの質問を受けた際に、動画でも学べる事がるという一例として何人かに紹介したことのある動画でオススメ。

 

しっかりとした物理的な刺激を用いたアプローチなので、動画でも参考にし易い。

 

以下のDVD『膝関節の理学療法 仮説検証作業の実際 DVD2枚組』では、運動療法も含めて、もっと詳しい解説がなされている。

 

実践的で有益な情報なので興味がある方はぜひ手に取って頂きたい。