この記事は、神経ブロック療法について解説している。

 

目次

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神経ブロック療法とは

 

神経ブロックとは、神経の興奮の伝導の遮断を意味する。

 

神経ブロック療法は、手術のための局所麻酔から発展した治療法だが、外科手術のようにメスで切ることはなく、中枢神経系を抑制せずに痛みを緩和することのできる治療法であり、下記のように定義されている。

 

脳脊髄神経や脳脊髄神経節または交感神経節、およびそれらが形成する神経叢に向かってブロック針を刺入し、直接またはその近傍に局所麻酔薬または神経破壊薬を注入して、神経の伝達機構を一時的または永久的に遮断する方法

 

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局所麻酔薬による神経ブロック療法

 

局所麻酔による神経ブロック療法は下記の3つに分類される。

 

①感覚神経に対するブロック

直接痛みを緩和させるために用いる。

それぞれの部位や神経痛や根症状に対して施行されることが多い。

四肢の末梢神経ブロックや上・下歯槽神経ブロックは整形外科的手術や歯科治療の局所麻酔法の一つとして施行されることがある。

 

②交感神経に対するブロック

局所の血流を改善させる目的で行われる。

最も数多く施行されるのが頸部の星状神経節ブロックである。

星状神経節ブロックは、支配する領域の血流改善による効果だけでなく、過敏となった自律神経活動の正常化や、低下した自律神経系機能の活性化などによる生体恒常性の維持などにも効果を持つと言われている。

 

③運動神経に対するブロック

局所の筋緊張を抑える目的で行われることがある。

交感神経や感覚神経との同時のブロックであることが多く、単独で運動神経ブロックのみを痛み治療目的で施行することは少ない。

運動神経ブロックにより運動神経の興奮を抑制し、筋肉を弛緩させることは、交感神経ブロックと同様に血流を改善させる効果があり、「痛みの悪循環」の改善につながる。

関連記事⇒『HP:痛みの悪循環

 

 

感覚神経ブロックは直接痛みを緩和させ、交感神経ブロックは局所の血流を改善させる目的で行われる。

 

また、局所の緊張を抑える目的で、運動神経に対するブロックを行うこともある。

 

神経ブロック療法に用いられる局所麻酔薬としては、リドカインやブピバカインなどがある。

 

また、局所麻酔薬に、炎症を抑えるステロイド性抗炎症薬やノイロトロピンなどを加えることもある。

 

ブピバカインは、リドカインに比べて薬剤の効果が出るのに時間がかかるが、鎮痛効果が強力で、しかも毒性が弱いので、神経ブロックに選択され易い。

 

ブピバカインによる神経ブロック効果の持続時間はせいぜい8時間程度であるが、ブロック効果が消失した後も鎮痛効果はさらに長く続く。

 

その理由は、神経ブロックによって患部を自由に動かせるようになることで、痛みによって産生された代謝産物が除去され、痛みの悪循環が断ち切られるからとされている。

 

 

局所麻酔による先取り鎮痛

 

痛みを予防するための『先取り鎮痛』として局所麻酔を用いることもある。

 

先取り鎮痛の具体例は下記の様なものがある。

 

  • 四肢を切断しなければならないクライアントに対して、術前に局所麻酔薬を硬膜外から投与することにより、幻視痛が生じる割合が減少する。

 

  • 帯状疱疹の急性期に局所麻酔薬による持続硬膜外ブロックを施行することで、帯状疱疹後神経痛の予防になる。

 

  • 腰痛等の運動器疾患の急性期に神経ブロックを試行することで、慢性化を阻止できる可能性がある。

 

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神経破壊薬による神経ブロック療法

 

局所麻酔薬に比べて、神経破壊薬による神経ブロック療法は理学療法士・作業療法士には馴染みがないが、念のため記載しておく。

 

神経破壊薬としては、エタノール、フェノール、フェノールグリセリンなどが用いられる。

 

細胞を脱水したり、タンパク質を変性させたりすることによって、神経の情報伝達を遮断し、神経遮断効果は3か月~2年間と長時間持続する。

 

効果は永久ではないものの、癌性疼痛による耐えがたい痛みには効果的である。

 

一方で、薬液が漏れて予想外のところまで流れ、痛みに関係のない神経まで遮断する恐れがあるため注意が必要である。

 

難治性の神経因性疼痛の発生には末梢神経・中枢神経性に多くの因子が関与しており、この伝導路遮断を目的とする神経ブロックだけでは解決しないことが多い。

 

過去には、単純に電線を切るように感覚神経を外科的もしくは化学的に切断すれば安易に鎮痛を得られると考えられた時代もあった。

 

しかし、こういった治療により、幻視痛や脊髄損傷後の難治性疼痛やカウザルギーなどと同様の神経切断や損傷後に生じる、耐えがたい新しい痛み(求心路遮断性疼痛)を出現させることが分かっている。

 

こういったことからも安易に神経破壊薬を使用しての知覚神経ブロック(や外科的手術)は特殊な場合を除いて行うべきではないとされている。

 

 

トリガーポイント注射

 

厳密な意味での神経ブロックではないが、いわゆるトリガーポイントに局所麻酔を単独もしく鎮痛剤(ステロイドノイロトロピンなど)と共に注射する。

 

臨床的には筋・筋膜性疼痛症候群にかなりの効果を持つとされている。

 

トリガーポイント注射は対象が神経ではないため、神経ブロックよりは安全な治療法である。

 

トリガーポイントとは「圧迫や針の刺入、加熱、または冷却などにより関連域に関連痛を引き起こす体表上の部位」と定義されており、東洋医学で言うところの「経穴」に一致していることが多い。

 

関連記事⇒『HP:トリガーポイント圧迫&リリース法(マイオセラピー)

 

 

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