1969年、ノルウェーのテリエ・レモは、『長期増強』と呼ばれる現象を発見して注目を集めた。
長期増強とは
シナプスにおいて、「神経伝達物質を放出する側の神経」を刺激すると、「神経伝達物質を受け取る側の神経」に刺激が伝わる。
そして、放出側の刺激を何百回も繰り返していると、だんだんと受け取る側(の受容体)の反応が大きくなるという現象が起こる。
しかも、一度大きくなった反応は、その後も持続することになる。
つまり、たった2つの神経が、情報を「記憶」してしまうと言い換えることもできる。
この現象は『長期増強』と呼ばれ、反対に抑制性の刺激についても『長期抑制』という同じような現象が認められている。
これらは脳の限られた領域だけでなく、脊髄も含めて、どこでも起こる現象だということが分かっている。
長期増強と記憶・学習
脳における記憶についても長期増強が影響している。
長期増強は、脳の中で記憶をつかさどる海馬という部分でも働いており、記憶や学習のきっかけになる役割を果たしていると考えられる。
私たちが物事を記憶しようとした際に生じる刺激が海馬に到着すると、そこが興奮する。
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再び刺激が到着すると海馬が再び興奮するという繰り返しが長期増強を起こす。
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脳の可塑的変化によって記憶が出来上がる。
私たちが何か新しいことを学習して覚えるときには、言葉にしても動作にしてもそれを何度も繰り返すという行為をするが、その繰り返しということによって脳の中の可塑性を利用していると言える。
長期増強・長期抑制と依存性の因果関係
例えば依存症を引き起こす報酬系においては下記のような現象が起こる。
①依存性を有した薬物によって中脳腹側被蓋野のA10神経を中心とする報酬系が活動し、快感が生じる。
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②その薬物を繰り返し服用すると、『長期増強』によって報酬系が活性化し易くなってしまう。
※ラットがレバーを押した際にコカインを与えるという実験を行ったところ、長期増強の発生を阻害する薬物を投与されたラットは、レバーをほとんど押さなかった(つじゃり、長期増強をそがいすると薬物依存が生じなかった)。
※実際にラットのA10神経への伝達強度を測定すると、1回のコカイン投与で長期増強が生じ、その効果は永続することが分かった。これはコカインだけでなく、覚せい剤、モルヒネ、アルコール、ニコチンでも同じ結果であった。
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③また、GABA(A10神経の活動を抑制する神経伝達物質)を放出する神経が『長期抑制』によって不活性となり、(抑制神経が抑制されることにより)A10神経がますます活性化する。
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④更に刺激を続けると、今度はA10神経が放出するドーパミンを受け取る側(受容体)にも変化が現れる。そして、ドーパミンに反応しにくくなる。
※これは薬物に「耐性」が出来ることを意味する。
※こうなると、より大量の薬物を求めるようになり、日常で他の喜びからもたらされるドーパミン程度では、ほとんど反応しないようになる。