理学・作業療法士協会が定める「認定理学療法士・認定作業療法士(あるいは専門理学療法士・専門作業療法士)なる資格が存在する。
しかし、あまり資格のメリット(魅力)を感じにくい人が多いのが現状ではないだろうか?
今回はこれらの資格に関して、認定理学療法士にフォーカスしてメリット・デメリットを考察していく。
※この記事を読めば、認定理学療法士と専門理学療法士の違い(あるいは認定作業療法士と専門作業療法士の違い)も理解して頂けると思う。
目次
認定理学療法士(作業療法士)の価値について
「認定理学・作業療法士」取得のメリットとして一般的に挙げられるものとしては、理学・作業療法士(あるいはケアマネなどの他職種)に対して「自己研鑽を頑張っているね」と思ってもらえることではないだろうか。
※例えば名刺交換をする際などに
膨大な数の「○○認定資格」などが存在し、中には「認定理学・作業療法士」などとは比べ物にならないくらい取得難易度が高いものもあったりする。
しかし、同じ理学療法士であったとしても、よっぽどその世界に精通していたり、マニアであったりでなければ、価値が分からないものも多いと感じる。
そうなってくると、他職種であれば尚さら「???」である。
一方で、理学療法士協会が認定しているとなれば、他職種にも「まっとうな資格」として「何となく」認知され易いと考える。
これは例えば、他職種である看護師や介護福祉士の名刺に何らかの資格が記載さえている際に「日本看護師協会認定」だとか「日本介護福祉士協会認定」だとかの資格であれば、(それがどれ程凄い資格なのかは全く分からなくとも)「まっとうな資格」として「何となく」認知されやすいのと同じだろう。
※あくまでマニアックすぎて価値が分かりづらい資格と比べてという話
あるいは、職場を転職する際に、一つの判断材料として担当者から評価されることもあるかもしれない。
ただし、取得するメリットとしては、その程度しか思い浮かばないというのが正直なところだ。
他国には理学療法士+αとして保有しているだけで保険点数が上乗せされる類の資格も存在し、そのレベルの価値があればインセンティブも働きやすいが、現時点では認定理学・作業療法士にそれだけの価値は備わっていない。
認定理学療法士の資格維持には努力も必要
ただし、将来は認定資格を有しているかどうかで差別化が図られる可能性も「ゼロではない」と考える。
従って「ゼロではない」以上、保険として取得しておいても良いのではないだろうか?
しかし、ここでネックになってくるのは「認定理学療法士の資格を取得すれば、永続的に保有が可能」という訳にはいかない点であろう。
つまりは、資格を維持していくのにお金のみならず努力が必要となってくる。
お金が必要なだけでも大きなデメリットなのに、努力も必要となれば尚更モチベーションが下がってしまうのだが、その努力とは以下の通りである。
①更新期間内(5年間)に研修会に参加するなどして、一定ポイントを貯めるための努力
②更新期間内(5年間)に再び症例報告の書類を作成するための努力
理学療法士協会としては「認定理学療法士の資格取得がゴールではなく、そこがスタートなのだ」という思いがあるのかもしれない。
そして、その思いに共感できる部分もある。
しかし、枠にはめられた自己研鑽ほど苦痛なものはないので、それを永続的に強いられるとなると、躊躇したくなる気持ちも芽生えるのでないだろうか?
この心理はブログの更新と似ている気がする。
自分が好きな時に、好きなタイミングで発信できると思うからこそモチベーションが上がる。
それを、誰かに「ブログを定期的に発信しろ」と強制させられた途端にやる気がうせるという心理は、理解してもらい易いのではないだろうか?
また、人生には様々なイベントが待っており、場合によっては自己研鑽どころではなくなる時期もあるかもしれず、その場合における強制的な努力は非常にきついのではないだろうか。
認定理学療法士・専門理学療法士の取得方法と種類
認定理学療法士・専門理学療法士を取得するためには、新人教育プログラムを修了する必要がある。
新人教育プログラム(15単位)を履修
↓
理学療法士協会へ修了申請を行う
↓
修了申請が受理された後に、専門分野に登録(詳しくは以下の7つの大分類・23の小分類を参照)
※ここまでで新人教育プログラムが修了したことになる。
※15単位を履修すれば自動的に修了したことになならず、自身で修了申請をしなければならない点に注意する。
※15単位全てを履修しても、(理学療法士協会の事務処理が追いつかずに)修了申請を行える状態になるまでタイムラグがあるため、その間に「修了申請の事をすっかり忘れてしまった」ということにならないように注意する。
※新人教育プログラムが「修了」していない状態で、認定療法士・専門療法士の取得に必要な研修会に参加してもポイントとして加算されない(新人教育プログラムとしてのポイントに加算される)ため、場合によっては「もったいない」ことになる。
理学療法士の専門分野に関しては、以下の「7つの大分類」・「23の小分類」にカテゴライズされている。
皆さんは、専門・認定理学療法士に魅力を感じている方々は、すでに目標とする専門分野を見つけているだろうか?
※ちなみに私は、「運動器理学療法専門分野」の運動器・徒手理学療法、「生活環境支援理学療法専門分野」の地域理学療法のいずれかの受験資格(の一歩手前)を有した状態となっている。
- 礎理学療法分野:
・ひとを対象とした基礎領域
・動物・培養細胞を対象とした基礎領域
- 神経理学療法専門分野:
・脳卒中
・神経筋障害
・脊髄障害
- 運動器理学療法専門分野:
・運動器
・切断
・スポーツ理学療法
・徒手理学療法
- 内部障害理学療法専門分野:
・循環
・呼吸
・代謝
- 生活環境支援理学療法専門分野:
・地域理学療法
・健康増進・参加
・介護予防
・補装具
- 物理療法理学療法専門分野:
・物理療法
・褥瘡・創傷ケア
・疼痛管理
- 教育・管理理学療法専門分野:
・臨床教育
・管理・運営
・学校教育
認定理学療法士取得までの流れ
認定理学療法士を取得する流れとしては、以下の条件を満たした後に、申請審査・試験に合格する必要がある。
条件1:
専門分野登録(すなわち新人教育プログラム修了)から2年以上経過している
※すなわち、臨床経験5年目で新人教育プログラムを修了(=専門分野に登録)した場合、そこから更に2年経過しなければ認定理学療法士の資格取得の条件を満たすことができない。
条件2:
研修会・講習会・学会への参加や、学会発表など、必要なポイントを取得
条件3:
専門理学療法士取得までの流れ
専門理学療法士を取得する流れとしては、以下の条件を満たした後に、申請審査・試験に合格する必要がある。
※以下の取得条件からも分かるように、認定理学療法士を取得していなくとも専門理学療法士を目指すことができる。
条件1:
専門分野登録(すなわち新人教育プログラム修了)から5年以上経過している
条件2:
研究に関する業績、後進の指導に関する業績など必要なポイントを取得
条件3:
専門分野の論文を提出
※「研究に関する業績」・「専門分野の論文を提出」といった学術的側面が強く、認定理学療法士の取得よりもかなりハードルが高くなっている。
認定作業療法士・専門作業療法士の取得方法
認定作業療法士・専門作業療法士の仕組みは、理学療法士のそれとは若干異なる。
詳しいステップアップ(取得方法)は以下の通り。
まずは基礎研修制度を修了する
基礎研修制度とは、新たに会員となった作業療法士を対象とする教育制度のことで、以下から構成される。
- 現職者研修の受講(現職者共通研修10テーマ・現職者選択研修2領域)
- 基礎研修自由選択(協会主催の研修会参加などによるポイント取得)
認定作業療法士を取得する
基礎研修制度をクリアしたら、次は認定作業療法士制度に沿って、認定作業療法士を目指すこととなる。
認定作業療法士制度は、臨床実践・教育・研究・管理運営に関する一定水準以上の能力を持つ者を、認定作業療法士として認定する制度である。
認定作業療法士になるためには、以下の基準を満たすことが必要となる。
- 基礎研修制度を修了していること
- 協会会員となってから5年以上の実務経験を積んでいること
- 各共通研修を受講後、試験に合格(3講座)
- 各選択研修を受講後、試験に合格(2講座)
- 事例報告3例を提出
※認定理学療法士が「特定の分野に細分化された上で認定される」のに対して、認定作業療法士は「特定の分野に特化されずに認定される」という点が違いと言える。
※認定理学療法士が「臨床」にフォーカスを当てた資格なのに対して、認定作業療法士は「教育・研究・管理運営」といった幅広い分野にもフォーカスされた資格な点が違いと言える。
※認定作業療法士になれば、作業療法士協会のHPで都道府県別に名前が表示されたりもする。
※認定作業療法士の資格継続には5年ごとに更新をしていく必要があり、期限内に所定の更新ポイントを取得することが求められる。
専門作業療法士を取得する
認定作業療法士を取得したら、次は専門作業療法士制度に沿って、専門作業療法士を取得することとなる。
※専門理学療法士は認定理学理学療法士の取得が条件ではない点は、作業療法士の生涯教育制度と異なっている部分と言える。
専門作業療法士制度は、特定の分野において高度で専門的な実践能力を持つ者を、専門作業療法士として認定する制度である。
専門作業療法士になるためには、以下の条件を満たすことが必要となる。
条件1:
認定作業療法士の取得
条件2:
単位取得(研修実践など4実践)
条件3:
1・2の条件をみたし、試験に合格する
※専門作業療法士も5年ごとに資格を更新されるため、資格継続には所定のポイントを期限内に取得する(すなわち自己研鑽をする)必要がある。
専門作業療法士における特定分野には以下の種類がある
- 福祉用具
- 認知症
- 手外科
- 特別支援教育
- 高次脳機能障害
- 精神科急性期
- 摂食嚥下
「認定理学療法士・認定作業療法士」の資格の将来性
前述したように、私は認定理学療法士ではない。
私自身も皆と同様に、今現在における「認定理学療法士・認定作業療法士」に関して前述したようなメリット・デメリットを比較した場合に、デメリットの方が勝ってしまうからである。
しかし将来性を考えた場合には、前述したように(可能性はゼロに近いものの)何らかの価値が見いだせる時が来るのではないかとも思っている。
従って、受験資格を有するラインにまでは持っていき、いつでも受験できる状態にはしている(有効期限のあるセミナーや症例報告などもあるため、厳密にぎりぎりな状態で延々とキープしておくことはできないが)。
ここから先は、私が思っている「何らかの価値」の例え話を記載していく。
国は拡大する医療費に対して、削減できるものはないかと血眼になって捜している状態である。
そして、今後も難癖をつけては医療費にメスを入れてくる可能性は高い。
そんな中で理学療法士協会・作業療法士協会は「自身の職域」「自身の診療報酬・介護報酬」を堅守したいとの思いが(当然のことながら)ある。
認定理学療法士・認定作業療法士という資格を、どの様に政府へアピールしていくかという切り口は様々あるが、それらのアピールによって協会が勝ち取りたいものはズバリ「資格を有している場合は一定の診療報酬(あるいは介護報酬)を加算してほしい(あるいは何らかの価値を与えてほしい)」というものであろう。
しかし、(誰もが思っていることではあるが)現実的には不可能だと思われる。
そして私が危惧しているのは、協会が政府に「専門・認定療法士という資格の優位性をアピールすること」が、以下のように利用されてしまうことである。
「認定療法士であることは、単なる理学・作業療法士より優れているということなのだな。であれば、単なる理学・作業療法士は半人前で、認定療法士であることで初めて一人前という考えも成り立つな。であれば、単なる理学・作業療法士達の診療報酬は下げて、認定療法士になって初めて真っ当な診療報酬を授けよう」
かなり現実離れした発想ではあるが、こういうのは政府の常套手段なため、認定療法士という資格の存在が「妙な方向に悪用される可能性」も否めない。
重複するが、理学・作業療法士協会が認定や専門にハクを持たせるべく国にアピールした場合、それを逆手に取られて「認定・専門を取得していて初めて真っ当な報酬が得られる(取得していなければ報酬が削られる)」という方向に持っていかれる可能性には注意しなければと感じてしまう。
※可能性は低いものの、「専門・認定理学療法士を持っていることで報酬がアップするという可能性」に比べたら現実味があるのではないだろうか?
この様に認定療法士の将来性を考えた場合、取得には「保険」という意味でのメリットを感じることが出来るのではないだろうか。
ただし、一度認定療法士の資格を有してしまうと、その資格を保有し続けるための「努力」がエンドレスに続いて行くことを考えると、いつでも認定療法士が取得できるような段階にまで準備だけ進めておいて様子を見るというのも、前述した「保険」として機能するのではと考える。
少し飛躍した将来性を記載してみた。
認定療法士のメリット・デメリットに関しては多種多様な考えが存在する(大体はデメリットだと思うが・・)ので、様々な意見に触れてみて、後悔しない様に行動して欲しい。
追記:生涯学習制度が平成33年4月より変更
ここからは追記した関連記事を紹介する。
H29年10月に『理学療法士の生涯学習制度(現在の新人教育プログラム・認定理学療法士制度が該当)がH33年4月より大幅に変更される』との通達がなされた。
この点に関して以下の記事で解説しているので、是非とも合わせて観覧することをお勧めする。
⇒『衝撃的事実!! 生涯学習制度がH33年より大幅に変わる件』
理学・作業療法士のメリットデメリットの関連記事
理学・作業療法士に関連する記事を以下のリンク先にまとめている。
※リハビリテーション業界全体に関するニュースなどの雑感も含めてまとめている。
このテーマに関しては、多種多様な意見が存在するため、それら多様な意見の中の一つとして記事を楽しんでいただければと思う。
特にまとめページを通じて、新人の理学療法士・作業療法士さんに「この業界について考えるきっかけ」として何かしら響くものがあれば幸いだ。