この記事では、訪問リハビリや通所リハビリで重要となってくる誤嚥予防の基礎知識について記載していく。
また、嚥下や誤嚥については以下も参照してほしい。
⇒『嚥下のプロセス』
⇒『誤嚥の基礎知識』
食事中にむせてしまう要因
食事時にむせが起こり易い原因としては以下が挙げられる。
- 食事形態の不適切さ
- 介助方法の不適切さ
- 不安定な姿勢
- 開口状態なままの嚥下
- 口で呼吸している(飲み込みが十分出来ない)
※これらを踏まえて、食事介助時は、嚥下状態を確認して何が原因か(食材か体位・姿勢か、機能の問題なのかなど)を考え、その問題に対処改善することが誤嚥性肺炎の予防にもつながる。
覚醒レベルと誤嚥
向精神薬・睡眠薬などの薬剤を飲んでいる場合は、嚥下機能の低下が薬の副作用であることも考えられる。
薬が原因であれば、医師に連絡することで薬剤の調整も検討してもらう。
とくに睡眠薬に関しては覚醒レベルという点でも注意する必要がある。
覚醒レベルに関しては、その時々の睡眠不足などによっても変化が起こってしまう。
従って、普段は誤嚥しない人であっても、その日の体調によって誤嚥し易い状態になることを意味する。
睡眠不足でうとうとしている際は、時間をずらして覚醒してから食事にするなどの配慮も必要となってくる。
食事の姿勢
食事の姿勢について「椅子座位」「リクライニング座位」「電動ベッドのギャッジアップ座位」に分けて記載してく。
座位姿勢と嚥下の関係
嚥下は座位姿勢の影響を受けやすい。
嚥下しやすい座位姿勢として、前額面上では正中位をとり、矢状面上では頸部を軽度屈曲し、体幹は垂直位または前屈位という姿勢が報告されている。
摂食・嚥下障害者には誤嚥のリスクは常にあり、誤嚥と経口摂取は常に隣り合わせの関係にある。
リスクを減らし、安全に経口摂取を行っていくには、詳細な診察や検査を実施し、経口摂取を慎重に進めていく必要がある。
具体的には、食事中・後のむせり、痰の量、義歯、咽頭異常感、嚥下困難感、声の変化、食事内容の変化、食べ方の変化、食事時間延長を観察し、摂食・嚥下機能の障害を判断する。また「むせり」をあまり認めない不顕性誤嚥に対しては、嚥下造影(VF)を施行し医学的な評価が必要となる。
リクライニング椅子における誤嚥予防姿勢
姿勢に関しては、いつもの食べ慣れた姿勢が望ましいものの、「むせが強いとき」「口からこぼすとき」「口にため込んでの見込めない」などは、「電動ベッドのギャッジアップ位」や「リクライニング椅子」を利用し、30°(+α)のリクライニング位で症状が改善されることがある。
この際に、枕を当てて必ず頚部は屈曲位にさせておくことが重要となる。
この姿勢は、首のすわりが悪い、頭部が後に沿っている、顎が胸につくまで下を向いているなどによって「喉の動きが制限されている時」にも適している。
関連記事
⇒『摂食嚥下時に「頭・頚部が屈曲している」ほうが良い理由(イラストで解説)』
食塊形成不全による誤嚥に注意!
私たちは、食べ物を口の中へ入れた際に、咀嚼をし、飲み込み易いように「食塊」を形成する。
そして、この「食塊形成」が難しい場合は、誤嚥に繋がり易い場合があるため、高齢者では注意を要す。
食塊形成が困難な理由は以下の通り。
- 口を閉じる能力の低下・舌の協調運動の低下
- 咀嚼パターンの欠如
- 口腔内に残差がある
- 食形態の不適合
口を閉じる能力の低下・舌の協調運動の低下
- 舌の協調瀬運動の低下により、咀嚼時の奥歯への「乗せ直し」が困難となる場合がある。
- 舌の協調性を改善させるには、舌の基本的な訓練が有効とされている。
- 訓練でも協調性が改善されない場合は、咀嚼の必要がない形態の食事への変更も検討することとなる。
咀嚼パターンの欠如
- 認知症などでは咀嚼せず舌の前後運動だけで食事をしていることもある。
- 咀嚼しているかを視認+側頭筋の触診で確認する。
口腔内に残渣がある場合は、交互嚥下が有効となる
口腔内に残差がある場合も誤嚥の原因になり、交互嚥下が有効な場合がある。
交互嚥下とは、ゼリー状のものとその他の物を交互に食べることで、ゼリーが残渣を絡めながら一つの食塊になってくれることで、口腔内の残渣・誤嚥リスクが減る。
※一方で、口腔内の残渣を水で流しこむことは誤嚥リスクが高まる。
食形態の不適合
咀嚼運動が困難(不十分)にも関わらず、咀嚼が必要な食事が提供されている場合がある。
例えば、「刻み食」は高い食塊形成能力を必要とする食事であり、食塊形成ができず残渣が多く認められる場合がある。
あるいは、「2相性食物」も誤嚥を引き起こし易い。
「2相性食物」とは、口腔内で固形と液体が分離して存在する食品のことを指す。
例えば、お茶づけ(お茶という液体と米という固形が分離している)は2相性食物である。
お茶づけのように液体や液体と混ざった粘土に低い固形物は、食事塊移送の前に下咽頭まで流れ込むことが多く誤嚥のリスクが高くなる。
※一方で、圧力なべなどでトロトロに煮込んだ食事は食塊形成が容易である。
嚥下しやすい食品・嚥下しにくい食品の形態
念のため、嚥下しやすい・嚥下しにくいと一般的に言われている食品の形態について紹介しておく。
嚥下しやすい食品形態
- 密度が均一
- 適当な粘土があってバラバラになりにくい
- 口腔や咽頭を通る時に変形しやすい
- べたつかず粘膜に付着しやすい
嚥下しにくい食品形態
- 水分
- 酸性の強いもの
- パサつくもの
- 噛んだ後バラバラになるもの
- 喉に張りつくもの
- 水分と固形物に分かれるもの
- 食形態は基本的に嚥下機能評価に基づいて決定されるが、その形態が対象者に合っているかどうかの観察も重要となってくる。
- 通常、液体は粘性が低い(流動速度が速く、広がり易い)ため、嚥下時に口からこぼれたり、気道の方に流れ込みやすく誤嚥しやすい。
- そのため嚥下機能が低下している人には「とろみ」をつけるなどの工夫が必要となる。
適切なトロミを加えるのも有効
適切な食形態にするためにトロミを加えるのも有効だ。
しかし「必ずしも沢山トロミを加えるほど誤嚥しにくくなる」という訳ではない。
この点に関しては、以下の動画が分かりやすいので、興味がある方は参考にしてみてほしい。
誤嚥予防のトレーニング色々
誤嚥予防のトレーニングは以下を参照。
「パタカラ体操」「唾液腺のマッサージ」「喉周囲筋のストレッチング」「喉周囲筋の活性化」「アイスマッサージ」について
⇒『嚥下リハビリ体操の具体例』
空嚥下(唾をのみこむトレーニング)については以下も参照。
口腔ケアの重要性
上記の嚥下予防トレーニングに加えて、口腔ケアの重要性に関しても記載して終わりにする。
夜の雑菌が口腔内で繁殖されることによって知らず知らずに誤嚥が発生していることはご存じだろうか?
実は、高齢者の肺炎の9割は不顕性誤嚥と言われている。
不顕性誤嚥とは、「知らない間に唾液を飲むことなどによって生じる誤嚥」を指し、つまりは、食事中に本人・あるいは周囲が気づくような症状を有さずに生じる誤嚥が、かなりの割合を占めているということだ。
ちなみに、この記事で主に扱ってきた「食事時の嚥下や嘔吐など逆流で生じる誤嚥」は顕性誤嚥と呼ぶ。
そして、高齢者では、寝ているときなどに唾液をいつも少しづつ誤嚥しており、100%誤嚥を防ぐことは不可能と言われている。
従って、口腔ケアによって口腔内の菌を減らすことが、「不顕性誤嚥によって(菌が気管に侵入してしまうことで)生じる肺炎」を予防するのに重要となってくる。
関連記事⇒『口腔ケアの重要性!』
いずれにしても誤嚥性肺炎は高齢者の命を奪う病気なため、予防は重要である。