私たちは日頃から、糖質・タンパク質・脂質・ビタミン、ミネラルの5大栄養素をバランスよく摂取する必要がる。
そして、いくらリハビリ(理学療法・作業療法)を実践しようとも、肝心な栄養補給が不十分では、効果が発揮できなくなってきている。
また、最近では高齢者の「サルコペニア」や「フレイル」なる概念も登場しており、これらの予防にも「運動療法」と「十分な栄養補給」の両輪が重要だと指摘されている。
今回は、そんな栄養素についての一般知識を記載していく。
栄養素の基礎
栄養素は「からだの構成成分」「エネルギー源」「からだの機能調節」の3つの大きな役割をもっている。
栄養素 | 主な役割 |
---|---|
糖質 | エネルギー源 |
タンパク質(アミノ酸) | からだの構成成分(筋肉など) |
脂質 | エネルギー源、細胞膜の構成成分 |
ミネラル・ビタミン | からだの機能調節 |
栄養はなぜ必要か
私たちは、栄養を摂取することで生命を維持している。
極端な例として、栄養をとれない飢餓状態では、まず肝臓や筋肉に蓄えられているグリコーゲン(ブドウ糖が結合した多糖類)をエネルギー源として利用する。
しかし、その貯蔵量は少なく、わずか1日で使い切ってしまう。
そうなると次に、体内の脂質や蛋白質を分解して、エネルギー源として利用することとなる。その結果、(場合によっては)1週間で約2キログラムの筋肉が無くなってしまう。
※筋肉というと上肢や下肢を動かすための筋肉をイメージしてしまいがちだが、筋肉は呼吸器に関与するものなどもあり、その作用は多岐にわたり、それら様々な機能が難しくなる。
このように食事ができずに低栄養な状態が続くと脂質や筋肉の分解が進み、一般成人男性の体内におけるタンパク質が25~30%失われると死亡すると言われている。
筋肉や骨を強く保つには、運動療法と同時に筋肉や骨の成分となるたんぱく質を構成するアミノ酸、骨の強さを保ち筋肉の収縮に欠かせないカルシウムなどのミネラルをはじめ、栄養がしっかりとれていることが重要となる。
タンパク質を作るアミノ酸のうち、体内で合成されない必須アミノ酸は筋肉を作るために積極的に摂取する必要がある。
中でもロイシンは『サルコペニア・フレイル』の予防にも有効である。
骨を弱らせないためにはカルシウムも必要だが、カルシウムは食べても活性型ビタミンDがなければ腸でうまく吸収されない。そのため、キノコや魚などビタミンDを多く含む食品も一緒に摂取するようにする。
さらにビタミンDは皮膚が紫外線にあたるとコレステロールを材料に皮膚で作ることができる日光浴が有効である。
ビタミンDを活性型にする腎臓は高齢になれば誰でも弱り、その分活性型ビタミンDも減るので、高齢者積極的に日光浴をすることが望ましい。
また、ビタミンDは気力を向上させる作用がありサルコペニアの予防と治療に有効なことが分かっている。
ビタミンDは薬だと高齢者の場合に有害作用が起きることもあるため、まずは食物や日光浴で増やすことが大切となる。
高齢者のタンパク質・アミノ酸の摂取量/サルコペニアについて
前述したように、栄養素はバランスよく摂取することが重要なのだが、その中でも「タンパク質・アミノ酸」にフォーカスを当てて記載していく。
日本人の食事摂取基準 2015年版
日本人の食事摂取基準(2015年版)では、男性60g/day、女性50g/dayのタンパ
ク質と、身体活動量に応じたエネルギー(男性1850~2800kcal/day、女性1500~2200kcal/day)の摂取を推奨している。
~菱田明ほか監修.日本人の食事摂取基準(2015年版):厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2015年版)」策定検討報告書.東京,第一出版,2014,495pより引用~
性別・年齢別なタンパク質の食事摂取基準(g/日)は以下の通り。
性別 |
男性 |
女性 |
||||
年齢等 |
指定平均 必要量 |
推奨量 |
目標量 (中央値) |
指定平均 必要量 |
推奨量 |
目標量 (中央値) |
50~69歳 |
50 |
60 |
13~20 (16.5) |
40 |
50 |
13~20 (16.5) |
70歳以上 |
50 |
60 |
13~20 (16.5) |
40 |
50 |
13~20 (16.5) |
年齢階層別の推定エネルギー必要量(kcal/日)は以下の通り。
性別 |
男性 |
女性 |
||||
身体活動レベル |
低い |
ふつう |
高い |
低い |
ふつう |
高い |
50~69歳 |
2100 |
2450 |
2800 |
1650 |
1900 |
2200 |
70歳以上 |
1850 |
2200 |
2500 |
1500 |
1750 |
2000 |
高齢者は骨格筋が減少しやすいため意識的にタンパク質摂取を!
高齢者では骨格筋が減少しやすい(専門用語でサルコペニアと呼ぶ)。
そして、この「高齢者特有な骨格筋減少(サルコペニア)」を予防するためには意識的なタンパク質摂取が重要となる。
※もちろん運動・活動も重要だが、栄養不足なままで実施しても無意味(むしろ弊害すら起こすリスクがある)。
でもってSCWD(ヨーロッパ静脈経腸栄養学会)では、サルコペニアを予防するために以下を勧告している。
『タンパク質は、1日体重あたり1.0~1.5gの摂取が推奨される』
タンパク質を一定量摂取した場合、高齢者は若年者に比べて、筋タンパク質へ合成されにくいと言われている。
例えば「若年者では5gのタンパク質を摂取すれば、筋タンパク質合成が活性化されるが、高齢者では1食あたり15~20g以上のタンパク質を摂取しないと、若年者と同等のタンパク質合成が行われない」との主張もある。
筋タンパク質合成に関しては、性差・個人差があるとは思うが、年齢によっても差が出てしまうという事は覚えておこう。
そうなってくると、「じゃあ、高齢者はガンガンタンパク質を摂取してもらう!でもって筋トレしてサルコペニアを予防しよう」という考える人はいるだろう。
食欲が乏しい人でも、意地でも摂取したいなら、高齢者でも飲みやすいプロテインなどを飲むという方法もあるだろう。
しかし実際のところは、こう単純ではない。
っというのも、高齢者では腎機能が低下していることもあり、多量のタンパク質摂取が腎機能に悪影響を及ぼす可能性もあるため、微妙な舵取りを強いられる。
※ちなみに、「ロイシン」というアミノ酸は、筋タンパク質合成の材料になるのみでなくmTOR(mammalian target of rapamycin)という細胞内シグナル伝達物質を介して、「筋たんぱく合成を促進する」ということが分かっている。
※なので、どうせタンパク質を摂取するのであれば「ロイシンが多く含まれているタンパク質」なほうが、腎臓への負担を最小限にしつつ、骨格筋量の減少を予防(サルコペニアを予防)できるとの主張もある。
※例えばお肉で言えば、脂身や皮の部分はロイシンが含まれていないので、「脂身の少ないサッパリとした肉」が望ましい(ベストは皮を剥いだ鳥のむね肉)。
※一方で、「サッパリしていない=ロイシンが少ない」という解釈は間違いで、脂身に間違われやすい『ゼラチン』にはロイシンが豊富に含まれている(豚足はギトギトしているがロイシンは豊富)。
サルコペニアの用語解説は以下で実施しているので、興味があれば観覧してみてほしい。
サルコペニアとフレイル(+違い)
『褥瘡の治癒』と『栄養』
褥瘡などの治癒にも栄養は重要で、そんな「栄養状態の客観的指標」として用いられることが多いのが以下である。
・血清総タンパク(TP)⇒基準値は6.7~8.3g/dl
・血清アルブミン(Alb) ⇒基準値は3.8~5.3g/dl
しかし血清アルブミン値は、(半減期が長いため)「急激な病態変化による栄養状態の悪化」や栄養回復の効果確認」には不向きとされている。
更には、以下などで血清アルブミン値は変化する。
低下(↓) | 上昇(↑) |
---|---|
・肝疾患(非代償性肝硬変など) ・腎疾患(ネフローゼ症候群など) ・炎症(CRP高値) ・代謝亢進 (高血糖・甲状腺機能亢進症・がん など) ・熱傷 ・術後の失血 |
・脱水 ・アルブミン製剤による補正 |
例えば、「血清アルブミン値が3.5g/dl以下では褥瘡発生リスクが高い」と言われることがあるが、もし血清アルブミン値を指標とするのであれば「炎症・脱水などが起こっていないか」を確認したうえで用いる必要がある。
重複するが、上記の様に血清アルブミン値は様々な要素で変化するので、これらを加味したうえで解釈しないと使えない。
※実際には血清アルブミン値が3.5g/dl以上の場合でも褥瘡は発生するし、血清アルブミン値が3.5g/dl未満でも治癒することがある(つまり、褥瘡予防・治癒に栄養が重要なのは事実であるが、血清アルブミン値と褥瘡の因果関係におけるエビデンスレベルは低い)。
※褥瘡については以下の記事でも解説しているので興味がある方は合わせて観覧してみてほしい。
⇒『褥瘡(床ずれ)の予防と管理(廃用症候群シリーズ)ー「背抜き」も紹介するよ)』
⇒『ブレーデンスケールやOHスケールで褥瘡発生リスクを評価せよ!』
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サルコペニアとフレイル(+違い)
この記事では、高齢者の介護予防に重要となるサルコペニアとフレイルの概要を解説している。
高齢者のリハビリ(理学・作業療法)に携わる方々は、是非一度目を通して頂きたい。