筋力の向上は「筋肥大」のみならず、「神経系の調節による筋出力の向上」も関与している。

 

つまりは、どんなに大きな断面積を持った筋でもこの神経系の筋力の調節機構がうまく機能しないと強い力を発揮することはできないということになる。

 

そして今回は、筋出力を調節する神経系の働きについて、「運動単位の動員」を中心に記載していく。

 

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目次

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運動単位とは

 

1個の運動ニューロンが支配する筋のグループを運動単位と呼ぶ。

 

例えば12本の筋線維があり、4本の筋線維を支配する3つの運動単位が存在すると仮定すると以下のイラストとなる。

運動単位
運動単位の動員

イラストは、脊髄・α運動ニューロン・12本の筋線維、3つの筋グループ(3つの運動単位)を示している。

 

※1つの筋グループ(運動単位)は4本の筋線維で構成されていることを示している。

 

 

神経支配比

 

前述した例からは、「1つの運動ニューロンが4本の筋線維を支配している」という事になるのだが、
この様に「1つの運動ニューロンが何本の筋線維を支配しているかを表す比」を神経支配比と呼び、以下の様に表現される。

 

  • 1つのニューロンが多くの筋線維を支配していれば「神経支配比が大きい」と表現
  • 1つのニューロンが支配している筋線維の数が少なければ「神経支配比が小さい」と表現

 

そして神経支配比は、以下の様に筋によって大きく異なる。

  • 手指のように微細な調節が必要な筋では、神経支配比は小さい
  • 下肢のように微細な調節ではなく、強い筋力が必要な筋では、神経支配比は大きい。

 

 

筋出力を調節する三つの要素

 

中枢神経系による筋力の調節は以下の3つの機序により行われる。

 

動員する運動単位の種類による調節

 

動員する運動単位の総数による調節

 

α運動神経発火頻度による調節

 

運動単位の活動時層による調節

 

 

運動単位の総数による調節

 

運動単位の総数による調節とは、弱い力を発揮する場合には一つの運動単位だけ働かせて4本の筋線維のみを収縮させ、2つ(筋線維8本の収縮)、3つ(筋線維12本の収縮)と運動単位を増加させていくにしたがって、強い力を発揮することである。

 

この様に運動単位を増加させていくことを動員(recruitment)と呼び、筋の張力は動員されている運動単位活動の総和に他ならない。

 

運動単位の動員2
運動単位の動員3

※左のイラストに対して、右のイラストでは運動単位が1つ多めに動員されている。

 

※筋線維自体の太さも筋力に影響するが、運動単位がどれだけ多く動員されているかも筋力に影響を与える。

 

 

運動単位の種類による調節

 

運動単位の種類による調節とは、「筋の張力を徐々に上昇させていく時には、運動単位は運動ニューロンが小さい型ものから順次動員されること」を指し、これをサイズの原理という。

 

すなわち、弱い筋張力発揮が要求される場合は、遅筋を支配するS型の運動単位から動員され始め、強い力を発揮するに従い速筋を支配するFR型・FF型の運動単位を動員していく。

サイズの原理

 

左側を遅筋・右側を速筋と単純化して示した場合、左から右の順に運動単位が動員されていくこととなる。

 

※サイズの原理に従わない例外も存在する。

 

 

~筋線維タイプの種類~

念のため、筋線維タイプの分類も記載しておく。

 

  • ST線維(typeⅠ):

    収縮速度は遅いが、持続性に優れている。

 

  • FTb線維(type Ⅱb):

    速く収縮し、発揮する張力も強いが、疲労し易い。

 

  • FTa線維(type Ⅱa):

    FT線維とST線維の両方の性質を有し、収縮速度も速く持久性も高い。

 

 

α運動神経発火頻度による調節

 

 

神経の1回の発火に対して筋が示す1回の収縮を「単収縮」と呼ぶ。

そして、連続的な神経発火に対して筋が示す連続的収縮を「強縮」と呼ぶ。

 

強縮に関して、ある一定の水準までは「発火頻度(firing rate)が高くなればなるほど収縮力は加算され、より強い収縮力が発揮される。

 

この発火頻度による収縮力の調節をrate coding(α運動神経発火頻度による調節)と呼ぶ。

※ある一定水準を超えると、収縮力は加算されなくなる。

 

 

運動単位の活動時層による調節

 

 

ここまで、「筋肥大」のみならず、「運動単位の動員」と「α発火頻度による調節」といった神経系要因も筋力に大きく影響することを記載してきた。

 

ただし、「個々の運動単位をどの様なタイミングで働かせるか」によっても筋力は調節され、これを「運動単位の活動時層による調節(synchronization)」と呼ぶ。

 

この要素によって、例えば以下のことが起こる。

 

  • ある筋に3つの運動単位があったとして、少しずつタイミングをずらして運動単位が活動すれば、収縮力は弱いが一定の滑らかな力を発揮することができる(非同期化)。

 

  • ある筋に3つの運動単位があったとして、これら3つが同時に活動すれば強い収縮力を発揮できる(同期化)。

 

 

加重現象(時間的加重・空間的加重)・反復後の収縮・後発射

 

ここまで『運動単位の動員』について記載してきたが、最後に『加重現象』を紹介して終わりにする。

 

以下のイラストの様に、シナプス前線維a・bの単独刺激では2個のニューロン(黒丸)しか興奮しないが、点で結んだ部分には閾下刺激による局所興奮の場ができており、これを『閾下縁』と呼ぶ。

 

一方で、実線で囲んだ部分を『発射圏』と呼ぶ。

 

 

刺激すると閾下縁が重なり合って閾値に達し、6個のニューロンが興奮する(これを『空間的加重』という)。

 

※「発射圏に囲まれた4つのニューロン」だけでなく「(発射圏外ではあるが)閾下縁が重なり合った部分にある2つのニューロン」も興奮(つまり6個のニューロンが興奮)。

 

また、aに短時間のうちに連続した刺激を加えると、閾下縁内の局所興奮が重なって閾値に達し、4個のニューロンが興奮する(これを『時間的加重』という)。

 

例えば臨床上、「中枢神経疾患の皮質脊髄路の損傷では運動単位の動員が減少する」といわれており、空間的加重が不十分になる。

 

しかし、時間的加重により残存した運動ニューロンのインパルスの発射頻度の増加で発射は可能となる。

 

この現象のテクニックの応用は、反復練習の刺戟を加えることなどが挙げられる。

 

さらに、反応時間が遅くなっている患者には運動の発現をじっくりと待つことがポイントとなる。

 

この反復練習の神経生理学的現象としては、上記の他に以下も関連している。

 

反復後の増強現象(post-tetanic potentiation):

シナプス前線維のシナプスボタンが反復練習によって強い反応を起こす

 

後発射(after discharge)

シナプス前線維の刺戟を止めた後も節後遠位にしばらくインパルスの発射がみられる現象

 

 

これらの用語に関しては以下のサイトでも簡単に解説しているので合わせて観覧してみてほしい。

⇒『(サイト))PNFで用いる基本的な神経生理学的原理

 

 

関連記事

 

「運動単位の動員」の記事を通して、私たちの筋力が「筋肥大(筋の太さ)」だけではなく「(運動単位が動員されることも含めた)筋出力」も大きく関与していることが理解してもらえたと思う。

 

そんな「運動単位の動員」に関して、以下の記事も合わせて読んでもらうと、「運動単位の動員」の重要性が一層理解してもらえると思う。

 

※例えば、高齢者の筋トレが、必ずしも「筋肥大」だけを目的としていないことも理解してもらえると思う。

 

筋力と筋出力(+違い)を徹底解説!

 

 

ついでとして、高齢者の筋トレをする際のポイントを記載した記事も掲載しておくので、高齢者の運動に携わる人は是非目を通してみてほしい。

高齢者の筋力トレーニングのポイントを解説

 

 

運動療法を考えるにあたって「運動単位の動員」は必須の知識だが、このサイトでは(療法士の徒手抵抗を用いた)運動療法としてPNF(固有受容性神経筋促通法)を紹介している。
理学療法士・作業療法士さんなら、こちらも目を通してみてほしい。

 

PNFの臨床活用法を教えます!