筋力トレーニングを処方するためには、「過負荷の原則」と「特異性の原則」を考慮することが大切となる。
過負荷overloadの原則
「過負荷の原則」とは、トレーニング強度が通常用いているものよりも強くなければ、筋力増強効果は期待できないという原則である。
「過負荷の原則」に沿うために必要な条件が以下の3つであり、この条件を満たすことで至適負荷となる。
運動の強度
筋力を増加させるためには40%MVC以上の負荷が必要であり、一般的には60%MVC以上の強度でのトレーニングが、筋力増強に効果的とされている。
運動の持続時間
仮に前述した「運動の強度」という条件を満たしていたとしても、その強さをある程度持続しなければ筋力増強に結びつかない。
逆の表現をするならば、「運動の強度」という条件が完全に満たされていないとしても、運動の持続時間を工夫することで筋力増強が得られる可能性を示している。
運動の頻度
以下のどちらを狙っているかで頻度は変わってくる。
・大脳の興奮水準を上げるなどの神経系をトレーニングする場合
・筋肥大の効果を狙ってトレーニングする場合
そして前者であれば強度を90~100%MVCとし反復回数を少なくする。
後者であれば、強度を低く設定し(60~70%MVCなど)、反復回数を12~15回程度と多くする。
特異性specifictiyの原則
「特異性の原則」とは、ある種の能力は同類の運動を用いたトレーニングによって効果的に高められるという原則である。
「特異性の原則」には以下のような特異性が存在する。
筋の収縮様式からみた特異性
筋の収縮様式には求心性・遠心性・等尺性収縮などが存在する。
そして、それら収縮様式に対して特異的に筋力が増強することを「収縮様式からみた特異性」と表現する。
例えば、日常生活に必要な収縮様式としては、求心性収縮よりも遠心性収縮を用いた方が「機能的」な場合があるかもしれない。
また、「特定の角度で」筋力トレーニングを実施した場合その角度(あるいは範囲)における筋力トレーニング効果が最も高いといわれている。
そして、筋長が短いほど筋力増加はその角度に限定されていると言われており、例えば「パテラセッティング」のみをトレーニングとして実施した場合は、(極論として)その角度(軽度屈曲~伸展域)のみの筋力増加効果しかない可能性がある。
この「特定の角度での筋力トレーニング」という重要性は、関節モビライゼーションや軟部組織モビライゼーション(ストレッチングやPIRなど)で可動域の改善が得られた際にも重要な考えとなる。
すなわち、「新たに得られた可動域内での筋力トレーニング(っというより運動)」を実施することによって、その角度に特異的な筋収縮の学習が可能となる。
「筋の収縮様式からみた特異性」の注意点としては、「目的とする収縮様式でなければ全く意味がない」という訳ではない。
※例えば、等尺性収縮でのトレーニングが(全く)求心性や遠心性収縮へ影響しないというわけではないというわけではない。ただ、可能であれば目的とする収縮様式でトレーニングをした方が効率的だという話。
※「効率的」という点に着目するのであれば、(後述するように)目的とする動作の反復によるトレーニングが一番効率が良いかもしれない。
負荷様式からみた特異性
負荷様式によって効果に違いが出る。
例えば以下の通り。
・最大筋力を増加したい場合は、最大筋力に近い負荷でトレーニングをすると最も効果が大きい。
・最大速度を増加したい場合は、負荷無し(最大速度)でのトレーニングが最も効果が大きい。
動作様式からみた特異性
同じ筋が収縮する場合であっても、測定時の動作様式によって筋力の増加率は変わってくる。
そして、単調なトレーニングで得られた筋力の増加率と比較して、他の動作様式での増加率より低いことが知られている。
すなわち、ある動作の筋力を増加したいならば同じ動作でトレーニングしないとトレーニング効果が低くなる。
つまり、車椅子からベッドへ移乗するための筋力を鍛えようと思った場合、その動作を繰り返したほうが、「車椅子からベッドへ移乗する」といったことに特異的な筋力を効率よく獲得することができる。
過負荷の原則vs特異性原則
筋力トレーニングを、過負荷の原則に沿って実施した場合と、特異性の原則に沿って実施した場合で「運動成績」を比較すると、特異性の原則に沿ったトレーニングのほうが効果的であったとする報告がある。
この結果は「ある特定の運動動作の成績を向上させたい場合は、その動作を行うための筋群を強化するよりも、その動作そのものを繰り返しトレーニングしたほうが効果的である」ということを意味している。
一方で、「負荷の原則に沿ったトレーニングと特異性の原則に沿ったトレーングを複合的に実施した場合」が最も運動成績が向上していたとの報告がある。
この事から、私達が何らかの動作能力を獲得しようと思った場合、複合トレーニングを実施することが最も効果的なのかもしれない。
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