この記事では、高齢者へ筋力トレーニングの効果や具体的な方法について記載していく。
目次
高齢者の筋力トレーニング
高齢者に対する筋力トレーニング効果は、若年者と同様である。
すなわち、トレーニング初期での筋力増強は、筋肥大ではなく以下の様な神経因子によってもたらされる。
- 運動単位の動員recruitment
- 発射頻度firing rateの増加
関連記事⇒『筋力増強における神経的因子とは?』
そして、トレーニングが4~6週程度経過すると、神経要素に加えて筋肥大を伴う筋力増加が見られる。
高齢者でも筋肥大による筋力増加が認められるものの、一般的に「筋力トレーニングを実施した時の高齢者の筋肥大反応は若年者と比べると弱い」とされており、その要因としては以下が考えられている。
- 筋線維のタンパク質合成速度が遅くなること
- 抵抗運動に対するホルモンの同化作用が若年者と高齢者とで異なること
- 異化作用の反応が若年者と高齢者とで異なること
筋力トレーニングによる効果
筋力トレーニングによる主な効果(これは、若年者の筋力トレーニングの効果として記載)
- 筋量・筋力の増加
- 骨密度の増加
- 有酸素運動能力の向上
- 静的・動的バランスの改善
- 関節炎の徴候と症状の改善
- 歩行速度の改善
関連記事⇒『10m歩行テスト』・』『タイムアップ&ゴー テスト』 - 身体のエネルギー消費の増加
- 抑うつ症状の減少
- 自己効力感の向上
- 気力の改善
- 食欲の増加
- 睡眠の改善
- インスリンの感受性増加
- 肥満改善・内臓脂肪の減少
- 蛋白質代謝の改善
高齢者に対する筋力トレーニングの方法
ここから先は、高齢者に対する筋力トレーニングを実施する際のポイントや方法について記載していく。
筋力トレーニングの強度
筋力トレーニングの強度が高いほど筋力増加・筋肥大効果が期待出来るが、高齢者においては障害発生の予防・血圧上昇の予防などの点を考慮すると、比較的軽い運動強度のほうが有利である。
運動の強度が低くても反復回数を増やすことによって、高強度と同様の筋力増強効果が得られることも示されており、高齢者では「ややきつい(ボルグスケールで13程度)の運動強度を選択することが進められている。
筋力トレーニングの回数(頻度)
高強度な場合は2~3回/週が最も良い頻度とされている。
運動に間隔を開けるのは、これは運動によってダメージを受けた筋線維の回復に要する時間を考慮するためである。
一方で、中~低強度な運動では、どの程度な頻度が理想かは定かではない。
ただし、適切な強度で運動をするのであれば、「毎日のトレーニング」というのは過用となる可能性には注意が必要である。
リハビリ(理学療法)の目的達成に必要なものが「筋力増強訓練」である場合は、毎日ではなく休息を入れたほうが好奏しやすい可能性がある(もちろん、十分な栄養摂取もなされる必要がある!)。
そういった意味で、「誰に対しても杓子定規に、毎日何単位ものリハビリを提供する」というのは(例え筋力増強が目的ではないとしても)過用につながり、パフォーマンスが悪くなる場合だってあるかもしれない。
※もちろん、モチべーションの観点からも
また、筋力トレーニングで獲得した筋力・筋良の維持のためには、週1回程度の低頻度でもトレーニングを継続することが重要となる。
筋力トレーニングの内容
運動プログラムは筋力トレーニング単独よりも、持久力トレーニングなど複数の種類で構成されたトレーニングのほうが高齢者では受け入れやすく、起居移動動作能力の改善などの相乗効果も得られる。
もちろん、単調でないほうがドロップアウト率も下がる。
また、高齢者が対象であっても、遠心性トレーニングは、求心性トレーニングよりも筋力増強・筋肥大効果が得られ、階段昇降などの機能向上も得られやすい。
関連記事⇒『筋の収縮様式を考慮せよ!』
高齢者のトレーニングでターゲットとする筋肉
以下の下肢筋群は、加齢による筋力低下が著しいとされており、なおかつ転倒発生や起居移動動作能力との関連が強いとされている。
従って、ターゲットを絞って筋力増強をするのであれば、これらの筋群をトレーニングすることが望ましい。
そうなってくると、自主トレーニングとして処方される運動は以下となる。
※必要に応じて重錘バンドや『セラバンド』を用いてもOK。
膝を伸ばす
※膝関節伸筋群の筋力増強
腿を高く上げる(足踏み)
※股関節屈筋群の筋力増強
足を外へ開く
※股関節外転筋群の筋力増強
踵を挙げる
※下腿三頭筋の筋力増強
運動療法として抵抗運動を実施するのであれば、これらの運動要素を応用するのもアリ。
※もちろん、実際は「筋力」だけでなく疼痛・内科的疾患などなど様々な要素を考慮する必要があるため、そう単純ではないかもしれない。
※単純に「転倒」と「筋力」だけにフォーカスを当てた場合の話となる。
高齢者の運動処方(種目・強度・回数・頻度)の一例
高齢者の運動処方に関する文献は無限に存在し、例えば『運動処方第6版』における高齢者の運動処方として以下を参考にしても良いかもしれない。
ただし、どんな文献もあくまで目安であり、モチベーション、高血圧や痛みなど様々を考慮して個別に設定していく必要がある点は補足しておく。
トレーニングの種目
殿部筋、大腿四頭筋、ハムストリングス、胸部筋、広背筋、三角筋、腹筋などの主要な筋群を対象に8~10種目以上行う。
トレーニング強度・反復回数
10~15RMで、主観的運動強度12~13(ややきつい)くらいになる強度
※上記を要約すると『各5~10回でややきつくなる程度の強度」という意味
トレーニング頻度
少なくとも2回/週の頻度でトレーンニングし、同じ筋群のトレーニングは2日以上間隔を空けて行う。
上記の運動処方は、高齢者の中でも「かなり元気には人達」をターゲットにしている感は否めない。
重複するが、あくまで一つの目安として参考にしてもらえればと思う。
廃用症候群に対する運動処方
高齢者の中でも、廃用症候群を考慮した運動処方には注意が必要である。
例えば、廃用症候群(あるいは虚弱な高齢者)に対して、強度の高い運動処方は容易に過用症候群を来す可能性がある。
それゆえ廃用症候群を考慮した運動処方の場合は、(体力低下・筋萎縮を考慮して)『少量頻回』が望ましいとの意見が多い。
そして実際「運動強度を低く、頻度を多くする方法」でも運動効果が期待できることを示唆した文献もあったりするし、個人的にも「少量頻回」な運動処方によって上手くいくくケースが圧倒的に多い。
「少量頻回運動」は以下の考えが基本となる。
したがって、一回一回の運動は過用症候群を起こさない密度と時間で行い、間間には十分な休息(回復期間)をおきながら、運動の回数を増やし、一日中にわたって断続的に運動を行うことで、一回一回の運動量はわずかであっても1日の総量を十分に確保するという事が重要なポイントとなる。
そうなってくると、急性期のように過用症候群の閾値が低く、1回に少量しか運動できないような状態から出発したとしても、廃用症候群が改善していくにつて過用症候群の閾値も上がって一回一回の運動量を増やすことができるということになる。
過用症候群や廃用症候群の概要について、もっと知りたい方は以下の記事でも解説しているので、こちらも合わせて観覧してみてほしい。
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筋力トレーニング時の注意点
高齢者の筋力トレーニングでは、以下の点に注意する。
- ゆっくりと実施
- スロートレーニングを意識(ゆっくりと動かし、ゆっくりと戻る)
- 反動をつけないように
- 息をこらえないように(自身でカウントしてもらえばOK。息をこらえながらのカウントは不可能なのでおススメ)
- 関節痛が生じる場合は、いくら「筋にとって適切な負荷」であろうと、負荷を下げる必要がある。
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上記に記載されている中止基準は、リハビリにおける(超)有名な基準なので、高齢者の運動に携わる人はであれば(理学療法士・作業療法士に限らず)最低限頭に入れておいて損はない知識である。