この記事では、股関節のROMテスト(関節可動域テスト)について解説していく。
参考可動域・代償運動・制限因子などの解説しているので参考にしてみて欲しい。
※画像引用+参考文献:日本整形外科学会および日本リハビリテーション医学会による関節可動域の表示ならびに測定法〔平成7(1995)年4月改訂〕
目次
股関節屈曲のROMテスト(関節可動域検査)
股関節屈曲は、移動動作のみならず、足部を含めた下肢の挙上において重要な機能である。
股関節屈曲のROMテスト(関節可動域検査)
股関節屈曲のROMテスト(関節可動域検査)について記載していく。
関節可動域検査におけるポイントは以下の通り。
検査肢位:背臥位
基本軸:体幹と平行な線
移動軸:大腿骨(大転子と大腿骨外側顆の中心を結ぶ線)
参考可動域:125°
股関節は内転・外転・内旋・外旋0°で屈曲する。
股関節屈曲の代償運動
股関節屈曲の代償運動は以下などが挙げられる。
・骨盤の後傾(反対側下肢の浮き上がり)
・骨盤の同側前方への回旋
(別法)下肢伸展挙上による股関節屈曲ROMテスト
別法として「膝関節伸展での股関節屈曲(SLR)」がある。
この際の「最終域における緊張及び制限因子」は主にハムストリングスであるが、その他として「大殿筋」・「対側股関節の屈筋」なども挙げられる。
SLR時の注意点(代償動作)は以下の通り。
・膝が屈曲していないか
・骨盤が後傾していないか(反対側の大腿後部が浮き上がっていないか)
ちなみにSLRにおける股関節の参考可動域は『90°』ということになっている。
(他動的)SLRの最終域で大腿後面(あるいは下肢後面)に疼痛が誘発された場合は、ハムストリングスの短縮痛なのか、坐骨神経痛なのかを確認する。
これらの点に関して、もう少し詳細な解説は以下などでなされているため合わせて観覧してみてほしい。
関連記事
⇒『SLRテストを動画で解説』
⇒『坐骨神経痛ってなんだ?』
股関節屈曲の最終域における緊張及び制限因子
股関節屈曲の最終域における緊張及び制限因子は以下などが挙げられる。
・関節包後部線維
・「大腿前面の筋」と「下腹部の接触」
・大殿筋
・中殿筋後部線維
・大内転筋
・対側股関節の屈筋群
股関節伸展のROMテスト(関節可動域検査)
股関節伸展は、抗重力のみならず、歩行や走行では強力な駆動力発揮のために重要な機能である。
股関節伸展のROMテスト(関節可動域検査)
股関節伸展のROMテスト(関節可動域検査)について記載していく。
関節可動域検査におけるポイントは以下の通り。
検査肢位:腹臥位
基本軸:体幹と平行な線
移動軸:大腿骨(大転子と大腿骨外側顆の中心を結ぶ線)
参考可動域:15°
下肢は体に対して真っ直ぐに、足が外側や内側を向かないように(股関節内外転・内外旋0°)動かす。
股関節伸展の代償運動
股関節伸展の代償運動は以下などが挙げられる。
・骨盤の前傾(+体幹の伸展)
・骨盤の後方回旋(例:右股関節を伸展する際、骨盤が右に回旋する)
股関節の伸展に伴い、骨盤の前傾や回旋(厳密には腰椎の回旋)が起こらないよう注意。
適切な股関節の屈曲伸展運動が行えるように骨盤帯や股関節を固定・誘導する。
大腿自体が重いと、それを持ち上げるのに一生懸命になり代償を伴わないような微調整が疎かになりがちなので注意する。
(別法①)膝関節屈曲位での股関節伸展
通常は膝関節伸展位で股関節を伸展していくが、別法として「膝関節屈曲位で股関節を伸展する」という方法もある。
別法の最終域で大腿前面に疼痛が誘発された場合は、大腿直筋の短縮痛なのか、大腿神経神経への刺激による痛なのかを確認する。
関連記事
⇒『腹臥位膝屈曲(PKB:prone knee bend)』
(別法②)トーマス法:股関節に著しい伸展制限がある場合
股関節に著しい伸展制限がある場合は、そもそも腹臥位になれない。
従って、反対側の下肢を屈曲させて骨盤を固定・安定化させつつ、ゴニオメーターで伸展制限を有した股関節の可動域を測定する。
以下のイラストは『トーマステストを活用した腸腰筋ストレッチングを紹介』から引用した画像であり、実際には療法士は反対側下肢の側に立って腹部を対象者の下腿に押し付けることとで股関節屈曲・骨盤安定化を図りつつ、覗き込むように測定側の股関節にゴニオメーターを合わせる(反対側の股関節は屈曲しすぎたら骨盤後傾位になってしまい(見かけ上)股関節の伸展制限が強くなってしまうので注意する。
また、余談ではあるが腹臥位にならなくとも以下の様にベッドから測定側の下肢を垂らすことで股関節を伸展して測定するという方法も臨床では簡便なため用いやすい。
※反対側の膝を立てているのは、骨盤をニュートラルにする(骨盤前傾による代償を予防する)という意味がある。
股関節伸展の最終域における緊張及び制限因子
股関節伸展の最終域における緊張及び制限因子は以下などが挙げられる。
・関節包前部
・腸骨大腿靭帯
・坐骨大腿靭帯
・恥骨大腿靭帯
・股関節屈筋(腸腰筋)
※別法(膝関節屈曲位で股関節を伸展)では、上記の制限因子に大腿直筋が加わる。
股関節伸展ROMテストの余談
臨床で股関節の伸展制限がどの程度かをスクリーニングする際は側臥位で測定することも多い(特に高齢者では腹臥位が難しい場合も多く、なおかつ伸展制限が治療対象となる場合も多い)。
側臥位であれば、以下など様々な治療に移行することも可能であり便利。
- 側臥位における関節包前面の伸張(関節モビライゼーション)
- 側臥位における大腿直筋のストレッチング
- 側臥位における大腿筋膜張筋のストレッチング
- 側臥位における大殿筋収縮の促通(ROMexで得られた可動域内での運動学習)
※側臥位でのROMテストは骨盤の「前傾」や「回旋」に注意する。
※また、側臥位でのROMテストは基本軸がぶれ易いしゴニオメーターの操作も難しい(なので、臨床ではROMをザックリと視認する程度で、ゴニオメーターを使うことは無い)。
※なので、あくまで「国家試験のための知識」ではなく、臨床におけるスクリーニング・治療の一例として捉えてほしい。
※例えば、歩行時の立脚後期に股関節の伸展が出現していない場合は、問題点がROM制限にもあるのかの確認などでも頻繁に活用できる(側臥位における何らかの評価のついでに、簡単に測定できる)。
※高齢者以外で、強いて疾患を上げるとすると、変形性の股関節・膝関節症(下肢痛を伴う疾患)、脊柱管狭窄症・パーキンソン病・・・・などなど。
股関節外転のROMテスト(関節可動域検査)
股関節外転は、移動動作や支持動作、バランス操作において重要な機能である。
股関節外転のROMテスト(関節可動域検査)
股関節外転のROMテスト(関節可動域検査)について記載していく。
関節可動域検査におけるポイントは以下の通り。
検査肢位:背臥位
基本軸:両側のASIS(上前腸骨棘)を結ぶ線への垂直線
移動軸:大腿中央線(ASISより膝蓋骨中心を結ぶ線)
参考可動域:45°
下肢を動かす際は、下肢(膝蓋骨)が外側や内側に向かないように(股関節内外転0°で)固定し、測定する下肢を伸ばして(膝関節伸展位)測定する。
※基本軸である『両側のASISを結ぶ線への垂直線』はぶれやすいので注意する。
なので臨床ではゴニオメーターの一側を「両ASISを結ぶ線上」に当て、そこから90°の角度(これが基本軸になる)をベースとした上で、外転の可動域を測定していくと基本軸がぶれにくい。
股関節外転の代償運動
股関節外転の代償運動は以下などが挙げられる。
・骨盤の同側上方への傾斜(例:右股関節外転時に、右骨盤が上方へ傾斜する)
・上記は「体幹下部の同側への側屈」と言い換えることも出来る。
・股関節の外内旋(特に外旋)⇒これにより移動軸指標の変位が起こる。
※股関節の内・外旋回が起こらないよう注意(膝蓋骨や足尖に注目しておくと代償をモニタリングしやすい)。
体をまっすぐに伸ばし(体幹伸展位)、左右対称のできるだけよい姿勢で測定し、適切な股関節の外内転運動が行えるように股関節を固定誘導する。
※脳卒中片マヒ患者などで下肢内転筋に痙縮がある際は、対側下肢が内転しやすい(骨盤の側方挙上も起こりやすい)場合がある。その際は、療法士が両下肢間に入ることで対側下肢の内転を防ぎつつ、検査側の股関節を外転していくという考えもある。
股関節外転の最終域における緊張及び制限因子
股関節外転の最終域における緊張及び制限因子は以下などが挙げられる。
・関節包内側部・下部線維
・恥骨大腿靭帯
・坐骨大腿靭帯
・腸骨大腿靭帯の下部束
・大内転筋・長内転筋・短内転筋
・恥骨筋
・薄筋
・ハムストリングス
股関節内転のROMテスト(関節可動域検査)
股関節内転は、移動動作や支持動作、バランス操作において重要な機能である。
股関節内転のROMテスト(関節可動域検査)
股関節内転のROMテスト(関節可動域検査)について記載していく。
関節可動域検査におけるポイントは以下の通り。
検査肢位:背臥位
基本軸:両側のASIS(上前腸骨棘)を結ぶ線への垂直線
移動軸:大腿中央線(ASISより膝蓋骨中心を結ぶ線)
参考可動域:20°
下肢を動かす際は、下肢(膝蓋骨)が外側や内側に向かないように(股関節内外転0°で)固定し、測定する下肢を伸ばして(膝関節伸展位)測定する。
※基本軸である『両側のASISを結ぶ線への垂直線』はぶれやすいので注意する。
なので臨床ではゴニオメーターの一側を「両ASISを結ぶ線上」に当て、そこから90°の角度(これが基本軸になる)をベースとした上で、内転の可動域を測定していくと基本軸がぶれにくい。
股関節内転は内転運動の妨げにならないように反対側の下肢を屈曲拳上して(股関節・膝関節屈曲位で)行う。
股関節内転の代償運動
股関節内転の代償運動は以下などが挙げられる。
・骨盤の同側下方への傾斜(例:右股関節外転時に、右骨盤が下方へ傾斜する)
・上記は「体幹下部の反対側への側屈」と言い換えることも出来る。
・股関節の外内旋⇒これにより移動軸指標の変位が起こる
※股関節の内・外旋回が起こらないよう注意(膝蓋骨や足尖に注目しておくと代償をモニタリングしやすい)。
体をまっすぐに伸ばし(体幹伸展位)、左右対称のできるだけよい姿勢で測定し、適切な股関節の外内転運動が行えるように股関節を固定誘導する。
※臨床では、別法として端坐位で測定することもあるが、その際は尚更代償が起きやすいので注意する。
股関節内転の最終域における緊張及び制限因子
股関節内転の最終域における緊張及び制限因子は以下などが挙げられる。
・関節包後部・上部線維
・腸骨大腿靭帯の上部束
・坐骨大腿靭帯
・中殿筋・小殿筋
・大殿筋
・大腿筋膜張筋
股関節外旋のROMテスト(関節可動域検査)
股関節外旋は、移動動作や支持動作のみならず、足部を含めた下肢の方向調整において重要な機能である。
股関節外旋のROMテスト(関節可動域検査)
股関節外旋のROMテスト(関節可動域検査)について記載していく。
関節可動域検査におけるポイントは以下の通り。
検査肢位:背臥位
基本軸:膝蓋骨より下した垂直線(両側の上前腸骨棘を結ぶ線を基本軸とする別法もある。)
移動軸:下腿中央線(膝蓋骨中心より足内果・外果中央を結ぶ線)
参考可動域:45°
測定下肢が「股関節・膝関節を屈曲90°」「股関節内外転0°」から動かないよう外旋可動域を測定する。
股関節外旋の代償運動
股関節外旋の代償運動は以下などが挙げられる。
・骨盤の反対側の挙上(例:右股関節外旋時の、骨盤左側の挙上)
・股関節を外側に広げること(股関節の外転)
※臨床では、別法として端坐位で測定することもあるが、その際は尚更代償が起きやすいので注意する。
股関節外旋の最終域における緊張及び制限因子
股関節外旋の最終域における緊張及び制限因子は以下などが挙げられる。
・関節包前部線維
・腸骨大腿靭帯
・恥骨大腿靭帯
・小殿筋
・中殿筋前部線維
・大内転筋・長内転筋
・恥骨筋
股関節内旋のROMテスト(関節可動域検査)
股関節内旋は、移動動作や支持動作のみならず、足部を含めた下肢の方向調整において重要な機能である。
股関節内旋のROMテスト(関節可動域検査)
股関節内旋のROMテスト(関節可動域検査)について記載していく。
関節可動域検査におけるポイントは以下の通り。
検査肢位:背臥位
基本軸:膝蓋骨より下した垂直線(両側の上前腸骨棘を結ぶ線を基本軸とする別法もある。)
移動軸:下腿中央線(膝蓋骨中心より足内果・外果中央を結ぶ線)
参考可動域:45°
測定下肢が「股関節・膝関節を屈曲90°」「股関節内外転0°」から動かないよう内旋可動域を測定する。
股関節内旋の代償運動
股関節内旋の代償運動は以下などが挙げられる。
・骨盤の同側の挙上(例:右股関節内旋時の、骨盤右側の挙上)
・股関節を内側に動かすこと(股関節の内転)
※臨床では、別法として坐位で測定することもあるが、その際は尚更代償が起きやすいので注意する。
股関節内旋の最終域における緊張及び制限因子
股関節内旋の最終域における緊張及び制限因子は以下などが挙げられる。
・関節包後部線維
・坐骨大腿靭帯
・内閉鎖筋・外閉鎖筋
・大殿筋
・梨状筋
・上・下双子筋
・大腿方形筋
・中殿筋後部線維
股関節・膝関節のROMテストでオススメなゴニオメーター
股関節・膝関節のROMテストをする際には、基本軸・移動軸とも長めに合わせたほうが正確なため、ゴニオメーターも長めなものを選択したほうが便利である。
ROMテスト(関節可動域検査)の関連記事
以下は、ROMテスト(関節可動域検査)の基本事項や、上肢・下肢・体幹の評価一覧を掲載した「まとめ記事」である。
各関節における詳細なROMテストへもリンクが張っているので、合わせて感らすると理解が深まると思う。