この記事では、意識障害の意味や原因についてまとめている。
また、意識障害の評価法として一般的・なおかつ簡便なジャパンコーマスケール(通称3-3-9度方式)も掲載していく。
意識障害とは
『意識(consciousness)』という言莱は医学だけでなく様々な分野(哲学・心理学など)で定義されている。
そんな中で、医学における『意識』とは「覚醒状態」を指す。
※正常な覚醒状態では、人は注意を払い、対象を認知し、刺激を受け止め、適切な反応を起こす。
でもって、『意識障害』とは、「覚醒状態に異常をきたした状態」ということになる。
意識障害は、(心因性の原因を除いて)以下のいずれか、あるいは両方の合併によって起こるとされている。
・大脳皮質の広範な障害
・上行性網様体賦活系(橋上部~視床)の障害
『意識』は上記の「大脳皮質」や「上行性網様体賦活系」によって二重に統制されているがのだが、これらに可逆的変化が起きた状態を『意識障害』という。
通常は、「刺激に対する反応の低下(すなわち意識水準の低下=意識混濁)を意識障害と表現するが、軽度意識障害がある場合(すなわち認知・思考の異常、行動の異常などの意識の変容)も意識障害に含まれる。
※例えば、「認知・思考の異常、行動の異常などの意識変容」としての意識障害としては『せん妄(夜間に徘徊するなどの行動をとることも)』などが該当する。
意識障害の表現方法
そんな意識障害のレベルは以下の4つで表現される。
・清明(せいめい)
・傾眠傾向(けいいんけいこう)
・昏迷(こんめい)
・昏睡(こんすい)
意識レベル |
用語 |
解釈 |
高い ↑ ↓ 低い |
清明 |
正常(覚醒している) |
傾眠傾向 |
うとうと(刺激しないと眠ってしまう) |
|
昏迷 |
強い刺激をああえないと目が覚めない |
|
昏睡 |
呼びかけに全く反応しない |
JCS(ジャパン・コーマ・スケール)/3-3-9度方式
意識レベルを客観的に評価するために日本で一般的に使われているのは、以下の『JCS(ジャパン・コーマ・スケール)』である。
※コーマとは昏睡のことで、国際的には『グラスゴー・コーマ・スケール』という尺度が使われる。
ジャパンコーマスケールは、通称『3-3-9度方式』とも呼ばれている。
※つまり、「ジャパンコーマスケール」と「3-3-9度方式」は同義である。
ジャパンコーアマスケールは、覚醒状態を以下の3段階に分ける。
- 刺激しなくても覚醒している状態(1桁)
- 刺激すると覚醒する状態(2桁)
- 刺激をしても覚醒しない状態(3桁)
また、上記には更に3つの段階に分けられている。
なので、ジャパンコーマスケールは意識障害(覚醒レベル)を『9段階(=3段階×3段階)』に区分し、評価しているという事になる。
※ただし厳密には、意識清明な状態(覚醒レベルに問題がない状態)を加えた『10段階』で評価しているとの表現が正しい。
覚醒しているか? |
刺激に対する反応 |
点数 |
|
Grade Ⅰ: 覚醒している |
大体が清明だが、今ひとつハッキリしない。 |
1 |
Ⅰ桁 |
いつ・どこ・誰が分からない(見当識障害)。 |
2 |
||
自分の名前・生年月日が言えない。 |
3 |
||
Grade Ⅱ: 刺激を与えると覚醒するが、刺激を止めると眠りこむ |
普通の呼びかけで目をあける。 |
10 |
Ⅱ桁 |
大声で呼びかける、体をゆするなどで目を開ける。 |
20 |
||
痛み刺激を与えながら呼びかけ続けるとなんとか目を開ける。 |
30 |
||
Grade Ⅲ: 刺激しても覚醒しない |
痛み刺激に対して払いのける動作をする。 |
100 |
Ⅲ桁 |
痛み刺激に対して少し手足を動かす、顔をしかめるなどをする。 |
200 |
||
痛み刺激に全く反応しない。 |
300 |
※この評価は、あくまで意識レベルの評価なので、必ずしも「覚醒=開眼している」ということではない。
~Grade Ⅰ:覚醒している~
開眼している場合は、「刺激しなくても覚醒している状態」なので、JCS(0)・1・2・3のいずれかに該当する。
- 意識清明である場合は「JCS 0」
- おおむね意識清明であるが、ややはっきりしない場合は「JCS 1」
- 時間、場所、人物がわからない場合は「JCS 2」
- 名前または生年月日がわからない場合は「JCS 3」
~Grade Ⅱ:刺激をすると覚醒するが、刺激をやめると眠り込む状態~
「刺激をすると覚醒するが、刺激をやめると眠り込む状態」は、JCS10・20・30
のいずれかに該当する。
- 名前を呼ぶなどの呼びかけに対して容易に開眼する場合は「JCS 10」
- 大声や体を揺らすことにより開眼したり、手を握るように指示したときに握り返したりする場合は「JCS 20」
- 痛み刺激を加えながら握手するように指示したときに、かろうじて開眼する場合は「JCS 3」
痛み刺激を加える部位、強さは状況による。
強い刺激を与えたい場合は「対象者の第3指の爪を指やボールペンで押す方法」や「眉間の中央あたりを第3指先で叩く」などの方法がある。
~Grade Ⅲ:刺激しても覚醒しない~
「刺激しても覚醒しない状態」はJCS100・200・300のいずれかに該当する。
- 痛み刺激に対して、払いのけるような動作をする場合は「JCS 100」
- 手足を動かしたり、顔をしかめたりする場合は「JCS 200」
- 反応しない場合は「JCS 300」
ジャパンコーマスケール(3-3-9度方式)を活用する際のポイント
ジャパンコーマスケール(3-3-9度方式)急性期の意識障害に対して覚醒の状
態を重症度に合わせて分類である。
なので、意識障害の回復(覚醒状態)を評価するのに適している。
一方で、慢性期において認知症を合併していたりすると意味のない検査となったりするの
で注意を要す。
高齢者にジャパンコーマスケール(3-3-9度方式)を活用する際の注意点
高齢者にジャパンコーマスケール(3-3-9度方式)を活用する際には以下に注意する。
・難聴がある(聴こえていないで、反応も無い)
・認知症がある(覚醒しているが、質問に対する受け答えが難しい)
・声掛けに対する反応が遅い(考え、反応するまでにタイムラグがある)
・感覚が鈍い(痛み刺激に対する反応が鈍くなる)
その上で、後述する『意識障害の原因』の中には「高齢者の急性な意識障害」に発展しうるものも多いので、医療・介護現場に従事する上で、知識を整理しておいて損はない。
意識障害の原因をザックリとでも押さえておこう
意識障害は、以下のいずれか、あるいは両方の合併によって生じると前述した。
・大脳皮質の広範な障害
・上行性網様体賦活系(橋上部~視床)の障害
これらによって意識障害を起こしてしまう原因は、以下の2つに大別することが出来る。
①脳の限局的(一次的)障害
②脳機能障害をきたす全身性(二次的)障害
脳の障害 |
脳卒中、脳腫瘍、慢性硬膜下血腫、頭部外傷、脳炎、髄膜炎 これらによるてんかん、せん妄 |
|
全身疾患 |
脳症 |
尿毒症、肝性脳症、高血圧脳症 |
酸素など呼吸の問題 |
低酸素、CO2ナルコーシス中毒 |
|
感染症 |
肺炎、尿路感染症、胆道感染症、敗血症など |
|
循環の異常 |
心不全、心筋梗塞、不整脈、低血圧 |
|
内分泌疾患 |
甲状腺機能異常、糖尿病の急性合併症 (低血糖、高血糖・高血糖糖浸透圧症候群) |
|
体液・電解質異常 |
脱水、高カルシウム、低ナトリウム、高ナトリウム |
|
体温の異常 |
低体温症、高体温症 |
|
薬や毒物による |
向精神薬・血糖降下薬急性アルコール中毒など |
|
精神疾患 |
||
ショック |
※当然のことながら、上記の「意識障害を起こす原因」は「失神を起こす原因」にもなり得る。
高齢者と意識障害
ちなみに高齢者は「全身疾患による意識障害」を起こしやすく、その背景としては以下などが挙げられる。
・生理的病的な変化による脳の予備能の低下
・意識障害の原因となる疾患への罹患の増加
・意識障害を起こし得る薬物の常用
重複するが、高齢者の場合、若い人では考えられないような軽い脱水、肺炎、軽度の心不全や薬でも簡単に意識障害になることがある。
従って、ボーっとしている、何となく反応が鈍いといった徴候が見られたら、意識障害も疑ってみる必要がある。
色んな意識障害があるよ
前述したように意識障害には以下の様な種類があり、必ずしも「意識混濁した状態」のみを指す用語ではない。
・刺激に対する反応が低下した状態(意識混濁)
・軽度意識障害がある場合(すなわち認知・思考の異常、行動の異常などの意識の変容)
でもって、「種々の原因により脳血流が一時的に低下し、一過性の意識消失発作がおこる場合」を『失神』と呼び、高齢者でも起こすことがある。
そんな『失神』に関しては以下でも解説しているので合わせて観覧してみてほしい。
失神って、どんな状態?(意識障害シリーズ)
意識障害(認知・思考の異常、行動の異常などの意識の変容)が起こり、幻覚・錯覚・行動異常などがもたらされる場合には『せん妄』『もうろう状態』『夢幻状態』などと表現されることもある。
そんな『せん妄』に関しては、以下の記事で詳しく解説してるので合わせて観覧し診てほしい。
高齢者が起こしやすい『せん妄』の原因・対策を徹底解説!!
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グラスゴーコーマスケール(Glasgow Coma Scale)
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