この記事では意識障害の一つであり、高齢者に起こりやすい症状としてもなじみ深い『せん妄』について記載していく。

 

せん妄とは

 

せん妄に関して、『理学療法学事典』には以下の様に記載されている。

 

せん妄とは:

 

意識変容障害の一種。

軽~中等度の意識混濁に、錯覚、幻覚、妄想などが加わり、精神運動興奮・不安・恐怖などを感じる。

高齢者に多く、脳疾患、薬物、中毒、代謝性障害などが原因である。

 

ちなみに、『意識変容』に関しての記述は以下の通り。

 

意識変容とは:

 

意識障害の一つで精神疾患に似た様態を示す。

中枢神経障害や全身障害(代謝・内分泌異常、薬物・アルコール依存、循環不全、感染症)などを原因とし、せん妄、もうろう状態、夢幻状態、酩酊などを示す。

意識障害は軽度に見えることが多いが、見当識・知覚などの障害度は高い。

 

せん妄は、急激に以下などが起こり、夕方から深夜にかけて落ち着きが無くなり、不眠・見当識障害を起こす。

 

・幻覚(統合失調症などの内因性精神障害では幻聴が多いが・せん妄では幻視が多い)

・妄想・興奮・不安を訴え

 

したがって、回復後に自分の行動を想起できないことが多く、英語圏では『急性錯乱状態((acute confusional state)』とも呼ばれる。

 

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せん妄の分類

 

せん妄は以下の2つに分類される。

 

過活動型せん妄

幻覚や錯乱などが認められるせん妄

 

活動低下型せん妄

無気力・無表情・傾眠などが認められるせん妄

 

 

臨床的には「過活動型せん妄」が問題となることが多く、皆さんがイメージするのも「過活動型せん妄」ではないだろうか?

 

一方で「活動低下型せん妄」は活動性が低下し、意欲低下が主な症状なため、周囲の人も気づかず、治療の対象になることは少ない。

 

※「過活動型せん妄」と「活動低下型せん妄」が混合した状態も存在する。

 

 

重複するが、せん妄は高齢者に多くみられ、また夜間に多くみられるので『夜間せん妄』とも呼ばれる。

 

 

「せん妄」と「認知症」の違い

 

認知症の周辺症状として、せん妄と類似した行為(例えば、大声を出したり、徘徊をしたり、介助者に暴力を振るったりなど)が見られる。

 

なので、「せん妄」は「認知症」と間違われることがある。

 

確かに、表面的な症状が類似している場合もあり見分けがつきにくいこともある。

 

※認知症はゆっくり症状が進行し、せん妄は急に症状が起こるとの意見もあるが、必ずしもその限りではない(例えば、認知症を有した人がショートステイなどで居住環境が変わると急に不穏になったりする場合もある)。

 

しかし、以下の点は理解しておいたほうが良いだろう。

 

  • せん妄は、様々な疾患や病態(後述する)が原因となり得る(「様々な疾患や病態」の中には認知症も含まれる)。
  • 従って、稀に重大な全身疾患が背後に隠れていることもあり注意を要す。
  • また、認知症(の中核症状)は非可逆的だが、せん妄(周辺症状)は可逆的である(つまり治せる)。

 

 

 せん妄の評価尺度『DRS:deliriumratingscale』を紹介

 

過活動型せん妄の診断にはTrzepaczらのせん妄評価尺度である『DRS(delirium rating scale)』が用いられる。

 

※厳密にはDRSの問題点を改良した『DRS-R-98』が用いられる。

 

DRS-R-98の特徴は以下の通り。

 

  • 13項目の重症度セクションと3項目の診断セクションで構成される

 

  • 2セクションの点数を加算して総合得点とする

 

  • 重症度の最初の評価に加えて、その経過を評価するため、繰り返し使用し、13項目を加算した点数が重症度を示す。

 

  • 具体的な評価は、1日の対象者の状態を看護・介護スタッフ、家族、カルテなど様々な情報をもとに観察することで行う

 

  • DRS-R-98を使用する目的は「認知症など他疾患との鑑別」であって、せん妄の重症度を評価するものではない。

 

 

~具体的なDRSは以下を参照~

古川壽亮,神庭重信:糖神科診察診断学,医学響院2003より

 

項目

得点

項目1:発症の時間経過

0.変化なし

1.緩徐な発症、6か月以内

2.急性な行動や人格の変化、1か月以上にわたる

3.急激な行動の変化1ないし3日程度

 

 

項目2:知覚障害

0.徴候がない

1.離人感や疎隔体験

2.錯視または知覚の誤り

3.外界についての現実吟味の著しい混乱

 

 

項目3:幻覚の種類

0.幻覚なし

1.幻聴のみ

2.幻視がみられ、幻聴の有無は問わない

3.幻触、幻嗅、幻味があり、幻視や幻聴の有無は問わない

 

 

項目4:妄想

0.妄想なし

1.体系化された妄想

2.新しい妄想

3.漠然とした妄想

 

 

項目5:精神運動行動

0.精神運動静止あるいは焦燥がない

1.軽度の不穏、震え、不安

2.中等度の興奮

3.激しい興奮

 

 

項目6:テストによる認知力の程度

0.認知障害がない

1.ごく軽度の認知障害

2.一領域の診の障害

3.多くの領域に認知障害

4.重度の認知障害

 

項目7:身体的障害

0.認めない

1.身体疾患がある

2.身体要因を認める

 

 

項目8:睡眠・覚醒周期の障害

0.障害を認めない

1.日中の眠気・夜間の睡眠の持続困難

2.頻回の居眠りと夜間不眠、睡眠覚醒周期の逆転

3.眠気が強く覚醒困難

4.昏迷または昏睡

 

 

項目9:気分の動揺性

0.認めない

1.時間経過の中で変動

2.明らかな気分変動

3.重篤な情動の脱抑制、怒りの爆発

 

 

項目10:症状の変動

0.症状は安定

2.症状は夜間に悪化

4.症状の強さは動揺し、24時間の期間に漸増・漸減

 

※点数が024なので注意!.

 

 

 

~DRSの判定基準

 

・最高得点     ⇒32点

・カットオフポイント⇒9/10点

・10点以上     ⇒せん妄を疑う

 

先ほど「DRS-R-98を使用する目的は認知症など他疾患との鑑別」と記載したが、特に「認知症とせん妄の鑑別」が目的となる。

 

認知症とせん妄では対応の仕方が異なるため、この評価によってスクリーニングをすることは有用となる。

 

※医師ではないので、医療・介護従事者はスクリーニングとして活用するという事になる。

 

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高齢者における、せん妄の原因

 

高齢者のせん妄の原因としては以下が挙げられる。

(飯島節、大内尉義:せん妄日本老年医学会(編):老年医学テキストpp53-54,メジカルビユー社1997より)

 

なので、治療薬を変更したり、原疾患を治療することで、せん妄も改善する。

 

大項目

小項目

治療薬

抗コリン薬、抗不安薬、睡眠薬、抗うつ薬、抗痙攣薬、抗パーキンソン病薬、抗精神病薬、ジギタリス、利尿薬、H₂遮断薬、消炎鎮痛薬、抗ヒスタミン薬、アルコール、市販の感染薬(PL)。

感染症

特に尿路・呼吸器

代謝異常

腎不全(尿毒症)、Na血症(塩分不足)脱水(水分不足)、低血糖、肝不全、甲状腺機能亢進症、高Ca血症、クッシング症候群

循環器疾患

うっ血性心不全、急性心筋梗塞、不整脈

中枢神経疾患

脳血管障害、慢性硬膜下血腫、髄膜炎、脳膿瘍、脳腫瘍

その他の全身疾患

貧血、呼吸不全(地酸素血症、高炭酸ガス血症)、悪性腫瘍、疼痛、尿閉、便秘

感覚遮断

特に視覚・聴覚

全身麻酔、外科手術

環境変化

入院、旅行、転居

 

ずらずらと色んな原因が挙げられているが、医療・介護職が知っておいて「せん妄予防」に活かせるものは「赤文字」で記した以下な点だと思う。

 

・低Na(ナトリウム)血症・脱水

・入院・旅行・転居

 

 

また、上記のように脳血管障害でもせん妄は起こり得る(脳血管性認知症の周辺症状としてせん妄が起こることがある)。

 

関連記事⇒『アルツハイマー型認知症以外の認知症(脳血管性認知症・ピック病)を紹介

 

 

低Na(ナトリウム)血症・脱水への対策でせん妄予防

 

例えば、「低Na(ナトリウム)血症」・「脱水」によって夜間せん妄を起こしてしまう高齢者は多い。

 

これらの高齢者に対して、まずは経口保水液などでナトリウムも一緒に水分補給してみることは非常に重要となる(スポーツドリンクのようなものでもOK)。

 

 

この点に関しては『高齢者の脱水と予防の知識』でも解説してるので合わせて観覧してみてほしい。

 

※もしせん妄の原因が違っていても、水分補給は高齢者にとって悪いことでは無い。

※水分補給で予防・改善がみられたら「脱水(あるいは低Na血症など)」で確定、改善が見られなければ他の対策を考えるなど『診断的治療』としても活用できる(本来なら医療・介護職が治療という用語を用いてはいけないが、「せん妄が治る」のなら治療と言っても良いだろう)。

 

せん妄の治療に薬物投与がなされる場合があるが、まずは「水分補給」や(後述する)環境整備などによる不安の解消などを試みることが望ましい(特に介護施設)。

 

 

入院・旅行・転居がせん妄の原因に!

 

高齢者は、環境の変化に弱いことが知られている。

 

そして、変化に伴って(認知症の周辺症状が悪化するのと同様に)夜間せん妄が起こってしまうこともある。

 

※つまり、入院・ショートステイ・引越し(家族との同居、施設入所)などがせん妄のきっかけとなり得るということ。

 

なので、せん妄発症を予防するために以下などで見当識を保つ工夫が有効な場合がある。

・時間や場所などの見当識を助けるような環境調整

・患者にとってなじみの品物を身近に置く」など、見当識を保つ工夫も必要となる。

 

※あるいは環境変化や身体障害による不安を取り除くといった意味でも、会話の傾聴などによって精神状態を落ち着かせておくこともせん妄予防につながることがある。

 

 

関連記事

 

せん妄は、『意識障害』の一つである。

でもって、意識障害全般については以下の記事で解説しているので、こちらも合わせて観覧してみてほしい。

 

3-3-9度方式(ジャパンコーマスケール)-意識障害の意味・評価法・原因を考える

 

また、意識障害も含めた『バイタルサイン』に関しては以下の記事で解説している。

 

バイタルサイン(vital signs)の基準値をザックリ理解!

 

 

せん妄は、認知症と間違われやすい症状の一つである。

でもって、認知症に関しては以下の記事にまとめているので、興味がある方は参考にしてみてほしい。

 

ご家族も必見! 『認知症』を語る上で欠かせない基礎知識を総まとめ