この記事では、不良姿勢によって生じる『前方頭位』について記載している

 

目次

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頭部前方位姿勢とは

 

頭部が正常よりも前方に位置する頭部前方位姿勢(Forward Head Posture)は、普段の何気ない姿勢が習慣化することで生じる不良姿勢である。

 

座位の場合は、立位より座位の方が骨盤後傾が生じやすく、その運動連鎖によって、立位よりも座位の方が胸椎後湾・前方頭位になりやすい。

 

また、立位姿勢に関しては、様々な分類がなされているが、特に以下などは共通して「前方頭位と胸椎湾曲(ネコ背)」という特徴を有している。

  • 立位における後彎前彎型
  • 立位における後彎平坦型
  • 立位における平背型

 

※胸椎後彎に関しては「後彎前彎型では中部胸椎」「後彎平坦型と平背型では上部から中部の胸椎への長い後彎」が特徴的とされている。

 

これらの姿勢を評価することで、どのような組織にストレスがかかっているのか考えることができる。

 

 

前方頭位と胸椎後湾により、様々な機能障害が波及

 

前方頭位(と胸椎後湾)による不良姿勢は、以下など様々な機能障害へと繋がる可能性がある。

 

  • 頸椎前湾増強
  • 頸椎の椎間板後方線維輪の脊柱管内への突出
  • 黄色靱帯の脊柱管内への突出
  • 脊柱管容量の減少
  • 椎間関節への負担
  • 上部頚椎(後頭骨から軸椎)の後屈位による環椎後方すべり位での固定
  • 後頭下筋群の短縮。その結果から大後頭神経の圧迫そして頭痛が生じる危険性
  • 上部胸椎(TlからT3)の後背増強、それによる可動域制限
  • 肩甲帯前方突出、それによる胸筋短縮・肩関節挙上・外旋制限

 

・・・・・などなど。

 

 

前方頭位と胸郭出口症候群

 

頭部の前方突出により、その他の影響もある。

 

頭部の前方突出によって、前斜角筋と中斜角筋の間で第一肋骨より上が、鎖骨下動静脈とC5-T1脊髄神経の前根が通過する際に圧迫されるので、斜角筋は肥大しスパズムが生じる可能性がある。

 

そのような圧迫は、疼痛と機能不全を引き起こし、胸郭出口症候群とよばれる。

 

関連記事⇒『胸郭出口症候群って何だ?病態・症状・リハビリ(理学療法)など解説!

 

 

頸前筋の重要性

 

頭部の前方突出では、深層の頚部の短い屈筋が弱化することがある。

 

頸部の深層にある頚部屈筋は「頸長筋」と「頭長筋」「前頭直筋」などであり、合わせて『椎前筋』と呼ばれることがある。

 

 

で、その代償として胸鎖乳突筋の過剰収縮、肥大が観察されることがある(胸鎖乳突筋は不良姿勢など頭頚部伸展位においては、伸筋群として作用する可能性がある)。

 

深層の頚部屈筋群は、単に頚部の屈曲作用だけでなく、多くの筋紡錘を有して固有感覚を提供しているので、頭頸部の安定化には必要不可欠である。

 

それは、会話したり、咳をしたり、飲み込む際の頚部の安定装置でもある頚長筋の弱化の影響は、例えば、頭部を枕から持ち上げるような、特に重力に対して頚部を屈曲させる能力を減少させ、会話や咳、飲み込みなどの際の安定性を減少させる。

 

つまり、不良姿勢⇒深層頚部筋群の弱化⇒頭頸部の安定性低下(あるいは胸鎖乳突筋の様なアウターマッスルで関節を固めようとする)⇒(前述した)椎間関節・椎間板・靭帯などへの負担増大による疼痛・頭痛などが生じる可能性もある。

 

 

椎前筋のエクササイズについて

 

頸前筋が弱化している場合、適切な強化方法をアドバイスする。

 

椎前筋の評価

椎前筋弱化の検査方法は以下の通り。

  1. 患者は背臥位。
  2. 患者は顎を引き、少し口を空けておく。これで「後頭下筋群」や「頸部前面表層筋」の代償が抑制できる。
  3. 治療台から頭部を1-2mm挙上した状態を保持するよう求める。

 

あえて口を閉めて実施することで表層筋(舌骨下筋)の評価も可能(要するに、閉口時と開口時の差を評価するということ)

 

 

解釈

椎前筋が弱化していない人は、上記を1分保持することが可能。

一方で頚部屈筋が弱い人は、頭部を保持することが難しい。

セラピストは皆できるだろうか?やってみてほしい。

 

 

椎前筋トレーニング

椎前筋トレーニングは前述した評価法を、そのままトレーニングとして活用するだけ。

 

頭部を治療台から持ち上げ、10つ数える間、頭部を持ち上げたまま保持する。

 

10秒は目安であり、この秒数をベースラインにして、20秒・30秒と保持時間が向上すれば、それだけ椎前筋が強化出来たと判断する。

 

最終的には30秒×3セットが可能となるのが理想。

 

10秒保持すら難しい場合は、ギャッジベッドなどの「傾斜のある環境」で頭部を浮かせ易くするなどの方法がある。

 

 

このトレーニングにより(表層の頚部屈筋である胸鎖乳突筋と斜角筋を抑制しつつ)、深層の頚部屈筋(頚長筋と頭長筋)の両筋の強化することが出来る。

 

このトレーニングは相反抑制として後頭下筋群の筋緊張低下⇒緊張性頭痛の緩和などに有用だとの報告もあるので覚えておいて損はない。

 

※後頭下筋群に関しては後述。

 

 

前方頭位による後頭下筋群・僧帽筋などの活動亢進

 

前述した椎前筋とは真逆に、後方にある後頭下筋群の活動は亢進し易い。

 

後頭下筋群は固有感覚受容器して優れており、それゆえに、後頭下筋群の機能障害は、頭部の前方突出はバランスに負の影響を与える可能性がある。

 

また、「僧帽筋上部線維肩甲挙筋の過緊張」や「菱形筋僧帽筋中部線維の弱化」といったマッスルインバランスも、頚部・肩甲帯などの機能障害に影響を与える。

 

後頭下筋群に対しては、以下のような直接的なアプローチをすることは筋緊張緩和に有効である。

  • 筋膜リリース(オクシピタルリリース)
  • PIR
  • 横断マッサージ・機能的マッサージ
  • ストレッチング

 

ただし、リトラクションや姿勢指導、前述したような椎前筋強化(による相反抑制)も組み合わせなければ、その場限りの症状改善で終わってしまう可能性も高い。

 

※リトラクション・姿勢指導は後述。

 

 

後頭下筋群の伸張も含めた、前方頭位の矯正(リトラックション)

 

立位・あるいは座位にて姿勢を正し、顎を引く(っというより前方に突出した頭部を水平に後方へ移動させるようなイメージで)操作をする。

 

でもって、この様な操作を『リトラクション』と呼ぶ。

 

リトラクションの際は、顎に手を当て、手で後方へ押し込むような操作がオーバープレッシャーとして有効である。

前方頭位
リトラクション・マッケンジー・前方頭位

リトラクションの効果

リトラクションには、頭部関節伸展の矯正のみならず、頸胸以降部の後湾の矯正の効果も含まれている。

 

リトラクションは、頚部機能障害のみならず、肩関節にも影響を及ぼすため理学療法士が知っておくべき重要なエクササイズの一つと言える。

そんなリトラクションに関しては以下の記事で詳しく解説しているので、興味がある方は観覧してみてほしい。

 

⇒『リトラクションの方法を解説【頭・頸・頸胸移行部の機能障害を改善】

 

 

補足:後頭下筋群のストレッチングについて

 

リトラクションは様々な効果があるが、「後頭下筋群の伸張」だけにフォーカスした場合、ストレッチングもアリだ。

 

※セルフストレッチングの方法としては、(立位・座位でのリトラクションではなく)背臥位でのストレッチングの方がやり易い人もいる。

 

具体的な後頭下筋群のストレッチ方法は以下の通り。

  1. 背臥位となる。
  2. 折りたたまれたタオルまたは本の上に頭部をおくことによって頭部関節(C0/1/2)の屈曲を誘導し、後頭下筋群の伸張を促す。

 

後頭下筋群に対する徒手療法は以下でも解説している。

⇒『後頭下筋群(大後頭直筋・小後頭直筋・上頭斜筋・下頭斜筋)を解説

 

 

運動連鎖と日常生活指導

 

大前提として、前方頭位というアライメントは、他のさまざまな部位と連鎖的に絡まっているので「単に前方頭位だけを改善する」というのでは意味がないし、むしろ困難で得ある場合も多い。

 

例えば、構築学的な円背が存在する場合は、前方頭位(頭・頚部を伸展位)にしなければ前方を向くことが出来ず、活動に支障をきたす。

 

あるいは、座位姿勢において「骨盤後傾・腰椎後湾」といった不良姿勢を呈している場合、その連鎖として「胸椎後湾・前方頭位」となるのは当然と言える(このケースにおいては骨盤帯を操作することで、前方頭位が修正されやすい)。

 

前方頭位姿勢とその矯正法

 

ちなみに「胸腰椎後湾位なままなリトラクション」を試してみてほしい。

 

きっと難しいはずだ。

 

上記の点を前提としたうえで、前述したリハビリを織り交ぜていく。

 

 

日常生活指導

 

頭部の前方突出の持続に関与する因子を特定し、できる限りこれらを回避する。

 

コンピューターを使用する時、テレビをみる時、運転する時は、特に頭頚部姿勢に注意を払う。

頭部前方位姿勢(Forward Head Posture)
頭部前方位姿勢(Forward Head Posture)

 

また、重い荷物をもつことは、頭部の前方突出を増強させるので。避けるべきである。

 

座位や立位での頚部姿勢を正す。

 

頭部をより前方突出すれば、その姿勢を維持するためにより多くの力が必要となる。

 

頭部の前方突出は、過度な胸椎後彎としばしば関係している背中を丸めた姿勢を避けて、肩甲骨と胸郭の位置に注意を払うことは、この姿勢を正すための重要な要素と言える。

 

 

関連記事

 

以下の記事は、不良姿勢・同一姿勢による弊害をクライアントに伝える際に役立つ記事になる。

⇒『指そらしテストで、メカニカルストレスの弊害をバッチリ理解!

 

 

以下の記事は、前方頭位を含めた様々な運動連鎖についてイラスト付きで分かりやすく解説した記事になる。

関連記事⇒『運動連鎖による理学療法 、これさえ読めばイメージ出来るよ!

 

 

以下は、記事内にもリンクを貼っていた「リトラクション」に関する記事になる。このこの記事と関連性が深いので合わせて観覧すると理解が深まると思う。

⇒『リトラクションの方法を解説【頭・頸・頸胸移行部の機能障害を改善】