この記事では、『僧帽筋(trapezius muscle)』について解説している。

 

ストレッチングや筋力トレーニングにも言及しているので、是非参考にしてみてほしい。

 

目次

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僧帽筋の基本情報

 

僧帽筋の基本情報は以下になる。

 

起始

後頭骨の上項線と外後頭隆起、項靱帯、第7~12胸椎の棘突起と棘上靱帯

 

停止

肩甲骨の肩甲棘と肩峰、鎖骨の外側1/3の領域

 

作用

僧帽筋全体⇒肩甲骨の内転

・上部僧帽筋⇒肩甲骨の挙上、上方回旋(鎖骨も挙上)

・中部僧帽筋⇒肩甲骨の内転

・下部僧帽筋⇒肩甲骨の内転・下制・上方回旋

 

神経

副神経の外枝

頚神経叢の筋枝

 

筋連結

僧l順筋は、小菱形筋・大菱形筋・上後鋸筋・三角筋・広頚筋と連結。

 

 

「僧帽筋の前縁」と「鎖骨の上縁」と「胸鎖乳突筋の鎖骨頭」で囲まれた三角形のくぼみを『外側頚三角部(後頚三角)』と呼ぶ。

 

「僧帽筋の外側下縁」と「広背筋の上縁」と「大菱形筋の内側下縁」で囲まれた三角形を『聴診三角』と呼ぶ。

 

 

僧帽筋上部線維のストレッチング

 

僧帽筋の上部・中部・下部の間のフォースカップルは肩甲骨の動的安定化をもたらし、肩関節挙上に必要な肩甲骨の上方回旋を助ける。

 

過度な肩甲骨の挙上や不適切な上方回旋は、硬い上部僧帽筋や弱化した中部僧帽筋・下部僧帽筋によってよく起こる。

 

また、上部僧帽筋は上項線・項靭帯・棘突起に付着しているため、このフォースカップルのインバランスは肩甲帯複合体だけでなく頚椎にも影響を与える。

 

上部僧帽筋のストレッチング方法

 

上部僧帽筋のストレッチング方法は以下の通り。

 

手順(右僧帽筋の場合)

  1. 患者の傍脊柱筋群をリラックスさせるために、股関節・膝関節屈曲位の背臥位とする。
  2. セラピストは治療台の頭側で立位か座位をとり、患者に向かう。
  3. セラピストは、患者の頭部を「屈曲⇒左側屈、最後に右回旋(ストレッチ筋側へ回旋)」の順に操作する(その際、患者の頭部を治療者のテスト側と反対の手や前腕で支える。もしくは治療者の腹部でやさしく支える)。
  4. セラピストは、前述したように患者の頭部を安定した位置に維持しながら、左手で肩甲骨肩峰へ尾側への抵抗を加える(肩甲骨を押し下げる)。
  5. 患者は肩甲骨を挙上させるように収縮させ、その後リラックス(=PIR)。
  6. さらに肩甲骨を下制するよう収縮させる(=拮抗筋の促通)。

 

側臥位でも可能。ただし側臥位では、愛護的に頭部をホールドできない点に注意する。

 

頸部は関節を痛めやすいためストレッチングも愛護的に。「停止部(肩甲骨)を固定して、起始部(頭頸部)を操作」より「起始部(頭頸部)を固定し、停止部(肩甲骨)を操作」のほうが、愛護的な操作となる(他の筋に対するストレッチングも同様)。

 

 

僧帽筋中部・下部線維の筋力テスト

 

僧帽筋中部・下部線維は上位交差症候群の患者において弱化・抑制され易い。

 

胸筋の優位による肩甲骨の外転と前方位、または上部僧帽筋の優位による肩甲骨挙上の結果として生じることもある。
 
僧帽筋中部・下部線維の厳密な評価は「僧帽筋下部線維のMMT」で可能であり、以下などの症状を有した患者に試してみる価値はある。
  • 肩の姿勢異常
  • 上背部痛
  • 頸部痛
  • 上肢痛

 

MMTにて、肩甲帯の挙上を伴わない内転位と上方回旋位の肢位を保持できればOK。頸椎や腰椎の伸展による代償運動または胸腰椎の脊柱起立筋や広背筋の過活動がない状態での下部僧帽筋の質的・量的評価を行う(実際には、MMT時における質的評価の方が重要)。

 

 

僧帽筋下部の筋力トレーニング

 

僧帽筋下部の筋力トレーニングとしては、MMTをイメージ・応用するという考えが理解しやすい。

 

僧帽筋筋力トレーニング
僧帽筋筋力トレーニング

 

例えば、抗重力位である立位でのトレーニングとしては同様な発想として以下がある。

僧帽筋筋力トレーニング
僧帽筋筋力トレーニング

上記は、「最大上肢挙上位で壁面から手を離し、腕を後方に振る」というトレーニング。

 

壁から少し手を離し(=後方へ振る)、その状態を3秒間保持する(lift off and hold)。

 

そして元の壁面に手を戻す。

 

この様な「挙上した手で壁面をタップするような運動」を反復して行う(タップする様な運動なため、「パッティング様運動」とも呼ばれる)。