この記事では、医療・介護の基礎知識でもある『心不全(heart failure あるいは cardiac failure)』について、ザックリと解説していく。
心不全(heart failure)とは
『心不全』とは以下を指す。
「心臓のポンプ機能の低下により、生体の需要に応じるだけの心拍出量を維持できなくなった状態」
※要は「心臓が十分な血液を送り出せなくなった状態」を指す。
なので、心臓が血液を送る先(動脈)には血液が足りず、心臓にもどる血液(静脈)はうっ滞してしまう。
心不全は3種類に分類されるよ
心不全には障害部位によって以下の3つに分類される。
- 左心不全(left heart failure)
- 右心不全(right heart failure)
- 両心不全
いずれにおいても、以下が特徴である。
- 循環系(大循環・小循環)に血液のうっ滞がおこる
- (でもって)体液の貯留・浮腫がおこるのが特徴
そして、これらの特徴が慢性的に経過するものを『慢性うっ血性心不全(CHF: congestive heart failure』と呼ぶ。
心不全による悪循環
心不全とは『心臓が十分な血液を送り出せなくなった状態』であると前述した。
でもって、、循環系の機能低下を補うために交感神経系やレニンーアンジオテンシン系が活性化し、血液量の増加や血管収縮が起こって心臓の負担が増加する。
つまり「弱った心機能を活性化する仕組みが心臓の状態をさらに悪化させる」という悪循隙に陥ってしまう。
心不全になると、静脈~心臓に血液のうっ滞が起こり(うっ血性心不全)、血圧低下・意識低下・乏尿・手足の冷感などの循環障害症状が現れる。
とくに肺にうっ血が起こると肺が水浸し状態(肺水腫)になり、呼吸困難に陥る。
心臓にはかなりの予備能力があり、ある程度までは代償機能が働くが限度を超えると心停止から死に至る。
心不全の重症度は、NYHAの心機能分類(ニューヨーク心臓病協会)の分類が用いられることが多い。
この分類に関しては以下を参照してほしい。
基礎疾患と発症の誘因
心不全の基礎疾患としては以下などが挙げられ、これらは全て進行すると心不全となり得る。
- 弁膜症
- 虚血性心疾患(特に心筋梗塞)
- 心筋症
- 心筋炎
- 高血圧性心疾患
- 先天性心疾患
- 心膜炎
・・・・・・・などなど。
心不全を誘因するもの(比較的安定した状態から急激に悪化して心不全を生じる誘因)には以下などが挙げられる。
- 呼吸器感染症などの感染
- 種々の不整脈の合併
- 高血圧の進行
- 老齢や心身の過労
・・・・・・・・・などなど。
左心不全と右心不全
左右どちらの心室の機能低下が主な原因かで、左心不全と右心不全を区別する。
左心不全とは
左心不全は以下を指す。
『左心室の拍出能力が低下した病態で、左心に還れなくなった血液が肺静脈系にうっ滞することで起こる(肺うっ血)。』
非常にザックリとしたイメージとして、まずは「左心不全⇒肺に障害が起こる」と覚えよう。
心臓の左側(左心房)は肺の血液を受けて、(左心室から)全身へ血液(動脈血)を送る。
なので、左心不全では肺はうっ血し(ガス交換が障害されて)咳・淡・息切れなどを起こしたり、左心室が空回り収縮することで左室肥大が起こったりする。
左心不全⇒肥大心拍出量低下
①肺から心臓へ血液が流入できない
↓
後方障害
↓
肺うっ血
②心臓から全身へ血液を送り出せない
↓
前方障害
↓
血液供給低下(循環不全)
ちなみに、肺うっ血は上体を起こしていると緩和されるので、呼吸困難も座っている方が楽である(これを起坐呼吸と呼ぶ)。
関連記事⇒『起坐呼吸を解説!何で臥位より坐位が楽なのか?』
また、骨格筋への酸素供給が不足するため疲労感が強まる。
左心不全の症状まとめ:
左心房圧上昇(⇒肺うっ血)
・急性肺水腫
・呼吸困難(息切れ)
・起坐呼吸
心拍出量の低下
・血圧低下
・頻脈(動悸)+心拡大
・全身倦怠感
・尿量減少(腎血流低下)
・意識障害(脳血流量低下)
・手足の冷感・チアノーゼ
肺うっ血は右心系にも負荷を与えるため、放置すると(後述する)右心不全を合併する。
※つまり、左心不全⇒両心不全へ移行する。
右心不全とは?
右心不全は以下を指す。
『右心不全はは右心室が十分な拍出量を保てない病態で、右心に還流されなかった血液が体循環に滞る。』
非常にザックリとしたイメージとして、まずは「右心不全=全身に症状が起こる」と覚えよう。
心臓の右側(右心房)は全身の血液(静脈血)を受けて、(右心室から)肺へ血液を送る。
右心不全では全身の静脈や毛細血管にうっ血が起こり、全身性の浮腫(特に下肢)が出現したり、頚静脈が努張し腹水がたまったりする。
また、大静脈に直接連絡している肝臓やこれに連絡する脾臓、そして消化器系にうっ血が生じると、肝脾腫大や消化器症状(嘔吐、食欲不振など)が現れる。
右心不全⇒右心拍出量低下
①心臓から肺へ血液を送り出せない。
↓
前方障害
↓
肺血流低下
②全身から心臓へ血液が流入できない。
↓
後方障害
↓
末梢組織うっ血
右心不全の症状まとめ:
中心静脈圧上昇(⇒静脈うっ血)
・下腿浮腫
・腹部膨満(腹水)
・頸静脈怒張
・肝腫大(うっ血)
・食欲減退(消化管うっ血)
・吐き気・嘔吐
肺血流減少(⇒心拍出量低下)
高齢者は両側性心不全を起こしやすい(+自覚症状が分かりにくい場合も多い)
高齢者では左右両側の心不全を同時に起こす場合が多い。
つまり、前述した右心不全・左心不全の症状が複合して出現する場合がある。
しかし一方で、高齢者は自覚症状の閾値が高く、自覚しても症状が非特異的となりやすい。
※「元気のなさ」・「食欲低下」・「ボーっとするなどの軽度な見当識障害」などがの「心不全だけが誘因とは限らない漠然とした症状」ハッキリと分かりにくい症状がおこったり、そもそも無自覚な場合も多い。
ちなみに、心不全誘発因子としては以下などが挙げられるため、注意が必要だ。
- 呼吸器感染症
- 過度の運動
- 服薬不良
- 水分過剰摂取
心不全の治療
心不全の治療として、とりあえず一般的なものとしては以下が挙げられる。
- 安静にして心臓への負担を軽減する:
安静にしすぎると生活不活発病が問題になるが、負担をかけすぎると死亡リスクも高まるので、安静(っというか「安静と活動のさじ加減」の調整)は大切。
- 食事制限:
体液の貯留を改善する目的で,食塩の制限(重症では5g以下)を行う。
- 薬物療法:
ちゃんと医師から処方された薬は飲みましょう
心不全のリハビリ(理学療法)にはリスク管理を十分に
心不全を有した患者に対してリハビリの指示が出る場合も多いが、その際は運動負荷に十分注意する。
そんなリスク管理に関しては以下の記事も参照してみてほしい。
※「心不全の運動療法」に関して、「絶対禁忌」・「相対禁忌」・「禁忌とならないもの」に分類した一覧も掲載している。
『リハビリの中止基準』を知っておかなきゃリスク管理は出来ないよ
各活動におけるMETs(代謝当量)を一通り把握しておくことも、運動処方時のリスク管理に繋がる。
METs(メッツ)とは? 代謝当量を把握して運動処方やリスク管理に活用しよう
心不全うんぬん以前に、リハビリ(理学療法)のリスク管理を語る上で『バイタルサイン』は外せない。
そんなバイタルサインの記事一覧が以下になる。
バイタルサイン(vital signs)の基準値をザックリ理解!
以下は『心臓』の解剖整理について簡単に解説した記事である。
合わせて観覧してもらうと、心臓に関して理解が深まると思う。