この記事では、マニピュレーション(スラスト)とベータエンドルフィンの関連性について記載していく。
スラストとβエンドルフィンについて
スラストとは高速低振幅な鋭い力を関節に加える手技のことを指す。
でもって、スラストによって関節に生じる(ことのある)ポキッっという音をクラッキング音と呼ぶ(ポッピング音とも言う)。
スラストの適応は関節の癒着の剥離であり、それ以外の原因で生じた過少運動性であるならば、もっと安全な別の方法(例えば関節モビライゼーションなど)で十分と言える。
関連記事⇒『HP:関節モビライゼーション』
しかし、好んでスラストを用いるカイロプラクターなどのセラピストは多いし、クライアントの中にも「ポキッと音が鳴ったらキモチイイ。良くなった気がする」「ポキッと鳴らないと治療してもらった気がしない」と好んでスラストを受けたがる人もいる。
また、自分自身で腰をねじったり、首を振ったり、指を押さえたりしてクラッキング音を鳴らすと気持ち良いので、これらを習慣化させている人もいる。
この『クラッキング音』は、関節内が陰圧になり、滑液内に存在する窒素・炭酸ガスが爆発することで起こるとされているが、この行為はβエンドルフィンを上昇させることも分かっている。
※スラストを施行した後に、生体の静脈血からβエンドルフィンの量を測定し、コントロール群・sham群では増加がみられなかったエンドルフィンの量が、スラスト群において治療後5分以内に増加がみられたことが報告されている。
そして、このβエンドルフィンの上昇により、関節でクラッキング音を鳴らした後に、心地よく感じたり、疼痛の軽減を経験することになる。
一方で、クラッキングすることが習慣化されると、関節を構成する軟部組織や骨に変性が生じてしまうとの報告もある。
※ちなみに音が鳴った後は、爆発したガス(窒素や炭酸ガス)が関節液に吸収されるまで20分間必要とされている。そのため、いくら再度音を鳴らして気持ち良くなろうとしても、20分経過しなければ再爆発はしない(音は鳴らない)とされている。
また、スラストが多く用いられる脊柱においては、過少運動性と不安定性な関節が混在しており、「きちんと過少運動性な分節を特定し、それ以外の関節(不安定性な関節を含む)が動かないよう閉鎖した状態で、過少運動性な分節のみにスラストを加える」ということが大切だが、この点をスラストを用いる全てのセラピストが留意できているかには疑問が残る。
スラスト(セルフクラッキングも含む)の注意点
注意しなければならないことは、βエンドルフィンの量が増加することは快情動と同時にクライアントの依存心も引き起こす可能性があるということだ。
※オピオイド・依存性の関連記事としては以下も参照
⇒『依存症とは』
したがって、クライアントがスラストに依存してしまい、常にスラストを求めるようになる可能性があるということだ。
そして、カイロプラクターなどのセラピストも商売柄、クライアントの依存を狙っている可能性もあったりする。
もちろん、スラストを用いるすべてのセラピストがそうであるとは限らないが、
例えば、「ここが硬いので動かしますね~」などと言って首を捻って音を鳴らされた際、一つの分節だけでなく、多分節にわたってポキキキと鳴らされたなら、単に音を鳴らしてβエンドルフィンを出させて一時的に気持ちよくさせているだけな可能性がある。
中部頸椎の椎間関節は頸椎の中でも不安定性になり易いとされているが、きちんと閉鎖されていなければ、この様な「ユルイ」部分にばかり刺激が入り、ますます関節をユルくしてしまい、(このユルみが痛みの原因だとするならば)その場だけ気持ち良いだけで普段の悩みである痛みは助長されてしまう可能性がある。
※あくまでも可能性の話。
また、これは自身で関節を鳴らすことが習慣化している人にも同様のことが言える。
関節を鳴らして一時的に楽になるのはβエンドルフィンのなせる業であり、習慣化すると関節がユルくなり(メカニカルなストレスに弱くなり)、痛みの原因を作ってしまう可能性がある。
例えば、もし仮に「首が凝るが、首を振ってポキポキ鳴らすと、その場では楽になる」という情報が問診時に得られた場合で、なおかつ触診によりクラッキング音が生じる関節に不安定性を認めるようなら、その行為はやめてもらう必要があるかもしれない。
※依存性があるため簡単にはやめられないかもしれないが・・・
参考書籍
今回の記事は、以下の書籍を参考にして作成した。
この書籍にはスラストとβエンドルフィンの関連性の他にも、徒手理学療法に関する様々な情報が提示されている。
これらは徒手理学療法を用いる人にも参考になるし、用いない人にも参考になる情報が満載である。