この記事では、変形性膝関節症に対する手術療法の一つである『人工膝関節全置換術』について解説していく。
人工膝関節全置換術とは
人工膝関節置換術は、その名のとおり、悪くなった関節を、金属とプラスチックでできた人工関節に置き換える方法である。
人工膝関節全置換術に話を戻すと、膝関節のすり減った上下の骨(大腿骨・脛骨)の表面を、厚さ1cm程度削り、人工関節をはめ込みむ。
※人工関節は改良が進み、現在はなめらかさや耐久性に優れたものが使われている。
以下のイラストの赤色部分が人工関節である。
変形性膝関節症が進むと、重度の変形を起こしたり、骨がすり減って欠損することがある。
で、損傷した骨や軟骨を人工の関節に置き換えることで痛みを改善し、安定した膝にするのが、この手術の目的だ。
関節軟骨がすり減って骨まで影響が出ているケースや、65歳以上の高齢者に適している。
今回は「膝」の人工関節置換術についての記載だが、股関節に施行されることもあり、その場合は『人工股関節全置換術(骨頭のみ人工物にするのであれば人工骨頭置換術)』となる。
人工関節全置換術も変形性関節症(股)に適応されることもあり、興味がある方は以下を参照してみてほしい。
手術と、その後の経過
手術の時間は1〜2時間ほどかかる。
人工膝関節全置換術を左右両方とも行う場合は、同時に手術する場合と、一定期間、時間をあける場合がある。
なかには、特にひどい方の膝の手術を先にしたところ、もう一方のひざの負担が軽くなって、痛みが改善され、手術をしなくても済むことがある。
リハビリは手術翌日から始める(最初は愛護的な訓練が中心となる)
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手術の翌日からは、(可能であれば)自分で車いすに移乗できるようにする。
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その後、起立・歩行の練習を行い、手すりを使って階段の上り下りができるようになれば、退院といったイメージ。
※通常は、ここまで術後3週間程度となる。
人工膝関節全置換術の適応・メリット・デメリット
人工膝関節全置換術の適応・メリット・デメリットは以下の通り。
適応(この様な人に、医師が勧めることが多い)
人工膝関節全置換術の適応は以下になる。
- 関節軟骨がすり減って骨にまで影響が出ている人
- 65歳以上の人
つまり、この手術の対象となるのは、65歳以上の重度者となる。
逆に、非適応となる例としては以下などが挙げられる。
- 比較的若い年齢(人工関節に置き換えると、摩耗や破損などによって取り替える必要が出てくるので、非適応という訳ではないが、よりケースバイケースになる)。
- 重い糖尿病の人や、化膿性関節炎の人は、手術後に合併症などの問題が起きやすいので、受けられないことがある。
- 手術後のリハビリテーションやケアについて十分に理解できないおそれのある認知症の人にも、手術はすすめられない。
メリット
人工膝関節全置換術の適応は以下になる。
- 変形がひどくても手術できる
- 痛みを完全に取り去ることが可能(ただ、実際には術後も痛みや違和感が残存するケースがある。ただ、多くの人が痛みから解放される)
- 入院期間が比較的短い(1か月前後)
- 手術1~2週間程度で歩けるようになる
デメリット
人工膝関節全置換術の適応は以下になる。
- 激しい運動は好ましくない
- 膝が120度程度までしか曲がらない
- 少数だが10~15年後に入れ替えが必要になることもある
- 合併症で血栓性静脈炎を起こす人がいる
- 非常に稀だが手術後の感染症で、人工関節を抜き取るケースもある。
※耐用年数に関しての補足:
近年、人工ひざ関節は材質やデザインが進歩し、安全な手術法も開発され、90%以上の人で耐用年数が15〜20年に達するとの意見もある。
デメリットをもう少し深堀解説
人工膝関節全置換術により痛みから解放されたとしても、全ての動作が元通りにできるようになるわけではない。
人工関節に負担がかかるため、正座や激しい運動に動作はできない。
※正座が出来ないのは、手術後は膝が120度程度までしか曲がらなくなるため
※山登りやランニングなどの激しい運動は不向きでなため、実際に激しい運動が趣味な場合は、医師に実施してよいか確認をとってみてほしい)。
無理に、これらの動作をしてしまうことによって、人工関節の摩耗が進んで耐用年数が短くなったり、膝が不安定になって、ぐらついてしまうので注意してほしい。
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