皆さんは筋膜に関しては、「筋上膜と筋外膜の違い」についてご存じだろうか?
最近、この点について質問を受けたので回答するとともに、『狭義な筋膜』についてもイラストとともに記載していく。
筋上膜と筋外膜の違い
後述するが、「狭義な筋膜」における最外層は『epimysium』という膜(筋膜)で覆われている。
でもって、このepimysiumの日本語訳が、書籍によって「筋上膜」なこともあれば「筋外膜」なこともある。
つまりは「筋上膜=筋外膜=epimysium」と考えて良い(つまりは同義)。
ちなみに、教科書的には圧倒的に「筋上膜」という表現を用いているものが多く、例えば以下など。
- プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系 第3版
- 理学療法ハンドブック改訂第4版
- 関節可動域制限―病態の理解と治療の考え方
- 病気がみえるvol.11 運動器・整形外科
- 整形外科疾患ビジュアルブック 第2版
一方で、「筋外膜」という表現を用いているものは以下が挙げられる。
- 筋骨格系のキネシオロジー―カラー版
- オーチスのキネシオロジー 身体運動の力学と病態力学 原著第2版
- 改訂版 クリニカルマッサージ
- 筋膜マニピュレーション 理論編( 実践編 も)
- 正しく理想的な姿勢を取り戻す 姿勢の教科書
ちなみに「筋上膜(筋外膜)」という表現も散見され、以下が挙げられる。
筋膜の下では、筋外膜(外筋周膜あるいは筋上膜)が筋腹を包む。筋外膜は、筋の内部に向かって分派して筋を多数の筋束に区分している。
~系統別・治療手技の展開 改訂第3版より引用~
この点も踏まえつつ、「狭義の筋膜」について解説していく。
狭義な筋膜
筋膜には「狭義の筋膜」と「広義の筋膜」がある。
でもって、国試などでは「筋膜」と聞かれたら恐らく「狭義の筋膜」であり、ここから先は「狭義の筋膜」についてイラストとともに解説していく。
※ちなみに「広義な筋膜」に関しても、関連記事を最後に紹介しているので合わせて観覧してもらえると理解が深まるかもしれない。
筋外膜・筋周膜・筋内膜
骨格筋には、骨格筋全体を覆う最外層の筋外膜(=筋上膜=epimysium)があり、骨格筋の内部には下記の2つの筋膜がある。
筋周膜(perimysium)
骨格筋内部の幾つかの筋線維を束ね(=筋束)、それを覆う筋膜
筋内膜(endomysium)
個々の筋線維を包み込んでいる筋膜
これら「筋外膜(=筋上膜)」「筋周膜」「筋内膜」の構成をイラストにすると以下になる。
ストレッチング時も、筋膜の成分を意識すると楽しいかもよ?
ここから先は、筋膜を構成する成分について記載していく。
筋膜は以下の3つで構成されている。
- 細胞成分
- 細胞外成分
- 基質((粘性に富んだ半流動状態な成分)
細胞成分
線維芽細胞・脂肪細胞・肥満細胞・マクロファージなど
細胞外成分
コラーゲン線維・エラスチン線維
基質
水分・ヒアルロン酸・プロテオグリカンなど
コラーゲン線維・エラスチン線維・基質
ここから先は、筋膜の構成要素の中で、筋膜の可動性へ特に関与している『コラーゲン線維』『エラスチン線維』『基質』について記載する。
- コラーゲン線維
筋膜において、最も主要な成分である。
コラーゲン線維そのものに伸張性はないが、その一方で網目状の線維網を形成することでコラーゲン線維に配列変化が生じ、この変化によって可動性が生み出される。
具体的には、骨格筋が弛緩した状態において様々な方向に配列されているコラーゲン線維が、骨格筋の伸張に伴いその配列も伸張された方向にほぼ平行になり、この配列変化によって筋膜に可動性を生み出すという仕組みとなっている。
筋膜の中でも、特に筋内膜における個々のコラーゲン線維には十分な配列変化が生じること言われている。
筋膜におけるコラーゲンの分子と分子の端末には架橋(クロスリンク)が生成さており、これが筋膜を伸長した際の配列変化に対する抗張力となる。そして、この架橋は成長とともに増加し、ある程度の強さ・硬さのコラーゲン線維に成熟する。
エラスチン線維
コラーゲン線維が伸張性の無い線維なのに対して、エラスチン線維は伸張性を有した線維である。
エラスチン線維はコラーゲン線維と組になって働いており、筋膜に伸張刺激が加わった際は、まずエラスチン線維の弾力がこれに応じ、さらに強く伸張された際にコラーゲン線維がゆっくりと配列変化を起こすことで伸張方向へ可動し、最後にコラーゲン線維の抗張力によって止まる(筋内膜にはエラスチン線が含まれないとされている)。
基質(水・ヒアルロン酸・プロテオグリカンなど)
筋膜において、細胞成分や細胞外成分は、この基質内に存在する。基質は粘性に富んだ成分であり、コラーゲン線維間の空間を保持する役割を果たし、コラーゲン線維が配列変化を起こす際の摩擦や摩耗を軽減させる滑剤として機能すると言われている。
そして、(仮に筋が完全に弛緩しており反射的短縮の要素が完全に除去された状態において)筋を伸長した際のファーストストップで保持すると、時間とともに徐々に筋膜が伸びてくる現象は、この基質による粘性の影響が大きい。
まとめとして筋膜のイメージ
筋膜の主成分であるコラーゲン線維には伸張性が無いことや、コラーゲンの配列変化には時間を要すことから、瞬間的に伸張力を加えた際のイメージとしては、セーターのような柔らかく伸縮性に富んだ素材というより、ガーゼのような素材の方が適切と思われる(エラスチン線維も含まれているので多少の伸縮性はあるが)。そしてそのガーゼ様組織が幾重かの層になっており、その網目間や各層の隙間を粘り気のある基質が埋めているといったイメージが分かりやすいのではないだろうか。
※上記が「狭義な筋膜」のイメージ
※「広義な筋膜」に含まれた膜は、このイメージと異なる。
まとめとして(狭義の)筋膜に伸張刺激を加えた場合の変化
筋膜にストレッチングなどの伸張刺激を加えた際の変化は以下な感じ。
- まずは伸縮性のあるエラスチン線維が伸びる
- ある程度伸ばされた時点で基質による粘り気により伸びなくなる
- 伸びなくなった後も伸張刺激を持続して加え続けると、(粘り気があるため)ゆっくりではあるが、徐々にコラーゲン線維が主成分なガーゼ様組織で形成された層間が滑走すると同時に、ガーゼ様な網目組織が引っ張られることで筋膜が可動する。
- 最後は伸縮性が無いコラーゲン線維の影響で可動がストップする。
ストレッチングや筋膜リリース時には、これらのコラーゲン線維・エラスチン線維・基質の性質をSpring and Dashpot Modelとして考慮しながら実施していくことが大切である。
でもって、そんなSpring and Dashpot Modelについては以下の記事でイラスト付きな解説をしている。
関連記事
筋膜には「狭義の筋膜」と「広義の筋膜」がある。
でもって、国試などでは「筋膜」と聞かれたら恐らく「狭義の筋膜」なのだが、最近は「広義な筋膜」を治療として重要視する学派もいる。
以下の記事では、そんな「広義な筋膜」をイラストにして紹介している。
この記事と比較して観覧すると、筋膜への理解が深まるかもしれない。