この記事では、難病も多い継続的なリハビリが必要な『神経疾患』について、包括的に解説した記事となる。
神経疾患(neuromuscular disease)とは
神経筋疾患とは、以下を指す。
神経疾患と筋疾患をあわせた総称。
代表的な疾患として、脳卒中や神経難病など脳や脊髄神経系によるもの、末梢神経疾患神経筋接合部疾患や筋疾患があげられる。
体を動かしたり、感じたり、考えたり覚えたりすることが上手にできなくなったときに、このような疾患の発症を疑う必要がある。
症状としては、しびれやめまい、うまく力が入らない筋力低下や、力が抜けてしまう脱力、歩きにくい、ふらつく、つっぱり感、ひきつけ、むせる、しゃべりにくい、物が二重に見える、頭痛、勝手に手足や体が動いてしまう、物忘れ、意識障害など神経症候は多岐にわたる。
また神経筋疾患には難病といわれる疾患が多く、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病や重症筋無力症など特定疾患にも指定されている。なかでも変性疾患は根治療法が確立されておらず、進行性の経過をたどるため、疾患の進行度・重症度分類に則したリハビリテーションアプローチや、長期にわたる理学療法が必須となる。
~理学療法学事典より引用~
上記の様に『神経疾患』と一括りにされているものの、それぞれの多種多様な症状を持った疾患が集まっている。
また原因に関しても、糖尿病などの持病によるものから、感染症によるもの、神経の老化や変性によるもの、遺伝が関与しているもの、特別な仕事や(普段接しないような)薬物が原因となるものなど実に様々である。
このため、最初に受診した病院の初診では診断がつかず、神経内科などの専門医による詳細な症状の観察や診断と様々な検査結の結果、やっと診断がつくこともある。
あるいは、はっきりとした診断がつかないまま、経過を見ながらリハビリを進めていかなければならない場合もあったりする。
※ちなみに私の例では、訪問リハビリ先でパーキンソン病に類似した症状が現れたため、主治医(大病院)に相談するようすすめたが、結局その病院ではパーキンソン病と診断されず、他の病院を数件まわってやっと診断されたという事例があったりする。
一方で、診断が早期についたにもかかわらず、本当に診断が合っているのかと思わされる症例と臨床で遭遇する場合もあったりする。
※ちなみに私の例では、ALSと大病院で診断された人のリハビリを10年ほど担当しているが、10年たっても未だに歩行可能な状態が維持できており、「本当にALSかな?」と思うことがある(ALSに類似した特徴を多く有してはいるものの、ALSの予後は悪いのが一般的なため)。
神経筋疾患の中の「進行性疾患(いわゆる難病)」
念のため『進行疾患』『難病』という用語についてもザックリ記載しておく。
前述したように神経筋疾患には様々な疾患が含まれるが、それら疾患の中の『進行性疾患』が、いわゆる『難病』と呼ばれるものに該当する。
※ちなみに「神経筋疾患=進行性疾患」という訳ではない。例えば、脳卒中は神経筋疾患ではあるが進行性疾患ではない。
『進行性疾患progressive disease』という用語は、一般的に悪性腫瘍をイメージする
ことが多いが、悪性腫瘍以外にも「慢性進行性」「遺伝性進行性」のような、進行性の用語がつく疾患名は多い。
でもって、進行性疾患は、原疾患の治療を行っても病巣・症状が増殖、拡大、悪化する特性を持っているといえる。
進行性疾患だけが難病ではない
先ほどは「進行性疾患は難病に該当するケースが多い」と記載した。
しかし、進行性疾患だけが難病ではなく、難病には多くの疾患が含まれる。
でもって難病は以下の4条件を満たすものを指す。
- 発病の機構が明らかでない
- 治療方法が確立していない
- 希少な疾患
- 長期の療養を必要とするもの
更に「指定難病」は上記の4条件から、更に以下の2条件も満たすものを言い、医療費助成の対象となる。
⑤患者数が本邦において一定の人数(人口の約0.1%程度)に達しないこと
⑥客観的な診断基準(またはそれに準ずるもの)が成立していること
※画像引用:http://www.nanbyou.or.jp/entry/314
神経筋疾患(進行性疾患・難病)の治療
神経筋疾患の多くは治療方法が確立していないため、以下などは2015年に改訂された難病法の中で指定難病に含まれている。
- パーキンソン病
- 脊髄小脳変性症
- 多発性硬化症
- 筋萎縮性側索硬化症
従って、急性期の治療期間だけでなく、その後のリハビリ期間においても、症状が良くなったり悪くなったりを繰り返す場合があり、「数か月治療をすれば終わり」ではなく「継続的な治療」が必要となる。
神経筋疾患(進行性疾患・難病)に対するリハビリの目的・目標
前述した進行性疾患(難病)に対する運動療法の目的・目標は以下になる。
目的:
リハビリ(理学療法・作業療法)の目的は、身体機能、基本動作などの維持、廃用症候群などの二次的合併症の予防。
目標:
進行性疾患は病状の変化、身体機能の悪化に伴う基本動作障害、日常生活活動(ADL)の低下が予測される。
リハビリの目標は、国際生活機能分類(ICF)における「心身機能」レベルおよび基本動作レベルに設定される。
ただし疾患の重症度によっては、リハビリによる機能障害の回復を望めない場合もあるたえ、「心身機能」レベルの目標が「活動」レベル、「参加」レベルでの目標に直結するように常に考えておくことが重要となる。
リハビリのポイント:
神経筋疾患では、リハビリの強度や訓練時間についても注意が必要となる。
手足を動かす筋肉に対する1本の神経が障害を受けた時、それを補おうとして周囲の神経から新しい神経やネットワークが出来る場合がある。
この時、その機能をカバーするためにの神経に、これまで以上に大きな負担がかかることがあり、非常に疲れやすくなる。
従って、回復を急ぐあまりむやみにリハビリ強度を強くしたり、訓練時間を増やしたり、自主トレーニングを頑張ってもらいすぎることによって、逆に症状を悪化させることにつながるケースもある。
※この様に、「各疾患の特徴」や「個々の状態」を見誤ったリハビリによって生じる症状を『誤用症候群』と呼ばれることがある。
従って、個々の状態に合わせて、無理のないスケジュールを組んでリハビリを行う事も大切となってくる。
関連記事⇒『過用症候群・誤用症候群とは(+例・違い)』
指定難病となっている神経筋疾患の関連記事
前述した指定難病となっている神経筋疾患として以下の疾患に関しては、具体例をリンク先で解説しているので、興味がある方は参考にしてみてほしい。
- パーキンソン病:
脳内で作られるドーパミンの量が低下することで、筋肉がこわばったり、姿勢の維持が出来なくなったり、手や足に震えが出たりする。
- 脊髄小脳変性症:
小脳の障害により、歩行時にふらついたり、呂律が回らないなどの運動失調症状が出る。
- 多発性硬化症:
脳・脊髄・意思神経のあちこちに病巣ができ、様々な症状が出たり治まったりする。
- 筋萎縮性側索硬化症(ALS):
手足・のど・舌の筋肉や、呼吸に必要な筋肉が弱くなり痩せてしまう。
- 筋ジストロフィー: