この記事は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)について解説している。

 

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筋萎縮性側索硬化症とは

 

筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)』とは以下を指す。

 

四肢体幹の筋力低下・球症状などから発症し、発症後数カ月~数年で呼吸筋麻痺へと進展し、人工呼吸器の管理が必要となる、原因不明の進行性疾患。

 

 

ALSは、慢性進行性の変性疾患であり、様々な機能が低下する(後述する)が、認知機能は正常に保たれる。

これは「身体機能の低下が急速に進行してゆくこと、すなわち患者本人がそれまで自分でできていたことができなくなってきていることを、いやでも認識しながら生活をしていかなくてはならないこと」を意味する。

 

従って、心身機能やADLのみならず、QOL(生活の質)への配慮を他の疾患以上に考えさせられる。

 

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筋萎縮性側索硬化症を患った有名人

 

筋萎縮性側索硬化症を患った有名人として、個人的には「医療法人 徳洲会」を立ち上げた『徳田 虎雄(とくだ とらお)』氏が真っ先に思い浮かぶ。

 

(現在は引退しているが)徳洲会グループという巨大グループを束ねていた人物として、あるいは一時期の猪瀬前東京都知事との疑惑を持たれた人物として知っている人も多いのではないだろうか?

 

 

筋萎縮側索硬化症(ALS)で障害される随意筋群と臨床症状

 

筋萎縮側索硬化症(ALS)で障害される随意筋群と臨床症状は以下の通り。

 

  四肢体幹筋群  橋・延髄筋群(球筋群)  呼吸筋群  外眼筋群
上位運動ニューロン障害

 ・痙性不全麻痺

・四肢のつっぱり、こむらがえり、動作の緩徐化、巧緻動作障害

・仮性球麻痺

・仮性笑い、仮性泣き、情動静止困難 

 ・自律呼吸中枢と随意呼吸中枢の障害

・前頭眼野

・中脳、橋、被蓋

下位運動ニューロン障害

・弛緩性不全麻痺

上下肢の筋萎縮、筋力低下、筋線維性攣縮 

・球麻痺

・舌の筋萎縮、舌の筋線維性攣縮 

・横隔膜、肋間筋の筋力低下  ・動眼、滑車、外転神経の障害
臨床症状

・上肢挙上困難、握力定価

・書字障害、巧緻障害

・立ち上がり困難、階段昇降困難

・つまづき易い

・構音障害、嚥下障害、流涎

・首下がり

・息切れ、呼吸苦、長くしゃべれない

・多き声が出ない

・眼球運動障害

・上眼瞼が動かせない

 

 

障害像をザックリとイメージするには、この図が分かり易いと思う(ザックリしすぎていくが、イメージを定着させるための導入は丁度良い図だと思う)。

 

・構音障害・嚥下障害

・呼吸障害

・下肢障害

・上肢障害

 

これらの相互関係により様々な問題が生じる。

 

 

 

「重症度分類」と「ALS機能評価スケール改訂版(ALSFRS-R)」

 

厚生労働省が定めている、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の重症度分類は以下の通り。

 

重症度1:

家事・就労はおおむね可能。

 

重症度2:

家事・就労は困難だが、日常生活(身の回りのこと)はおおむね自立。

 

重症度3:

自力で食事、排泄、移動のいずれか1つ以上ができず、日常生活に介助を要する。

 

重症度4:

呼吸困難・痰の喀出困難あるいは嚥下障害がある。

 

重症度5:

気管切開、非経口的栄養摂取(経管栄養、中心静脈栄養等)、人工呼吸器使用。

 

※難病情報センターより引用

 

ADL自立期(重症度1~3)では、機能障害に対するアプローチが可能な時期である。

 

ADL介助期(重症度4~5)では、機能的代償動作や環境整備が問題解決の鍵となる時期である(もちろん、機能訓練も併用しつつ)。

※非可逆的な筋力低下の存在は機能的代償動作の幅も狭めてしまうため、基本的には環境整備で問題解決にあたる。

 

 

ちなみに「病状の進行度合い」と「各種障害の種類」を組み合わせて示した表として、以下も参照してみてほしい。

 

  運動麻痺 球症状 呼吸筋麻痺
初期 自覚的な軽い麻痺感、または細かい運動障害のみ。 自覚的なしゃべりにくさ、時にはむせるが、日常生活上は問題にならない。 呼吸機能検査上、以前の数値よりは劣っている程度。
中間期(軽介助期) ほとんど介助なしで日常生活ができるが、細かい運動はしにくい。 しばしばむせる、食事を工夫することで栄養が維持できる。言葉は聞き取りにくい。 呼吸機能検査上、正常下限程度、自覚症状は無い。
後期(重介助期) 介助が無ければ、日常生活を行うことが出来ない。 強い嚥下障害があり、経管栄養が必要となる。言葉は聞き取れず、コミュニケーション機器が必要。 呼吸機能検査上、肺活量の低下を認める。運動時の息切れを自覚するが、安静にしていれば自覚なし。
終末期(全介助期) 自分では何もできない 嚥下不能で胃婁が必要。機器を用いなければコミュニケーションも不能。 安静にしていても呼吸困難を自覚、呼吸管理が必要。

 

 

ALS機能評価スケール改訂版(ALSFRS-R)

 

ALSの筋力低下には、「病状の進行に伴うもの」と「不活動状態による廃用性筋力低下によるもの」のふたつの側面がある。

また病状の進行に伴い嚥下、呼吸コミュニケーションなどの問題が重なり合い問題を複雑にさている。

 

でもって、筋萎縮側索硬化症(ALS)の包括的な評価表としては『ALS機能評価尺度改 訂版(ALS functional rating scale-R ;ALSFRS-R)』が使われる。

 

※ALSFRS-Rによって、ALSの包括的なの評価と進行経過を把握することができる。

 

ALSFRS-Rの評価項目は、以下の12項目であり、各項目は全て5段階(0機能全廃~4正常まで)で評価される。

※全て正常な場合は48点満点となる。

 

  1. 言語
  2. 唾液分泌
  3. 嚥下
  4. 書字
  5. 摂食動作
  6. 着衣・身の回り動作
  7. 寝床での動作
  8. 歩行
  9. 階段昇降
  10. 呼吸困難
  11. 起座呼吸
  12. 呼吸不全
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筋萎縮性側索硬化症(ALS)のリスク管理

 

筋萎縮性側索硬化症(ALS)におけるリスク管理の一例は以下の通り。

※参考:『小林量作:神経難病,リスク管理実践テキスト,石黒 友康ほか監修,改訂第2版,診断と治療社,東京,165-176,2012』

 

  • 転倒:

    下肢筋力低下による下垂足、つまづき、膝折れなどで転倒を生じる。

 

  • 体温調節障害:

    自律神経障害が原因で起こり、体温調節がうまくできない。特に室温に注意し、屋外での直射日光は避ける。

 

  • 嚥下障害:

    球麻痺型では早期から生じる。晩期にはどの方にも生じる。誤嚥に注意する。経管栄養、慰労増設の選択がある。

 

  • 呼吸障害:

    球麻痺型では早期から呼吸機能低下が生じる。人工呼吸器を装着している患者の呼吸療法に留意する。

 

 

  • 脱水:

    高齢者、食事摂取の少ないものに注意する。排尿回数を減らすために水分摂取を控えることがないように監視する。

     関連記事⇒『高齢者の脱水と予防の知識

 

  • その他:

    過負荷が過用性弱化を惹起する。

 

 

筋萎縮性側索硬化症(ALS)のリハビリ(理学療法・作業療法)

 

筋萎縮性側索硬化症のリハビリ(理学療法・作業療法)としては、以下などを患者の病期に合わせて組み入れていく。

 

※環境日も視野に入れ、ICFにおける活動・参加にも焦点を当てることが重要となる。

 

目的 方法
筋の柔軟性の改善・維持  ストレッチングなど
四肢の関節可動域の改善・維持  関節可動域訓練関節モビライゼーションなど
疼痛の改善  ストレッチング物理療法・ポジショニングなど
筋力維持  筋持久力維持練習・自転車エルゴメーターなど
胸郭の可動性維持  肋骨のモビライゼーション・肋間筋ストレッチ、腹式呼吸など
歩行能力の維持  下肢装具(軟性装具、AFOなど)、膝の固定、歩行器の検討など
 移動手段の確保 車椅子の検討(手動・電動・チルトリクライニング式)など
起居動作・移乗能力の維持 身体機能に合った方法の指導、機器導入の検討(手すり、介護用ベッド、トランスファーボード、トランスファーシートなど)
ADL・IADLの維持 自助具、上肢装具(ユニバーサルカフ、スプリングバランサーなど)の検討
コミュニケーション手段の確保 磁気ボード・透明文字盤の利用、意思伝達装置の検討、パソコン入力装置の変更など
介助量の軽減 機能障害に対応した介助方法の指導、福祉機器やベッドなどの選定
家屋環境の整備 身体機能、介護力、在宅療養の形態などに配慮した住宅改修、福祉機器導入のアドバイスなど

 

 

筋萎縮性側索硬化症(ALS)のリハビリ(理学療法・作業療法)に対するエビデンス

 

ALSは進行性の疾患であるため、二次的に生じる機能障害を可能な限り予防し、ICF(国際機能分類)に照らし合わせながら、本人のQOLを高めるために必要なリハビリ(理学療法・作業療法)を思案していく必要がある。

 

※もちろん、チームアプローチとして他職種・家族などと強調した取り組みが何よりも重要となる。

 

そんな中で、ALSのリハビリ(理学療法・作業療法)におけるエビデンスの確立されたものは無いのだが、念のため以下に報告されているものを列挙しておく。

※参考:筋萎縮性側索硬化症ガイドライン2013

 

ちなみに、以下はエビデンスレベルはまちまちだが、推奨グレードは全てC1となる。

※推奨グレードC1⇒「科学的根拠はないが、行うように勧められる」

 

・ストレッチ・ROMエクササイズは、全病期を通じて有効(エビデンスレベルⅥ)

※エビデンスレベルⅥ⇒患者データに基づかない、専門委員会や専門家個人の意見

 

・軽度~中等度の筋力低下に対しては、適度の筋力増強運動は一時的には有効である可能性がある(エビデンスレベルⅣa)

※エビデンスレベルⅣa⇒分析疫学的研究(コホート研究)

 

・筋持久力改善を目的とした運動はエビデンスレベルⅣa・有酸素運動の有効性はエビデンスレベルV。

※エビデンスレベルⅣa⇒分析疫学的研究(コホート研究)

※エビデンスレベルⅤ⇒記述研究(症例報告やケース・シリーズ)

 

 

 筋力低下に関して

 

ALSの筋力低下には2つの側面がある。

  • 病状の進行による筋力低下
  • 不活動状態による廃用性筋力低下

 

すなわち、ALSという疾患そのものによる筋力低下に加え、廃用による筋力低下も合併し、その時点での筋力低下状態を生じているといえる。

 

また、筋力の強化・維持はリハビリのときに行うもので、日常的には介助を受けてもかまわないと認識しているクライアントもいる。

 

日常生活活動(ADL)に必要な筋力は、そのADL動作を行うことで保たれるということをまず第一に、本人・家族に理解してもらう必要がある。

 

 

~個人的なエピソード~

 

個人的にも、ALSと診断された方のリハビリをデイケアで行っている。

この方は非常にポジティブで、自分で少しでも出来るADL(日常生活行為)は可能な限り自身で実施するよう心がけ、自宅でふさぎ込むことなく(ご家族の協力のもとで)積極的に外出している。

また、おしゃれに気を遣ったり、バレンタインデーにチョコを頂いたりもした(本当はいけないのだが、コッソリ渡してくれたりもした)。

ALSに関しては「急速な機能低下」といたイメージが強かったが、この方の機能低下は非常に遅い(これ以上具体的には記載しないが、今でも元気にリハビリへ通ってくれている)。

「教科書的なALS」と「実際のALS」は違うといったケースも(当然のことながら、あり得るのかもしれない)。

 

 

過用症候群・誤用症候群

 

ALSなどの進行性神経筋疾患においては、筋力増強運動のような運動負荷が過用性筋力低下(overwork weakness)を生じないように留意する必要がある。

 

軽度・中等度の損傷では、「訓練効果」の範囲もある程度保たれているが、重度の損傷では日常生活でも「過労損傷」を生じる負担となる。

 

近年では、軽度・緩除進行性であれば、安全を確認したうえで筋力増強連動で改善ができる(Milnerら,1988. Kilmelら,1994. Voetら,2013)、あるいは日常生活程度の負荷では過用性筋力低下の有害事象の発生に否定的である(Piscosquitoら,2014)ことが報告されて
いる。

 

っとはいっても、過用性筋力低下のリスクが存在することから、筋力増強を行う際には「少量頻回の法則」に従うことを原則としておいたほうが良いだろう。

 

関連記事⇒『過用症候群・誤用症候群とは(+例・違い)

 

 

関連記事(多発性硬化症を含めた難病を総まとめ)

 

⇒『指定難病も多い「神経筋疾患」まとめ