この記事では、筋ジストロフィーについて、『ドゥシャンヌ型筋ジストロフィー』を中心に解説している。

 

目次

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進行性筋ジストロフィーとは

 

進行性筋ジストロフィ一(progressive muscular dystrophy ;PMD)』とは以下を指す。

 

骨格筋の変性・壊死を主病変とし、筋力低下や筋萎縮をきたす進行性遺伝性疾患で、筋原性疾患の代表的疾患。

 

 

進行性筋ジストロフィーには色んな種類があるよ

 

遺伝形式等により、以下の様なタイプに分類される。

※『リハビリテーション医学テキスト(改訂第4版)』より引用

 

  デュシェンヌ型 ベッカー型 肢体型 顔面肩甲上腕 福山型
男性 男性 男・女 男・女 男・女
遺伝型式 伴性劣性 伴性劣性 常染色体劣性及び優性 常染色体優性 常染色体劣性
発症年齢 4才以前 5~25才 10~20才 20~30才 1才未満
主な罹患筋 腰帯筋 腰帯筋 腰帯筋 顔面筋 四肢近位筋
進行 急速 緩徐 緩徐 緩徐 緩徐
歩行不能 12際以前 10~20歳代以後 発症後20年以上を経て中年期頃 上肢の挙上不能、歩行は可能 女児は歩行可あり
転帰

20歳代前後

呼吸器治療による延命

天寿を全う 中年期頃 天寿を全う 10才前後

 

上記の中でも、デュシェンヌ型筋ジストロフィーは全体の約60%を占め、最も患者数の多い病型である。

 

 

新興の目安として用いられる指標

 

進行の目安としては『厚生労働省分類』などが用いられる。

 

以下は『筋ジストロフィー機能障害の厚生労働省分類』である。

 

stageⅠ

階段昇降可能

a)手の介助なし

b)手の膝押さえ

stageⅡ

階段昇降可能

a)片手手すり

b)片手手すり膝手

c)両手手すり

stageⅢ 椅子から起立可能
stageⅣ

歩行可能

a)独歩で5m以上

b)一人では歩けないが物につかまれば歩ける

ⅰ)歩行器 ⅱ)てすり ⅲ)手ひき

stageⅤ 起立歩行は不可能であるが四つ這いは可能
stageⅥ 四つ這いも不可能であるがいざり這行は可能
stageⅦ いざり這行も不可能であるが座位の保持は可能
stageⅧ 座位の保持も不能であり、常時臥床状態

 

 

以下は『上肢機能の段階分類』である。

 

Ⅰ:500g以上の重量を両手にもって外転→直上挙上

Ⅱ:500g以上の重量を両手にもって外転位保持

Ⅲ:重量なしで両手を外転→直上挙上

Ⅳ:重量なしで両手を外転保持

Ⅴ:重量なしで片手の前腕水平保持

Ⅵ:机上で肘伸展による手の水平前方移動

Ⅶ:体幹前屈の反動で肘伸展を行い手の水平前方移動(机上)

Ⅷ:体幹前屈の反動で肘伸展を行ったのち手関節および手指の運動で水平前方移動(机上)

Ⅸ:前腕回旋、手間節および手指の運動による前方水平移動(机上)

 

厚生労働省筋ジストロフィー研究班の機能障害度分類によるステージ判定、各ステージの
動作能力に基づいた典型的な理学療法プログラムを知ろう。

 

 

ドゥシャンヌ型筋ジストロフィーとは

 

ここから先は、進行性筋ジストロフィーの約60パーセントを占めるといわれている『デュシェンヌ型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophyDMD)』について解説していく。

 

デュシャンヌ型筋ジストロフィーの概要は以下の通り。

 

デュシェンヌ型筋ジストロフィーは3~5歳前後に転びやすい、走りにくいなどの初発症状から始まる。徐々に筋萎縮が進行し、最終的に20~25歳頃に死に至る。進行性筋ジストロフィーの中でも重症型の疾患である。

 

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの疫学

 

デゥシャンヌ型筋ジストロフィーはX連鎖性劣性遺伝(伴性劣性遺伝)のため、ほとんど男児のみに発症する。

 

※女性は保因者となり基本的に発症しない。

 

 

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの特徴的所見

 

  1. ジストロフイン蛋白の欠損により筋線維の破壊が起こり、筋萎縮が進行する。

  2. これに伴い、血清クレアチンキナーゼ(creatine kinase ;CK)が流出し、生化学検査においてCK値が異常高値を示す。

  3. すなわちCK値の異常高値は、筋破壊が進んでいることを示す経過でみると、初期は著明な高値を示すが、残存する正常筋組織が減少するにつれ進行とともに徐々に数値は低下する。

 

※血清CK値が高い時はAST(GOT)、ALT(GPT)、LDHも上昇を示すので、肝疾患との鑑別が重要である。

 

 

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの経過(予後)

 

  1. まず処女歩行の遅れを認める。早期では座る際にドスンと急激に尻もちをつくような動作や床上からの立ち上がりの際に反動をつける。つま先歩行など正常児とは若干異なる動作や姿勢が目につくようになる症状が徐々に進行するにつれ階段昇降を嫌がり、速く走れない動揺性走行をとる。

  2. 小学校入学後の7・8歳頃になると頚部筋、肩甲帯筋、骨盤・股関節周囲筋の筋力低下が顕在化し翼状肩甲、腰椎の前彎、内反尖足、仮性肥大が認められ、左右非対称な立位姿勢をとる。日常生活では動揺性歩行、頻回の転倒、階段昇降困難、登はん性起立(Gower's sign)陽性となり、この頃にデュシェンヌ型筋ジストロフィーの診断がつくことが多い。

  3. その後9~15歳には下肢機能全廃いわゆる歩行不能となり、車椅子生活を余儀なくされる。さらに座位時間が長くなるにつれ脊柱変形が出現しやすくなる。脊柱変形は高度(重度)になるにつれ心肺機能に影響を及ぼす。

  4. 17~18歳頃には座位保持も困難になり、臥床生活が始まる。

 

こうして学校や社会での日常生活の制限も加わり、生命予後が深刻化してくるのもこの時期である。

 

以前まではデュシェンヌ型筋ジストロフィーは20歳前後に呼吸器合併症や心筋症、感染症の合併症で死亡するというのが定説であったが、近年は人工呼吸器の導入や薬物の進歩により、30歳や40歳までの延命が図れた症例報告もある。

 

 

デュシェンヌ型筋ジストロフィーに特徴的な専門用語

 

動揺性歩行(あひる様歩行)wadding gait

動揺性歩行は異常歩行の一つで、歩行時に体幹を左右に振って(揺らして)歩く歩行をいう。両側中殿筋麻痺や進行性筋ジストロフィーなどの筋原性疾患などでみられ、原因としては近位筋(骨盤・股関節周囲筋)の筋力低下が挙げられる。

 

 

登攀性起立(ガワーズ徴候)Gowers sign

「臥位からの立ち上がりに、両下肢を大きく開き、極度に体幹を前屈し、手掌を床につき、次いで膝に片手をあてがい少し立ち上がったところで他方の手を膝につき、安定したところで徐々に大腿部に手を移動し、腰部を伸ばし起立する」といった特徴的な立ち上がり方法を言う。

 

仮性肥大

筋萎縮は四肢近位部からはじまるが、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの特徴である下腿後部の腓腹筋およびヒラメ筋に脂肪組織による肥大が認められ、あたかも筋が肥大したようにみられ、これを仮性肥大という。

 

 

デュシェンヌ型筋ジストロフィーの機能および構造の障害

 

ここでは、「筋力低下・筋萎縮」と「関節可動域異状(拘縮・過剰)」について記載していく。

 

筋力低下・筋萎縮

 

筋力低下・筋萎縮は早期より認められ、近位筋である骨盤・股関節周囲筋から始まり、遠位筋へと進行していく。

またデュシェンヌ型筋ジストロフィーでは全身の筋力低下が一様に起こるのではなく障害とともにある程度の序列に従って低下する。

拮抗筋および左右においても筋力の不均衡を生じる。

上肢筋の筋力低下は下肢筋より3~5年ほど遅れるため、まずは歩行能力の低下から、次いで食事や更衣動作に代表される身辺処理能力に影響が及ぶ。

 

 

関節可動域異常(拘縮・過剰)

 

関節可動域異常は、関節可動域制限と過剰可動性が存在する。

過剰は初期の頃の筋トーヌス低下や筋力低下の関節に認める。

ドゥシャンヌ型筋ジストロフィーの場合、四つ這い時の肘関節の過伸展・登はん性起立時の反張膝など、骨性支持にてロックされた関節に確認される。

その後病気の進行とともに変形拘縮が進み、全身に関節可動域制限が起こる関節可動域制限は痛みや拘縮・変形を伴う拘縮は筋力低下による筋力の不均衡が関与すると考えられるが確定的ではない。

 

  • 下肢においては股関節屈曲・外転拘縮(大腿筋膜張筋・腸腰筋短縮)・膝屈曲拘縮(ハムストリングス短縮)・内反尖足(下腿三頭筋短縮)などの拘縮が起こりやすい。

 

  • 上肢の拘縮は下肢より発生が遅く、初発は前腕回内・肘屈曲拘縮(円回内筋・上腕二頭筋短縮)である次に手関節尺側偏位・掌背屈制限が起こり、肩関節の関節可動域制限は最も遅い。車椅子生活になり下肢機能が全廃する頃、手指関節も徐々に屈曲変形拘縮が進行し、自身のADL(例えばゲームやパソコンなどの嗜好)の影響が変形にも現れてくる。

 

  • 脊柱は歩行時間が短縮し、座位時間車椅子時間が延長する頃より徐々に可動性が低下し、側彎変形を呈する。側彎とともに胸腰椎部の前彎も増強し、骨盤も前傾する。脊柱変形の後、胸郭変形をも引き起こし、最後は体幹の筋力低下より座位不能となる。

 

 

リハビリにおける評価・治療のポイント

 

  • 筋力低下は近位から遠位に進行することを知って筋力を評価する。ただし過負荷を避けること(筋力評価に限らず過負荷は症状悪化を引き起こす)。
  • ADL・生活様式・活動量など常に全体を把握する。代償動作や自助具も考慮する。
  • 約30%が知的障害を合併する。
  • 若年で徐々に能力が失われるため「強い喪失感」を生じることを理解する(精神面のサポートが必要になる)。

 

  • 動作能力低下の進行パターンを知り能力低下に対して早めの対処を心がける。
  • 立位・歩行能力を可能な限り維持することが動作面の大きな目標となる。
  • 筋力強化・維持の基本は低負荷・高頻度が原則。単関節の運動より基本動作練習・日常でよく行う動作練習(低すぎないイスからの立ち上がりなど)・ADL動作練習を行う。
  • ROMの維持(脊柱・胸郭含む):短縮を起こしやすい筋に対する持続的な伸張運動を行う。股関節の可動域制限の左右差を起こさないこと。上肢では、リーチ機能低下・日常動作で上肢屈曲位での使用機会増加により肘関節屈曲拘縮が生じやすいので注意する。ただし筋萎縮進行・荷重量減少で骨折のリスクが高まるため他動運動は慎重に行う。
  • 座位時間延長は、下肢の各関節拘縮脊柱変形を引き起こす。長下肢装具使用で歩行練習、歩行不能後もチルトテーブルを活用して立位保持練習を行う。
  • 運動時の負荷量の目安は「運動中から翌日にかけて筋痛・疲労感が出ない範囲」が現実的。自覚他覚所見から過負荷を防ぐ。
  • ADL指導やホームプログラム指導を確実に行う。
  • 移動手段として電動車イスの導入時期を検討する。

 

 

神経性疾患(ミオパチー)と神経原性疾患(ニューロパチー)の違い

 

進行性筋ジストロフィーのように筋肉に起因する疾患を『筋原性疾患』、また多発神経炎や筋萎縮性側索硬化症などの神経に起因する疾患を『神経原疾患』という。

筋原性疾患・神経原性疾患ともに機能障害として筋力低下や筋萎縮が生じるが、原因が異なるため理学療法士の治療っ対応も異なってくる。したがって筋力低下や筋萎縮がどちらの疾患によるものか区別(鑑別)することが必要である。臨床症状の相違は以下の通り。

 

 

 

ニューロパチー

ミオパチー

根神経炎

神経炎

ドゥシャンヌ型

筋力低下・筋萎縮

近位、遠位部

遠位部

近位部

腱反射

低下

低下

低下

知覚障害

軽度

著明

なし

血清酵素(CKなど)

正常

正常

亢進

髄液所見

蛋白細胞解離

正常

正常

筋電図

神経原性

神経原性

筋原性

筋生検

神経原性

神経原性

筋原性

末梢神経伝達速度

低下

低下

正常

 

 

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