この記事では、生体力学的な動作を理解するうえで大切な、「支持基底面」と「重心の位置・高さ」について記載していく。
支持基底面の意味
支持基底面(base of support:BOS)とは以下を意味する。
『人や物が支えられている底面で、接点の外縁を結んだ範囲』
例えば、杖をつくと足の外側に接点が増え、支持基底面が広がる。
支持基底面は広いほど安定し、狭いほうが不安定である。
これは表現を変えると、「支持基底面は広いほうが運動しにくく、狭いほうが運動しやすい」とも言える。
~支持基底面の捉え方より引用~
また、広さ(面積)だけでなくその形態にも考慮する必要がある。
立位では、閉脚に比べて、開脚や杖を使用したほうが支持基底面が広くなり、安定性が増す。
また、開脚の場合、前後に比べて左右に支持基底面が広いため、左右への安定性に有利である。
例えば、歩隔を広げた歩行では、左右へ安定性が増すが、重心の左右への移動を大きくする必要があり、肩の左右への移動量(体幹の左右動揺)は増加する。
支持基底面を狭さをリハビリにも活用
支持基底面を狭くすることでバランス練習にも活用できる。
①イラスト左(片脚立位):
閉脚立位である。
閉脚立位は開脚立位よりも支持基底面が狭くなる。
通常では、この程度でバランスを崩すことは稀かもしれないが、小脳失調などバランスに問題を起こす状態であれば、これでも難しい場合がある。
②イラスト真中(継ぎ足位):
継ぎ足位(タンデム肢位)である。
この肢位は「前後の支持基底面は広いが、前後の支持基底面は極端に狭い」ので左右へ不安定になる。
この肢位に関しては『タンデム肢位をバランス練習に活用しよう』でも詳細を解説しているので、興味がある方は観覧してみてほしい。
③イラスト右(片脚立位):
片脚立位である。
一番難易度が高い静的バランス練習に該当する(更に閉眼すれば難易度が上がる)。
片脚立位がどの程度可能かは、転倒予防の一つの指標となっており、高齢者の体力測定でも採用されやすい項目の一つである。
詳しくは『片脚立位テストの方法/平均値/基準値(カットオフ値)+運動への応用』も参考にしてみてほしい。
支持基底面と端坐位
端坐位では、臀部から大腿後面も支持基底面となるため、足部とともに前後に広い支持基底面となる。
股関節を外転した座位では、より左右への支持基底面が広くなり、逆に左右への重心が移動しにくくなる。
あるいは、同じ端坐位でも筋緊張や痛みによって支持基底面は変化する。
例えば、脳卒中片麻痺により「どちらか一側の坐骨へ有意な荷重をしている状態(反対側の坐骨への荷重が不十分な状態)」では支持基底面は狭くなり、それだけバランスが不良となる(~画像引用:トランスファーより~)。
上記イラストでは、指示基底面が左右の坐骨・足部による四角形を形成しており、(恐らくは)この中心に身体重心があるため安定している。
上記イラストは、右片麻痺(あるいは右側股関節の痛み)によって左坐骨への荷重が不十分な状態である。
したがって、支持基底面の右側が狭くなるため、安定した座位を保とうと重心を左に寄せるような姿勢戦略をとる。
姿勢反応(平衡反応を含む)としては『傾斜反応』が起こるかもしれない(あるいは、平衡反応が起こらなければ、誰かが支持していなければ転倒してしまうかもしれない)。
関連記事⇒『立ち直り反応・平衡反応(+違い)』
バランス障害を有する対象者では、支持基底面を過度に拡大する傾向にあり、安定性をえる反面、運動が行いにくくなる。
つまり、クライアントの支持基底面の広さは、関節の変形や立位姿勢(あるいは歩行)の不安定性を反映している。
一方で、立位(あるいは歩行)が不安定なクライアントの問題解決手段の一つに「支持基底面を広げる様な戦略」が挙げられる。
例:立位で不安定であれば、杖を持ち、杖を持つだけでは不安定であれば歩行器を使うなど
重心線と各関節・支持底面の位置関係
重心線とは、身体重心を通る床への垂線のことである。
②⇒重心線
③⇒支持基底面
前述した手法で身体重心が分かれば、自ずと重心線も分かるようになる。
そして、重心線が、各関節に対してどのような位置関係をとるかをみることで、各関節に対する負荷が推測できる。
例えば、重心線が各関節中心から離れれば関節モーメントは大きくなり、近づけば小さくなる。
また、各関節の位置関係をみることでどの関節に大きな負荷がかかっているかが分かる。
以下のイラストは、高齢者が呈した不良姿勢であり、膝関節が重心線が離れている。
従って、膝関節に生じる屈曲モーメントが大きくなり、それに抗すような負担が膝(や筋肉)に加わることになる。
身体重心(位置/高さ)と支持基底面の関係
身体重心(COG:center of gravity)とは、身体全体の重さの中心を指す。
直立立位における人体の中心は、(一般論として)以下とされている。
『骨盤内で( 仙 )骨のやや前方に位置し、成人の男性の場合は足底から身長に約(56)%、成人女性の場合約(55)%の位置』
臨床では構造的な円背を含めたアライメント異常を呈している場合も多いため、、正確に重心の位置を決定することは容易ではないが、上半身と下半身の重心の位置を推定し、観察することが有用である。
ちなみに、上半身と下半身の重心位置は、一般論として以下と言われている。
- 上半身の重心位置⇒第7~9胸椎高位
- 下半身の重心位置⇒大腿部の上から1/2と1/3の中点
※この両者の空間上の中点を身体全体の重心位置とする。
重心の位置は高いほど不安定であり、低いほど安定する。
また、支持基底面と重心の位置関係では、支持基底面の中央に重心が位置するほど安定する。
一方で、重心が支持基底面の中央から遠ざかるほど不安定となり、支持基底面(の安定性限界)から外れると、バランスを崩してしまう事となる。
※うまく支持基底面の中に重心が収まれば、以下も可能となる。
※あるいは、支持基底面(の安定性限界)から重心を外すことで、身体を動かすことができる。
脊柱の後湾などの体幹の姿勢変化を有する対象者において、支持基底面との身体重心位置の関係や上半身と下半身の相対的な重心位置が問題となることが多い。
以下の動画は、身体重心(COG:center of gravity)と支持基底面(BOS:base of support)について、柔道を例にして分かりやすく解説さている。
※中盤以降は、この記事とは関係ない内容だが、良くできた動画であり勉強になる(笑)
運動の開始に必要な力
補足として、「運動の開始に必要な力」について記載して終わりにする。
身体が静止している状態から運動を開始する際には、力が作用する必要があり、身体内部あるいは外力としての力源が必要である。
反対に、運動をしている身体が運動を停止する場合にも、運動と反対方向の力が制動として作用する必要がある。
動作中の運動の観察だけでなく、運動の開始時と修了時にも着目する必要がある。
例えば、椅子からの立ち上がりの際にアームレストを手で押す場合がある。
あるいは、寝返りや起き上がり動作において、ベッドを足で蹴ったり、ベッド柵を手で握って引っ張ったりする。
これらは、身体内部の力源が不十分なために認められる現象であり、結果的に努力性の運動となることも多い。
※あるいは、身体内部の力源不足を、様々な環境を利用することで解消するという着眼点を身につけておくと、訪問リハビリ時などにおける即自的な問題解決につながり重宝することがあるので覚えておいて損は無い。
バランス関連記事
以下は転倒予防・バランストレーニングの関連記事となる。
永久保存版!バランス運動(トレーニング)の総まとめ