この記事では、動的バランスの足関節戦略・股関節戦略・ステッピング戦略について記載していく。
また、足関節戦略・股関節戦略に関しては筋活動にも言及しているので、それらを通して各々の違いも理解してもらえると思う。
目次
動的バランスにおける様々な戦略
立位時に認められる姿勢制御戦略には以下が存在する。
①足関節戦略(ankle strategy)
②股関節戦略(hip strategy)
③ステッピング戦略(stepping strategy)
※余談として、つり橋でバランスを崩しそうになった時しゃがみ込んで重心位置を低くして身体を安定させようとするような『垂直戦略(vertical strategy)』なるものも存在する。
足関節を中心とした運動で反応する『足関節戦略』
股関節を中心とした運動で反応する『股関節戦略』
支持面を変化させる戦略である『ステッピング戦略』
ステッピング戦略は「ステッピング反応」とも呼ばれ詳しくは以下も参照。
高齢者の姿勢戦略
股関節戦略・足関節戦略には以下の特徴がある。
- 股関節戦略の特徴
⇒股関節を中心として上下で反対の回転運動をすることによって身体の重みで釣り合いをとる
- 足関節戦略の特徴
⇒主として足関節周りの筋力を発揮させて足部を固定することが必要。
したがって、股関節戦略よりも運動制御に強い筋力を必要とする高度で複雑な反応である。
そして、高齢者の立位姿勢制御としては比較的シンプルで筋力も必要ない(=難易度が低い)股関節戦略を中心とした姿勢制御を用いやすいと考えられている。
なので、高齢者の体力測定として有名な『ファンクショナルリーチテスト』においても、股関節戦略が優位なリーチになりやすい傾向がある。
関連記事⇒『ファンクショナルリーチを動画で理解!』
その他の疾患も股関節戦略を活用することが多い。
高齢者にフォーカスして前述したが、その他の疾患の特徴は以下になる。
末梢神経損傷:
足関節戦略でのバランスの安定性の維持が不十分であり、通常の立位においても股関節戦略が出現する傾向にある。
脳卒中片麻痺:
脳卒中片麻痺により足関節周辺の感覚・運動麻痺をきたした症例においても、足関節ストラテジーでの制御が不十分となり、股関節戦略により制御する傾向にある。
関連記事⇒『脳卒中(片麻痺)について総まとめ』
パーキンソン病:
パーキンソン病では、主動筋(主要姿勢筋)とは相反する作用をもつ筋群(拮抗筋)にも活動が起こり(=同時収縮)、随意的な重心移動の範囲が制限される。
関連記事⇒『パーキンソン病について総まとめ』
小脳失調症:
小脳失調症では、足関節戦略において筋活動が測定過大になり、外乱に対する適切な修正が難しくなる。
関連記事⇒『運動失調について総まとめ』
股関節戦略⇒身体重心制御、足関節戦略⇒足圧中心制御
ここから先は、足関節戦略と股関節戦略に関して、もう少し補足していく。
股関節戦略・足関節戦略という用語は、「股関節」「足関節」という単語が引っ付いているものの、1つの関節(股関節or足関節)だけで姿勢を調節するという意味ではない。
厳密には、股関節戦略・足関節戦略とは以下を意味する。
・股関節戦略は身体重心を調節する際の用語として使用される
・足関節戦略は足圧中心を調節する際の用語として使用される
※身体重心=COG(center of gravity)
※足圧中心=COP(center of pressure)
そして、股関節戦略・足関節節戦略ともに、以下の用語で表現されることもある。
・股関節戦略⇒身体重心制御
・足関節戦略⇒足圧中心制御
※重複するが「(冒頭でも示したように)股関節戦略=股関節を中心とした運動で反応するでバランスをとっている」と表現できなくもないが、もっと厳密に言えば「股関節戦略=身体重心の調節によってバランスをとっている」と解釈される。
股関節戦略ではCOG(身体重心)を調節する際に、足関節戦略はCOP(足圧中心)を制御する際に用いられ、一つの関節だけで調節するという意味ではない。
~運動療法学より~
様々な肢位に特異的な姿勢戦略
肢位によって以下のように特異的な戦略がある。
足関節戦略の例:
・開脚・閉脚立位では左右下肢への荷重を調節することによってCOPを制御する
・『タンデム肢位』や『片脚立位』では足関節内返し外返しでCOPを制御する。
股関節戦略の例:
「両膝立ち位から、一側の膝を浮かした姿勢」では、(膝と床の)接地面でのCOP制御が難しいので、股関節屈伸内外転運動でCOGを制御する。
各戦略における筋活動
最後に、足関節・股関節戦略における筋活動の違いを記載して終わりにする。
足関節戦略における筋活動
足関節戦略における、足関節・股関節周囲の筋活動の例は以下になる。
~足関節戦略①:体幹前傾における筋活動~
「足関節中心」と「足関節より上部の重心(ほぼ身体重心と同じ)を結ぶ線が前方に傾いている。 すなわち、重心が前方に移動している。 それを制御するために下腿三頭筋の活動が強まる。
「股関節中心」と「股関節より上部の体重心」を結ぶ線がほとんど傾いていない。
なので股関節周囲筋に大きな筋活動は起きない。
イラストでは「身体重心」ではなく「股関節より上部の体重心」が表現されている点には注意。
~足関節戦略②:体幹後傾における筋活動~
「足関節中心」と「足関節より上部の重心(ほぼ身体重心と同じ)を結ぶ線が後方に傾いている。
すなわち、重心が後方に移動している。
それを制御するために前脛骨筋の活動が高まる
「股関節中心」と「股関節より上部の体重心」を結ぶ線がほとんど傾いていない。
なので股関節周囲筋に大きな筋活動は起きない。
股関節戦略における筋活動
股関節戦略における、足関節・股関節周囲の筋活動の例は以下になる。
~股関節戦略①:体幹前屈における筋活動~
「足関節中心」と「足関節より上部の重心(ほぼ身体重心と同じ)を結ぶ線がほとんど傾いていない。
なので足関節周囲筋に大きな筋活動は起きない。
「股関節中心」と「股関節より上部の体重心」を結ぶ線が前方に傾いている。
すなわち、重力が股関節を屈曲する方向に働いている。
なので、姿勢を保持するために股関節伸展筋(ハムストリングスも含む)の活動が高まる。
~股関節戦略②:体幹伸展における筋活動~
「足関節中心」と「足関節より上部の重心(ほぼ身体重心と同じ)を結ぶ線がほとんど傾いていない。
なので足関節周囲筋に大きな筋活動は起きない。
「股関節中心」と「股関節より上部の体重心」を結ぶ線が後方に傾いている。
すなわち、重力が股関節を伸展する方向に働いている。
なので、姿勢を保持するために股関節屈筋群筋(体幹屈筋群も含む)の活動が高まる。
急激な外乱が加わった際の反応
ちなみに、急激な外乱が加わった際の反応もイラストで紹介しておく。
①②も足関節戦略として扱われる。
③は足関節戦略では不十分(バランスを崩しそう)な場合に、(足関節戦略のみならず)股関節戦略も活用しているイラストとなる。
足関節戦略をバランス練習にも活用しよう
バランス能力の改善を考えた場合、ここで記載したような足股関節戦略の観点から運動を組み立ててみことも重要となる。
例えば足関節戦略を強化するためには、以下のアイデアがある。
- 立位での股関節屈伸運動を伴わない前後への重心移動
- タンデム肢位の保持
- 片脚立位保持(足関節の内返し・外返しで足圧中心を調節する)
- 爪先立ちの反復
足関節戦略は太極拳で理解しやすい
ここまで足関節戦略と股関節戦略の違いについて何となく理解してもらえたと思う。
でもって、足関節戦略を用いた運動としては、太極拳が理解しやすいのではと思う。
※股関節戦略による「身体の重みで釣り合いをとるという戦略」よりも、足関節戦略による「足関節周りの筋力を発揮させて足部を固定することが必要で、運動制御に強い筋力を必要とする高度で複雑な戦略」を多く使っている。
そんな太極拳の動画が以下になるので観覧してみてほしい。
ちなみに、太極拳は(クイックトレーニングの対比としての用語である)スロートレーニングに該当する。
そして、OKCのスロートレーニングは高齢者にも使用しやすいと言われているが、太極拳のようなCKCトレーニングは高齢者(特に、健康ではなく、何らかの運動障害を有する高齢者)には不向きであると言われている。
関連記事⇒『CKCとOKC(+違い)』
太極拳は転倒予防に高い効果を発揮することが明らかにされており、高齢者の転倒予防の運動介入として多く用いられている。
ただし、課題の難易度が高いため運動障害を有する高齢者には適応となり難い。
~高齢者の機能障害に対する運動療法より~
関連記事
足関節戦略を理解する上では『足圧中心』について理解を深めておいた方がイメージしやすい。
そんな『足圧中心』にもフォーカス当てた記事が以下になるので、是非一度観覧してみてほしい。
安定性限界・足圧中心(COP)とは何だ?
その他で、併せて読めば理解が深まるおススメ記事は以下となる。
永久保存版!バランス運動(トレーニング)の総まとめ