この記事では、静的バランスと動的バランスに関して違いも含めて記載していく。

 

目次

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静的バランス能力とは

 

静的バランス能力とは、『身体重心(を床に投影した点)を支持基底面内の中央に近い場所に位置し続けることが出来る能力』を指す。

 

※以降の記事は「身体重心を床に投影した点」を「身体重心」と略して記載

 

※以降の記事は「支持基底面」を「BOS(bace of support)」と略して記載

⇒BOSについては『支持基底面と重心+α』も参照

 

 

静的バランスの例

 

例えば、静的バランスの例としては以下が挙げられる。

 

  • 座位姿勢を保つ
  • 立位姿勢を保つ
  • 座位姿勢や立位姿勢で外乱が加わってもバランスが保てる

    (例えば他者に押されても姿勢を保ち続けられる)

 

※要は、じっと同一姿勢を保持し続けるこということ。

 

 

静的バランスの評価法

 

静的バランスを評価する方法としては以下が挙げられる。

 

 

 

静的バランスのトレーニング

 

静的バランストレーニングとしては、前述した『静的バランスの評価法』がそのまま活用できる。

つまりは、以下となる。

 

  • 立位姿勢を閉眼で保持(ロンベルグテストと同様)
  • タンデム肢位を保持(必要に応じて閉眼)
  • あるいは、上記姿勢に対して療法士が外乱を加えて、それに抗してもらうのも良い。

    外乱の加え方に規定はないが、意図つの例として「フックライング」も参考にしてみてほしい。

    ⇒『フックライングでコアトレーニング

    ⇒『リズミックスタビライゼーションとスタビライジングリバーサル

  • 片脚立位姿勢を保持(必要に応じて閉眼)
  • バランスディスクなどで不安定な状態を作り出し、ここに記載した上記トレーニングを実施する。
  • バランスボールトレーニングで様々な姿位を静的に保持する。

 

 

動的バランス能力とは

 

動的バランス能力とは、以下の2つを指す。

 

  • BOS内での重心移動:

    BOS内の中心からできるだけ遠くに身体重心を移動出来る能力(例えば、手を遠くへ伸ばす)

  • 新しい支持面への重心移動:

    BOSの外へ身体重心を移動しても転倒せずにバラスを保てる能力(例えば歩行)

 

間違われやすいのは、ファンクショナルリーチのような「手を遠くへ伸ばす行為」などは「BOS内に身体重心を留めたままでの動作」であることから、(BOSから身体重心が外れていないという意味で)『静的バランス』と間違われやすい。

 

しかし、(ファンクショナルリーチテストを含めた)「安定性限界ギリギリまで動くような行為」は動的バランスを示している(この解説に違和感を感じた人は、記事の最後に記載した「補足説明」も観覧してみてほしい)。

関連記事⇒『安定性限界・足圧中心って何だ?

 

 

動的バランスの例

 

例えば、動的バランスの例としては以下が挙げられる。

 

 

 

動的バランスの評価方法

 

動的バランスの評価としては、前述した『動的バランスの例』がそのまま活用できる。

 

 

 

動的バランスのトレーニング

 

動的バランスのトレーニングは無限に存在し、それこそ難易度を挙げようと思えばアスリートの適用レベルのものまで存在するが、前述したような簡単なトレーニングであれば『動的バランスの評価』が参考になる。

 

 

あるいは、不整地などの屋外を歩行したり、障害物を跨いだり、二重課題(dual task)を与えながらの歩行も、動的バランストレーニングに含まれる。

 

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静的バランス・動的バランスが低下した状態って?

 

静的バランスが低下した状態とは、姿勢が良いか悪いかに関係なく「支持基底面の中央に位置すべき身体重心が、前後左右に偏位した状態を指す。

 

あるいは、動揺が大きかったり、支持基底底面を広くとることが出来ないなども「静的バランスが低下した状態」に該当する。

 

※したがって、静的バランスが低下した人に対しては、(前述したトレーニングを実施する方法もあるが)杖や歩行器を使用することで支持基底面を広げることも一つの戦略となる。

 

一方で、動的バランスが低下した状態とは以下を指す。

 

  • 身体重心を支持基底面から動かせない、動かせても支持基底面内の狭い範囲に限定される
  • 重心が新しい支持基底面とは離れた方向に動く

 

これらも支持物の把持によって支持基底面を広げることで、前者であれば重心移動の範囲が広がり、後者は新しい支持基底面の中に重心を入れやすくなる。

 

 

ここまでの解説に違和感を感じた人たちへの補足

 

ここまで、静的バランスと動的バランス(の一部)を記載してきたが、ここまでの解説で違和感を覚えた人もいるのではないだろうか?

 

もし違和感を覚えた人がいるとすれば、それは以下だと想像する。

 

「支持基底面の内から出来るだけ遠くに重心を移動できる能力(例えば立位で手を遠くへリーチする)」は動的バランスではなく、静的バランス能力に該当するのでは?

 

実は、動的バランス・静的バランスには2種類の考え方が存在するらしい。

 

静的バランス(static balance)は身体位置の移動を伴わない運動での姿勢保持、動的バランス(dynamic balance)は位置移動を伴う運動での姿勢保持を言う。

 

平均台上に立ってバランスをとる時は前者、平均台上を歩くときは後者である。

身体動揺から見ると、両者間には相関が無い。

 

静的バランス能力と動的バランス能力とは別物である。

 

静止姿勢を保って重心動揺のない場合を静的バランス、身体の一部が動いて重心動揺がある場合を動的バランスと呼ぶこともある。

 

ただし、この分類はあまり使用されない。

基礎運動学第5版より~

 

つまり「立位で手を遠くへリーチする行為」に関しては、静的バランス(static balance)を「身体位置の移動を伴わない運動での姿勢保持」という解釈に沿って考えた場合は、静的バランスに該当するという事になる。

 

そして、この記事では上記の文献でいう所の「あまり使用されていない分類」、つまりは「静止姿勢を保って重心動揺のない場合を静的バランス、身体の一部が動いて重心動揺がある場合を動的バランスと呼ぶ」という解釈に沿って記載しているということになる。

 

一方で、例えば「立位で手を遠くへリーチする行為」のテストであるである『ファンクショナルリーチテスト』は、静的バランスではなく動的バランスの評価として扱われている。

 

例えば、ネット上にあった文献としては以下がある。(これ以外にも、ファンクショナルリーチテストの文献は動的バランスの評価とされているため、他もネット上で検索してみてほしい)。

 

関連記事(外部リンク)⇒『ファンクショナルリーチテイストは、動的バランスのテスト?(1)

 

ファンクショナルリーチテストが動的バランスか・静的バランスか混乱している人は多いようで、ヤフー知恵袋にも以下の様な投稿がなされている。

 

ファンクショナルリーチテストは、動的バランスですか?静的バランスですか?

PT目指して勉強中の学生です。

 

インターネットで調べたところ、動的・静的両方の意見があったので、どちらが正しいのかわかりません。

 

自分なりに調べてみた結果、動的バランスが正しいと考えましたが、皆さんの意見はどうでしょうか??

~ヤフー知恵袋より~

 

※そもそも「ファンクショナルリーチテスト」とは何か知らない人は、以下に詳しく解説しているので観覧してみてほしい。

 

ファンクショナルリーチテストを動画で理解!

 

 

静的バランス・動的バランスの違い:まとめ

 

静的バランス・動的バランスに関して、まとめを記載して終わりにする。

 

静的バランス・動的バランスの違いを考えるにあたっては、以下の2つがポイントとなる。

 

①「ファンクショナルリーチ=動的バランスの評価」という解釈の下で、(重心が支持基底面内に入った状態における)安定性限界ギリギリまで動くような行為を、この記事では動的バランスと解釈して記載している。

 

②ただし、上記はあくまで一つの解釈であり、静的バランス・動的バランスのどちらに解釈される事もある(なので、どちらが正しくて、どちらが間違っているという事は無い)

 

静的バランスと動的バランスの定義は、研究者によって見解が異なる。

 

Woollacottらは「静的バランスは支持基底面が維持され質量中心のみが動いてくる場合であり、この際バランス課題は安定性限界もしくは支持基底面内に重心を維持することである。

また、動的バランスは支持基底面および質量中心ともに移動・変化するもので質量中心が支持基底面に必ずしも保持されない」としている。

運動療法学より~

 

ちなみに、ファンクショナルリーチの様な「立位を保持した状態でのリーチング」を『動的立位バランス』と表現する人もおり、この表現だと「立位下での動的なバランス練習」として誰もが理解しやすいのではと感じる。

 

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動的バランス・静的バランスの違いを補足

 

以下のイラストのレベルⅡは「静的バランス」と「動的バランス」が重複している点(つまり、両方の解釈があることを意味している点)を分かりやすく示していると感じる。

動的バランス 静的バランス
“臨床思考”が身につく 運動療法Q&A

 

そして、静的バランス・動的バランスという表現をわざわざ厳密に規定せずとも、臨床では「何となくのフィーリング」で皆活用している。

 

例えば、COG(身体重心)とCOP(圧中心)の関係でいうならば、それら位置関係の差の大小はあっても静的バランスと動的バランスに力学的な違いはない。

 

運動では積極的にCOGとCOPの差(モーメントアーム)を生み出し、重力のモーメントによる回転を有効利用する。

 

従って、「静的バランス」と「動的バランス」の違いを規定するのは「静止したいのか、それとも動きたいのかという本人の意図だけ」ということになる。

 

静止しようとしても止められない、または運動に対して適切な姿勢を保持できないことが問題となる。

 

 

関連記事

 

以下記事は高齢者の転倒予防・バランストレーニングのまとめ記事になる。

 

併せて読むと理解が深まると思うので、是非観覧してみてほしい。

 

永久保存版!バランス運動(トレーニング)の総まとめ

 

また、ここで記載てきたファンクショナルリーチテスト以外の『バランステスト』は以下でもたくさん紹介しているので、こちらも参考にしてみてほしい。

 

 

知らなきゃ損!バランス評価テストのカットオフ値まとめ