リハビリ従事者(理学療法士・作業療法士)であれば、不良姿勢が原因で痛みを訴えているクライアントに対して姿勢指導をしても、実際には実践してもらえないといったケースは多いのではないだろうか?
そんな際に、オススメできる「指反らしテスト」を紹介してみる。
また、簡単に出来る姿勢矯正法(ハンズオフな方法)としてスラウチオーバーコレクトも紹介してみる。
「指反らしテスト」ってどうやるの?
指反らしてストというのは簡単で、以下のイラストの様に示指(別に他の指でも良いが)のMP関節を最大伸展させた状態で、ハッキリした痛みが出現するまで保持してもらう方法を指す。
これは、セラピストが過伸展位で保持するのではなく、クライアント自身に保持してもらう点は注意してほしい。
クライアント自身に保持してもらう理由は、「痛みを感じない(あるいはホンノリト感じる)ギリギリの可動域に保持しておらうこと」ができるから。
ぜひ、自身でもこの状態で保持してみてほしい。
すると、MP関節を過伸展することによって伸張された軟部組織に以下の様な反応が起こってくる。
①痛みは感じない(あるいは、ほんのり伸張痛を感じる)
↓
②徐々に痛みが出現し、増悪する
↓
③痛いので、MP関節の過伸展を解除したくなる
※③を体感できた時点で指反らしてスト終了。
で、結局「指反らしテスト」って何なの?
上記の「指反らしてスト」は以下を体感してもらうことが目的となる。
前述した「痛いので、MP関節の過伸展を解除したくなる」まで体感したら、それを我慢すると指を痛めてしまうことも容易に想像してもらえるはずである。
でもって、次に「指反らしてストで自身が感じたこと」を姿勢に置き換えて考えてもらう。
不良姿勢を続けることで、疼痛が誘発されるのは当然
不良姿勢によって疼痛が誘発されている人の痛みを、「指反らしてストで体感した痛み」に置き換えてもらう。
でもって、「指反らしてストで体感した痛みを取り除く方法」を考えてもらう。
答えは以下の様にシンプルである。
不良姿勢も同様で、同じ姿勢を続けることで、徐々に特定の組織に負荷がかかり、更に同一姿勢を続けることで悪化していく。
そして、最終的には組織損傷とまではいかなくとも、疼痛閾値はかなり低下してしまい、ちょっと不良姿勢を取るだけでも疼痛が誘発されれしまう体に変化してしまう。
なので、まずは指反らしてストなどを活用し、正しい姿勢を理解してもらうことで、普段メカニカルストレスにさらされ続けいている軟部組織をストレスから解放し、微細損傷の修復や疼痛閾値の向上を図ることも重要となる。
※ある程度、姿勢に留意して過ごすと、稀に不良姿勢を取っても以前の様に「すぐ疼痛が誘発される」という事はなくなる(だからといって、不良姿勢は極力控えるに越したことは無いのだが)。
同一姿勢を保持し続けることで、疼痛が誘発されるのも当然
良い姿勢というのは、インナーマッスルが賦活されやすく、脊柱の生理的彎曲(頸椎・胸椎・腰椎の彎曲)も形成されており、(慣れてくれば)ストレスを感じにくい姿勢と言える。
また、長時間にわたって良い姿勢を保ち辛い人(例えば事務職、車の運転など)は、ランバーサポートを用いるなどすれば、楽に良姿勢を保持することも出来る。
例えばアマゾンでは、以下などが高評価を得ている。
~画像引用『PDF:腰痛がなかなか良くならない場合の体操メニュー』より~
ただし、どんな姿勢であろうとも「長時間同一姿勢を保持する」というのは疼痛誘発や、最終的には組織損傷を招いてしまう。
つまり、定期的に姿勢を敢えて崩したりと様々なポジショニングをとることが大切なのだが、この点の解説にも「指反らしてスト」は使えると思う。
マッケンジー法:ポスチャルシンドローム
例えば、あなたがコンビニで立ち読みをしているとする。
でもって、立ちっぱなしであったとしても、どちらか一側下肢に優位な荷重を試みたり、軽く膝を屈伸するだけで膝組織へ加わるストレスが移動できるため、膝関節の一部に過度なメカニカルストレスが集中することは無い。
一方で、仕事がら座りっぱなしであったり、痛みを忘れるほど集中して作業に取り組んでしまう人は、知らず知らずに組織が痛み、痛み閾値が低下してといった悪循環をたどってしまうことになる。
また、組織のストレス耐性は遺伝的な個人差があったり、生後の生活習慣などでも変化しているので、他人のストレス耐性と比べる(あの人は2時間座りっぱなしでも痛くないのに、私は20分で痛くなる。私も2時間座りっぱなしでも痛くないように治療してもらいたい」という考えではなく、この点を意識して自身にあった戦略で痛みのない生活を送るべきである。
※そうすると、その副次的作用として疼痛閾値が高まり、もっと長時間の座位姿勢をほじしておくことも可能となるかもしれない。
ポスチャルシンドロームについて
ポスチャルシンドロームとは以下を指す。
つまり、疼痛が誘発されたとしても、「指反らしてストで反らしていた指を解除する」であったり、「立ち読み時に加えている下肢荷重をずらすこと」で持続的なストレスを回避、あるいは除去していあげることで疼痛が消失する症候群を指す。
ポスチャルシンドロームののクライアントを評価すると、関節可動域は正常かつ無痛であることが明らかになる。
なのでメカニカルな負荷を用いた評価は意味をなさず、問診によってのみ本人の悩んでいる症状が確認できるのみとなる(あるいはリハビリ中に持続的なストレスが加わり続けていれば痛みの再現を確認できるかもしれないが)。
症状は間欠的であり、。
ポスチャルシンドロームを示唆する情報(主観・客観的情報)としては以下などが挙げられる。
- 症状は間欠的
- 疼痛が誘発される負荷は持続的で、尚且つ静的なことが多い
- 反応は疼痛が誘発される負荷が加わった時にだけ起こる
- 治癒的負荷方向(DP)は存在しない
- 治療法は、刺激を受けやすい、機械的妨げのない可動域端への負荷を避けることであり、それがやがて姿勢性疼痛からの解放をもたらす。
姿勢症候群パターンは、正常関節を制御するあるいは抑止する要素に対する可動域端での負荷の過剰な量あるいは持続の結果である。
その解決法は過剰な可動域端負荷を避けること、つまり制御あるいは抑止要素に挑戦しない新たな姿勢習慣を身につけることである。
正常組織は、組織には何も悪いところがなくても、異常な力への反応として症候性となりうる。組織が正常でも負荷が「悪い」(つまり災常である)と、結果的に症状が起こることがある。
McKenzie法では、姿勢症候群について教えるための道具として「屈曲指」を用いる。
もし健康な指が十分に過伸展させられると、異常な量の力が正常な櫛造にのしかかり、不快感を引き起こす。もし指が痛みを感じる点まで過伸展させられ、その後、痛みのない最初の点まで戻されるとすると、その位置を長1時間維持することは、正常な構造にのしかかる力の異常な持続によって引き起こされる不快感をもたらす。
~『脊椎のリハビリテーション [上]」』より引用~
※姿勢症候群⇒ポスチャルシンドローム
※可動域端⇒エンドレンジ(っというか組織が持続的伸張に晒され続ける関節角度)
姿勢矯正の一例:スラウチオーバーコレクト(Slouch over correct)
簡単な姿勢矯正の一例としてスラウチオーバーコレクト(Slouch over correct)を記載する。
- 位置背もたれのない椅子に腰を丸めた状態でリラックスして座る(不良姿勢をとってもらう)。この時、頭や顎が前に突き出ている。
- この姿勢から腰椎前彎が最大になるよう顎を引いた状態の背筋を伸ばした座位姿勢へスムーズに動く(顎は引けた状態とする)。
※ちなみに、これは「過矯正な状態」であり、この状態を持続していれば痛みが生じる。
- 次に、①と②の動作を何回か繰り返す。これは腰椎が最大屈曲の状態から最大伸展の状態へ動かす事になる。
③患者が上記の動作を通じて良い座位姿勢(っというか過矯正な姿勢)と悪い座位姿勢を理解したならば、正しい座位姿勢を指導する。具体的な「正しい座位姿勢」とは大まかに表現すると以下になる。
ここから、自身に負担がかかりすぎない範囲での正しい姿勢を見つけていく。
上記は、セラピストの徒手的介入を用いない方法(ハンズオフな方法)となる。
重複するが、ポスチャルシンドロームは過剰な可動域端負荷を避け、安全な中立域にとどまることが重要となる。
また、この姿勢を楽に保持するためには、体幹インナーマッスルの強化や、前述したランバロールの使用などの工夫も重要となる。
※高齢者ですでに腰椎の前彎曲が消失している場合や、腰椎の過前彎が腰痛の原因だと示唆される場合(例えば前方ディレンジメント)にはこの方法では適切に作用しない(全ての腰痛に用いる方法ではないという事)。
オススメ書籍:自分で治せる腰痛改善マニュアル
マッケンジー法における「不良姿勢を矯正しただけで疼痛が即自的に消失する(あるいは大幅に改善される)ものを『ポスチャルシンドローム』と表現する。
でもって、姿勢矯正によって即自的に疼痛を除去が可能であると同時に、姿勢の重要性を説明し、更に指反らしてストを体験してもらうと痛みをセルフコントロールし易くなる。
最後に、オススメ書籍でありアマゾンでも高評価レビューを獲得している『自分で治せる! 腰痛改善マニュアル』からの一文を引用して終わりにする。
関節周囲の靭帯や軟部組織が引き伸ばされると痛みが引き起こされます。
この様な痛みを「力学的原因による痛み」といい、脊椎にかぎらず体中のどの関節においても起こります。
力学的原因による痛みがいかにたやすく起こるかを理解するために、簡単な実験をしてみましょう。
片方の手の人差し指をしっかりと伸ばされることを感じるまで、もう片方の手を使って反らせ、しばらくそのままにしていると、はじめは軽い不快感だけですが、時間が経つにつれて痛みに変わってきます。場合によっては痛みを感じるまでに一時間ほどかかることもあります。
もう一度、こんどは指を伸ばされていることを感じるところを通り越して痛みをかじるところまで強く反らせます。これは伸ばしすぎの状態(オーバーストレッチ)で、そのまま指を反らせ続けると、指の組織が損傷してしまうという警告として痛みが出ていいます。
警告に従ってオーバーストレッチするのをやめれば、すぐに痛みは止まり、組織も損傷せずにすみます。痛みに注意していれば、一時の力学的負荷によって組織が損傷することはありません。
逆に痛みの警告を無視して、指をオーバーストレッチしたままでいると、関節のまわりの靭帯や軟部組織は傷んでしまいます。
一旦損傷するとオーバーストレッチを止めても痛みは治まりません。伸ばしたままの状態より痛みは和らぎますが、元の状態に戻しても痛みは残ったままです。再び指を反らす方向へ動かせば痛みは強くなり、組織がある程度修復するまで痛みは治まりません。
組織は数日で修復しますが、毎日指を反らし続けていれば、修復にもっと長い日数がかかるでしょう。