この記事では、マッケンジー法の専門用語である『トラフィックライトガイド』について解説していく。
トラフィックライトガイドとは
トラフィックライトガイド(Traific light guide)とは以下を指す。
運動器における機能障害を考える場合、メカニカルな負荷を加えることによって様々な反応が返ってくる。
例えば以下など。
・疼痛の増悪や、関節可動域の減少
・疼痛の改善や、関節可動域の増大
でもって前者が起こる負荷は、身体にとってよろしくない刺激な可能性がある。
一方で後者が起こる負荷は、身体にとって良い刺激な可能性が高い。
ただし、メカニカルな負荷の良し悪しは、必ずしも上記なように単純ではない。
例えば「痛みが増悪した場合」においても、痛みは必ずしも悪ではなく、実は良い反応に繋がる前兆な場合もあったりする。
でもって、「身体にとって良い痛み」な一例としては以下の記事を作成しているので、上記に「??」だった人は是非とも合わせて観覧してみてほしい。
⇒『痛みには、誘発させても構わない種類もあるって知ってた?』
あるいは痛みの増減ではなく、「痛みの分布(痛みが脊柱へ収束するのか、それとも遠位に拡がってしまうのか)」といった着眼点で刺激の良し悪しを決めることもある。
この点に関しては以下の記事を参照してみてほしい。
⇒『脊柱原性の疼痛に必須な知識!CentralizationとPeripheralization』
重複するが、トラフィックライトガイドとは「メカニカルな負荷を加えた際に起きる反応によって、その負荷の適否を判断するガイドライン」であり、前述した負荷を継続すべきか、辞めるべきか(あるいは良し悪しが不明瞭な場合は負荷をさらに強めて検証すべきか)などを決定するための必要なガイドラインとなる。
トラフィックライトガイドを深堀り解説
ここまでの解説だけでは、トラフィックガイドがどんなものかピンとこないと思うので、もう少し深堀解説していく。
トラフィックライトガイドは信号機の色(青・赤・黄色)で判断
「メカニカルな負荷を加えた際に起きる反応によって、その負荷の適否を判断するガイドライン」などと言われると難しく感じるかもしれないが、そんなに難しくない。
トラフィックライトガイドは、負荷を加えた際に得られた際の反応を「青」「赤」「黄」と信号機の色で解釈し、その解釈に応じて対応(負荷を継続するか、やめるかなど)を決定する。
※便宜上、信号機に例えてはいるが、理解できるなら別に例えなくとも良い(ただ、この記事では信号機の色に例えて解説していく)。
具体的な色が示す意味は以下の通り。
青色信号:
- 負荷を加えた結果、痛みの程度が軽減したり、Centralizationが起きたり、可動性や活動性が改善が得られる負荷。
- 青色な負荷は、その負荷が「適切な負荷であること」を意味し、そのまま継続すべき負荷と言える。
赤色信号:
- 負荷を加えた結果痛みの程度が増強したり、Peripheralisztionが起きたり、可動性や活動性が悪化する負荷。
- 赤信号な負荷は、その負荷が「不適切な負荷」であることを意味し、その負荷の使用は中断しなければならない。
黄色信号:
- 黄色信号は、負荷を加える前と後とで痛みの程度、分布、可動性や活動性も変わっていない(負荷をかけている最中は一過性に変わったとしても)場合である。
- この場合は、状態が改善も悪化もしていないと解釈する。
- 「検査中は疼痛低下」「検査中は疼痛悪化」「検査中も疼痛変化なし」のいずれにおいても、検査後に(検査前と比べて)疼痛程度が同じであれば黄色信号と判断。
以下は、トラフィックライトガイドを分かり易く示してくれている。
~画像引用『ケースで学ぶ徒手理学療法クリニカルリーズニング』~
トラフィックライトガイドに関して、書籍『この動きを習慣にすれば腰痛は自分で治せる』では、柔らかい表現で「腰痛に対するトラフィックライトガイド」の解説がなされているので引用しておく。
「よい反応」「悪い反応」を判断するポイントは次の三つです。
①痛みの広がりや分布 ②痛みの強さ ③腰部の可動性
この①〜③の状態を、信号機の「青」「赤」「黄」信号のように判別していきます。
その際の基準が、
青信号
・痛みの中央化
・痛みの強さが軽減、消失
・腰の可動性が改善
赤信号
・痛みの末梢化
・痛みの強度が増悪
・腰部の可動性が低下
黄信号
・痛みの広がり、分布変わらず
・痛みの強度変わらず
・腰部の可動性変わらず
そして、それぞれの信号が指示する内容は、
青信号:今行っているのは適切であり、そのまま続けましょう
赤信号:今行っていることは不適切であり、止めましょう
黄信号:今行っていることは、害にはなっていない。続けても構わないが慎重に続けても構わないが慎重に続けましょう
黄色信号に関する補足
黄色信号は、「良い負荷、悪い負荷、どちらとも言えない」という解釈である。
でもって、黄色信号な場合は以下のいずれかのアクションを起こすこがある。
- 負荷を強める(フォースプログレッション)
- 負荷を加える肢位を変更する(フォースオルタナティブ)
関連記事⇒『フォースプログレッション・フォースオルタナティブとは』
これによって、黄色信号が青信号か赤信号に変化する場合がある(要は白黒はっきりさせることが出来るということ)。
ちなみに「本来なら青信号な運動方向にもかかわらず黄色信号になってしまっているケース」として「負荷を加える際、エンドレンジまで可動させていない」という場合がある。
この点に関しては、先ほどのリンク先「痛みには、誘発させても構わない種類もあるって知ってた?」を観覧してもらえば意図が分かってもらえると思うが、例えば腰をかがめて草むしりをして腰痛を起こった際に、単に(屈曲位から)体を起こす(伸展する)だけでは腰痛に変化は起こらないかもしれない。そこからさらに、(エンドレンジまで)「腰を反らす」ことで始めて良い刺激が腰へ入力され、反らした腰を戻した際に腰痛が緩和している(青信号)と判断できる。
「青信号・赤信号・黄色信号に分けるのがトラフィックライトガイド」と一言で表現してしまうだけなら簡単そうなのだが、実際にトラフィックライトガイドを活用しようと思った場合は、一定の技術・知識・臨床推論能力が必要となる。
一方で、患者さんに自主トレーニングを指導する際は、このトラフィックライトガイドはリスク管理として分かり易い。
つまり、前述したような特徴を伝えた上で「(痛み・可動域・痛み分布の変化が)青信号なら継続してほしいのだが、万が一赤信号になるようであれば、その自主トレは辞めて下さい」などと指導しておくとリスク管理になるという事。
※わざわざ信号機の色で説明しなくとも、もっと分かりやすい説明で構わない。
もちろん、自主トレーニングの場面だけでなく、様々な日常生活場面でもトラフィックライトガイドは活用できる。
例えば、家事をしていて赤信号が起こるものは(ペリフェラライゼーションを含む)は実施しない(あるいは工夫して赤信号とならないようにするなど)。
ちなみに話は脱線するが、朝は椎間板に水分が多く含まれた状態なため、前屈を伴うような家事(草むしり、前屈位での掃除機かけなど)は控えたほうが良いとのエビデンスがある。
関連記事⇒『椎間板ヘルニア予防に、朝の前屈姿勢は控えたほうが良いよ』
トラフィックライトガイドに関する誤解
ここまでで(リハビリに活用できるかどうかは別にして)何となくトラフィックライトガイドについて理解してもらえたと思う。
でもって最後に、トラフィックライトガイドで誤解しやすいと思われる点として以下に言及して終わりにする。
- メカニカルな負荷を加えている際の反応で、良し悪しを判断するのではない。
- ベースライン(患者の訴えている症状が起こる肢位・動作)以外の肢位や動作で反応の良し悪しを判断するのではない。
メカニカルな負荷を加えている際中の反応で、良し悪しを判断するのではない:
例えば頸部から上腕に分布している疼痛が、頸部へのメカニカルな負荷(持続的負荷あるいは反復的負荷)を加えている最中に頚部へ収束したとする。しかし、この反応をもって青信号の負荷と判断するのではなく、「その負荷を解除した状態」で判断する。負荷を解除すると、頸部へ収束していた痛み分布が元に戻ってしまっていたら(青信号ではなく)黄色信号と判断する(ただし、限りなく青に近い黄色信号といったところだろうか)。
ベースライン(患者が訴えている症状が起こる肢位・動作)以外で反応の良し悪しを判断するわけではない:
例えば患者の訴えが「立ち上がる際の膝関節痛」であったとする。でもって背臥位での膝屈伸運動を評価しても疼痛が誘発されたとして、その「背臥位での症状」がメカニカルな負荷を加えることで消失したとする。しかし、この反応を持って青信号の負荷と判断するのではなく、「患者の訴えである、立ち上がり時の膝痛」に変化がおここったかで判断する。
割と分かり易い例を提示できたと思うのだが、何となくルールを理解してもらえただろうか?。