この記事では、様々な腰痛体操のうち、「マッケンジー体操(McKenzi exercise)」を記載していく。
※頸部・四肢にも対するマッケンジー体操も存在するが、腰部のマッケンジー体操が認知度が高い。
※この記事でも、腰痛体操として「腰部のマッケンジー体操」について記載していく。
マッケンジー体操(McKenzi exercise)とは
マッケンジー体操とは、「腰部に対して屈曲・伸展刺激を加えるシンプルな体操」を指すようである。
ただし、「腰椎への伸展刺激を用いた体操」としてマッケンジー体操が紹介されている場合もあれば「屈曲・伸展刺激を用いた体操」として紹介されている場合もある。
※マッケンジー体操ではなく「マッケンジー法(マッケンジーメソッド)」では側屈や回旋も含めた腰部への刺激を、評価に基づいて選択していく。
いずれにしてもマッケンジー体操は、「マッケンジー法の評価」はすっ飛ばしたうえで解説されていることがほとんどなため、マッケンジー法とは分けて考えたほうが良いのかもしれない。
※っというか、そもそも『マッケンジー体操』なる表現は、マッケンジー法を良く分かっていない人達に浸透している印象を受ける。
マッケンジー体操のポイント
マッケンジー体操のポイントは、以下になる。
・腰部における反復刺激
・腰部における持続的刺激
※屈曲・伸展・側屈・回旋いずれの刺激を用いる場合であっても、反復・持続的刺激の2パターンが存在する。
また、いずれの刺激も筋力トレーニングの要素は一切なく、椎間板・靭帯・関節包・筋筋膜への機械的刺激によって起こる「機械的作用」と「神経生理学的作用」を狙って実施される。
※腰痛に対する筋トレを否定しているわけではなく、マッケンジー体操に、筋トレの要素は一切入っていないと言っているだけ。
したがって、例えば背臥位で腰部を屈曲する際は、両膝を手で抱えるようにして「可能な限り腰部に筋収縮が起きないようリラックスさせながら」反復あるいは持続的な刺激を腰部に入力していく。
あるいは腹臥位で腰部を伸展する際は、「上肢の力を使用して可能な限り腰部~殿部に筋収縮が起きないようリラックスさせながらの」反復あるいは持続的な刺激を腰部に入力していく。
※少しでも背筋に収縮が起こっている(リラックスできていない)のであれば、マッケンジー体操は失敗する可能性がある。
最終伸展位で、「呼気で息をゆっくり吐きながら更に腰部のリラックスを心がけること」で伸展方向へのオーバープレッシャーにつながる。
ちなみに、伸展エクササイズをした後は、「可能な限り腰椎の前彎をキープしながら、腹腔内圧が加わらないような工夫しながら」立ち上がってもらうと、エクササイズの効果が持続しやすい。
一方で、エクササイズを実施した後の立ち上がり時に屈曲刺激が加わってしまうと、伸展エクササイズの効果が無効化される場合がある。
マッケンジー体操の方法
ここからは、屈曲・伸展刺激を用いたマッケンジー体操について簡単に解説していく。
屈曲刺激を用いたマッケンジー体操の例
屈曲刺激を用いる場合、背臥位であったり、端坐位によって腰部を丸めるような刺激を加えていくといったアイデアがある(どんな方法でも屈曲刺激が加わればOK)。
以下は屈曲刺激を用いたマッケンジー体操の一例
※画像引用:これだけは知っておきたい腰痛の病態とその理学療法アプローチ
Aの方法(背臥位での屈曲刺激を用いる方法)はウィリアムズの腰痛体操の一つに似ている。
この方法で、仙骨の下に丸めたタオルや枕をはせることで、下部腰椎に加わる屈曲刺激を強めることができる(オーバープレッシャー)。
(効果がありそうであれば)その状態でリラックスしつつ1分間程度保持してみてもOK(腰部への持続刺激)
伸展刺激を用いたマッケンジー体操の例
伸展刺激を用いる場合、腹臥位であったり、立位にて腰部を反らすような刺激を加えていくといったアイデアがある(どんな方法でも伸展刺激が加わればOK)。
以下は伸展刺激を用いたマッケンジー体操の一例。
画像引用:これだけは知っておきたい腰痛の病態とその理学療法アプローチ
左が反復刺激、右が持続刺激となる。
※右上の『腹臥位における持続的刺激』も立派な持続的刺激となる。
屈曲・伸展いずれの場合も、(リスク管理を十分にしつつ)エンドレンジまでしっかりと可動させるというのが成功の秘訣となる。
※運動方向が正しくても、この点が不十分では効果が生まれないことも多い。
※一方で、その人にとって運動方向が正しくない場合は(エンドレンジ云々につい関係なく)悪化してしまう可能性もあるので注意する。
マッケンジー体操のエビデンス
マッケンジー体操のエビデンスは存在しないので、その代わりにマッケンジー法(マッケンジー法の治療体系に基づいた、評価に基づく治療法)に関するエビデンスを記載しておく。
以下は理学療法診療ガイドラインより引用。
マッケンジー療法は,1 週間以内の急性腰痛に対しては,教育,安静,アイスパック,マッサージなどの治療に比べ疼痛や機能障害の改善に有効である。
また,急性,慢性,再発性の腰痛に対するマッケンジー療法は,教育指導のみを行った場合と比べ6 か月後に疼痛と機能障害の有意な改善を示し,1 年後も機能障害の有意な改善を示す。
一方で,発症から12 週後の腰痛では,マッケンジー療法よりも活動性を維持するように指導する方が機能障害を有意に改善する。
また,亜急性から慢性の腰痛に対するマッケンジー療法は,筋力トレーニングや徒手療法と比べ疼痛や機能障害の改善効果に差はなく,その効果について明確なエビデンスは得られていない
マッケンジー体操に関しては、評価をすっ飛ばすため、『当たるも八卦、当たらぬも八卦』といったところだろうか。
そして、「当たった人(良くなった人)」はマッケンジー体操を推奨する反面、「当たらなかった人(良くならなかった人)」はマッケンジー体操を否定する。
さらには、(良くならなかっただけならまだしも)悪化した人などは強烈に否定すると思われる。
※マッケンジー体操で用いる刺激の中には、無難な体操よりも刺激が強いものも存在するため、評価をすっ飛ばしたりリスク管理が不十分だと悪化する人も当然出てくる。
マッケンジー体操の禁忌
(ここまで記載した内容と重複する点もあるが)マッケンジー体操の禁忌について、屈曲刺激・伸展刺激に分けて記載していく。
腰部への屈曲刺激を用いたマッケンジー体操の禁忌
屈曲刺激を用いたマッケンジー体操の禁忌はWilliams体操と同様である。
すなわち、腰椎椎間板障害(椎間板ヘルニア)の急性期あるいは長期臥床した直後や起床後あるいは午前中となる。
※本来はマッケンジー法で評価したのちに、どの様な体操が有効かを考えるが、評価無しにマッケンジー体操を実践するのであれば上記の禁忌に注意する。
腰部への伸展刺激を用いたマッケンジー体操の禁忌
一方、伸展刺激を用いたマッケンジー体操の禁忌は、「エクササイズによって下肢通の増悪や放散痛が起こるケース」となる。
もちろん、その他の反応やイリタビリティーにも注意が必要である。
※言うまでもない事だが、腰椎変形性脊椎症などで、そもそも腹臥位がとれない人も実施できない(変法をもちるいることは出来るがスタンダードな手法は危険だという意味)。
※これらの点に言及していると、体操の範疇を超えてしまうので割愛する。
ペリフェラライゼーションが起こる体操は、全て禁忌!
疼痛の範囲が末梢へ広がる(ペリフェラライゼーション)が生じる様な体操は、全て禁忌と考えたほうが良い(屈曲刺激であろうと伸展刺激であろうと)。
※逆に疼痛の範囲が腰の正中部に収束する(セントラライゼーションが生じる体操は)、正しい方向での体操と判断して良い(屈曲刺激であろうと伸展刺激であろうと)。
そんなペリフェラライゼーション(やセントラライゼーション)に関しては以下の記事で深堀解説しているので、マッケンジー体操(っというかマッケンジー法)を理解する上では是非合わせて観覧してみてほしい。
⇒『マッケンジー法で重要なセントラライゼーション・ペリフェラライゼーションの概念を紹介!』
終わりに
ここまで記載して言うのもなんだが、マッケンジー体操が「ステレオタイプに屈曲や伸展刺激を闇雲に活用する体操」だとするならば、恐らくネガティブなレッテルが貼られてしまう可能性がある。
まぁ、ネガティブなレッテルを貼られようが貼られまいがどーでも良いが、(マッケンジー体操に限らず)理学療法士として何らかの体操(っというか運動)を処方する場合には、各々の運動が持つ刺激のメリット・デメリットを把握し、個々に合った運動を選んでいくことが大切と言える。
(腰痛に限らず、様々なリハビリ・理学療法の)メリットやデメリットの把握や情報の整理に、(様々な情報の一つとして)このブログを活用してもらえると幸いである。
関連記事
以下に腰痛体操をまとめているので、腰痛体操に興味がある方は参考にしてみてほしい。
⇒『色んな腰痛体操まとめ』
この記事では「マッケンジー体操」を記載してきたが、「マッケンジー法」について詳しく知りたい方は以下も併せて観覧してみてほしい。