この記事では、マッケンジー法の用語でもある『パラドックス オブ ムーブメント』について記載していく。

 

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パラドックス オブ ムーブメント とは?

 

腰を伸展させた際に腰痛が増強したとしても、その伸展運動を反復(あるいは伸展位を保持)していると、逆に腰痛が緩和し、最終的には消失することがある。

 

また、腰を屈曲させた際に腰痛が和らいだとしても、その屈曲運動を反復(あるいは屈曲位を保持)していると、逆に腰痛が悪化してしまうことがある。

 

この様に、「ある刺激を回数的or時間的(or強度的)に少し入れた場合と、多く入れた場合で、得られる反応が逆転するという現象」を『パラドックス オブ ムーブメント(PM:Paradox of Movement)』と呼ぶ。

 

例えば、「畑を耕して腰が痛くなった農家の人が、イテテと言いながらも腰を反らしていくと、(反らしている最中は痛いにも関わらず)反らした後に腰痛が治る」といった現象は、『パラドックス オブ ムーブメント』の分かり易い例と言える。

 

関連記事⇒『痛みには、誘発させても構わない種類もあるって知ってた?

 

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侵害受容性疼痛における炎症性要素の優位性

 

『パラドックス オブ ムーブメント』はメカニカルな要素によって生じた侵害受容性疼痛で起こることが多く、この現象によって痛みに「良い変化」が起こるのであれば、その方向はDP(Directional Preference)だと判断される。

 

関連記事⇒『DP(Directional Preference)って何だ? | マッケンジー用語

 

ただし侵害受容性疼痛でも炎症性要素が強い場合は、反復刺激によりDPを示すような『パラドックス オブ ムーブメント』は起こり難くなる。

 

なぜなら、炎症性疼痛の場合は刺激を入れれば入れるほどに疼痛が増強するワインドアップ現象などの『感作』が起こる可能性が高く、(強度によっては)メカニカルな刺激入力は基本的に非適用となるからである。

 

関連記事⇒『痛みの中枢感作(ワインドアップ現象と長期増強)

※補足記事『(HP)感作(中枢性感作・末梢性感作)と脳の可塑的変化

 

従ってパラドックス オブ ムーブメントが生じた時点で、その侵害受容性疼痛は炎症性では無く(あるいは炎症要素の優位性は低く)、メカニカルな要素によって起こっている可能性が高いということになる。

 

 

炎症要素が強くてもParadox of Movementは起こり得る

 

炎症性要素が強い侵害受容性疼痛に対しては、反復刺激によりDPを示す『パラドックス オブ ムーブメント』は起こり難いと前述した。

 

ただし、それはあくまで「反復」の刺激の場合であり、持続的な刺激であれば、炎症性要素が強くてもDPを示す『パラドックス オブ ムーブメント』は起こり得る。

 

その一番良い例が、ぎっくり腰などの急性腰痛における、良肢位(DPを示す肢位)の保持だ。

 

急性腰痛は炎症性の要素が強いため、反復刺激を加えると感作が起こる可能性が高い一方で、そのクライアントに合った良肢位を(持続的に)保持することで疼痛の緩和や、治癒の促進が期待できる。

 

どの様な肢位かはクライアントを評価しなければ分からないが、比較的年齢が若い人の急性腰痛であれば腹臥位が選択されることも多い。

 

マッケンジー法は反応重視な学派なため、「その肢位を保持することで、なぜ腰痛が緩和されるのか?」といった原因の深堀はしないが、一つの可能性として椎間板理論による「髄核が腹側へ矯正された事による鎮痛効果」といった仮説を立てることもある。

 

あるいは、急性腰痛によって椎間板後方の線維輪が損傷しているのであれば、腹臥位や腰椎伸展位は「線維輪の損傷部位を閉じる方向」であり、創口には優しいといった解釈も成り立つ。

 

※線維輪外側には欠陥があるため、断裂・損傷した場合であっても治癒する可能性がある。つまり、線維輪断裂や損傷直後に伸展位をとる目的は線維輪断裂部位の傷口をふさぎ、治癒のチャンスを与える可能性がある。

 

 

話が脱線したが、いずれにしても「炎症性疼痛であっても持続的な機械的刺激の入力であれば、DPを示す『パラドックス オブ ムーブメント』は起こり得る」ということになる。

 

これは、マッケンジー法云々ではなく、炎症性要素が強い痛みを有している際に「患部を最も安楽なポジショニング(DP)に保持してあげることが大切」なのと同じであるため、当たり前すぎる対策であるが、念のため補足してく。

 

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マッケンジー法は、パラドックスムーブメントを活用する

 

一般的に疼痛刺激は『加えれば加えるほどに増強する』とう特徴を持っている場合が多い。

 

そして、繰り返しによる疼痛増強は『感作』と呼ばれ、臨床上でも「痛みを誘発させないようにリハビリ(理学療法・作業療法)を実施していく」というのが大前提となる。

 

しかし一方で、例えば指圧時に生じる『イタキモチイイ』といった類であったり、今回紹介した『パラドックス オブ ムーブメント』が起こる疼痛もあるという点は覚えておいても損はない。

 

 

マッケンジー法はParadox of Movementを活用する

 

マッケンジー法では『負荷(持続刺激や反復刺激)を加えて対象者の状態がどのような反応を示すか』ということを手がかりに評価、マネージメントを進めていく。

 

でもって、この際の評価する反応が『PM(paradox of movement)』ということになる。

 

ただし、PMを実施する際には、エンドレンジまで動かせているかどうかで反応が異なってくる点には注意が必要だ。

 

 

例えば冒頭でも例に挙げた「畑を耕して腰が痛くなった農家の人が、イテテと言いながらも腰を反らしていくと、反らした後に腰痛が治る」といったエピソードにおける腰部の伸展はエンドレンジまで動かしている。

 

エンドレンジまで十分に可動させるかどうかで、その後の腰部のスッキリ感は異なってくるのだ。

 

話を『マッケンジー法における評価』に戻すと、PMによる反応は実際にメカニカルな負荷を加えてみなければ分からない。

 

なので、フォースプログレッションやトラフィックライトガイドの概念はリスク管理として大切となる。

⇒『フォースプログレッション・フォースオルタナティブとは

⇒『トラフィックライトガイド(Traific light guide)とは

 

 

※また、問診・視診・触診などによって臨床推論をし、ある程度予測を立てた上で実施することもリスク管理にもつながるし、何といっても「効率の良い理学療法」が実践できる。

 

⇒『(HP)理学療法士に必要な「問診」の基礎知識

 

⇒『(HP)理学療法士に必要な「視診(姿勢評価)」の基礎知識

 

⇒『臨床推論(クリニカルリーズニング)って何だ?