この記事では、認知症に関する基礎知識を紹介している。
リハビリ職種(理学療法士・作業療法士)のみならず、認知症高齢者を抱えたご家族の方にもぜひ観覧してもらいたい。
認知症とは
認知症とは、記憶力や判断能力、時間・場所・人物などを理解識別する脳の機能が低下し、日常生活に支障がでる状態を指す。
でもって厳密な認知症の定義の以下の通り。
認知症のポイントは「器質的な障害」という部分であり、認知症の背景には脳の形に現れる障害がある(脳萎縮・脳梗塞など)という点である。
あるいはICD国際疾病分類)における認知症は以下を意味する。
上記は「高次脳機能障害=認知症」という解釈だが、高次脳機能障害と認知症を分けるという考え方もあり、この考え方の詳細は『高次脳機能障害と認知症(+違い)』を参照してみてほしい。
「一般的な物忘れ」と「認知症の物忘れ」の違い
認知症と同一視される用語として「物忘れ」がある。
しかし、「(私たちにも起こり得る)一般的な物忘れ」と「認知症の物忘れ」では以下の点で異なっている。
ふつうの物忘れ | 認知症の物忘れ | |
---|---|---|
本態 | 生理的な脳の老化 | 病的な脳の老化 |
経過 |
進行しない (きわめて徐々に進行) |
進行する |
物忘れの特徴 |
体験の一部を忘れる 判断力保持 |
全体を忘れる 判断力の低下 |
見当識 | 見当識障害は見られない | 見当識障害がみられる |
日常生活への影響 | 支障なし | 支障あり |
人格水準 | 人格水準は維持 | 人格水準は低下 |
その他 |
物忘れを自覚している 作話は見られない |
物忘れの自覚が乏しい しばしば作話がみられる |
上記を見てもらえばわかるように、物忘れは私たちにも起こり得る。
例えば、4日前の夕飯を忘れてしまったり、スーパーに来たものの買い物の一部を忘れてしまっていたりなど。
しかし一方で、認知症は私たちには起こり得ないというのも理解してもらえると思う。
でもって、加齢とともに物忘れの程度や頻度は増えてくるかもしれないが、これは認知症とは区別して考える必要がある。
認知症の分類
認知症は以下に分類される。
・アルツハイマー型認知症(AD)
・脳血管性認知症(VaD)
・レビー小体型認知症(DLB)
・その他(前頭側頭葉変性症など)
でもって、どの種類の認知症であるかを鑑別する際の様点は以下の通り。
ちなみに、④の『前頭側頭型認知症(ピック病など)』の特徴は以下の通り。
- 比較的初老期に多く前頭葉と側頭葉が特に障害される認知症
- この型の認知症の多くは「神経細胞内にピック球という物質が見られる」というのが特徴な『ピック病』というタイプである。
- 前頭葉は人間らしさを保つ大脳皮質なので、障害されると人格が変化し、同じ言葉や身振りを繰り返し、落ち着きなく歩きまわり暴力的になるなどの行動異常が現れることもある。
- 男女差は無く、原因も不明であり、効く薬もないためケアで対処することとなる。
認知症と間違われやすい疾患について
余談ではあるが、認知症と間違われやすい疾患として以下などが挙げられる。
・うつ病(高齢者のうつ病)
・慢性硬膜下血腫
・甲状腺機能低下症
・正常圧水頭症
・・・・などなど。
また薬剤で認知症症状が出ることもある。
したがって、一見認知症に見えても、治らないと決めつけずに必ず鑑別診断を仰ぐ必要がある。
でもって、こにらによって生じる認知症様な症状は、病気そのものの治療をすることで改善する。
認知症をもたらす病気の割合
認知症をもたらす病気の割合は(文献によっても若干異なるが)、いずれの文献においても以下の点は一致している。
・アルツハイマー型認知症が断トツに多い。
・アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症が、認知症におけるかなりの割合を占めている。
軽度認知機能障害(MCI)という概念
ここまで認知症について記載してきたが『軽度認知機能障害(MCI:mild cognitive impairment)』という用語も紹介しておく。
軽度認知機能障害(MCI)はPetersonらによって以下の様に定義(1999)付けられている。
①本人や家族から認知機能低下の訴えがある
②認知機能は正常とはいえないものの認知症の診断基準も満たさない
③複雑な日常生活活動に軽微な障害はあっても基本的な日常生活機能は正常
他にも色々と特徴が言われているが、ザックリと軽度認知機能障害(MCI)を表現するならば以下になる。
軽度認知機能障害(MCI)ではまずIADL(手段的ADL)が低下すると言われている。
IADL | BADL | 介護の必要性 | |
---|---|---|---|
軽度の認知障害 (MCIに該当) |
支障あり | 支障なし | 必要なし |
中等度の認知障害 | 支障あり | 支障あり | ある程度必要 |
重度の認知障害 | 機能消失 | ほとんど機能消失 | 常時必要 |
なので、「手段的ADLに支障が出てきているのでは?」とご家族が感じるのであれば、それは軽度認知窓外(MCI)の目安となり得るかもしれない。
※IADL・BADL(basic ADL)に関しては『ADL(日常生活活動・日常生活行為)とは?』を参照
でもって、軽度認知機能障害(MCI)から認知症に移行しないよう予防することが重要であり、予防のためにリハビリ(理学療法・作業療法)が貢献できると考えられている。
兎にも角にも「認知症の一歩手前な用語」として軽度認知機能障害(MCI)という用語は覚えておいて損はない。
なぜ軽度認知機能障害(MCI)が重要なのか?
なぜ軽度認知障害(MCI)が重要視されているのか考えてみよう。
認知症高齢者の現状は(H22年で少し古いデータではあるのだが)以下の通り。
※画像引用『http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou_kouhou/kaiken_shiryou/2013/dl/130607-01.pdf』
ピラミッドを見てもらえばわかるようにMCIは「日常生活自立度Ⅰ又は要介護認定を受けていない人(160万人)よりも軽度な認知障害であると言える。
※「軽度な認知障害を有している=認知症」ではない点には注意してほしい。
でもって、ピラミッドの約380万人(MCIの人)を、いかに悪化させないようにするか(前述した表に記載したように「IADLに支障はあるがADLには支障がないレベル」に留めておくか)が、今後の社会保障費増を防ぐために重要だとされているからだ。
以下のイラストを見てもらえばわかるように、MCIであれば認知障害の進行を予防するだけでなく、改善させる(健常者レベルに戻すこと)も想定されていることが分かる。
でもって重複するが、軽度認知機能障害(MCI)から認知症に移行しないよう予防することが重要であり、予防のためにリハビリ(理学療法・作業療法)が貢献できると考えられている。
関連記事
⇒『認知症の予防と治療!リハビリ(運動)による可能性を語ります!』
認知症の主な症状
認知症の症状は以下の2つに大別される。
・中核症状
・周辺症状
中核症状について
認知症には、記憶障害や認知障害など「認知症の中核的な症状」が存在しこれを『中核症状』と呼ぶ。
中核症状の具体例は以下などであり、要するに高次脳機能の障害が該当する。
・記憶障害
・見当識障害
・失語
・失行
・失認
・視空間認知障害
・遂行機能障害
この中で、認知症なら必ずといって起こる中核症状は「記憶障害」・「見当識障害」である。
中核症状の具体例としてイメージしやすいものとしては以下などが挙げられる。
・自分の生年月日、家族や知人の顔などを忘れる(記憶障害)
・朝昼晩の区別や、自宅の場所などがわからなくなる(見当識障害)。
・朝食を摂ったことや散歩にでたことなどが思い出せない(記銘力障害)。
周辺症状(BPSD)について
記憶や認知、判断などの障害(中核症状)が出現することで、2次的にあらわれる精神症状や行動障害を『周辺症状(BPSD : behavioral and psychological symptoms of dementia)』という。
※周辺症状(BPSD)は『行動心理症状』とも呼ばれることがある。
※BPSDという略語は、認知症の文献などでよく登場するので覚えておこう。
周辺症状(BPSD)は、具体的に以下などが挙げられる。
・徘徊
・幻覚・妄想(実際に見えないものや聞こえないものが見えた、聞こえたと訴える)
・暴力行為
・不潔行為
・異食(食べられないものを口にすること)
上記からも分かるように、周辺症状(BPSD)はザックリと「精神的不穏」「問題行動」」と表現することが出来る。
周辺症状(BPSD)は改善の余地がある:
前述したように、認知症の特徴は「進行性である」という点にある。
でもって、前述した『中核症状』は改善されることは少なく、維持(変化なし)もしくは悪化していく。
※環境などの工夫によって「中核症状を有しながらも、より良い生活が送れるようになる」といったものも「改善」と表現するのであればこの限りではないが、基本的には「中核症状は維持もしくは悪化する」と表現して良いと思う。
一方で、ここで述べた周辺症状(BPSD)は改善出来る可能性がある。
中核症状と周辺症状まとめ
認知症における中核症状と周辺症状のまとめをザックリと記載しておく。
認知症の症状は、脳細胞の障害が直接引き起こす『中核症状』と、環境などにも左右される『周辺症状(BPSD)』に分けて考えることができる。
中核症状は物忘れも含めた主に高次脳機能障害で、薬など医療の関わりが大きいといった特徴がある。
一方で『周辺症状(BPSD)』はうつや不眠や徘徊など周辺の対応でいかんで良くも悪くもなる、つまりケアの役割が大きい症状といえる。
周辺症状『BPSD』は本人や家族の悩みが大きい半面、適切な治療や対応で症状をかなり和らげることができる面がある。
認知症を予防しよう
ここから先は、認知症の予防に関してリハビリ(理学療法・作業療法)も含めて記載していく。
認知症の予防にとって重要なのは以下の通り。
・生活習慣の改善
・日常生活の活性化
生活習慣の改善
認知症予防には生活習慣の改善が重要で具体的には以下の通り。
- 運動習慣を身に付ける(後述する)。
- 栄養バランスのとれた食事、魚や野菜を多く摂り、塩分は控える。
- 喫煙習慣がある場合は禁煙は特に重要。
- 規則正しい生活を送り、睡眠不足や過度の飲酒に気をつける。
上記を観覧してもらえば分かるように、これらは「生活習慣病を予防する対策」と同一であり健康寿命を延ばすことに貢献できる。
でもって、なぜ生活習慣の改善が、認知症を含めた「健康寿命の阻害要因」に対して重要かは以下の記事でも深堀しているので参考にしてみてほしい
日常生活の活性化
加齢とともに自宅へ閉じこもりになってしまう場合がある。
特に男性は定年退職してしまい、それまでに趣味を持っていないと、生きる目的を見失ってしまい自宅でだらけた生活をしてしまうことは想像に難くない。
しかし、外出して様々な刺激を受けることにより脳は活性化され、これが認知症の予防に繋がると言われている。
例えば介護サービスである通所介護・通所リハビリなどには、「外刺激による認知症予防」を目的としている面もある。
具体的な日常生活の活性化の例は以下の通り。
- 外に出て人と交流。( 服装・おしゃれに留意し、会話を楽しむ)
- 趣味・余暇・スポーツ・ダンスなどを楽む。
- 旅行の企画、パソコン、調理、絵画、書道、園芸など、脳を活性化しそうな習い事に挑戦する。
余談:認知症の早期発見の重要性
認知症の予防、あるいは進行を遅らせる薬剤なども存在しており、正しいアドバイスをもらうためにも「初期症状の早期発見」は非常に重要である。
これはご家族にとっても重要な点であり、認知症が進行してしまうと、介護が必要になってしまう可能性がグッと高まってしまうからだ。
でもって「認知症の初期症状」としては以下などが挙げられる。
- ・表情が乏しくなる。
- ・外に出たがらなくなる。
- ・身なりを気にしなくなる。
- ・同じ話を繰り返したり、ひとり言が多くなる。
- ・次にしようとすることが分からなくなる。
- ・いつも使うものの置き場所を忘れる。
- ・家族や知人の名前がすぐに出てこなくなる。
これらの異変に家族が気づいたら、念のため医療機関(認知症外来など)に相談するようしよう。
※まだ「大丈夫だろう」と思って、後々後悔する家族は多い。
あるいは、認知症かどうかを簡易に評価する手法として『長谷川式簡易知能評価スケール』という有名なテストがある(認知症を相談するために受診したら、おそらくテストされると思う)。
そんな長谷川式スケールは、評価用紙やテスト方法も含めて以下の記事で(動画も合わせて)掲載しているので、ご家族が評価として活用してみても良いと思う。
長谷川式簡易知能評価スケールを徹底解説(評価用紙のダウンロードもできるよ)
念のため『物忘れ外来』をしている病院一覧が記載されたサイトをリンクしておくので、参考にしてみてほしい。
(外部リンク)全国もの忘れ外来の一覧
ただし、上記に記載されていない病院あっても親切丁寧に対応してくれる病院もあるので、ご家族自身でも情報収集をしてみてほしい。
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認知症の関連記事としては以下も作成ているので合わせて観覧してみてほしい。
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