この記事では、『複合性局所疼痛症候群(CRPS)』について解説している。
CRPSは難治性な疼痛症候群に該当し、リハビリ(理学療法・作業療法)を実施していると遭遇する可能性もあるため、この記事で理解を深めてもらいたい。
反射性交感神経ジストロフィー(RSD)やカウザルギー、肩手症候群もCRPSに含まれるため、これらの用語について知りたい方もぜひ観覧してみてほしい。
目次
複合性局所疼痛症候群(CRPS)とは?
複合性局所疼痛症候群とは、以下を指す。
外傷に引き続いて起こるさまざまな症状を伴う症候群。
でもって、複合性局所疼痛症候群は『CRPS(complex regional pain syndrome)』の日本語訳であり、臨床では英語の略語(CRPS)で表現されることが多い。
なので、ここから先はCRPSという略語に統一して記載していく。
複合性局所疼痛症侯群(CRPS)の特徴
CRPSの特徴は以下の通り。
CRPSの症状は局所性である:
・CRPSは損傷部およびそれを含む局所部分にとどまるのが特徴である。
CRPSは女性に多く、年齢的な特徴はない:
・CRPSは女性に多く、男性の3倍の発症率である。
・CRPSは小児から成人にいたるまで幅広い年齢に発症する。
CRPSの予後は様々:
・CRPSの予後は様々で、寛解することもあれば何年も症状が継続することもある。
複合性局所疼痛症候群(CRPS)の症状
CRPSは『神経因性疼痛』の代表的疾患と言え、侵害受容性疼痛と異なり「末梢組織の問題のみならず、神経系(末梢・中枢神経)にも問題をきたしていると言える。
CRPSは以下などの異常な痛みが生じるのが特徴である。
・・・など。
※痛みの訴えは中等度の場合や、または「焼けた熱いものを押し付けられたような感じ」や「鋭い刃物で切られたような感じ」などのような激烈な痛みを訴えることもある。
でもって更には、以下などの合併症・随伴症状も伴う。
- 感覚異常(感覚過敏・感覚低下)
- 自律神経系の障害(浮腫・腫脹、皮膚の温度や色の変化、発汗異常など)
- 運動機能障害(脱力、筋萎縮、骨萎縮、ジストニア、けいれん、無視現象など)
- 情動の変調(恐怖感、不安抑うつ状態など)
皮膚・皮下の変化としては、上記で示したように、浮腫・腫脹、皮膚温上昇・発赤・皮膚の光沢、過剰発汗が初期にはみられるが、時間の経過とともに皮膚は光沢・緊張を失い、萎縮し蒼白となる。
さらに発汗は減少し、皮膚温が低下して脱毛あるいは多毛が生じ、爪は変形してくる。
手内筋(intrlnsicmuscle)などの萎縮関節拘縮が起こる。
骨萎縮に関しては、発症後3~4週ごろから起きると言われており、症状が進行すると患肢全体に骨萎縮が広がっていくとされている。
CRPSと無視現象
CRPSの症状の一つに(前述したように)『無視現象』という症状があり、この点について補足しておく。
CRPSを含めた慢性痛の高次脳機能障害に関する報告は増えている。
でもって、CRPS患者にも高率にみられる高次の運動機能異常の一つが『無視様症候群(neglect-like syndrome)』あるいは『無視現象(neglect-like symptom)』である。
慢性痛の無視現象は、脳卒中患者にみられる空間・身体無視(neglect)様の現象であり、以下の2つに分類される。
- 認知無視(cognitive neglect):
患肢を他人の肢のように感じる。
- 運動無視(motor neglect):
患肢を動かそうとすることに相当の精神的・視覚的な注意集中を要する。
この無視現象(運動無視)による患肢の廃用がさらなる慢性痛を助長する原因の一つともいわれている。
複合性局所疼痛症候群(CRPS)の原因
CRPS(複合性局所疼痛症候群)の原因としては以下などが考えられる。
・末梢神経経損傷
・不適切なギプス固定
・過用症候群・誤用症候群
・遺伝的要素
ただし、十分に原因が解明されたわけではない。
ちなみにCRPSの原因に関して、以前は反射性交感神経ジストロフィー(RSD)の病名のもととなった交感神経過活動の関係について指摘されていた。
しかし、以下の点から交感神経の関与については疑問視されるようになった。
- 交感神経遮断術(交感神経切断術)、交感神経ブロック・交感神経抑制薬などが無効なこと。
- 経過期間において交感神経の過活動時期とそうでない時期があること
※つまり、RSD(CRPSの一部)の全てに交感神経の過活動が生じるわけではないという事だ。
複合性局所疼痛症候群(CRPS)の発生メカニズム
CRPSの発生メカニズムとしては以下などが言われている。
- 組織損傷ストレスによる末梢神経の感作
- 脊髄・脳幹・視床・大脳皮質など中枢神経系の感作や可塑的変化
- 神経ペプチドの過剰放出による神経性炎症
関連記事
⇒『(HP)疼痛における末梢神経感作・中枢神経感作・脳の可塑的変化を解説』
複合性局所疼痛症候群(CRPS)の治療
治療は確立されたものはないが、CRPSはtypeⅠ・Ⅱともに以下などが臨床では試験的に施行される。
・薬物療法
・物理療法(温冷交代浴)
・リハビリ(関節可動域エクササイズ・運動療法など)
薬物療法
薬物療法としては以下などが施行されることがある。
・・・・・・・など
非ステロイド系抗炎症薬はサイクロオキシゲナーゼ抑制を介してプロスタグランジン合成阻害にはたらき、末梢での炎症抑制に働く(中枢性にも脊髄レベルで疼痛抑制にはたらくとの意見も)。
ステロイドも細胞膜安定化による炎症改善を意図して用いられ、特に肩手症候群(CRPS typeⅠに該当)に用いられる。
抗うつ薬はうつ症状がなくても有効で、セロトニンやノルアドレナリンの放出(下降性疼痛抑制系制系を賦活)にも関与する。
いずれにしても、効果と副作用のモニタリングを十分に行い、効果のない薬物をいたずらに長期間使用しないことが重要となる。
物理療法
物理療法としては、温熱療法、寒冷療法を単独で用いたり、寒冷交代浴を施行したりする。
いずれにしても適応・非適応に個人差があるため、効果がない場合、あるいは少しでも症状が悪化すると判断した場合は直ちに中止する。
でもって、ここでは寒冷交代浴について解説していく。
- 患部を温水(38~40℃)と冷水(15℃前後)に交互に浸す。
- それぞれ、温浴5分-冷水浴2分-温浴5分(4分-1分-4分)と交互に行い、温浴を長くする。
- 温浴から始め温浴で終わるのが原則。
- 冷水は、水に氷を入れて温度を調整する。
- 温冷交代浴で期待できるCRPSへの効果は以下の通り
・末梢血管の収縮と弛緩を通じて循環の改善と自律神経系の反射的活動の改善
・上記に伴う疼痛緩和や心理的リラクゼーション
※効果をモニタリングして継続の有無を検討する。
ちなみに、温熱療法・寒冷療法も含めた物理療法の記事一覧は以下になるので、合わせて観覧してみてほしい。
⇒『物理療法を使いこなせ!一人職場療法士が知っておきたい物理用法ポイントまとめ』
関節可動域エクササイズ・運動療法
前述した薬物療法・物理療法単独での効果は鎮痛を目的としている。
しかしCRPS治療の主要目標は機能改善であり、これらによる痛みの軽減は機能改善を円滑に進めるための補助的要素として考える程度にとどめておくことが望ましい。
でもって、関節可動域エクササイズ・運動療法によって「痛みに細心の注意を払いながら患部を動かすこと」で以下が期待できる。
- 拘縮予防・改善
- 筋萎縮の予防
- 局所循環の改善(浮腫の改善)
- 不使用(不動)によって生じる感作の抑制
- 痛みのない範囲での動きにより、認知の修正⇒下降性疼痛抑制系を含めた内因性疼痛抑制系の賦活
・・・・など
例えばCRPSの原因の一つにギプス固定(つまり不動・廃用)が考えられており、逆に言うと、無理のない範囲で動かすことで少しずつ感作が落ち着き、症状の緩和・機能改善に結びつくことも多い。
また、前述したように、無視現象(運動無視)による患肢の廃用がさらなる慢性痛を引き起こすこともあるたため、適度に(痛みに注意しながら)動かすことはポイントとなる。
※もっと詳細なアプローチの考え方に関しては、部位や付随する疾患(骨折など)によって考え方が違う。
※関節可動域エクササイズに関する基本的な考え方や注意事項は以下の記事でまとめているので参考にしてみてほしい。
⇒『関節可動域訓練(ROMエクササイズ)とは? リハビリ・看護』
※痛みがない(あるいは極わずかな)状態でリハビリは実施すべきである。
※動かして痛みがある場合は、無理をするとCRPSを助長させてしまう)
※したがって痛みが強すぎる場合は、まず薬剤や物理療法などによる鎮痛が優先される。
CRPSの治療効果と予後に関しては、CRPS typeⅠでは、加療による治癒または自然治癒は約75%の患者でみられ、治療としては理学療法が有効であることが示されている。
一方で、一度CRPSを発症すると長期の治療を要するケースもあるため、発生の予防が何よりも重要である。
そのためには、少なくともリハビリ時の『誤用・過用』には注意する必要がある。
関連記事⇒『過用症候群・誤用症候群とは(+例・違い)』
複合性局所疼痛症候群(CRPS)の分類 ⇒ typeⅠとtypeⅡの違い
CRPSは以下の2つに大別される。
CRPS typeⅠ:
- 神経の損傷を伴わないCRPS
- 従来、反射性交感神経ジストロフィー(RSD)と呼ばれていたものがtypeⅠに該当。
- 『肩手症候群』は、以前はRSDに含まれていた。なので、現在はCRPS typeⅠに属する。
CRPS typeⅡ:
- 神経の損傷を伴うCRPS
- 従来、カウザウギーと呼ばれていたものがtypeⅡに該当。
複合性局所疼痛症候群(CRPS)という用語が生まれた経緯
以前は『反射性交感ジストロフィー(RSD)』や『カウザルギー』なる用語が存在していた。
反射性交感神経性ジストロフイー(RSD:reflexsympatheticdystrophy):
明らかな神経損傷はないが外傷後に「難治性の疼痛」と「自律神経症状」を呈する難治性疾患に対して使われていた用語
カウザルギー(causalgla):
末梢神経損傷後あるいは神経修復後に生じる難治性の疼痛に対して使われていた用語。
ただし、反射性交感神経性ジストロフイー(RSD)やカウザルギーは、ともに難治性の痛みを呈する疾患として取り扱われてきたが、定義づけのあいまいなままにそれらの診断名が乱用されてきた。
この様な経緯もあって、1996年に『国際疼痛学会』によりこれらの症状を『複合性局所疼痛症候群(CRPS)』として定義し、RSDを「CRPS typeⅠ」カウザルギーを「CRPS typeⅡ」と分類した。
ここから先は、CRPSのtypeⅠ・Ⅱに関して、もう少し深堀して記載していく。
ちなみに「CRPSの治療内容」はtypeⅠ・Ⅱのいずれの場合においても共通している(typeによって治療内容が異なるわけではない)。
※治療に関しては前述したとおり。
CRPS typeⅠについて
CRPS typeⅠは、従来、反射性交感ジストロフィー(RSD)と称されていた症候群である。
CRPS typeⅠは、末梢組織に骨折や挫滅などなんらかの損傷が起こった後に発現し、損傷の程度に比べ強い疼痛過敏現象および持続痛を示す。
また、浮腫・腫脹、皮膚血流の変化、発汗異常など、交感神経の関与が示唆される循環障害所見を呈することが多い。
CRPS typeⅠの症状は損傷部を超えて拡大することが多く、例えば橈骨遠位端骨折後にCRPS typeⅠを呈する場合、症状は手関節に限局することは少なく、手指や手部、罹患肢全体にまで拡大しやすい。
CRPS typeⅡについて
CRPS typeⅡは、従来、カウザルギー(ギリシャ語で「焼けるような痛み」を意味する)と呼ばれていたものである。
CRPS typeⅠとの違いは、骨折や打撲などの外傷や手術などによる明らかな末梢神経損傷に続発するという点にある。
CRPS typeⅡは、末梢神経損傷に伴い、アロデイニアや尋常でない灼熱痛が損傷神経の支配領域に一致して出現する。
つまり、CRPS typeⅡは肉眼的または電気診断学的に神経損傷を有していることが特徴である。
CRPS typeⅡでは灼熱痛と組織の栄養障害を呈するが、(typeⅠと異なり)浮腫・腫脹が少なく、局所の熱感・発赤を伴わない。
四肢の外傷などで末梢神経が不完全な損傷を受けたときにみられる灼熱痛。
受傷後数日から1~2週間以内に間欠的に生じ、灼熱感強い疼痛、自律神経症状がある。
正中神経、坐骨神経領域に生じることが多い。
~『理学療法学事典』より引用~
複合性局所疼痛症候群(CRPS)の診断
CRPSの診断基準は1994年に国際疼痛学会によって発表された。
※画像引用:日臨麻会誌 Vol.30 No3/May 2010 P421
ただし、この診断基準は自覚症状に依存するため、感度は高い(98%)が特異度がきわめて低い(36%)という問題点があった。
でもって日本でも、CRPSの判定指標が発表された。
※画像引用:日臨麻会誌 Vol.30 No3/May 2010 P425
この指標では、
臨床用指標の感度が82.6%、特異度が8.8%で、
研究用指標の感度が59.0%・特異度が91.8%となっている。
CRPS typeⅠは神経障害性疼痛に該当しない
これは余談になるのだが、国際疼痛学会のガイドラインにおける神経障害性疼痛の定義やガイドラインに沿うと、CRPS typeⅠは神経障害性疼痛に該当しないということになる。
神経障害性疼痛は2008年に以下の様に定義されている。
pain arising as a direct consequence of a lesion or disease affecting the somatosensory system
でもって、CRPS typeⅠは前述したように「神経の損傷を伴わないCRPS」なため該当しない。
※CRPS typeⅡは「神経の損傷を伴うCRPS」なので神経障害性疼痛に該当する。
国際疼痛学会神経障害性疼痛分科会から提唱された神経障害性疼痛のガイドラインは以下になる。
神経障害性疼痛であるかを見極めるためのガイドラインであるが、CRPS typeⅡであるかを見極めるガイドラインと言い換えることも出来る。
※画像引用:日臨麻会誌 Vol.30 No3/May 2010 P426
ただし、CRPS typeⅠが神経障害性疼痛であろうと、なかろうと(前述したCRPSの発生機序でも述べたように)神経系の機能異常が関与している可能性が高いことだけ知っていれば問題ない。
複合性局所疼痛症候群(CRPS)のまとめ
CRPSの基準や指標は複数存在するが、それらの間には大きな違いはなく、受傷機転や外傷の程度とは強度や持続期間の点で不釣り合いな痛みがあり、前述した合併症状・随伴症状を伴っているものをCRPSと診断する。
しかし一方で、実際の臨床現場では「治療反応性が乏しく、治療に苦慮する患者」に対して「CRPS疑い」などの病名を付けていることが多いのが現実だとされている。
したがって、たとえCRPSと診断しても実際の治療法の選択にはつながらず、診断名を付けることの治療上の意義は大きくない。
※患者からすると「診断が下ったから何なのだ?治らなければ意味ないでしょ」と感じるだけである。
そもそも基準を用いて分類したCRPSという疾患群が単一の病態から構成されている可能性はむしろ低いと考えられている。
「通常でない痛み」の原因としては、前述したように以下などが考えられる。
・末梢神経経損傷
・不適切なギプス固定
・過用症候群・誤用症候群
・遺伝的要素
でもって、これらの因子が複数関与し、悪循環した結果がいわゆるCRPSという病名でよばれる可能性があり、CRPS難治例の痛みを直ちに取ることはほぼ不可能な場合も多い。
一方で、術後早期などにおける「通常なら痛みが軽くなってくるはずの時期においても、なお強い痛みを訴える症例」などでは、発症後間もない時期に除痛が成功し、痛みの慢性化を予防することが期待できることもある。
様々な疾患で起こるCRPS
リハビリ(理学療法・作業慮法)をする際に注意すべきは「誤用・過用に注意すること」であり、例えば関節可動域訓練(ROMエクササイズ)などで痛みを誘発させないなどが挙げられる。
過用症候群・誤用症候群とは(+例・違い)
関節可動域訓練(ROMエクササイズ)とは? リハビリ・看護
また、骨折後のCRPS typeⅠの発症率は1~2%で、最もCRPS typeⅠを誘起しやすい外傷が橈骨遠位端骨折(Colles骨折)とされており、その発症率は7~35%とも20~40%ともいわれている。
ちなみに、橈骨遠位端骨折に引き続いて起こるCRPSは不適切なギプス固定が原因である場合が多いとされる。
なのでギプス固定中に異常な痛みや浮腫、色調の変化などがみられた場合には躊躇せず、ギプスの再調整や解除を検討する必要がある。
CRPSに類似した疾患『線維筋痛症』とは?
CRPS(複合性局所疼痛症候群)はアロディニアや痛覚過敏も含めた「耐え難い痛み」が特徴なのだが、同様な特徴を持った疾患として『線維筋痛症』なるものも存在する。
でもって、これらの一番の違いは「全身性の痛みか、局所性の痛みか」である。
※線維筋痛症は原因不明にも関わらず全身に耐え難い痛みが生じる疾患である。
そんな線維筋痛症に関しては、以下の記事で解説しているので興味があれば参考にしてみてほし。
線維筋痛症とは?個人的な体験も含めてブログで解説!(ガイドライン・エビデンス含む)
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