~伸張が神経内血流に及ぼす影響~

 

神経が伸張されると、神経内にも変化を及ぼし、その影響は以下のように言われている。

 

・神経を支配する神経内血管はコイル状を呈し、神経が伸張されるときにはコイルがほぐれるのみで血管は伸張されない。したがって、通常の運動では神経への血流が維持される。(Sunderland1978,1991,Lundborg1988)

 

・8%の伸張で神経からの静脈流が減少し始め、15%の伸張で神経内外の血流が遮断される。(Lundborgら1973;Ogataら1986)

 

・伸張により(末梢神経のみならず)脊髄の血流も低下する(Fujitaら1988)。

 

・神経は酸素不足に対して敏感であり、酸欠状態に陥ると神経機能が直ちに低下する。

 

・一方、わずかな伸張でも持続時間が長くなると虚血に陥る(6%の伸張でも、伸張が1時間続くと神経伝導は70%に低下する)

 

 

なぜ、私たちは神経が伸張されるような行為をしても、神経が伸張され虚血状態に陥らないのか?

 

例えば、肘関節屈曲位から伸展すると、正中神経の周囲組織(メカニカルインターフェース)は20%長くなるといわれている(MIllesi1986)。

 

そして、末梢神経の血流は8-15%の伸張で遮断されるため(Lundborgら1973;Ogataら1986)、もし肘関節伸展時に正中神経が全く滑走しないとすると、正中神経への血流が遮断され、虚血に陥ることになる。

 

しかし実際には私たちの正中神経に虚血は起こらない。

 

なぜなら、実際には肘関節伸展時に、近位(肩)および遠位(手関節)から神経組織が移動(滑走)し、実際の神経の伸張は4-6%に抑えられるため(Millesi 1995)であり、私たちは肘関節を伸展しても正中神経は正常に機能する。

 

ただし、滑走機能が怪我や長期臥床によって問題を起こすと、虚血など様々な神経の問題を起こしてしまうことになる。

 

 

~圧迫が神経内血流に及ぼす影響~

 

・通常の運動に伴う圧迫(生理的圧迫)では、神経障害は起こらない。

 

しかし、圧迫が約30-50mmHgを超えると血流が低下し、低酸素症、伝導障害、軸索輸送障害が生じると言われている。(Gelbemanら1983;Ogataら1986;Lundborgら199;Rempelら1999)。

 

・このような障害は神経根にもみられることが観察されている(Olmarkerら1991;Cornfjordら1996,1997,Rydevik1993)