この記事では神経ダイナミックテストの一つであり、一般的な整形外科的テストとしても認知度の高く、神経系モビライゼーションにも応用される「下肢伸展挙上テスト(SLRテスト:straigh leg raise test)」を記載していく。

 

※ただし、ここに記載しているSLRテストは「一般的な整形外科的テストとしてのSLRテスト」というよりは、徒手療法の一つである「神経系モビライゼーション寄りな表現」で記載している点は注意して頂きたい。

 

※少し馴染みの無い表現や考え方が含まれているかもしれない。

 

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目次

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SLRテストと椎間板ヘルニア(坐骨神経痛)

 

「一般的な整形外科的テスト」としてのSLRテストは、「坐骨神経へ伸長刺激を加えることで神経症状が誘発されるかどうか」をチェックするテストであり、陽性であれば以下の様に解釈する。

 

  • 患者の訴えている症状は坐骨神経痛である。
  • 神経症状の原因は、L4-L5またはL5-S椎間板ヘルニアな可能性がある。

 

椎間板ヘルニアが原因の坐骨神経痛で、病歴と理学所見の意義を検討したmeta-analysisでは、SLRテストが椎間板ヘルニアによる坐骨神経に対して感度が0.85、特異度も0.52であった。

 

また、SLRテストと安静時痛、夜間時痛、咳嗽痛み、鎮痛薬の必要度、歩行障害の関係を調査した結果では、SLRテストの結果と臨床症状は相関関係にあり、SLRテストの下肢拳上の角度が腰椎椎間板ヘルニアの重症度を表す。

~理学療法診療ガイドライン第1版 ダイジェスト版より~

 

椎間板ヘルニア

~画像引用:http://tsunepi.hatenablog.com/entry/2014/04/08/210842~

※ただし、画像の「70°以上での痛み」の解釈は、筋原性な可能性も高い。

※関連記事⇒『エンドフィールで治療選択!

 

 

SLRテストが陽性になりやすい椎間板ヘルニアや坐骨神経痛を深堀した内容に関しては、こちらも参照してもらいたい。

 

椎間板ヘルニアの対処方法

 

坐骨神経痛って何だ?

 

 

神経ダイナミックテストとしてのSLRテスト

 

前述したように、上記の様にSLRテストは「坐骨神経に機械的ストレスを与えるテスト」な訳だが、「神経系は物理的には一つの連続体」という広い視野でとらえた場合、もう少し幅の広い解釈も可能となってくる。

神経系モビライゼーション

~画像引用:治療アプローチ(理学療法ハンドブック 改訂第4版)

 

ここから先は、「一般的な整形外科的テスト」としてではなく、もう少し広い視野でとらえた上でのSLRテスト(神経ダイナミックテストとしてのSLRテスト)について記載していく。

 

神経ダイナミックテストとしてSLRテストを解釈した場合、腰仙部神経組織、坐骨神経、脛骨神経、それら下腿、足部の枝の運動と機械的感受性のテストとなる。

 

※組織鑑別では症状のある部位を最初に動かし、その後に離れた部位から神経への影響を増減する操作を加えるようにする。そうしないと神経組織に起因する症状なのか、非神経組織に起因する症状なのかを鑑別することができない。

 

つまり、例えば臀部痛を訴えている症例に対しては、まずSLRを行った後に足関節背屈を加える。

 

仮に足関節背屈→SLRの順で動かした場合、足関節背屈によって足関節周辺の非神経組織と神経組織を動かした後に、SLRによって「臀部周辺の非神経組織と神経組織」を動かすことになるため、SLRによって臀部症状が増加したとしても、どちらの組織に起因する症状変化であるかが明らかにされない。

 

あるいは腓腹部に痛みを訴えている症例には、まず足関節背屈→SLRの順で動かしていく。

 

最初に足関節背屈を行うことで「腓腹部の非神経組織(例えば腓腹・ヒラメ筋など)を動かした後にSLRを加えることによって腓腹部の非神経組織を動かすことなく神経をさらに動かすことになるため、SLRによって生じた症状変化は神経によるものとして判断することが出来る。

 

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SLRテストの手順

 

  1. 対象者は背臥位となり、両下肢をそろえて中間位をとる

    枕は使用しないor必要な時は同じ枕を用いる。

     

  2. 治療者は対象者の膝のところに立ち、一足の手は対象者の踵の下に入れ、他側の手は膝蓋骨の近位を持ち、膝伸展位を保持する。

     

  3. 対象者の下肢を伸展したままで矢状面上で挙上させる。

     

  4. 反対側と比較する

     

  5. 次の手技を加えて刺激する

 

 

SLRテストの正常反応

 

  • 健康な対象者の可動域は50~120°であるといわれている。

 

  • SLRの角度を測定することだけではあまり臨床的に有益ではない

 

  • 症候の現れ方や対側とのSLR可動域との比較、そして対象者の訴えの全てを考慮しなければならない。

 

  • 正常での症候が現れる3つの部分:大腿後面・膝後面・腓腹部から足部。

 

  • SLRを実施中に生じるかもしれない何らかの姿勢の変化は、評価する上で有益である

    ※例えば、対象者の中には頚部を伸展・屈曲・あるいは側屈してSLRの症候をなくすことがある。対側の股関節を伸展することもある。これらの反応は記録すべきである。

 

SLRテストの感作運動

 

  • 股関節内旋・内転
  • 背屈/外返し(脛骨神経)
  • 背屈/内返し(腓腹神経)
  • 底屈/内返し(腓骨神経)⇒以下の動画も参照

 

 

SLRテストの備考

 

SLRで大腿後面に症状が誘発された場合、それが筋原性か神経原性かを確認するためにはどうしたらよいか?

 

この問いの答えとしては、疼痛の質が違うということが挙げられると思うが、患者のコメントが曖昧で判断がつきにくい場合がある。

 

そんな時は、アシスタントに疼痛が誘発される角度からSLRした状態で、療法士は他動的頸部屈曲(Passive neck flexion:PNF)を試行する。

 

これにより症状が更に増強されるようであれば神経原性な疼痛を疑う(筋原生であれば脊柱の動きが影響を及ぼすことはないから)。

 

アシスタントがいない場合はactiveで頭部を挙上してもらっても良いかも(より確実に実施したいならアシスタント呼んでpassiveに)。

 

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SLR(下肢伸展挙上)はリハビリ(理学療法)にも使われる

 

理学・作業療法士の皆さんなら言うまでもないことだが、SLR(下肢伸展挙上)は運動療法としても活用される。

 

っというか使用頻度が高い。

SLR運動

 

SLR運動は、変形性膝関節症のリハビリ(理学療法)としてのエビデンスがあったりする一方で、一体どの筋が収縮しているのか?は意外と知られていなかったりする。

 

そんなSLR運動に関して、以下の記事で詳しく解説しているので、興味がある方はこちらも参照してみて欲しい。

 

SLR運動のメリット・デメリット

 

 

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