この記事では、ラセーグ徴候(ラセーグテスト陽性)とブラガードテスト)について、SLRテストとも絡めながら解説していく。
目次
ラセーグテストとSLRテスト
ラセーグテスト(Lasegue test)に関しては、プラクティカル医学略語辞典における「SLR]の項目に記述があるため、それを参考に記載する。
その記述によると、SLRとは「下肢伸展挙上:straight leg raising」の略であり、以下の意味を持つとされている。
・SLR test(下肢伸展挙上テスト)
そして、(プラクティカル医学略語辞典によると)ラセーグテストは後者の「SLRテスト」と同義とされている。
ラセーグテストの方法(ラセーグ徴候陽性or陰性)
ラセーグテストはSLRテストと同義ではあるが、念のため方法を記載しておく。
方法は以下の通り。
『背臥位にて、療法士が膝伸展位のまま(他動的に)下肢を挙上させる』
※基本は、股関節内外転中間位・内外旋中間位で挙上する。
そして、股関節屈曲70°以下で殿部~下肢後面の疼痛が生じれば陽性(ラセーグ徴候(Lasegue Sign)陽性)と表現される。
Lasegue徴候とは、下肢伸展挙上テスト時に神経根の髄膜が刺激されることで生じる坐骨神経痛を指している。
通常はL4・L5もしくはL5.51間の椎間板ヘルニアの徴候とされるが、脊髄腫瘍などでも同部の神経根が圧迫されれば陽性となる。
フランスの神経内科医Ernest-Charles-Lasegue(1816~1883)の名前を冠するが、Lasegue自身が命名したのではなく、1881年に彼の弟子がヒステリー性詐病を鑑別する方法として彼の名前を冠して記載した。
ラセーグ徴候の補足
ラセーグ徴候は坐骨神経痛・椎間板ヘルニア・後根疾患などで陽性になる可能性があり、多くは一側性に認められる。
ラセーグ徴候は、神経根の圧迫の程度に平行して強度も強くなるり、疼痛が強い時には股関節・膝関節を屈曲し、膝を完全に伸ばすことができない。
すなわちSLRテスト(ラセーグテスト)における股関節角度は少なくなる。
ラセーグ徴候が強い時には、そのまま上半身を受動的にも起こすことはできないはずなので、詐病の診断にも応用しうるとされている。
※そもそもラセーグテストは、(開発したラセーグの弟子によって)坐骨神経痛の仮病を装う兵士を鑑別するため紹介されたとされている。
※ラセーグ徴候が陽性な時は、疼痛を起こす角度と、痛みの部位とを記入しておく。
ただしラセーグ徴候は、ハムストリングスが短縮している場合においても陽性になる可能性があり、(関節角度だけでなく)エンドフィールや痛みの質も含めて考えていく。
関連記事⇒『エンドフィールによって治療選択!』
ラセーグ徴候に関して「多くは一側性に認められる」と前述したが、重症例では、健側にもラセーグ徴候が出現する。
※これを『交差性ラセーグ徴候』と呼ぶ。
※また、交差性ラセーグ徴候を評価するテストを『クロスSLRテスト』と呼ぶことがある。
腰椎椎間板ヘルニアに伴う理学所見で、SLRテストはよく知られた検査手技である。
腰椎椎間板ヘルニアの診断にSLRテストが有用であるとする報告は多い。
腰椎椎間板ヘルニアが原因の坐骨神経痛において、病歴と理学所見の意義を検討したmeta-analysis(文献総数37編)では,SLRテストが腰椎椎間板ヘルニアによる坐骨神経痛に対して信頼性のある徴候であり,敏感度(sensitivity)0.85、特異度(specificity)0.52であったとしている。
また,cross SLRは,敏感度0.30、特異度0.84であった。
その他の分析的横断研究でも、SLRテストの有用性が指摘されている。
※感度・特異度については⇒「リハビリ用語解説」を参照
椎間板ヘルニアに関しては以下の記事で深堀しているので、こちらも参照してもらいたい。
椎間板ヘルニアの対処方法
坐骨神経痛に関しては、以下の記事を参照。
坐骨神経痛って何だ?
ブラガードテストとは?
ブラガードテストは、ラセーグ徴候がハッキリと出ないときに、増強放として用いる。
方法としては「他動的に足関節を背屈させた状態での、下肢伸展挙上テスト(SLRテスト)」となる。
あるいは、以下の方法もある。
「ラセーグ徴候陽性になった角度より5°下肢を下げて(痛みが消失する角度まで下げて)、その状態で他動的な足関節背屈を強制する」
ちなみに、後者の方がお勧めな方法となる。
その理由は、一度「ラセーグ徴候陽性」となった位置から少し戻すことでハムストリングスの影響を除外した状態で、神経系の評価を出来るからである。
前述したように、ラセーグテストで誘発される「大腿後面の痛み」はハムストリングスの伸張痛としても起こり得る。
「神経症状としての放散痛」と「ハムストリングスの伸張痛」は異なるため、以下の様なクライアントの発言により分かりやすい。
・チカっとする
・ピリッとする
しかし一方で、以下の様なグレーゾーンな発言な場合もある。
・ジーンとする
・すごく痛い
そんな際は、以下の様な角度からも鑑別が可能となる。
- 表情を観察した際にも明らかに異なった反応を示す
- エンドフィールによる鑑別
- 「その痛みは、筋肉が伸ばされることによって起こる痛みだと思いますか」などと深堀した問診をする。
- (前述したように)ラセーグテスト陽性な角度から少し戻して(ハムストリングスの影響を除外したうえで)ブラガード徴候を確認する。
※「単なるSLRテスト」で疼痛が出現するのを「ラセーグ徴候 陽性」と表現するのに対して、「足関節を背屈した状態でのSLRテスト」で疼痛が出現するのを「ブラガード徴候 陽性」と表現する。
ラセーグテスト+ブラカードテスト+PNFのコンビネーション
ブラカードテストの様な足関節(下肢遠位)の刺激で疼痛が誘発されたりする。
「神経系は物理的には一つの連続体」であるために起こっているといえる。
そんな特徴を利用した理学検査の総称を「神経ダイナミックテスト」と呼び、その一覧表は以下となる。
神経ダイナミックテストの一覧表
例えば、「神経系は物理的には一つの連続体」という風に考えると、以下の動画のようににSLRテスト(ラセーグテスト)にブラカード徴候の誘発に加えて、頸部の他動的屈曲(⇒PNF:passive neck flexion)も組み合わせることで神経系の評価をすることも可能となる。
※動画では①SLRテスト(ラセーグテスト)⇒②ブラガード徴候⇒③SLRテスト+PNF の順で進む。
ボンネットテストとは
最後に(ブラガードテストと同様な)ラセーグテストを補強するテストとして「ボンネットテスト(Bonnet test)」を記載して終わりにする。
方法は「股関節を内転・内旋させた状態で、下肢伸展挙上テスト(SLRテスト)」となる。
あるいは、以下の方法もある。
「ラセーグ徴候陽性になった角度より5°下肢を下げて、痛みが消失したところで股関節を内転・内旋させる」
※前述したブラガード徴候よりは神経の伸張刺激は低い
更には、下肢伸展拳上ではなく「膝屈曲位で股関節を屈曲・内転・内旋していく」という方法もボンネットテストとなる。
ただし、この手法は坐骨神経痛の中でも『梨状筋症候群』にフォーカスしたテストとなる。
梨状筋は、股関節の屈曲角度によって作用が異なり、股関節の内転・内旋で筋を伸張しようと思った場合は、動画の様に屈曲90°以下で可動させる必要がある。
梨状筋症候群に関しては以下も参照。
梨状筋症候群を解説します
まとめ
ラセーグテストはSLRテストと同義である。
そして、SLRテスト(ラセーグテスト)で陽性所見が出たものを『ラセーグ徴候』と呼ぶ。
また、SLRテストで陽性所見がでた位置から少し戻した状態で、他動的に足関節を背屈させるテストを『ブラガードテスト』と呼ぶ。
その他のSLRテスト関連としては、「SLRテストに内転・内旋を加味した方法」で出現する徴候を『ボンネット徴候』と呼ぶ。
整理の仕方として、「全てはSLRテストをベースとしつつ、神経系への刺激の入れ方で各々の名前が異なっているだけ」といった考えがイメージしやすいのではないだろうか?
関連記事
SLRテストが陽性になりやすい椎間板ヘルニアや坐骨神経痛を深堀した内容に関しては、こちらも参照してもらいたい。
椎間板ヘルニアの対処方法
坐骨神経痛って何だ?
ここで述べてきたテストは全て神経系へ伸張刺激を入れるテストになるが、より「髄膜刺激の評価」として有名であり、尚且つSLRテストで誘発される徴候と類似した物に『ケルニッヒ徴候』があるり、こちらに関しては以下も参考にしてもらいたい。
ケルニッヒ徴候とは?+SLRテストと何が違うの?
神経学的検査は、以下の記事でまとめているので、こちらを参考にしてもらうと様々な評価を包括的に理解しやすいと思う。