~神経系モビライゼーションから、神経系への包括的アプローチへ~

 

末梢神経に対する考え方は、単に「神経を滑らせる・滑走を出す」という点のみに依存した発想は15年前くらいから終息していっており、最近は神経を動的にどうコントロールしていくのか、神経への物理的な負荷を減らすにはどうすれば良いのか、といった考えが主流になっている。

 

昔は、スライダーやテンショナーといった神経を滑走や伸長しなければいけないという考え方があったが、今はその限りではない。

 

例えば手根管症候群には、挟まっている神経を最初は滑らせておいて、あとはストレッチした方が良いという考えもあったが、今はその限りではない。

 

椎間板ヘルニアで神経が圧迫されスタッグしている部位に対して、擦るように神経を滑らせた方が良いという考えもあったが、今はその限りではない。

 

エビデンス的には、スライダー・テンショナーにおける効果はまちまちで、十分と吟味した上で使用しなければ、ほとんど効果が無い、あるいは悪化する事も起こりうる。

 

ヘルニアなどで圧迫されている神経を引っ張っても痛くて効果が無いといった事は当然起こり得るし、圧迫しているストレスを除去してあげると良いかもしれないという発想が生まれるのも当然の帰結と言える。

 

15年前に出版されたデイビッドバトラーの本は、神経モビライゼーションに対して「そういった試みも考えられる」ということで書いてあるが、当時は仮説として色んな治療方法をバトラーらが試みていただけであり、現在はバトラーが実施していない概念も多い。

 

 

~ただし効果的な場合もある~

 

一方で、神経モビライゼーションが良いという場合もある。

 

それは、ヘルニアや絞扼症候群の様に「メカニカルインタフェースが原因な可能性が高い状態」ではなく「神経が過敏になっている状態」に対して滑らせるということであり、データも存在するようだ。

 

末梢神経感作というものが1990年代後半から研究が進んである程度確認されてきて、感作と狭窄・絞扼は、両方被って出現することが圧倒的に多いことが分かってきた。

 

そのため、末梢神経感作に対してアプローチしたほうが良いのか、メカニカルインタフェースに対してアプローチしたほうが良いのかを見極める必要も出てくる。

 

※末梢神経感作の中には理学療法により改善可能なものと、理学療法では影響を与えることが出来ないものがある点も理解しておかなければならない。

 

更に中枢神経系の感作も起こっていると、中枢に対しても考慮していかなければならない。