この記事では、神経ダイナミックテストの一つであり神経系モビライゼーションにも応用される「スランプテスト」について記載してく。
スランプテストとは
スランプテストの特徴
スランプテストは、下肢の神経を最大に伸張する手技である。
スランプテストの適応
神経系に起因する頭部から足部に至る症状
スランプテストの意義
このテストは、SLRと同様に各関節の肢位を変えて、どの部位で症状が出現するかを鑑別することができる。
スランプテストの注意点
椎間板ヘルニアの疑いがある場合には、このテストを行ってはならない。
※PT自身がスランプテストを体験することは神経にストレスが加わる運動コンポーネントにはどんなものがあるかを理解する上で有用である。
スランプテストの手順
- 対象者は端坐位:
・対象者を端座位にさせ、膝裏がベッドへ当るくらい深く座る。
・脊柱を中間位に保持したままで両手を後方に組ませる。
・大腿を平行にする(股関節内外転中間位ということ)。
※大腿部をなぜ平行(内・外転中間位)にするのか?
⇒大腿を平行にする理由は、検査の一貫性を保つためである。座位をとらせたとき、男性は股関節が外転しやすく、女性では内転しやすい。すると神経系にも影響が起こるので。両膝をくっつけるのではなく、内外転中間位にする。
※仙骨がベッドと垂直になっていることを基準とし(つまり骨盤が後傾しないようにして)、以下の手順においても、この原則を必ず守る。
※テストが進んでいくうちに徐々に骨盤が後傾してきやすいが、そうなってくると症状が再現されずテストが無意味になる。
- 胸・腰椎の屈曲(スランプ肢位)-自動的に行う:
治療者は前方の手を対象者の前額において頭部を中間位に保持したまま、対象者に体幹をリラックスして屈曲位になってもらう。
つまり、頭・頚部は曲げずに、体を前方へ丸めてもらう(この際も骨盤が脊柱屈曲につられて後傾しないように)。
- 頭・頸椎屈曲―自動的に行う:
②の肢位のまま、対象者の頚部を屈曲位にしてみて痛みが出現するかをみる(治療者は後方の手と前腕で軽く運動を誘導してあげる)
- 膝関節伸展―自動的/他動的に行う:
③で痛みが出現しないことが確認できたら、③の肢位のまま健側の下肢を伸展挙上してもらう。
治療者は対象者の背中~後頭部へ前腕~手を当てておく(前腕を押しつけるわけではなく、膝関節伸展運動時に頭頸部が伸展したり、体幹が後方へ倒れたりといった代償の抵抗感をモニタリングするため)。
- 足関節背屈―自動的/他動的に行う:
④で痛みが出現しないことが確認できたら、④の肢位のまま健側の足関節を背屈してもらう。
※足関節の背屈は標準スランプテストの最終的な運動要素であり、坐骨神経と脛骨神経を介して腰仙椎神経根に緊張を加えることが出来る
- 症状が出現しない場合は、反対側の下肢で同様のテストを行う
- 組織鑑別
近位症状(例:腰部の症状)が誘発される場合→足関節背屈の解放
遠位症状(例:足部の症状)が誘発される場合→頸椎屈曲の解放
※各コンポーネント毎に痛みの有無を確認していくことが重要(正中神経の神経動的テストのように)
※まずは症状の無い側から実施すること。
※症状が出るなら、膝はその状態をキープで頭・頚部の屈曲だけを解除してみて、症状が緩和するかを評価。もし症状が緩和すれば末梢神経の問題が濃厚であるが、変化がないようであれば純粋にハムストが硬いだけな可能性も示唆される。
※健常者でもこのテスト陽性になることがある。つまり、陽性かどうかだけでなく「普段悩んでいる症状が痛みとして再現されているのか」をきちんと聞くことも大切(普段症状に困っておらず、このテストをした際だけ疼痛が誘発されるのであれば、別段気にする必要もないであろう)。
以下の様なイメージで実施する。
スランプテストの正常反応
ほとんどすべての対象者でスランプテストにより不快感や痛みが生じる。
これらの反応は正常なのか、そうでないのかを分析し、決定する必要がある。
以下に示す反応は、正常な反応と思われる。これらの反応は、症候のない対象者約250名から得られた結果である。以下にスランプテストの各段階における正常な反応を示す。
- スランプのみ:胸・腰椎屈曲―中位胸椎領域の伸張感
- スランプ+頸部屈曲:正常の50%にT8とT9領域に痛みが生じる。この反応は高齢者ではあまり一般的ではない。
- スランプ+頸部屈曲+膝伸展:
大腿後部、膝窩部の伸張感(この伸張感は腓腹部全体に拡がることがある)
膝関節伸展可動域:-30~0°
- スランプ+頸部屈曲+膝伸展+足関節背屈:
大腿後部、膝窩部の症状が増加する。
足関節背屈にいくらかの制限が生じる。
- 頸部屈曲を解放:
すべての領域の症候が減少し、膝関節伸展可動域、足関節背屈可動域が増加する。
ランプテストの感作運動
対側側屈、股関節内旋・内転、各末梢神経に対する足部の運動
スランプテストの応用
坐骨神経よりも遠位の神経を個別に評価することもできる。
例えば、スランプテストから更に足関節底屈・内反させることで浅腓骨神経・深腓骨神経を伸長させることができる。
例えば足関節内反捻挫後に半年も経過しているにもかかわらず足関節外側に疼痛が出現し続けている場合、スランプテスト+足関節底屈・内反を実施し、この症状が再現されるかどうかを評価するといった具合にも使える。
もし症状が再現されるのであれば、靭帯のみではなく、末梢神経感作も生じている可能性がある。
また、このテストで症状を誘発した状態から、体幹・頭頸部の前屈を解除することで症状が緩和するかを評価することで、一層診断を確かなものに出来る。
※その他、足関節背屈+外反→脛骨神経 足関節背屈+内反→腓腹神経 となる。
別法:側臥位でのスランプテスト
- 患者は評価側の下肢を天井にした側臥位となる。体を丸め、頭・頚椎も前屈させた状態で、反対側(ベッド側)下肢の膝を抱える。
- その状態でPTは、passiveに評価側股関節90°屈曲位にした状態から、膝を徐々に伸展していき症状が誘発されるかを評価する。もし誘発されるなら、それが筋原性か神経原性であるかを鑑別するため、頭・頚部前屈を解除させ症状の緩和が起こるかも評価する。
※圧迫骨折で座位や背臥位が取れない人の神経症状を評価してみたい場合は用いても良いかもしれない。
※大腿神経の評価も側臥位で可能。①まではスランプテストと同様。そこからpassiveに股関節0°まで評価側(天井側)の下肢を伸展させた状態から、膝関節を屈曲させていく。神経原性なのか筋原性なのかの鑑別のための方法も同様。
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