今回は、訪問リハビリや通所サービス(デイケア・デイサービス)で大切な、在宅酸素療法に関する基礎知識を記載していく。
在宅酸素療法とは
在宅酸素療法(Home Oxygen Therapy:HOT)とは、酸素欠乏による症状や病態の改善、予後の延長を図るために過程で酸素吸入を行う治療法を指す。
在宅酸素療法により、病院などではなく家庭で過ごすことができ、外出や旅行、仕事を続けることもできる。
~HTOより~
在宅酸素の適用
以下の状態で医師が在宅酸素療法を認めた場合に適応となる。
- 安定した病態にある慢性呼吸不全
- 動脈血酸素分圧(動脈血中の酸素量)が55mmhg以下、もしくは60mmhg以下で睡眠時または運動負荷時に低酸素状態を来す
- 睡眠時、または運動負荷時に著しい低酸素血症がある。
在宅酸素療法の適応となり易い慢性呼吸不全について
呼吸が何らかの原因でうまく機能せず、体の中に酸素を十分に取り込めない、または体の外に二酸化炭素を排出することが困難になることを「呼吸不全」と呼び、病状が一か月以上続いた場合を「慢性呼吸不全」と呼ぶ。
慢性呼吸不全を引き起こす主な呼吸器の病気は以下となる。
『COPD(慢性閉塞性肺疾患)、肺結核後遺症、肺線維症(間質性肺炎)、肺がん など』
慢性呼吸不全が進行すると、呼吸困難が起こり、日常生活に支障を来すようになる。
血液中の酸素が不足したままの状態が長引くと、肺以外の臓器に負担がかかり、高血圧や心不全、脳卒中、狭心症、急性心筋梗塞などの合併症を引き起こす危険性もある。
そのため、慢性呼吸不全の原因となった病気の治療と、在宅酸素療法によって酸素の足りない状態を改善する必要がある。
また、慢性呼吸不全によって血中酸素が不足すると、以下の様な症状を引き起こす可能性がある。
『頭痛・息切れ・不眠・注意力低下・記憶力低下・心臓への負担によるむくみ など』
在宅酸素療法による効果
在宅酸素療法によって以下の効果が得られる。
- 外出や仕事など生き生きとした在宅生活ができる・活動的になる。
- 息切れが改善する
- 記憶力や集中力の低下が改善する
- 入院回数が減る
- 心臓への負担が軽減する
- 寿命の延長へとつながる
↓
家庭生活や職場復帰が可能となり、生活の質(QOL)の向上につながる
酸素供給装置の種類
酸素供給装置には、酸素濃縮装置と、液体酸素装置の二種類がある。
酸素濃縮装置
酸素の空気を取り込んで窒素を取り除き、酸素を濃縮して供給する
メリット
- 操作が簡単で使いやすい
- ポータブル型は移動に便利で飛行機への持ち込みもできる
- 容易に連続使用ができる
- ボンベは長期保存ができる
デメリット
- 電気代がかかり、停電時には使用できない機種が多い
- 使用中、振動音と排熱が発生する
- 高流量の酸素吸入が必要な場合には不向き
- ボンベは常に交換が必要
液体酸素装置
液体酸素を少しずつ気化させることで、気体の酸素を供給する。
メリット
- 電気代がかからないため経済的
- 電気を使わないので停電時にも使用できる
- 高流量の酸素投与ができる
- 小器は小型・軽量かつ比較的長時間使用ができる
- 酸素濃度がほぼ100%
デメリット
- 定期的に設置型容器の交換が必要
- 充填作業がやや困難
- 小器は飛行機へ持ち込むことが出来ない。
在宅酸素の注意事項
- 経鼻カニューラとマスクの使い分け
0.5~5ℓ/分の酸素流量は経鼻カニューラ、5ℓ/分以上の流量はフェイスマスク(酸素マスク)を使用する。
- 経鼻カニューラとは
鼻に管を当てて酸素を吸うため、酸素吸入しながら会話や食事ができるが、口呼吸や鼻閉塞時には推奨されていない。
また、酸素流量が6ℓ/分以上の投与のなると酸素ガスによる鼻粘膜の乾燥が生じ、吸入酸素濃度の上昇もみられないため適応にならない。
- 酸素マスク
口と鼻をマスクで覆い酸素を吸う。
マスク内に呼気ガスが貯まらないようにするため、5ℓ/分以上の流量で使用するのが望ましいとされている。
このことにより酸素濃度は40%以上になることから、低濃度酸素吸入の方には適さないとされている。
やむを得ず5ℓ/分以下で使用する場合は、動脈血二酸化炭素分圧(動脈血中の二酸化炭素量)が上昇する危険性があり注意が必要とされている。
在宅酸素療法とCO2ナルコーシス
CO2ナルコーシスとは、酸素供給中に酸素飽和度の測定値が低い・息苦しいためにむやみに流量を上げることで起こる以下の状態を指す。
『二酸化炭素が体内に貯まって高炭酸ガス血症となった(体内にCO2<炭酸ガス>が貯まって意識障害などの中枢神経症状を呈した)状態』
急激な高炭酸ガス血症によって中枢神経や呼吸中枢が抑制され、中枢神経障害や意識障害が生じる。
また、自発呼吸が困難な状態に陥ってしまう場合もある。
頭痛・食欲不振、倦怠感があれば注意が必要なため、必要に応じて主治医に連絡する必要がある。
低酸素血症:
意識障害・呼吸困難・視力障害・不整脈・手足の冷えなど
高二酸化炭素血症:
意識障害・頭痛・発汗・動悸・高血圧
CO2ナルコーシスの予防のため、酸素がきちんと流れているかの確認は重要となる(例えば以下のチェック)
- カニューラを折り曲げ、一端酸素の流れを止めてから離すと、酸素が勢いよく流れるので流入を確認
- 電源のオンオフや移動後は必ず聞きの動作確認と、酸素が流れて呼吸出来ていることを確認
- 在宅ではカニューラを延長させ過ぎて、カニューラの一部が折れ曲がって酸素流入が阻害されていることは、意外と多いので、確認
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