この記事では、理学・作業療法士が身につけて起きたいレジリエンスについて解説していく。
また、記事の後半では「リハビリとレジリエンス」にもフォーカスを当てて解説していく。
レジリエンスとは
レジリエンスとは、もともと「反発力」「弾力性」を示す物理用語である。
ここから、「外からの力が加わっても、また元の姿に戻れる力」という意味で使われるようになった。
これは「ゴムボール」をイメージしてもらうと分かりやすい。
ゴムボールを手で押すとヘコみはするおのの、ゴムの「押し返して元に戻ろうとする力」を強く感じるはずであり、この反発力の強さこそが「レジリエンス」と言える。
レジリエンスは、「ビジネス」「教育」「子育て」「防災」「地域づくり」など様々な分野で用いられているため厳密な定義は一儀的に定まっていない。
ただし、これら様々な分野で共通しているのレジリエンスの意味は「外的な衝撃に耐え、それ自身の機能や構造を失わない力」ということである。
以降の記事では、様々な分野で用いられるレジリエンスの中で「個人に関する心理的なレジリエンス」にフォーカスして記載していく。
心理的なレジリエンス
個人のレジリエンスを構成する要素は以下とされており、これらの要素がそろっているほどレジリエンスが高いと言える。
- 自分を否定するのではなく、欠点や足りないところはあるにしても、基本的にこの自分で良いのだという、基本的な「自己肯定感(自尊感情)」
- 何かうまくいかないことが起こったときに、その状況や問題に対して自分を萎縮させるのではなく、適切な思考でとらえる「適応認知」
- 具体的な問題に対処するための「問題解決スキル」や、他の人とうまくやり取りするための「対人スキル」などの「社会的スキル」
- なにかあった時に自分を支えてくれる、頼れる人々やグループなどの「ソーシャル・サポート」
※①②に関しては認知行動療法(ABC思考法も含む)を取り入れることが有用である。
適応認知について
前述した「②何かうまくいかないことが起こったときに、その状況や問題に対して自分を萎縮させるのではなく、適切な思考でとらえること」は、認知行動療法では「適応認知」と表現される。
※適応認知は以下を参照
⇒『適応認知と非適応認知』
⇒『認知行動療法とは?』
上記のリンク先からも分かるように、ポジティブシンキングと適応認知は異なり、必ずしもポジティブシンキングがメリットばかりとは限らない。
私達は、「ネガティブな思考や感情は悪だ」「ポジティブ思考を持つべきだ」と考えてしまいがちである。
しかし、私達が将来に不安を感じたり、失敗を恐れたり、思い通りにいかないときにイライラするのは、人間にとって自然な感情・行為である。
そして、不安を感じるからこそ適切な行動を起こせたり、やる気につながることもあり得る。
また、失敗が怖いからこそ私達は真剣に取り組もうという感情や行為が芽生えることもあり得る。
怒りに関しても、適切な場面での怒り感情が、偉大な成果を上げるモチベーションへとつながることもある。
これらの例からも分かるように、ネガティブシンキングがプラスの役割を果たすこともあると言える。
つまりは、ネガティブシンキングに支配されて悪循環に陥らなければ、それは適応認知として私達に恩恵を与えてくれる可能性を秘めている。
レジリエンスをはぐくむ10の方法(米国心理学会)
米国心理学会が提唱する「レジリエンスを育む10の方法は以下の通り。
- つながりをもつ
自分のことを気にかけてくれ、自分の話に耳を傾けてくれるはずの人達から助けてもらったり支えてもらったりすることが大切
- 危機に直面したとき、乗り越えられないものと思わない
ストレスの大きな出来事が起こるという事実は変えられないが、自分がそういった出来事をどう解釈し、それらにどう対処するかを変えることはできる
- 変化は人生の一部だということを受け入れる
変えられない状況を受け入れることで、自分が変えられる状況に焦点を当てられるようになる可能性がある
- 目標に向かって進む
「私が行きたい方向に進むのに役立つことのうち、今日私が成し遂げられるのは何だろうか」と現実的な目標を設定することが大事
- 断固たる行動をとる
問題やストレスが消えてなくなれば良いと願うのではなく、断固たる行動をとる
- 自己発見の機会を見つける
喪失感に苦しんだ結果、自分自身について何かを学ぶことも多く、成長したことに気付くかもしれない
- 自己肯定感を育てる
自分の問題解決への自信をつけ、自分の直感を信じることはレジリエンスを育てるのに役立つ
- 物事を正しくとらえる
つらい状況でも、その状況をより幅広くとらえ、長期的な視点を保つ
- 将来の見通しに希望を持とう
自分が恐れていることを心配するのではなく、自分の望むことを思い描こう
- 自分を大切にしよう
自分自身が必要としていることゆあ感じていることに気を配り、自分が楽しめリラックスできる活動に関わり、習慣的に体を動かすなどによって、レジリエンスを必要とする状況に対処できる心と体を保つことができる。
同じ物事でもレジリエンス次第で解釈が変わる
喉が渇いた人に、水を満たしたコップを差し出し、半分だけ飲んでもらうとする。
そして「水の量が半分になったコップを見ててどう思うか」で、その人の性格が分かるというのはよくある心理テストだ。
「まだ半分も残っている」と思った人は楽観的でポジティブ思考な人、「もう半分しか残っていない」と思った人は悲観的でネガティブ思考な人、といった具合だ。
そしてこれは、リハビリ現場でも言えることがある。
リハビリが進んで半分くらい改善が見られた際に、クライアントから以下のどちらの発言があるかで、その人の思考がどちらに偏りがちかが分かってくる。
- 半分ほど改善が見られた。きっと今後も改善していくに違いない
- まだ半分しか改善できていない。これ以上改善しないのではないか?元気な時と比べると悲しくなってくる
そして病気の治癒が早いのは、断然前者であることが分かっている。
前述したように、レジリエンスとは必ずしもポジティブ思考を指すわけではない。
しかし、病気・症状の治癒に関して言うならば、「レジリエンス=反発力」という解釈からも分かるように、「いかに病気に立ち向かっていけるか」という能力を指し、この点だけにフォーカスすればポジティブ思考に越したことは無いのかもしれない。
レジリエンス関連記事
レジリエンスと同じような意味の言葉に「セルフエフィカシー」がある。
そして、こちらの方がクライアントの心理として用いられ易い印象を受ける。
是非こちらも参考にしてみてほしい。