この記事では、インナーマッスルの一つである腹横筋に関して、リハビリ(理学療法)も含めてまとめている。

 

目次

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腹横筋の基礎知識

 

腹横筋の基礎知識を以下に示す。

 

起始

第7~12肋軟骨の内面

腸骨の腸骨稜の内側唇

鼡径靭帯の外側部

胸腰筋膜(を介して腰椎の肋骨突起)

停止 腹直筋鞘を介して白線
作用

第6~12肋骨を引き下げる。

※その他の機能は、後述する「腹横筋の特徴」を参照

神経 肋間神経・腸骨下腹神経・腸骨鼡径神経・陰部大腿神経(T5~L2)
筋連結 腹横筋は、横隔膜(腱)、外腹斜筋(白線)、内腹斜筋(腱)、腰方形筋(腱)と連結する
腹横筋/ドローイン
腹横筋/インナーマッスル

腹横筋のリハビリ(理学療法)
画像を観てもらえばわかるように、腹部をグルッと覆っており「天然のコルセット」などと呼ばれることもある。

 

※背側では、胸腰筋膜(を介して腰椎の肋骨突起)に停止している。

 

※腹横筋が適度に収縮していると胸腰筋膜が緊張し、(腹腔内圧が安定することも合わさって)体幹の軸が安定するとされている。

 

ちなみに腹筋群、腹直筋・外腹斜筋・内腹斜筋が存在するし、腹横筋は最深部に位置する。

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腹横筋の特徴

 

腹横筋は、腰背筋膜を介して脊柱に直接付着しているためローカル筋と捉えることができる。

関連記事⇒『インナーマッスルの段階的リハビリ(理学療法)

 

しかし、多裂筋のように特定の分節の挙動を司るわけではなく、(胸腰筋膜を介して)複数の腰椎の横突起(=肋骨突起)に付着している。

関連記事⇒『多裂筋を徹底解説!

 

 

腹横筋は両側性に収縮すると以下の現象が起こることが報告されている。

・腹囲の減少および腹圧の上昇

 ↓

・胸腰筋膜および前方の筋膜が緊張

 ↓

・胸腰筋膜の緊張がニュートラルゾーンにおける腰椎の剛性を向上させる

 

また、腹横筋は仙腸関節の安定性を増加させることが報告されており、仙腸関節障害に対するリハビリ(理学療法)においても重要な筋の一つと言える。

 

※従って、仙腸関節機能障害の予防・改善にも重要な筋と言える。

関連記事⇒『仙腸関節に対するリハビリ(理学療法)を徹底解説!

 

また、腹横筋の下部線維は同側方向への体幹回旋時に大きな活動量を示したとの報告から、腹横筋は体幹回旋動作にも関与していると考えられている。

 

 

腹横筋のリハビリ(理学療法)

 

ここから先は、腹横筋のリハビリ(理学療法)として、体幹安定化運動の一つである「ドローイン(draw-in)」について記載していく。

 

※ドローインは「ホローイング(Harrowing)」と呼ばれることもある。

 

※あるいは「ホローイングドローイン((hollowing draw-in)」と呼ばれることもある。

 

※体幹安定化運動はローカル筋を含めた体幹筋の神経筋協調性の改善を目的とした運動となる。

 

※ドローインを適切に行うことで、腹横筋の筋活動が特異的に高まる。

 

 

ドローインの方法

 

  1. 背臥位で膝を立ててリラックスする。

     

  2. 患者は下腹部を意識し「お臍を凹ますように」指示し、ドローインを10秒程度キープしてもらう。

    ※この時、呼気に合わせると容易となる。

    ※つまりは、まず吸気に合わせてお腹を膨らませた後に、呼気に合わせて「お臍を凹ますように」腹部を凹ませていく。

     

  3. 10秒キープが可能なら、ドローインをキープした状態で、自然な呼吸を繰り返してもらう。

    ※吸気で腹横筋が脱力し易いため注意する。

     

 

 

 

ドローインの動画としては、以下が非常に分かりやすい

 

 

理学療法士は、ドローインにより腹横筋が適切に収縮しているかどうかを触診によってモニタリングする。

 

腹横筋の収縮を触診する方法:

 

上前腸骨棘からやや臍側、やや尾側に理学療法士の指腹を置く。

 

弛緩している状態では柔らかいが、収縮すると張るような硬さを感じる

 

 

超音波で確認すると、以下の点が確認できるので、これらをイメージしながら収縮を確認すると分かりやすいかもしれない。

 

ドローインが正確に遂行出来ている場合:

⇒まず腹横筋の収縮によって筋膜が緊張し、その後に腹横筋の筋厚が増加

 

ドローインが正確に遂行出来ていない場合:

⇒腹横筋の収縮と同時に内腹斜筋の筋厚が著しく増加

 

 

ちなみにドローインは「背臥位・下肢屈曲位」が実施易いが、慣れてきたら腹臥位・四つ這い・立位など、どのような肢位でも可能である。

 

 

腹横筋を正しく収縮させるために

 

腹横筋を収縮させるための声掛けとしては、以下の様な表現で、クライアントがピンとくる言葉を用いる。

 

『お臍を背中に近づけるように、下腹部を少し凹ませましょう』

 

ポイントは『少し凹ます』という事である。

 

高齢者では、あまり細かく指示しすぎると逆に混乱してしまうこともあり、個人的には「お腹をキュッと凹ました状態をキープして、楽な呼吸を繰り返してください」といった誇張した表現を用いることも多い。

 

ただし、選択的に腹横筋を収縮したいのであれば、この表現だと内腹斜筋なども働いてしまうため「下腹部を少し凹ます」ような収縮が「厳密な意味で」正しい腹横筋の選択的収縮となる。

 

ドローインは、(正しく行われることによって)グローバル筋(腹直筋・外腹斜筋)の活動量が抑制された中で、腹横筋の活動が最も大きくなるとされている。

 

しかし、単純に「下腹部を引きこむ動作」では、腹横筋のみならず、内腹斜筋や外腹斜筋の活動も同時に起こることが超音波画像で確認されている。

 

なので(重複するが)「下腹横筋が単独収縮する程度のドローイン」としては、お腹がベッコリと凹む程度ではなく、「軽い力で、少し腹部が凹む程度のドローイン」が重要となる。

 

※結局は、他のインナーマッスル、更にはアウターマッスルと共調した収縮が重要なので、「選択的な腹横筋の収縮」にどの程度意義があるかと言った個人的な思いは脇において、この記事ではあくまで「厳密な方法」を記載している。

 

また、高齢者の中には、声掛けでもピンとこない場合があり、その際は、ベルトを腹部(臍上)に巻いて(締め付けるわけではない)指導するのも効果的である。

 

すなわち、「(腹部に巻いた)ベルトが緩むように、臍を凹ませて」と伝えるとピンとくる場合もあるという事になる。

 

※可能であれば「ベルトが緩むように臍を凹ませ続けたまま、自然に呼吸をしてみて」と、更に効果的となる。

 

※最初は大げさなドローイン(腹横筋のみならず他の筋群も収縮している)させた後に、「ベルトが緩むか緩まないかのスレスレのポイントでお腹の凹みをキープして」と段階的に指導すれば、選択的な腹横筋の収縮が得られる。

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腹横筋収縮によって起こること

 

腹横筋は、前述したように、腰背筋膜の張力を調節する様な役割を持っていると考えられている。

 

従って、腹横筋を選択的に収縮させる『ドローイン』によって以下が起こる可能性がある。

 

・腹横筋が収縮力する

 

 ↓

 

・ 腹横筋の付着部である腰背筋膜の緊張力が高まる

 

 ↓

 

・腰椎が直線化+骨盤の後傾を起こす 脊柱の腰椎における動きが、均等に各分節で起こり、一部の分節のみにストレスが集中するのを予防する(つまり関節不安定性が起こることを予防する。

 

・あるいは既に生じている関節不安定性に対して、腰椎が可動する際のストレスを分散させる働きがある。

 

 

※腹横筋を含めたインナーマッスルは体幹深部に位置しているため、筋活動様式については不明な点が多いが上記の様に一般的には言われている。

 

 

腹横筋のリハビリ(ドローイン)からの応用

 

腹横筋のドローインが上手くなったら、ドローイン(お臍を背中に近づけるように下腹部を少し凹ませた状態)をキープしながらの様々なリハビリ(理学療法)に進んでいく。

 

例えば、ドローインをキープしながら、10秒くらいかけてゆっくりと「足踏み」や股関節の外転(開排)⇔内転を繰り返すなど。

 

※ピラティスでは、呼気と一緒に四肢を動かすが、そこまで気をつけなくてもOK(ただし、楽な呼吸は意識)。

 

※下肢を動かした際に、骨盤や脊柱が動いたり腹横筋が脱力したりしないよう注意する。

例えば、右股関節の開排を例にしてみよう。

 

背臥位・両下肢屈曲位でドローインをキープしたまま、右側の股関節を10秒かけて開排し、10秒かけて戻してもらう。

 

 

その際に、理学療法士は以下の点に着目してみてほしい。

 

  • 骨盤(例えば両方のASISを結んだ線)はベッドと平行なままだろうか(右側へ若干ではあっても、下肢の重みにつられて傾斜していないだろうか?)

     もし傾斜しているのであれば、腰椎~腰仙移行部が安定できていないので、「傾斜しない範囲での開排」にレベルを落としてみる。

 

  • あるいは、右下肢の運動時、左膝は動揺していないだろうか?

    大きく動揺するのであれば、よっぽど姿勢制御が苦手な人だが、そうでなくとも通常は微妙に揺れる。

    なので、それを制御するよう意識してもらう。

    ピンとこない人は、閉眼してもらうと良い。

 

※ドローインは必ずしも臥位で実施しなければならないというものではなく、立位でも可能である。

 

※四肢の動きは多くのバリエーションがあり、単純なもので構わない。複雑だと腹横筋の収縮がおろそかになる。

 

 

ではでは、以上の点を踏まえつつ、ドローインを用いた腹横筋トレーニングのイラストを掲載しておく。

 

(ドローインを維持しつつ)一側の開排運動

 

ドローインを維持しつつ「一側下肢の開排運動(膝を外へ開いたり閉じたり)」という動的運動も取り入れていく。

 

下肢の開排に伴って骨盤も回旋してしうことがあるが、これはエラーである。

 

 

 

(ドローインしつつ)一側下肢を屈伸させる

 

背臥位で両膝屈位(要は膝を立てておく)。

 

その状態でドローインを維持しつつ以下の運動を実施。

 

①一側(イラストでは右下肢)の下肢を(膝90°屈曲位のまま)股関節90°屈曲位まで曲げる⇔膝立て位に戻す。

 

②一側(イラストでは右下肢)の踵を床に滑らせるように伸展(伸ばす)⇔屈曲(膝立て位に戻す)

 

 

 

③一側(イラストでは右下肢)を「膝伸展位のまま挙上(股関節屈曲)」させる。

※要はドローインを維持しながら、『SLR運動』をゆっくりと実施するということ。

※下肢の挙上角度はわずかでも構わない(特に決まりはない)。

 

 

 

更なる応用

 

前述した「(ドローインを維持しつつ)一側下肢を屈伸させる」とういう方法を対側下肢を抱えた状態で実施するといった応用の仕方がある。

 

具体的には以下のイラストを参照。

 

※前述した方法との違いは、「対側の股関節を90°屈曲位になるよう抱えているかどうか」の違いだけなので、解説は割愛する。

 

①ドローインを維持しつつ、右下肢を屈曲したり戻したり

 

 

②ドローインを維持しつつ、右踵を床に滑らせることで下肢の屈伸

 

 

③ドローインを維持しつつ、右下肢のSLR運動

 

 

更に、更に応用

 

ここから先は、同じような運動の繰り返しになるが、前述した「ドローイン+反対側下肢を抱えた状態」ではなく「ドローイン+反対側下肢を(膝を抱えず)股・膝関節屈曲位にキープした状態」でのエクササイズでは、更に難易度が高まる。

 

百聞は一見に如かず っということで、ぜひ自身でも試してみて難易度などを確認してみてほしい

 

 

その他の腹横筋のリハビリ(理学療法)のヒント

 

ここまで記載してきた以外の、腹横筋に関するリハビリ(理学療法)のヒントとしては以下が挙げられる。

 

 

骨盤後傾運動と腹横筋

 

立位にて骨盤後傾の自動運動を行った場合、腹横筋の活動量が他の筋(腹直筋・外腹斜筋・脊柱起立筋)に比べて優位に大きかったとの報告がある。

 

※多裂筋は、腹横筋ほどではないが、腹直筋・外腹斜筋・脊柱起立筋よりは活動量が大きかった。

 

これらの事から、座位や立位での骨盤後傾の自動運動(あるいは自動介助運動)は腹横筋を賦活出来る可能性がある。

 

また、多裂筋は骨盤前傾自動運動で賦活出来る可能性があるため、背臥位におけるペルビックチルト(骨盤をニュートラル⇒後傾位⇒ニュートラルに戻す)を含めた様々な肢位での骨盤の前後傾運動は、腹横筋・多裂筋を含めたインナーマッスルを賦活出来る(初期段階のトレーニングとして活用できる)可能性がある。

 

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腰痛と腹横筋

腰痛を有した患者は姿勢保持機構が正常に働かず、特に腹横筋は「急激な四肢の運動」に対して先行的に活動して体幹を安定させる機能が不十分となっている可能性が指摘されている。

 

上肢の動きに対する腹横筋の筋活動を測定した結果、上肢の緩徐な運動では健常者・腰痛者ともに腹横筋の先行的な活動は見られなかったが、上肢の急速な運動では腰痛者では健常者と比較して腹横筋の活動が遅延しており、上肢の運動方向に関わらず主動作筋より遅かった。

腰痛の病態別運動療法より~

 

そして、腰痛が改善された後も、この姿勢保持機構の機能異常は改善されないまま残存してしまっている可能性があり、腰痛再発防止の観点からも腹横筋を含めたインナーマッスルのトレーニングは重要と思われる。

 

 

番外編:バランスボールによる腹横筋のトレーニング

 

バランスボールを使用することによる骨盤運動で腹横筋を含めたインナーマッスルの賦活も期待できる。

詳しくは以下を参考にしてみてほしい。

⇒『バランスボールによる骨盤運動を、腰痛の改善/予防に活かしてみよう

 

 

腹横筋のリハビリ(理学療法):終わりに

 

ここまで、腹横筋を選択的に収縮させるリハビリ(理学療法)としてドローインを紹介してきた。

 

しかし、(ここまで記載してきて言うのもなんだが)、腹横筋の選択的収縮は「体幹安定化運動」のとっかかりに過ぎない。

 

例えば、急激な外力が加わった時の姿勢制御・転倒予防の際に発揮される際に重要なのはインナーマッスルというよりは、(インナーマッスルも協調的に収縮したうえでの)アウターマッスルが重要だと言われている。

 

同様に、体幹安定化にとって重要なのはドローイン(に終始するのではなく)、ブレーシング(bracing)だという意見が多い。

 

※ブレーシングとは、腹筋群をカチカチに固めるような筋収縮を指す。

 

書籍:オーチスのキネシオロジーには、ホローイング(=ドローイン)やブレーシングに関して以下の様な記述がある(プリング・インなる用語も登場する)。

 

腹壁を活動させる軽強度のエクササイズには『ブレーシング』『ホローイング』『プリング・イン』と様々なものがある。

 

これらのエクササイズの名称と様式についてはかなりの混乱がある。

 

これらのエクササイズは異なる人々が、それぞれに意味をつけている。

 

この議論の目的のために以下の内容からみた定義を用いる。

 

・ブレーシング(引き締め):

腹腔内圧を高める腹壁の等尺性収縮

 

・ホローイング(引き込み):

下位肋骨の挙上を伴って前腹壁を明らかにへこませる運動

 

・プリング・イン(引きつけ):

腹部の平定化と下位肋骨の下制を伴った腹壁の求心性収縮

 

 

関連記事

⇒『ブレーシング!脊椎安定化のために知っておいて損は無い?(+ドローインとの違い)

⇒『筋の収縮様式(求心性/遠心性/静止性/等尺性/等張性収縮)

 

 

また、インナーマッスルに関しても、それぞれの単独収縮ではなく、いかに協調させて収縮させるかが重要だとする意見が圧倒的に多い。

 

従って、ドローインはエクササイズのとっかかりに過ぎず、他のインナーマッスル及びアウターマッスルと協調して働かせるトレーングを段階的に実施していくことが重要となる。

 

腹部を引き込ませる方法は腹直筋の収縮を少なくして安定性に重要である腹横筋の収縮を高める運動として注目されてきた。

 

しかしすでに述べているように、この方法は腹横筋だけを収縮させる運動でないことが分かり、さらに腹横筋による安定性強化として考えられてきた運動の効果も疑問視されている部分もある。

 

腰痛のない健常者においても25%は内腹斜筋・腹横筋の収縮を独立して高めることは出来ていないことも含め、腹横筋・多裂筋など単独の筋を鍛えれば十分であるという考えは捨て、初期はこの運動を取り入れても徐々に姿勢を変え、上下肢の運動など他の運動も取り入れる必要がある。

パリス・アプローチ 実践編

 

そんな『段階的なインナーマッスルのトレーニング』に関しては以下も参照して頂きたい。

 

インナーマッスルの段階的トレーニングを紹介!

 

 

腹横筋の関連記事

 

腹横筋以外の体幹インナーマッスルは以下を参照してもらいたい。

 

多裂筋を知らずしてコアは語れない

 

骨盤底筋の重要性を徹底解説!

 

 

※ちなみに、記事内でもリンクを貼ったが、腹横筋トレーニング(っというかコアトレーニング)としてドローインと同様に有名な『ブレーシング』については以下の記事でも補足的に紹介しているので興味がある方は観覧してみてほしい。

 

ブレーシング!脊椎安定化のために知っておいて損は無い?(+ドローインとの違い)

 

 

また、インナーマッスルと結び付けられることの多い「バランス能力の向上・転倒予防」に関しては、以下の記事で言及しているので、こちらも参考してもらいたい。

 

永久保存版!バランス運動(トレーニング)の総まとめ

 

知らなきゃ損!バランス評価テストのカットオフ値まとめ