この記事では、『肩甲骨のMMT(徒手筋力テスト)』を記載している。
簡潔に記載しているので、MMT(徒手筋力テスト)を忘れてしまったリハビリ職種(理学療法士・作業療法士)、看護師、学生さんなどは、是非活用してみてほしい。
また、「MMTの基礎」や「肩甲骨以外のMMT」に関しては記事最後のリンク先『MMT(徒手筋力検査)のやり方』でまとめているので、こちらも併せて観覧してもらうと知識が整理できると思う。
目次
肩甲骨の動き
肩甲骨のMMTを記載する前に、まずは肩甲骨の動きについて記載していく。
肩甲骨の動きは以下がある。
挙上:
肩甲骨の上方への移動(肩を上にすくめる動き)
外転:
脊柱に対して肩甲骨が外方に離れていく動き(肩を前に突き出す動き)
外転と上方回旋:
肩関節を屈曲や外転したときの動き
内転:
脊柱に対し肩甲骨を内方に近づける動き(肩を後ろに引き込む動き)
下制と下方回旋:
肩を下に引き下げる動き
下制と内転:
念のため、以下に肩甲骨の運動に関するイラストを掲載しておく。
①肩甲骨の挙上
②肩甲骨の外転
③肩甲骨の上方回旋
④肩甲骨の下制
⑤肩甲骨の下方回旋
⑥肩甲骨の内転
肩甲骨外転と上方回旋のMMT(徒手筋力テスト)
肩甲骨外転と上方回旋の主動筋
・前鋸筋(長胸神経)
肩甲骨外転と上方回旋MMTの方法
段階5,4,3の肩甲骨外転と上方回旋MMT:
患者体位:
・端坐位(腰掛け坐位)
・検査側上肢は肘伸展位にて130°前方挙上位(肩屈曲位)を維持
MMTの方法:
・検者は、テストする側に立つ
・患者には上肢をそのままの位置を維持するよう指示しておく
・抵抗は一方の手で上腕中央に下に押し下げるよう加える。
※厳密には「単純な腕を下げる方向への抵抗」というよりも「上肢を長軸l方向に圧迫しながら肩甲骨内転方向に抵抗を加えるイメージ」も加味した抵抗の方が良い。
・他方の手で肩甲骨の「外側縁から下角の前方」で前鋸筋の収舗を確認しながら行
う。
MMTの判定基準:
段階5:
最大の抵抗に抗し、肩甲骨の外転・上方回旋位を維持できる
段階4:
最大の抵抗では、肩甲骨が内転・下方回旋方向に動揺が見られる
段階3の肩甲骨外転と上方回旋MMT:
患者体位:
・端坐位(腰掛け坐位)
・検査側上肢は肘伸展位にて130°前方挙上を維持
MMTの方法:
・検者は、抵抗は加えない
・運動中、一方の手で肩甲骨下側の輪郭を触診する
MMTの判定基準:
段階3:
抵抗がなければ全ての運動範囲を運動でき、かつ最終点を保持できる
※前鋸筋に筋力減弱
屈曲角度の減少(<90°⇒翼状肩甲)
段階5,4,3の別法
患者体位:
・端坐位
・検査側上肢は肘伸展位にて130°挙上位を維持
MMTの方法:
・検者は、テストする側に立つ
・検査する側の上肢の手首をつかみ、その長軸に沿って下後方に押し込む
・他方の手は肩甲のすぐ下にあて体幹の回旋を防ぐ
MMTの判定基準:
・前述の方法に準ずる
段階2の肩甲骨外転と上方回旋MMT:
患者体位:
・端坐位
・検査側上肢は90°以上前方挙上させ、その位置で検者が支持
・支えられた位置以上の挙上運動を行わせる
MMTの方法:
・検者は、テストする側に立つ
・上肢を挙上しようとした際の肩甲骨の動きを下角周囲の輪郭から触診する
MMTの判定基準:
段階2:
支えられた位置以上に挙上できないが、肩甲骨外転・外旋の動きを触れる
外転・外旋の動きを認めない・内転方向に動く場合は『段階2-』と判断
段階1,0の肩甲骨外転と上方回旋MMT:
患者体位:
・端坐位
・検査側上肢は90°以上前方挙上させ、その位置で検者が支持
・支えられた位置以上の挙上を行わせる
MMTの方法:
・検者は、テストする側に立つ
・上肢を挙上しようとした際に肩甲外縁に前筋の収縮を触れるかを診る
MMTの判定基準:
・段階1⇒筋の収縮が触知できる
・段階0⇒筋の収縮を認めない
肩甲骨挙上のMMT(徒手筋力テスト)
肩甲骨挙上の主動筋
・僧帽筋(上部線維)⇒副神経
・肩甲挙筋⇒肩甲背神経
肩甲骨挙上の方法
段階5,4,3の肩甲骨挙上MMT:
患者体位:
・端坐位
・肩をすくめる運動を行う(両手は膝の上に軽く置いておく)
MMTの方法:
・検者は患者の後側に立つ
・両手を両肩の上に置き、下に押し下げるよう抵抗を加える。
MMTの判定基準:
段階5:
全可動範囲を運動でき、かつ最大の抵抗に抗し最大挙上位を維持できる
段階4:
全可動範囲を運動でき、強~中等度の抵抗に抗し最大挙上位を維持できる
段階3の肩甲骨挙上MMT:
患者体位とMMTの方法:
・端坐位
・肩をすくめる運動を行う(自動運動)
MMTの判定基準:
段階3:
抵抗がなければ全ての可動範囲を運動でき、かつ最大挙上位を維持できる
段階2,1,0の肩甲骨挙上MMT:
患者体位の方法:
・伏臥位または仰臥位
・伏臥位をとる場合、頭部は一方に向けても良いが正中位が検査は正確
MMTの方法:
・検者は、テストする側に立つ
・検査する側の肩を下から支えながら、肩をすくめる運動を行わせる
MMTの判定基準:
段階2:
重力の影響を取り除けば、肩甲骨の運動範囲を完全に動かせる
段階1:
頸部または鎖骨部に僧帽筋上部線維の収縮を触れうる
肩甲挙筋は後方から僧帽筋、側方から胸鎖乳突筋に覆われ触れにくい
段階0:
収縮を触れることができない
代償運動:
肩甲骨の内転・下方回旋→菱形筋群
肩甲骨内転のMMT(徒手筋力テスト)
肩甲骨内転の主動筋
・僧帽筋(中部線維)⇒副神経(XI)
・大菱形筋⇒肩甲背神経
肩甲骨内転MMTの方法
段階5,4,3の肩甲骨内転MMT:
患者体位:
・腹臥位
・肩は台上に乗せる
・頭の向きは任意でよい
・肩外転90°位
・肘は屈曲とし手先は下に垂らす
MMTの方法:
・検者は、検査する上肢の側に立つ
・上肢の水平外転を行わせ、抵抗を上腕遠位部に床へ押し下げるよう加える
・他方の手で反体側の肩甲骨を押さえ体幹を安定させる
(可能なら指を伸ばし僧帽筋・肩甲の動きを触診する)
MMTの判定基準:
段階5:
全可動範囲を運動でき、かつ最大の抵抗に抗して最終点を維持できる
段階4:
全可動範囲を運動でき、強~中等度の抵抗に抗して最終点を維持できる
段階3:
抵抗がなければ全ての可動範囲を運動でき、かつ最終点を維持できる
段階2,1,0の肩甲骨内転MMT:
患者体位:
・腹臥位
・肩は台上に乗せる
・顔は任意の方向に向ける
・肩外転90°位 肘は屈曲とし手先は下に垂らす
MMTの方法:
・検者は、検査する上肢の側に立つ
・一方の手で検査側の肩と上腕を支えながら上肢の水平外転を行わせる
・他方の手で肩甲棘の上縁に僧帽筋中線維を触診する
MMTの判定基準:
段階2:
重力の影響を取り除けば、運動範囲の一部を動かせる
段階1:
筋の収縮を触れうる
段階0:
収縮を触れることができない
代償運動:
菱形筋群のみが作用している場合→内転に加え下方回旋も起きる
三角筋のみが作用している場合→肩関節の水平外転は認めても肩甲骨は不動
肩甲骨下制と内転のMMT(徒手筋力テスト)
肩甲骨下制と内転の主動筋
・僧帽筋(下部線維)⇒副神経(XI)
肩甲骨下制と内転MMTの方法
段階5,4,3の肩甲骨下制と内転MMT:
患者体位:
・腹臥位
・頭の向きは任意で良い
・検査側上肢は、肘伸展位にて145°外転 前腕は母指が天井を向く位置
MMTの方法:
・検者は、テストする側に立つ
・運動は上肢を少なくとも耳のさまで持ち上げさせる
・一方の手で上腕遠位部に抵抗を加える
・他方の手で肩甲棘の下縁より広がる僧帽筋下部線維を触診する
MMTの判定基準:
段階5:
全可動範囲を運動でき、最大の抵抗に抗し上肢を持ち上げた状態を維持可
段階4:
全可動範囲を運動でき、強~中等度の抵抗に抗し最終点を維持できる
段階3:
抵抗がなければ全ての可動域を運動でき、かつその位置を保持できる
段階2,1,0の肩甲骨下制と内転MMT:
患者体位:
・腹臥位
・検査側上肢は伸展位にて145°外転
MMTの方法:
・検者は、テストする側に立つ
・患者の上肢を肘の下で支え、上肢の重量の影響を除いてテストを行う
段階2:
上肢の重力の影響を取り除けば、肩甲骨の運動範囲を完全に動かせる
段階1:
肩甲棘根部と下部胸椎(TH7~12)間の三角に僧帽筋下部線維を触れうる
段階0:
収縮を触れることができない
肩甲骨内転と下方回旋のMMT(徒手筋力テスト)
肩甲骨内転と下方回旋の主動筋
・大菱形筋(肩甲背神経)
・小菱形筋(肩甲背神経)
肩甲骨内転と下方回旋MMTの方法
段階5,4,3の肩甲骨内転と下方回旋MMT:
患者体位:
・腹臥位
・頭の向きは任意でよい
・検査側上肢は、肘屈曲位にて肩関節内旋・内転に (後ろ手を回した状態)
MMTの方法:
・検者は、テストする側に立つ
・抵抗は上腕遠位部(肩伸筋力3 以上)
・肩甲骨外側縁(肩伸筋力弱いとき)に下外方に加える
・他方の手で肩甲骨内側縁の下に深く差し入れる(菱形筋群を触診)
MMTの判定基準:
段階5:
全可動範囲を運動でき、かつ最大の抵抗に抗し最終点を維持できる
肩甲骨下で触診する指は収縮に伴い「はじき出される」
段階4:
全可動範囲を運動でき、かつ強~中等度の抵抗に抗し最終点を維持できる
肩甲骨下で触診する指は収縮に伴い「はじき出される」のが普通
段階3:
抵抗がなければ全ての可動域を運動でき、かつその位置を保持できる
段階2,1,0の肩甲骨内転と下方回旋MMT
患者体位:
・端坐位
・検査側上肢は、肘屈曲位にて肩関節内旋・内転に (後ろ手を回した状態)
MMTの方法:
・検者は、テストする側に立つ
・患手を背中から伸展方向に持ち上げさせる
・菱形筋群を肩甲骨内側縁の下にあてた指で触診
MMTの判定基準:
段階2:
肩甲骨の運動範囲の一部を動かせるもの(6 版)
肩甲骨の動かせる範囲全体に動かせるもの
段階1:
筋の収縮を触れうるもの
段階0:
収縮を触れることができない
段階2,1,0の肩甲骨内転と下方回旋MMTの別方法:
患者体位:
・腹臥位
・検査側上肢は、肩45°外転・肘90°屈曲で後ろ手を回した状態
MMTの方法:
・検者は、テストする側に立つ
・肩・肘を下から支え測定肢位を維持
・患手を背中から伸展方向に持ち上げさせる
・菱形筋群を肩甲骨内側縁の下にあてた指で触診
MMTの判定基準:
段階2:
肩甲骨の運動範囲の一部を動かせるもの
段階1:
筋の収縮を触れうるもの
段階0:
収縮を触れることができない
代償運動:
→内転のみが起こり下方回旋を認めない→僧帽筋中部線維の作用
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