この記事では、『肩関節のMMT(徒手筋力テスト)』を記載している。
簡潔に記載しているので、MMT(徒手筋力テスト)を忘れてしまったリハビリ職種(理学療法士・作業療法士)、看護師、学生さんなどは、是非活用してみてほしい。
また、「MMTの基礎」や「肩関節以外のMMT」に関しては記事最後のリンク先『MMT(徒手筋力検査)のやり方』でまとめているので、こちらも併せて観覧してもらうと知識が整理できると思う。
目次
肩関節屈曲(前方拳上)のMMT(徒手筋力テスト)
肩関節屈曲(前方拳上)の主動筋
・三角筋(前部線維)⇒腋窩神経
・烏口腕筋⇒筋皮神経
肩関節屈曲MMTの方法
段階5,4,3の肩関節屈曲MMT:
患者体位:
・端坐位
・両上肢は体側に垂らしておく
MMTの方法
・検者は、テストする上肢の側に立つ
・肘関節は軽度屈曲位、前腕を回内位にて肩関節90°まで屈曲させる
・抵抗は上腕部遠位に与える
・他方の手を肩峰部におき肩関節固定に用いてもよい
MMTの判定基準:
段階5:
最大の抵抗に抗し、最終位置(90°屈曲位)を維持できる
段階4:
強力~中等度の抵抗に抗し、位置を保ち続ける
段階3:
抵抗がなければ肩関節90°まで屈曲可能で、かつ最終位置を保持できる
段階2,1,0のMMT:
患者体位:
端坐位
両上肢は体側にあり垂らしておく
MMTの方法:
・検者は、テストする上肢の側に立つ
・肘関節は軽度屈曲位、前腕を回内位にて肩関節90°まで屈曲させる
・他方の手を肩峰部におき肩関節固定に用いてもよい
MMTの判定基準:
段階2:
運動範囲の一部でも動かせるもの
段階1:
運動はできないが、三角筋前部に収縮を触知、視認できるもの
(烏口腕筋の触知、視認は不可)
段階0:
収縮を触れることができない
代償運動:
・肩関節外旋位での肩屈曲→上腕二頭筋の作用
・肩甲骨の挙上が目立つ→僧帽筋上部線維の作用
・肩関節の水平内転が目立つ→大胸筋の作用
・体幹の側屈、伸展運動
以下は上腕二頭筋による代償(上腕二頭筋が作用すると肩関節が外旋する)
肩関節伸展(後方拳上)のMMT(徒手筋力テスト)
肩関節伸展(後方拳上)の主動筋
・広背筋⇒胸背神経
・大円筋⇒肩甲下神経
・三角筋(後部線維)⇒腋窩神経
実際には(他のMMTにも言えることだが)多くの筋群が肩関節伸展に関与しており、以下の動画はそれらを分かり易く示してくれている(拮抗筋が伸張される様子も示してくれている)
肩関節伸展MMTの方法
段階5,4の肩関節伸展MMT:
総括的な肩関節伸展テスト:
患者体位:
・腹臥位
・両側上肢は、体側に置く
・肩関節は内旋位(手掌を上向きに)
MMTの方法:
・検者は、テストする側に立つ
・患手を台から持ち上げさせる
・抵抗は上腕遠位部後面に下向きに加える
MMTの判定基準:
段階5:
全可動範囲を運動でき、かつ最大の抵抗に抗し最終点を維持できる
段階4:
全可動範囲を運動でき、かつ強~中等度の抵抗に抗し最終点を維持できる
最大の抵抗では最終点で負けてしまう
広背筋を分離判別する方法:
患者体位:
・腹臥位
・頭部はテストする側に向ける
・両側上肢は体側
・肩関節は内旋位(手掌を上向きに)
・検査側の肩は顎(アゴ)の高さまで挙上しておく
MMTの方法:
・検者は、テストする側に立つ
・検査側の手首を両手で保持
・検査側を尾側に押し下げさせ、検者はそれに抗して押し返す
MMTの判定基準:
段階5:
全可動範囲を運動でき、かつ最大の抵抗に抗し最終点を維持できる
段階4:
全可動範囲を運動でき、かつ強~中等度の抵抗に抗し最終点を維持できる
最大の抵抗では最終点で負けてしまう
広背筋を分離判別する方法:
患者体位:
・端坐位
・両手は広げ両股関節の横、台上に置く(プッシュアップ台が必要なことも)
MMTの方法:
・検者は、患者の後側に立つ
・患者には腕で上体を支え、殿部を台から持ち上げさせる
・同時に広背筋を触診する
MMTの判定基準:
段階5:
殿部を台から持ち上げることができる
段階4:
この方法では段階4はない(他の方法で実施)
段階3,2の肩関節伸展MMT:
患者体位:
・腹臥位
・頭部は任意の方向に
・両側上肢は体側に置く 肩関節は内旋位(手掌を上向きに)
MMTの方法:
・検者は、テストする側に立つ
・患手を台から持ち上げさせる(テスト1)
・患手を尾側に押し下げさせる(テスト2)
MMTの判定基準:
段階3:
抵抗がなければ全ての可動域を運動でき、かつ最終点を保持できる
段階2:
一部の範囲で運動可能なもの
段階1,0の肩関節伸展MMT:
患者体位:
・腹臥位
・頭部は任意の方向に
・両側上肢は体側に置く 肩関節は内旋位(手掌を上向きに)
MMTの方法:
・検者は、テストする側に立つ
・患手を台から持ち上げさせる
MMTの判定基準:
段階1:
運動はできないが、筋に収縮を触知できるもの
(大円筋:腋窩の直下、肩甲骨外側縁で触知)
段階0:
収縮を触れることができない
肩甲骨面挙上のMMT(徒手筋力テスト)
「肩甲骨面挙上」とは、以下の運動を指す。
『肩甲骨の面と上腕骨の長軸とを一直線にした肢位での上肢挙上。
前額面より30°~45°前方で肩関節屈曲と外転の中間の面上で上肢を挙上する』
※30°~45°の水平内転を保ったまま上肢を挙上する
上記の解説でピンとこなかった方は以下の画像も合わせて観覧してみてほしい。
10以降からの「水平面上での運動(肩甲骨挙上)」が分かり易いと思う。
肩甲骨面挙上の主動筋
・三角筋(前/中部線維)⇒腋窩神経
・棘上筋⇒肩甲上神経
肩甲骨面挙上MMTの方法
段階5~0の肩甲骨面挙上MMT:
患者体位とMMTの方法:
・端坐位
・検者は、テストする上肢の側に立つ
・30°~45°の水平内転を保ったまま上肢を挙上する(肩の高さまで)
・抵抗は上腕部遠位に与える
MMTの判定基準:
段階5:
肩の高さまでの運動が可能で、かつ最大の抵抗に抗し最終点を維持できる
段階4:
肩の高さまでの運動が可能で、強~中の抵抗に抗し最終点を維持できる
段階3:
肩の高さまでの運動が可能だが、抵抗に抗することはできない
段階2:
運動範囲の一部でも動かせるもの
段階1:
運動はできないが、三角筋前・中部に収縮を触知、視認できるもの
段階0:
収縮を触れることができない
肩関節外転(側方挙上)のMMT(徒手筋力テスト)
肩関節外転(側方挙上)の主動筋
・三角筋(中部線維)⇒腋窩神経
・棘上筋⇒肩甲上神経
肩関節外転(側方挙上)MMTの方法
段階5,4,3の肩関節外転(側方挙上)MMT:
患者体位:
・端坐位
・両上肢は体側にあり垂らしておく
・肘関節は軽く屈曲
MMTの方法:
・検者は、患者の後側に立つ
・患者に上肢を90°まで外転させる
・抵抗は上腕部遠位に与える
MMTの判定基準:
段階5:
全可動範囲を運動でき、最大の抵抗に抗し上肢を持ち上げた状態を維持可
段階4:
全可動範囲を運動でき、強~中等度の抵抗に抗し最終点を維持できる
段階3:
抵抗がなければ全ての可動域を運動でき、かつその位置を保持できる
段階2の肩関節外転(側方挙上)MMT:
患者体位:
・端坐位
・両上肢は体側に垂らしておく
・肘関節は軽く屈曲
MMTの方法:
・検者は、患者の後側に立つ
・患者に上肢を90°まで外転させる
MMTの判定基準:
段階2:
運動範囲の一部でも動かせるもの
段階2の肩関節外転(側方挙上)MMT(別法):
患者体位:
・仰臥位
・上肢は台上で体側に置く
MMTの判定基準:
段階2⇒全ての運動範囲で動かせる
段階1,0の肩関節外転(側方挙上)MMT:
患者体位:
・端坐位
・検者は肩関節90°とし肘の部分で支える
MMTの判定基準:
段階1⇒運動はできないが、三角筋に収縮を触知、視認できるもの
段階0⇒収縮を触れることができない
段階1・0の肩関節外転(側方挙上)MMT(別法):
患者体位:
・仰臥位
・上肢は台上で体側に置き、肘は軽く屈曲
・肩関節外転を行わせる
MMTの判定基準:
・先の方法に準ずる
代償運動:
・肩関節外旋位・肘関節屈曲位での肩外転→上腕二頭筋の作用
・肩甲骨の挙上が目立つ→僧帽筋上部線維の作用
・体幹の側屈運動
肩関節水平外転のMMT(徒手筋力テスト)
肩関節水平外転の主動筋
・三角筋(後部線維)⇒腋窩神経
肩関節水平外転MMTの方法
段階5,4,3の肩関節水平外転MMT:
患者体位:
・腹臥位
・肩90°外転位 肘90°屈曲位 (前腕を検査台の縁から垂らす)
MMTの方法:
・検者は、テストする上肢の側に立つ
・運動は肘を天井に向けて水平に持ち上げさせる
・抵抗は上腕遠位部後方より下に押し下げるよう加える
MMTの判定基準:
段階5:
全可動範囲を運動でき、かつ最大の抵抗に抗し最終点を維持できる
段階4:
全可動範囲を運動でき、かつ強~中等度の抵抗に抗し最終点を維持できる
段階3:
抵抗がなければ全ての可動域を運動でき、かつ最終点を保持できる
段階段階2,1,0の肩関節水平外転MMT:
患者体位:
・端坐位
・肩90°外転位+肘屈曲位
・検者が前腕の下面から支える
・肩外転90°となる高さの台に乗せる
MMTの方法:
・検者は、テストする側に立つ
・検者は、上肢の重さの影響を除くように患手を支える
・台を用いる場合は表面が平滑なものを選ぶ
・同時に三角筋後部線維を触診する
MMTの判定基準:
段階2:
運動範囲の一部だけ動かせるもの
段階1:
筋の収縮は触知できるが、運動は起こせないもの
段階0:
収縮を触れることができない
代償運動:
・肘の伸展を伴う肩水平外転→上腕三頭筋(長頭)の作用
・体幹の回旋
肩関節水平内転のMMT(徒手筋力テスト)
肩関節水平内転の主動筋
・大胸筋(鎖骨部)⇒外側胸筋神経
・大胸筋(胸肋部)⇒内側胸筋神経
・三角筋前部線維⇒腋窩神経
肩関節水平内転MMTの方法
段階5,4,3の肩関節水平内転MMT:
患者体位:
・仰臥位
・肩外転位+肘屈曲90°
MMTの方法:
・検者はテストする上肢の側に立つ
・抵抗は手首(前腕遠位)を保持し与える(肘屈筋が弱い→上腕遠位に抵抗)
・他方の手は筋収縮の触診に用いる
~運動方向~
・筋全体⇒肩外転90° 肘屈曲90°→体軸を直行するよう内転
・鎖骨頭⇒肩外転60° 肘屈曲90°→上内方に内転
・胸骨頭⇒肩外転120° 肘屈曲90°→下内方に内転
MMTの判断基準:
段階5:
全可動範囲を運動でき、かつ最大の抵抗に抗し最終点を維持できる
段階4:
全可動範囲を運動でき、かつ強~中等度の抵抗に抗し最終点を維持できる
段階3:
抵抗がなければ全ての可動域を運動でき、かつ最終点を保持できる
段階2,1,0の肩関節水平内転MMT:
患者体位とMMTの方法:
・仰臥位
・肩外転位 肘は介助し屈曲90°で支える
・運動方向:筋全体、鎖骨頭、胸骨頭→上記参照
MMTの判定基準:
段階2:
運動範囲の一部でも動かせるもの
段階1:
筋収縮を触知できるもの
段階0:
収縮を触れることができない
段階2,1,0の肩関節水平内転MMTの別法:
患者体位+MMTの方法:
・端坐位
・上肢を腋窩の高さの検査台にのせる(運動時の摩擦は最小限に)
・肩外転90° 肘軽度屈曲位→水平内転に運動
MMTの判断基準:
・段階付け:上記2~0に同じ(鎖骨頭、胸骨頭との分離テストは不可)
肩関節外旋のMMT(徒手筋力テスト)
肩関節外旋の主動筋
・棘下筋(肩甲上神経)
・小円筋(腋窩神経)
肩関節外旋MMTの方法
段階5,4,3の肩関節外旋MMT:
患者体位:
・腹臥位
・頭は検査する側に向ける
・肩90°外転 前腕を台からはみ出させ垂直に垂らさせる
(端坐位 肘90°屈曲位でもよい→より強い力を出しうる)
MMTの方法:
・検者は、テストする上肢の側に立
・抵抗は2本の指で手首(前腕遠位部)に与える
・他方の手で肘を下から支える
MMTの判定基準:
段階5:
全可動範囲を運動でき、かつ最大の抵抗に抗し最終点を維持できる
段階4:
全可動範囲を運動できるが、最大の抵抗に対してはたわみや動揺を認める
段階3:
抵抗がなければ全ての可動域を運動でき、かつ最終点を保持できる
段階2,1,0の肩関節外旋MMT:
患者体位とMMT:
・腹臥位
・頭は検査する側に向ける
・検査する上肢は内外旋中間位(掌を内側)で垂らしておく
・運動方向⇒掌を前方に向かわせる
MMTの判定基準:
段階2:
全ての運動範囲を動かせるもの
段階1:
棘下窩に棘下筋、肩甲骨外側縁に小円筋の収縮を触知できる
段階0:
収縮を触れることができない
代償運動⇒前腕の回外
肩関節内旋のMMT(徒手筋力テスト)
肩関節内旋の主動筋
・肩甲下筋⇒肩甲下神経
・大胸筋(鎖骨部)⇒外側胸筋神経
・大胸筋(胸骨部)⇒内側胸筋神経
・広背筋⇒胸背神経
・大円筋⇒肩甲下神経
肩関節内旋MMTの方法
段階5,4,3の肩関節内旋MMT:
患者体位:
・腹臥位
・頭は検査する側に向ける
・肩90°外転 前腕を台からはみ出させ垂直に垂らさせる
(端坐位 肘90°屈曲位でもよい)
MMTの方法:
・検者は、テストする上肢の側に立つ
・抵抗は手首(前腕遠位部)に与える(指4本で)
・他方の手を肘にあてがい支点を作る
MMTの判定基準:
段階5:
全可動範囲を運動でき、かつ強力な抵抗に抗し最終点を維持できる
段階4:
全可動範囲を運動できるが、強力な抵抗に対してはたわみや動揺を認める
段階3:
抵抗がなければ全ての可動域を運動でき、かつ最終点を保持できる
段階2,1,0の肩関節内旋MMT:
患者体位とMMTの方法:
・腹臥位
・頭は検査する側に向ける
・検査する上肢 内外旋中間位(掌を内側)で垂らしておく
・運動方向⇒掌を後方~外方に向かわせる
MMTの判定基準:
段階2:
全ての運動範囲を動かせるもの
段階1:
腋窩の中心・深部の肩甲下筋、または大胸筋に収縮を触知できる
段階0:
収縮を触れることができない
代償運動:前腕の回内
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MMT(徒手筋力テスト)のやり方
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