この記事では、発育性股関節脱臼先天性股関節脱臼)について、原因・症状・予防法・治療法など解説していく。

 

目次

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発育性股関節脱臼(先天性股関節脱臼)とは

 

発育性股関節脱臼とは以下を指す。

 

発育性股関節脱臼development dislocation of the hipDDH)とは:

 

特別な外傷や炎症がなく、生下時に大腿骨頭が関節包内で寛骨臼外に脱臼している場合を指す。

 

以前は、『先天性股関節脱臼』といわれていたが、最近では出生時に脱臼が見られないものがその後に脱臼をきたす事があることから、発育性股関節脱臼という言葉が使用されるようになった。

 

  • 発生率は0.1~0.3%
  • 男女比は約1:5~9(圧倒的に女子に多い)
  • 二次的変形性股関節症の原因疾患のうち最も頻度の高い疾患である。

 

ちなみに、発育性股関節脱臼の中でも「はずれてはいないが関節面の適合性の悪い(臼蓋形成不全)もの」は発育性股関節形成不全』と呼ぶ)。

 

※ただ、「股関節形成不全」という用語の中に「股関節脱臼」「股関節亜脱臼」「臼蓋形成不全は有しているものの脱臼には至っていない」の3つが含まれるという解釈もあるので、念のため補足しておく(この解釈の方が何となくスッキリする)。

 

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二次的変形性股関節症状への移行

 

発育性股関節脱臼は、時間をかけて以下の様に変形性股関節症に移行する可能性があるので、正しい治療予防法や治療の知識を有しておく必要がある。

 

 

関連記事⇒『変形性股関節症とは?原因・症状・治療法など紹介するよ

 

 

発育性股関節脱臼(先天性股関節脱臼)の原因

 

発育性股関節脱臼が生じる原因は以下などが言われている。

  • 遺伝的因子
  • 力学的要因

 

特に力学的要因としては、例えば「新生児の取り扱い」や「おむつの当て方」など指導により明らかに発症率の低下を認めるため、何らかの因果関係があるのは確かだろう(取り扱いやおむつの当て方は後述)。

 

 

具体的な股関節脱臼の原因

 

もう少し具体的に原因を表現すると以下の通り。

 

  • 子宮内で胎児の異常位:

    例えば股関節屈曲内転位や膝関節伸展位の強制

 

  • 出産時の問題:

    出産時に児の足部をつかみ逆さにしたり、骨盤位の胎児の下肢をつかみ強制的出産を行わせることなど、股関節および膝関節を急激に伸展させることにより股関節脱臼が生じる。骨盤分娩では正常分娩の約10倍に発生すると言われることもある。

 

  • 出征後の育児の問題:

    股関節の持続的な伸展⇒おむつカバーの不適切な付け方や育て方が脱臼の発生に大きく関与している。

 

 

発育性股関節脱臼の症状・検査・診断

 

ここでは「新生児」と「乳幼児期・乳幼児期以降」の発育段階に分けて症状・検査・診断について記載していく。

 

新生児期の症状・検査・診断

 

新生児期における発育性股関節脱臼の症状・検査・診断としては以下が挙げられる。

・肢位異常(検査としては開排テスト)

・クリック徴候

 

  • 肢位異常と開排テスト:

    異常肢位としては「下肢の左右非対称」「内転拘縮」などが挙げられる。

    開排テスト(Abduction test)の方法は「新生児の下腿を保持し両膝および両股関節を90°屈曲させ、両股関節を無理なく外転させる」であり、途中で抵抗を感じたら、開排制限(陽性)とする。

 

  • クリック徴候(Click sign):

    クリック徴候の評価としてはOrtolani(オルトラーニ)法やBaralow(バーロー)testがある。

    Ortolani(オルトラーニ)法:

    ・姿勢:背臥位で両股関節屈曲90°・膝関節最大屈曲位に保持する。

    ・方法:(1)理学療法士の母指を大腿内側に、他の指を大腿外側におき、股関節を大腿骨長軸方向に軽く押しつける。(2)その時、手に軽い脱臼音Clickを触知する。(3)そのまま股関節を開排させて中指で大転子を下から押し上げるようにすると、骨頭が整復される音(Click音)を触知する。

    Baralow(バーロー)test:

    ・姿勢:背臥位で両股関節90°屈曲、膝関節最大屈曲位に保持する。

    ・方法:(1)理学療法士は母指を新生児の小転子、中指・環指を大転子部にあて、中指・親指で大転子部を上方に押す脱臼股では後方に脱臼していた骨頭が後方の脱臼縁を滑って臼に整復される。この際Clickを触知する。(2)母指で小転子部を後方に押すと、骨頭が臼蓋縁後方の関節唇を超えて後方へ脱臼するのを触れる。

 

 

乳幼児期以降の症状・検査・診断

 

乳幼児期以降の症状としては、新生児期の「肢位異常」「クリック徴候」に加えて、脱臼児では処女歩行の遅延がみられる。

歩行開始後にみられる症状としては以下などがみられるようになる。

・トレンデレンブルグ徴候、デュシェンヌ徴候

・腰椎前彎の増強

・・・など。

 

発育性股関節脱臼の診断にはX線・MRI・超音波検査が用いられる。

特に超音波検査は侵襲なく簡便な方法として普及している。

 

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発育性股関節脱臼(先天性股関節脱臼)の予防

 

発育性股関節脱臼は早期発見・早期治療が原則であるが、最近は脱臼発生の予防といった考えも普及している。

 

生後間もない時期に下肢の自動運動を制限きせないこと、下肢を伸展したままにさせないこと、おむつの当て方・だっこのやり方(コアラちゃんだっこ)などの育児指導である。

 

具体的な予防方法は以下の通り。

 

出生時:

  • 股関節を強制的に伸展しない:

    赤ちゃんは股関節屈曲位が基本的な肢位なので、伸展を矯正すると脱臼傾向になる。

 

 

育児期(出生から生後6か月まで):

 

  • 股関節伸展位を強制しない。

 

  • 児の自然肢位であり、股関節が最も安定する開排位(屈曲・外転位)を保持し、自然運動を妨げない。

 

  • おむつの当て方

    オムツで股関節を覆い、動きを制限してしまうのはNG。股関節が自由に動かせる当て方をする。

    ※不適切⇒おむつカバーのバンドの幅が広く、股関節の開排が出来ない。

    ※良い ⇒おむつカバーのバンドの幅が狭く、股関節の開排が十分にできる。

 

 

  • 抱っこの仕方

    ※イラスト左は、股関節を外から押さえつけているので股関節が伸展・内転位になっている(不適切)

    ※イラスト右は、股関節が開排位で抱いている(適切な抱き方)。

 

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発育性股関節脱臼(先天性股関節脱臼)の治療

 

発育性股関節脱臼の治療に関して、新生児期・乳幼児期・乳幼児以降の治療について解説していく。

 

新生児期の治療

 

軽傷例では、厚めのおむつを付け、抱き方など育児法に注意しながら経過を観察する。

ほとんどの症例は正常股に発達すると言われている。

 

 

乳幼児期の治療

 

①Riemenbugel法(リーメンビューゲル法)

②overhead traction法

③全麻下、関節造影下で徒手整復

④手術療法

 

  • Riemenbugel法(リーメンビューゲル法):

    バンドで両下肢を屈曲・外転位に吊り、股関節の運動を伸展を除いて他の方向へは自由に動かせるようにしてあり、脱臼の整復を無理なく自然に図る方向である。

    ほとんどの症例で装着後1~2週間で開排制限が取れ脱臼は整復されると言われており、整復確認後4~6週間この装着を継続し、安定性を確認した後おむつに移行する。

 

 

  • over traction法(頭上方向牽引):

    オーバーヘッド牽引は以下の③になる。

    ①水平牽引 ②垂直牽引 ③オーバーヘッド牽引 ④外転牽引

 

 

乳幼児以降の治療

 

治療は、3カ月から1歳未満ではリーメンビューゲル(Riemenbugel)などの装具療法が主体をなしている。

 

しかし、乳児期以降では装具のみでの整復は困難なことが多く、牽引療法なども試みられる。

 

整復や整復位保持が困難な場合には手術的治療が行われる。

※観血的整復術ではギプス固定後にリーメンビューゲルなどの装具療法を行う。

※骨切り術では術後にギプス固定が行われ、固定除去後にROM訓練や歩行訓練が行われる。

 

 

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