この記事では、リハビリ(理学療法)の対象になり易い『肩関節周囲炎』について記載していく。

 

肩関節周囲炎とは

 

肩関節周囲炎は病態診断ではなく、肩周囲の炎症所見がある疾患の総称で、特定の病態診断名ではない。

 

※厳密には「炎」という用語が入っているので炎症が生じている筈なのだが、別名『凍結肩(frozen shoulder)」とも呼ばれ、「炎症は生じていない(あるいは微弱)が、肩が痛くて動かせない病態の総称』として扱われる場合もある。

 

※海外では『Frozen shoulder』とう名称が一般的に使用されている。

 

※そもそも「肩関節周囲炎は肩に炎症が起こっているという意味なので、この診断名がついた時点で、理学療法士は何もできないという事になる(理学療法士は炎症は治せない。炎症を助長させないようなアドバイスはできるかもしれないが。。なので、リハオーダーでこの診断名がついているのはおかしい)」と言っていた先生もいた。

 

肩関節周囲炎は様々な疾患の総称と前述したが、その範疇は広い。

 

例えば病態の一部だけでも、肩甲上腕関節だけで以下などが挙げられる。

  • 腱板炎
  • 腱板損傷
  • 肩峰下滑液包炎
  • 関節包炎
  • 関節唇損傷
  • 上腕二頭筋長頭腱炎

 

その他も含め多岐にわたり、これに加え、以下なども肩関節周囲炎に含まれる。

  • 肩鎖関節炎
  • 絞扼障害の胸郭出口症候群
  • 挟み込みといった機械的刺激によるimpingement syndrome

・・・・など。

 

ちなみに、五十肩も肩関節周囲炎の中に含まれ、加齢変化を基盤とした疾患で、特別な誘引なく、疼痛と運動制限をきたす疾患として位置づけられ、病態にはふれられていない。

 

四十肩・五十肩とは:

もともとは江戸時代の記録に、長寿病の一つとして四十手、五十手と載っていたことから、四十肩・五十肩という呼び名がつけられたのだという。年代ごとに呼び名が変わるというものではなく、長寿という括りでの呼び方である。

~『結果の出せる整形外科理学療法』より~

 

ここで述べたように、一概に肩関節周囲炎といってもさまざまな病態含まれる。

 

でもって、(肩の専門医師は詳細な診断をすることがある一方で)「肩が痛いなら肩関節周囲炎」ってな感じで用いられるこの言葉を安易に用いる医師もいる。

 

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(何度も同じことを言っているようだが)肩関節周囲炎という診断名は、病態診断ではなくいろいろな疾患の総称である。

 

で、ここから先は肩関節周囲炎を『肩甲上腕関節内の病変』に絞って記載していく。

 

 

「肩関節(肩甲上腕関節)以外の機能障害」との鑑別

 

肩関節周囲炎を『肩甲上腕関節内の病変』と(勝手に)絞って記事にしようとした場合、「肩甲上腕関節の病変」と「それ以外」の鑑別が必要となる。

 

肩の問題であるのか、それとも違う部位の問題であるのかはっきりさせるということだ。

 

肩周囲に起きる症状は肩の疾患だけとはかぎらず、代表的な疾患としては頚椎由来の疾患、そして場合よっては、心臓疾患などの内臓疾患でも肩周囲の症状を訴えることがある。

 

疼痛を指標とした鑑別

 

肩関節疾患とそれ以外の疾患との鑑別で、まず重要な項目は疼痛である。

 

関節自体に問題がある場合の多くは、指1本または手掌で疼痛部位を明確に示すことができる。これをfinger sign、またはpalm signといい、特に関節運動に伴い疼痛の変化をきたす。

 

これに対し、それ以外の問題で疼痛が生じる場合の多くは、この指1本、手掌で疼痛部位を限局して示すことができず、広い範囲にわたっての疼痛を訴える。

さらに、頸椎由来の疼痛は、神経の走行に沿った疼痛や頚椎の運動に伴う疼痛の増減がみられる場合がある。

 

内臓疾患由来の疼痛も限局した疼痛部位を示すことができない。

ちなみに心臓では右肩に症状が出現(ただし、左肩ならびに心窩部、背部などにも鈍痛をきたすこともあるので、内臓の関連痛は決めつけ過ぎないほうが良い)。

あるいは、肺疾患、膵臓疾患などは肩関節そのものではなく、頸三角部に疼痛を訴えることが多い。

さらに、これら内臓疾患由来の疼痛である場合の多くは、関節運動に伴う疼痛変化は比較的少なく、むしろ、体位の変化によって疼痛の変化が認められるといった特徴もある(あるいは、安静時痛など)。

 

上記はあくまで一例だが、生じている疼痛に留意しながら情報を収集することも大切だ。

 

(内臓も含めた)関連痛に関しては以下の記事も作成しているので、興味がある方は参照してみてほしい。

⇒『関連痛(内臓+仙腸関節などの運動器)

 

 

肩関節疾患の鑑別

 

肩関節周囲炎は病態診断ではなく、各種病態を総称したものである。

 

なので、「肩関節周囲炎」という診断名だけでは実施すべき理学療法を選択することはできない。

 

肩関節周囲炎であっても、狭義の肩関節、つまり肩甲上腕関節の問題でない場合も多いため、やはり病態部位の違い、急性期か否かといった時期の鑑別は大切となる。

 

で、例えば(狭義の)肩関節周囲炎と鑑別すべきものとしては以下などが挙げられる。

 

胸郭出口症候群

胸郭出口症候群は肩甲上腕関節の構造的問題ではなく、神経ならびに脈管の絞扼障害とされ、二次的に神経炎症状、自律神経症状などが組み合わされ多彩な症状を呈する。

ちなみに、胸郭出口症候群の症状は、関節の問題ではないため、関節運動により愁訴が変化するものではなく、肢位の変化により愁訴が変化し、愁訴は関節に限局するものではなく、上肢全体、頚部など幅の広い範囲での症状を有する。

胸郭出口症候群や鑑別検査については以下の記事で詳細をまとめているので興味がある方は参照してみて欲しい。

⇒『胸郭出口症候群って何だ?

⇒『胸郭出口症候群の鑑別テスト を総まとめ

 

 

肩鎖関節炎

肩鎖関節の問題は肩鎖関節が肩甲上腕関節に近似するため、愁訴も一見どちらの関節が問題か判断できないことも多い傷害である。しかし、肩鎖関節にかかる負担を助長させることで大まかながら、鑑別することが可能となる。

でもって、そのために知っておきたい鑑別テストとしては『Horizontal arc text(前後方向)』『Distraction test(上下方向)』『High arc test(回旋方向)』があり、詳細は以下の記事で解説している。

⇒『ハイアーチ・ホリゾンタル・ディストラクションテスト | 肩鎖関節障害に対する整形外科的テスト(+臨床推論・治療への応用)

 

 

上腕二頭筋腱炎

上腕二頭筋腱炎も構造上の位置関係から、肩甲上腕関節の問題と混同されやすい傷害である。

上腕二頭筋腱炎の鑑別も、上腕二頭筋に負担を助長させることで確認され、検査法としては『Speed test』『Yergason test』が代表的で、以下の記事で解説してる。

⇒『上腕二頭筋腱炎の鑑別テスト | スピードテスト・ヤーガソンテスト

 

 

肩関節周囲炎(肩甲上腕関節にフォーカスして)

 

一般的に肩甲上腕関節内に病変を有する肩関節周囲炎の場合は、以下などが代表的な病態として挙げられる。

  • 滑膜炎
  • 線維性損傷
  • 侵食(erosion)
  • 断裂
  • 剥離

・・・・など。

 

また、肩甲上腕関節内に病態を有する肩関節周囲炎の場合、疼痛とともに可動域の制限をきたすことがよくあるが、組織間の状態としては、癒着(adhesion)は比較的少なく、炎症による滑膜などの増生・肥厚が多いと報告されている。

 

※癒着ではないので、(何もしなくとも)数か月~数年で症状は改善・消失すると記載されている文献も多い。

 

※肥厚した組織は、炎症がおさまれば伸張刺激を加えることにより体内に徐々に吸収され、もとに近い厚さへの可逆的変化が得られるとされていること、そして、実際に五十肩は自然治癒が多いことからも症状としてあらわれる可動域制限は、炎症による滑膜などの増生、肥厚による一時的な組織の柔軟性欠如として理解される。

 

ただし、急性期ではいずれの状態であっても、わずかな刺激により疼痛が生じるため、組織の伸張感(end feel)なしに疼痛逃避による可動域制限となることが多く、また、この時期に無理な組織への刺激は、炎症性滑膜の増生を助長してしまい、過剰な組織の肥厚や滑膜バンドの形成といった不可逆的な状態となることもあり、注意が必要である(要は無理に動かそうとせず安静が大切)。

 

また、線維性の損傷や侵食の場合は炎症がおさまっても、損傷によって生じた繊毛状態や侵食(ただれた)状態はすべてが吸収されるわけではなく一部は残存してしまうことがある。

 

そのため関節内にその損傷部が引き込まれることもあり、このような場合は、組織の肥厚に伴う柔軟性の欠如、つまり骨性の制限に近いspring block様のエンドフィールな可動域制限が認められる。

 

※つまり、関節可動域制限のタイプにより、病態の時期、違いを推察することもできる。

 

 

肩関節周囲炎の原因

 

原因が分かれば、治療や再発予防のアイデアにも活用できる。

 

で、肩関節周囲炎以下の2つに分けられる。

  • 外傷というはっきりとした原因がある「外傷性肩関節周囲炎」
  • 特別な誘引のない「非外傷性肩関節周囲炎」

 

しかし、この非外傷性の肩関節周囲炎もまったく原因がないわけではない。

 

五十肩のように組織の加齢変化を基盤とすると考えもあるが、最終的には、負荷の程度に差はあるものの、上肢を用いる作業に伴い生じる疾患であり、他の関節疾患同様に作業関連の筋骨格系疾患として位置づけられる。

 

なので、その原因も身体的問題、心理的問題、社会的問題などさまざまな因子が関与すると考えなくてはならない。

 

しかし、これらの問題は、本人の自覚がされにくく、明らかな原因追求が難しいことから、一般的には肩関節周囲炎を特別な誘引がなく発症する疾患として扱われていることが多い。

 

※なので、原因を追究するためには、より細やかな生活動作の把握と、身の回りの変化に耳を傾ける必要がある。

 

 

肩関節周囲炎に対する評価とリハビリ(理学療法)

 

ここから先は、肩関節周囲炎に対して以下を記載していく。

・評価(代表的な疼痛誘発テスト)

・病期別リハビリ

 

評価(疼痛誘発テスト)

 

様々存在する肩関節周囲炎の評価の中で、代表的な「疼痛誘発テスト」を記載しておく。

 

検査法 方法 意義 特徴
impingement test 検者が他動的に外転挙上させ、肩峰を上から押さえて疼痛を誘発させる

他動的にimpingementを再現させ疼痛を誘発

腱板断裂、滑膜炎、肩峰下滑液包炎でも疼痛は誘発される

徒手抵抗テスト

(下垂位)

検者が上肢下垂位、内外旋中間位で上肢遠位端を固定したまま被検者にscapular plane上外転を指示。肩峰下または三角筋付着部における疼痛の有無を確認

挙上に関与する筋を収縮させることによる筋の伸張性刺激による疼痛誘発。腱板断裂時に疼痛が誘発される

肩峰下滑液包炎、滑膜炎でも疼痛は誘発されるが、impingementは起きない

徒手抵抗テスト

(45°挙上位)

検者が上肢をscapular plane上45°まで他動的に動かし、内外旋中間位となるよう保持し、さらに挙上を指示。肩峰下または三角筋付着部における疼痛の有無を確認

腱板機能の障害

を有する場合impingementをが誘発され、疼痛が再現される

腱板断裂滑膜炎肩峰下滑液包炎でも疼痛は誘発されるしかし、垂位の検査で疼痛が出現しない場合は腱板機能の障害が疑われる

徒手抵抗テスト

(45°挙上位 肩甲骨固定)

上記同様に上肢を保持し、もう
一方の手で被験者の肩甲骨下角を固定したまま、同様の検査を実施する。疼痛の増減を確認

肩甲胸郭関節の機能障害が関与する場合は、疼痛の軽減が認められる

肩甲胸郭関節の運動機能の障害関与を推察できる。腱板断裂、各種病態の炎症期では疼痛の軽減は認めない

 

※全テストが陽性の場合は、重度な構造学的破綻が予測されるが、ひとつでも陰性の場合は機能的問題の関与が予測される。

 

 

肩関節周囲炎に対する病期別・組織別リハビリ

 

肩関節周囲炎に対する病期別・組織別リハビリは以下になる。

 

因子 特徴 対応
炎症・疼痛回避(急性期) 可動域終末抵抗感より疼痛が先行。疼痛出現の再現性が高く、再現性の低い場合は心理的因子が疑がわれる 安静、安静肢位の獲得をはかる
組織柔軟性低下(亜急性期・慢性期) 終末抵抗感増加に伴い疼痛も増加 呼吸を止めない範囲での伸張運動など
関節内異物・損傷部(絨毛・浸食部)刺激 終末抵抗感がspring block様に出現。急性期では疼痛を伴うが、慢性期では疼痛を伴わず違和感を訴えることも多い 関節モビライゼーションなど(グレードは反応に合わせて)。
筋性 筋腹把持により関節運動出現。疼痛は、筋腹の伸張時痛が主体で、関節部の疼痛は訴えないことが多い マッサージ、PNF(痛みには注意)、各種物療など
他の関節からの影響

他の関節肢位を変化させることで、可動域変化をきたす。

または肩の動きに伴い他の関節も運動が誘発される

評価から上記参考にし、それぞれの関節機能に合った対応を選択

 

 

肩関節周囲炎に対するリハビリ(理学療法)の注意点

 

「肩関節周囲炎に対し理学療法は有効であるか」内容の記事を見かけることがある。

 

しかし肩関節周囲炎は、(前述したように)しっかりとした病態診断名ではない。

※肩関節周囲炎の炎症であろうと思われる原因により、疼痛と運動制限をきたす疾患の総称であり、各種病態を含んだ診断名である。

 

また、炎症についても、急性期は他の疾患同様、生理学的見地からも安静が基本となり、亜急性期は愛護的な対応、そして慢性期は積極的な対応と、対応そのものが変わってこなければならない(具体的には前述した一覧表も参照)。

 

さらに、理学療法を独立した因子として捉えることにも問題がある。

肩関節周囲炎の症状は疼痛と可動域制限が主体であり、多くが疼痛を主訴して来院する。

で、疼痛以下が複雑に関わりあっている。

  • 化学的反応(発痛物質)
  • 物理的反応(運動負荷)
  • 精神的反応(不安、不満などの心理的負担)

 

で、リハビリ(理学療法)による対応も病態改善のための一助であるが、力学的負担の軽減や心理的負担の軽減など、その対応は多岐にわたる。

 

ましてや肩関節周囲炎は、非外傷性であることが多く、ほとんどは日常生活活動において気づかないように過負荷となり病態を引き起こしている。

 

そのような背景を考えると、仮に病態改善への一助に焦点を当てたとしても、日常生活におけるクライアントの動作改善や、心身の動きに注意を向け行動の変容を促すなど、物理的な対応以外にも重要な項目が多々あり、それこそが病態改善、再発予防において大切になることも多い。

 

このように、リハビリ(理学療法)は肩関節周囲炎に対しても、病態部位、病態の状態、病態の時期、症状の誘因などによって幅広く対応を変化させなければならない。

 

 

更なる補足

 

肩関節周囲炎を広義にとらえると、様々な要因が複雑に絡み合っている可能性もあり、肩甲上腕リズムの破綻や、頸胸移行部の機能障害など挙げればキリが無い。

 

※例えばマッケンジー法では、肩関節機能障害を評価する際は、それより先に頸椎・頸胸移行部由来の疼痛な可能性を除外してから、肩の評価に移行する。

 

なので、ここに記載されているのは極限られた情報に過ぎない点には注意してほしい。

 

 

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