この記事では、『コンパートメント症候群(compartment syndrome)』について解説した記事になる。
コンパ―メント症候群とは
『コンパートメント症候群』は『筋区画症候群』とも呼ばれる。
※筋区画(compartment)とは「筋膜・骨・骨膜などで囲まれ区画されたスペースのこと」を指す。
コンパートメント(区画)は四肢・体幹の骨と筋膜によって構成されている。
でもってコンパートメント症候群とは、区画の内圧が「なんらかの原因」により上昇し、動脈血の血行障害(動脈攣縮)に至り、筋の機能不全や筋・神経壊死に至るものを言う。
内圧上昇の原因は以下などが言われている。
- 外傷に伴う筋肉内出血
- 浮腫
- 絞扼・圧迫(ギプス固定など)
- 筋の肥厚
- スポーツ障害
・・・・・・・・など。
とくに多数の筋が存在する前腕や大腿下腿に起こりやすい。
※多発部位は前腕屈筋群(掌側コンパートメント)と、下腿前脛骨筋部(前方コンパートメント)である。
有名なコンパ―トメント症候群には『フォルクマン拘縮』や『前脛骨筋症候群』がある。
コンパートメント症候群の症状
コンパートメントの内圧が上昇すると、まず静脈、次いで動脈が圧迫され、区画内の組織はうっ血から浮腫を生じた後、阻血性壊死に陥る。
※一般に、神経系はおよそ12時間、筋系は4~8時間の阻血で不可逆的変化を起こすとされている。
コンパ―トメント症候群の症状としては、以下の5Pが典型とされるが、圧痛や腫脹も見られる。
- Pain(疼痛)
- Paralysis(麻痺)
- Paresthesia(異常感覚)
- Pulselessness(脈拍消失)
- Pallor(蒼白)
診断の確定にはコンパートメント内圧測定(正常値:10mmHg以下)が実施される。
でもって、30~40mmHg以上の場合は筋膜切開による減圧が行われる。
前腕のコンパ―トメント
前腕のコンパートメント(筋区画)は、以下の3区画に分けられる。
- 掌側コンパ―トメント
- 背側コンパ―トメント
- 橈側コンパートメント
※原則として、筋とその支配神経および動脈は同じコンパートメントに区画される。
掌側コンパートメント:
掌側コンパートメント(屈筋区画)は前腕屈筋群の区画で、正中神経・尺骨神経・尺骨動脈を囲んで並ぶ尺側手根屈筋・浅指屈筋・長掌筋・橈側手根屈筋・円回内筋・長母指屈筋・深指屈筋・方形回内筋などが含まれる。
上腕骨顆上骨折に合併する拘縮として知られるフォルクマン拘縮はこの区画のコンパートメント症候群症候群で、前腕の血行不全により前腕屈筋が瘢痕化して起こる。
手や指のチアノーゼ、前腕の持続性疼痛などがみられ、放置すると前腕屈筋群に強い拘縮と手指の屈曲変形が起こる。
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背側コンパートメント:
背側コンパートメント(伸筋区画)は前腕伸筋群の区画で、橈骨神経~後骨間神経および後骨間動脈を取り巻く回外筋・総指仲筋・尺側手根伸筋・長母指伸筋・長母指外転筋などがみられる。
橈側コンパートメント:
橈側コンパートメント(外側区画)は前腕で最小の筋区画で、腕橈骨筋、長・短僥側手根伸筋の3筋を含む。
下腿のコンパ―トメント
下腿のコンパートメントは、以下の3区画に分けられる。
- 前方コンパ―トメント
- 外側コンパ―トメント
- 後方コンパ―トメント(深後方+浅後方コンパートメント)
※原則として、筋とその支配神経および動脈は同じコンパートメントに区画される。
前方コンパートメント:
前方コンパートメント(仲筋区画)は、足関節の背屈にはたらく前脛骨筋・長母趾伸筋・長趾伸筋と、これらの筋に分布する前脛骨動脈・深腓骨神経を含む。
脛骨骨折やギプス固定で内圧が冗進すると循環不全を生じ、筋・腱・神経力機能障害や壊死に陥る。
これを前脛骨筋症候群(前脛骨区画症候群)といい、足の背屈不能に加えて母趾外側~第2趾内側領域(深腓骨神経固有域)に感覚障害をきたす。
外側コンパートメント:
外側コンパートメント(腓骨筋区画)は腓骨の外側にあり、長・短腓骨筋とこれらの筋を支配する浅腓骨神経を含む。
後方コンパートメント(深後方+浅後方コンパートメント):
後方コンパートメントは、下腿骨間膜の後方に位置する筋群で構成され、横下腿筋間中隔によって深後方および浅後方コンパートメントに区分される。
膝窩筋・長母趾屈筋・長趾屈筋・後脛間筋は深後方コンパートメント(後区画深部)として区分され、その後方にはヒラメ筋・腓腹筋・足底筋からなる浅後方コンパートメント(後区画浅部)が位置する。
下腿後側の筋を支配する脛骨神経および後脛骨動脈は両コンパートメントに挟まれて走る。
急性コンパ―トメント症候群の「前段階」におけるリハビリ(理学療法)
臨床的には筋膜切開の適応とならない「急性コンパートメント症候群の前段階の状態」は多く存在する。
筋挫傷とも表現できるかもしれないが、この状態であるかどうかは、各筋の圧痛の確認と軽く伸張し筋内圧を高めてみることで評価する。
でもって、以下を認めたら急性コンパ―メント症候群の一歩手前の状態を疑ってみる。
- 圧痛の存在
- 健側との比較にて抵抗感や伸張性の低下を認る
リハビリ(理学療法)としては、以下などが挙げられる。
- 筋ポンプ作用を期待し痛みを伴わない程度での反復した筋収縮練習
- 筋膜の伸張を期待してストレツチングを施行(痛みを感じるほんの少し手前で行のがポイント)