今回は、(当たり前の理屈ではあるが、経済学的には基礎中の基礎である)『規模の経済性』に関して記載していく。
規模は大きいほうが良い
昔は個人商店が多かった。
商店街には、文房具屋さん、電気屋さん、八百屋さん、魚屋さんなどで賑わっていたものだ。
しかし現在は、大型スーパーや大手家電量販店などに取って代わられてしまい、ほとんど姿を見なくなってしまった。
なぜ取って代わられてしまったのか?
それは「規模が大きいほど儲かり易く、規模が小さいほど儲かりにくい」という規模の経済性が働いているからだ。
厳密には「規模が大きいほど生産コストが抑えられ、規模が小さいほど生産コストがかかる」という点が影響している。
「規模の経済性」の一例
一度に大量生産してしまったほうが、商品一個当たりの固定費が安くなる。
例えばパン屋を始めるために、家賃10万円で店舗を借りたとしよう。
固定費は10万円だ。
月にパンを1万個売れば、パン1個当たりの家賃(固定費)は10円だ。
しかし月に10万個売れば、それがわずか1円になる。
このようにパンを沢山作るほど、商品1個あたりの固定費が安くなり、経済的に作れる。
これを『規模の経済性(または、スケールメリット)』と呼ぶ。
これは、商品を納入する際にも当てはまる。
個人の電気屋さんがメーカーに冷蔵庫を5台納入するより、家電量販店が一度に100台納入したほうが、(大量購入したことによる割引を受けやすいので)得をする。
この様に「規模の経済性」から考えた場合、規模の小さな店は、価格競争では勝てない。
なので「価格以外の何か」で勝負する必要がある。
※パン屋であれば、「ここのパンは高いけど美味しい」「ここのパンは高いけど無添加」など。
株式投資における『規模の経済性』と『範囲の経済性』
少し株式投資の話を挟み込んでみる。
規模が大きいほど、安く部品や商品を調達できるので、「ヤマダ電機やビックカメラといった家電量販店」や「トヨタ自動車などの大手自動車会社」は有利である。
また、『規模の経済性』と類似した字面な用語に『範囲の経済性』というものがあり、これも効率よく商品を仕入れるのに重要な要素である。
皆さんは『ゼンショーホールディングス』や『コロワイド』という企業(株式銘柄)をご存じだろうか?
ゼンショーホールディングスは「すき家・はま寿司・ココス(ファミレス)・ジョリーパスタ・ビッグボーイ・華屋与兵衛(和食)・宝島(焼肉)・牛庵(焼肉)」など様々な飲食を展開している企業である。
コロワイドもゼンショーホールディングスと同様に様々な飲食を展開しており、どちらも株主優待銘柄として圧倒的な人気を誇っているので、(仮に業績不振でも、優待目当てでホールドする人が多く)値崩れしにくいのが特徴な、内需銘柄だ。
※特に、コロワイドの株主優待はハンパナイので是非ヤフーファイナンスなどで確認していてほしい。
※どちらもマネックス証券口座にて保有しているが、今から購入するとなるとやや割高かもしれない。
で、どちらの企業も、次々と飲食業を自身の傘下に吸収している。
しかし一方で、焼肉屋・ファミレス・寿司屋・和食屋・パスタ屋などと、一見すると節操も無いように感じる。
「なぜ、そんな節操のない吸収をするのだろうか?」と疑問に思う人はいないだろうか?
でもって、その理由は以下の通り。
経験曲線
「規模の経済性(スケールメリット)」と多少関連ているため『経験曲線』という用語についても細く解説しておく。
沢山作ることによって「経験曲線」というメリットを享受できるのだが、そんな「経験曲線」とは以下を意味する。
同じ仕事でも、初めての時と10回目では、10回目の方がより早く確実に作業できることは、皆さんも経験したことがあるのではないだろうか?
例えば、理学療法士・作業療法士の求人を出す際に、「新卒」と「業務を数年経験した者」のどちらを採用しようかと考えた場合、(提示する給料を同じにするならば)経験曲線の観点からは後者を採用したほうが特なのは明らかだ(「面接時の印象や伸びしろを加味する」などと言い出すとややこしくなるので割愛する)。
で、この経験曲線は企業も同じで、商品やサービスを沢山提供すると、企業の中に経験がたまり、生産性が上がることで低コストで提供できる。
『経験曲線』は自身の成長を考えた上でも役に立つ。
「数をこなせば成長できる」というだけの発想は短絡的ではあるが、一方で「一定期間内に多くを経験させてくれる場所」のほうが「経験させてくれない場所」よりも成長できる可能性は高い。
リハビリの臨床経験を語る上で「質」も大切だが「量(どれだけの数をこなしてきたか)」も、意外と軽視できない要素かもしれない。
話を「規模の経済性」に戻すと、規模が大きいほど「経験曲線」という観点においてもメリットを享受できるという事になる。
「規模の経済性」にデメリットは無いのか?
一見すると「規模が大きければ大きいほど良い」と思われる。
しかし、デメリットも存在する。
それは、「何らかのショックで消費市場が2~3割でも縮むと、一気に利益が吹き飛ぶ可能性がある」という点だ。
規模の経済性が強く働く産業では、(例えばバブル崩壊などにより)消費市場が縮み、生産規模の縮小を余儀なくされれば生産コストが跳ね上がる。
しかし販売不振が深刻なために、値上げが出来ず(売れない消費を薄利で提供し続けなければならず)、大きなダメージにつながる可能性がある。
ラーメン屋で成功した店主が、調子に乗って店舗拡大を図るというのは「規模の経済性」という観点では正しい(効率的に大儲けできる可能性を秘めている。)。
一方で「ラーメンブームが去る」だとか「ラーメン自体(あるいはお店に対して)のネガティブな情報が流布されてしまった場合」などでは、逆風が吹き始めて(一店舗だけで経営していた場合に比べて)受けるダーメジが(一店舗のみで経営している多彩と比較して)跳ね上がるのは容易に想像出来るだろう。
デイサービスなんかも規模の経済性が機能するよ
介護保険分野でいうと、デイサービスなんかも「規模の経済性」が機能する。
規模が大きく設備が充実しており収容人数も多かったりすると、それだけ効率よく稼ぐことが出来るケースが多い。
「規模が小さい方が、きめ細やかな対応が可能」などと言われることがあるが、規模が大く収益も上がっていれば、それだけ人員も増やせてスタッフの質も高まりやすい。
※なので、「規模が大きい=きめ細やかな配慮がしにくい」にはならない。
また、大きなプロジェクトに挑戦したりとリスクもとり易い。
例えばリハビリ用プールを設置したり、カジノ風なゲームができる一室を設けたり(男性はこういうのが好きらしい)といったハード面へのリスクはとり易い。
規模が小さければ、外れたら破産レベルな取り組みなので、二の足を踏んでしまいやすい。
で、何も行動を起こせないまま、ズルズルと収益が尻すぼみして身動きが益々とりにくくなるといった悪循環に陥るケースもある。
※株式投資に例えるなら「1000万円の余剰資金のある人が、気になる10万円の銘柄に投資してみる」のと「20万円しか余剰資金が無い人が、気になる10万円の銘柄に投資してみる」のでは、心理的にもリスク的にも行動に移すためのハードルが全く異なる。
この様に「規模の経済性」とは強烈なアドバンテージとなるため、このアドバンテージを有していない場合は、様々な角度から自社の強みを創造する必要がある。
※介護業界は、前述したデメリット、つまりは「何らかのショックで廃れる業界」では無い(弱者が淘汰される業界ではあるが)ため、『規模の経済性』にはメリットしか見つからない。
※ちなみに、規模の経済性が有利に働くことは国もわかっているため、事業所が大規模なほど基本報酬を(若干だが)下げたりしている。
一方で、他の市場に比べて「規模の経済性」の影響を受けにくい面も少なからずある。
例えば、基本報酬などの価格を自由に決めれないのは大きい。
※介護報酬(利用者が支払うお金)は国が決めているので、「規模に幅を利かせた薄利多売合戦」といった戦略に持っていきにくい。
※○○電機などの大手が「他社のチラシをお持ちください。その値段よりも安値をご提示いたします」などで他社を潰してしまうような悪どいことが出来ないといこと。