今回は、「モラルハザード」という用語を用いて、少し経済学的な記事を作成してみます。

 

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モラルハザードとは

 

ウィキペディアではモラルハザードに関して、以下の様に記載されています。

 

①情報の非対称性によりエージェントの行動についてプリンシパルが知りえない情報や専門知識がある(片方の側のみ情報と専門知識を有する)ことから、エージェントの行動に歪みが生じ効率的な資源配分が妨げられる現象

 

②倫理の欠如。倫理観や道徳的節度がなくなり、社会的な責任を果たさないこと

 

どちも同じ意味なのですが、分かりやすいのは②の意味ではないでしょうか。

 

そして、①を(もう少し)かみ砕いて解説すると以下の様な意味になります。

何らかの契約(あるいは取引)をした後で、依頼人が観察できないところで、代理人(=何らかの頼まれごとを引き受けた人・相手が要求する何らかの約束に同意した人)が依頼人に不利益をもたらすといった構図の問題

 

例えば経営者(依頼人)の立場で考えた際に、社員(代理人)を選ぶ際はモラルハザードに注意しなければならないということになります。

 

なぜなら、『面接の際は経営者に見込まれるようなアピールをしてきたので信用して雇ったものの、実際はサボりまくって働いてくれない』という事が起こったりするからです。

 

求職者は「雇ってもらえれば、後はこっちのものだ」と考えている場合もあり、簡単にリストラ出来ないのを良いことにやりたい放題をする可能性があったりします。

 

※分かりやすいように、ちょっと極端な表現を用いています。

 

 

理学療法士・作業療法士が仕事でモラルハザードの知識を活用する場面は少ないかもしれませんが、中にはデイサービスや訪問看護ステーションを経営している人達も存在すると思うので、その人たちは活かせる知識かも知れません。

 

モラルハザードの予防は難しい

モラルハザードを予防するのは難しいとされています。

 

例えば、先ほどの例の様に『期待して雇ったのに、サボってばかりいる社員』がいたとします。

 

そして、その社員がサボるのを防ぐために成果主義(結果が出れば給料をはずむなど)を導入したとします。

 

ですが「努力をせずに他者の成果を横取りして、我が物顔でアピールする人」であったり、「普段は努力せずに、美味しい所だけとっていく人」であったりな人も存在し、そうなると「結果が出せていること」と「最大限に頑張っているかどうか」は必ずしも直結しない場合も出てきます。

 

あるいは、「結果に直結しなくとも、存在してくれなければ困る職業の人達」も存在しますが、その人たちは「成果主義」となるとバカバカしくなって頑張らなくなるかもしれません。

 

※例えば病院で言えば「努力が診療報酬に直接影響を及ぼさない事務職」は重要な職業ですが、「直接的に診療報酬という成果を出すセラピスト」ばかりが評価されていれば、頑張って働いている事務職の人達はウンザリすると思います。

もしくは、「会社にとって必要だが、成果の出にくい仕事」へ率先して就こうとする社員がいなくなるかもしれません。

 

何故なら直接的な成果ばかりがクローズアップされるなら、そちらの仕事をしたほうが評価されるからです。

 

「縁の下の力持ち」なんてバカらしくてやってられません。

成果と努力が必ずしも一致しないのは魚釣りと一緒

 

皆さんは魚釣りをしたことはありますか?

 

成果と努力が一致しない例として魚釣りが分かり易いかもしれません。

 

例えば、魚を沢山釣ったほうに給料を多く支払うという契約をするとします。

 

ですが、どんなに努力しても釣れないことがある一方で、努力しなくても運がよくて沢山釣ってしまうこともあります。

 

すると、魚釣りを頑張ったにもかかわらず魚が釣れず報酬がもらえなかった人は、「努力しても必ずしもお金がもらえない」と悟ってしまい、努力する意欲を失ってしまう可能性があります。

 

ですが「努力は報われるのだ」という点を経営者が評価しようと思った場合は、ずっと魚釣りを見張っていなければならず、そのコストを考えると割が合わないということになってしまいます。

モラルハザードのまとめ(適切なインセンティブが働くような環境づくりが大切)

確かに、成果主義が短期的にはモラルハザードを抑制できるケースもあったりします

 

「成果を出せば給料が弾む」と言われれば、皆が色めき立って努力をする可能性はあったりします。

 

ですが、長期的にみると上手くいかないことが多いとされています。

 

多くのビジネスは、外部の環境やちょっとした運によって成果が左右されてしまいます。

 

それなのに、企業が成果だけをみて、努力を評価しようとしないなら、色々な問題が起きてしまいます。

 

例えば前述したように、(努力の結果が評価されなかったために)努力することが馬鹿らしいと感じた社員は、会社に見えないところでドンドン怠けるようになります。

 

なので、モラルハザードを予防しようと考える企業は「成果よりも努力で社員を評価しなければ」と考えるかもしれんが、実際は非常に難しいのが現状です。

 

なぜなら、(前述した魚釣りの様に)全ての社員がきちんと努力しているかどうかを経営者が常に観察できないからです。

 

※常に観察しようとすれば出来ないことも無いですが、そのコストが高すぎて割に合わないことが多いのが現状です。

 

※また、露骨に観察していることを示せば、経営者に対する不信感も生み出します(例えば監視カメラなど)

 

従って、結局のところ「観察していなくても相手の努力を引き出すような、適切なインセンティブを(手を変え品を変え)与えること」が、モラルハザード解決のカギとなるといえます。

 

あまり解決策が提示できてはいませんが、それだけに経営者にとって「モラルハザード」は難しい課題となっているようです。

この記事のおまけ=逆選択

 

モラルハザードとは逆に、契約(あるいは取引)をする前に隠れた情報があるために不利益をこうむることが原因で起こる現象は「逆選択」と呼びます。

 

例えば、「経営者が耳触りの良いキャッチコピーのもとで求人を出して、それに釣られて就職したは良いものの、実際はブラック起業であった」というのは、逆選択の良い例です。

 

あるいは、中古車を買おうとした際に、優良な商品かポンコツな商品かは、買ってみないと分からず、「買った後で故障の多い欠陥品」だと分かってしまい後悔するのは「逆選択」の分かりやすい例と言えます。

 

そして一定数の不良品が存在することで、消費者から「良品も多いが、万が一の可能性として不良品を掴ませれる可能性がある」と考えだすと、「高額の料金を支払うに値する良質な車」であったとしても(疑いの目でみられている以上は)そこそこの金額でなければ消費者から買ってもらえなくなります(消費者が、万が一のリスクを恐れているため)。

 

すると販売者は「優良な商品を売るのは割に合わない。馬鹿らしい」と考えて、自身も「ポンコツ車をそこそこの値段で売りさばく」という経営方針に舵を切るようになります。

 

すると、市場では「優良品は出回らず、ポンコツばかりが出回ってしまう」という状況になってしまうことがあります。

 

経済学ではこの状況を「悪貨が良貨を駆逐する」と表現します。

病院経営者がモラルハザードのツケを払うとき!

 

逆選択は脱線話でした。

 

話をモラルハザードに戻します。

 

政府が様々な制度を作るときは、性善説で物事を考える一方で、性悪説でも考えます。

 

例えば、「何らかの働けない事情があって生活に困窮している人たちには医療費をタダにしてあげて、最低限の生活が保障できるようにしてあげよう」といった非常にやさしい制度が性善説に基づいて作られたとします。

 

ですが、そんな制度を悪用する人たちもいるわけです。

 

つまりは「働けるだけの能力があるにもかかわらず、働けないと偽って、生活保護の下でのんびりと過ごす」といった人々です。

 

そんな輩が増えてくると、当然のことながら政府は性悪説のもと、生活保護に様々な規制を設けたり、(本当に必要な人がいるにも関わらず)生活保護費を切り下げたりする必要が出てきます。

 

※財源がひっ迫してくるため致し方のないことであったりもします。

 

※一部の人達のモラルハザードが、真に生活保護が必要な人たちをも苦しめてしまうという事になります。

 

何が言いたいかと言うと、昨今のリハビリに関する診療報酬引き下げなどは、病院経営者がもたらしたモラルハザードに対して、政府が(性悪説に基づいた)対策を打っているという側面もあるという事です。

 

病院経営者がモラルハザードを起こしたツケを、払うときがやってきたのかもしれません。

 

 

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