2016年1月1日に放送された朝まで生テレビ元旦スペシャルを録画して、楽しく視聴していると竹中平蔵氏が以下のような発言をしていた。
「トリクルダウンなんか起きるわけがない」
竹中平蔵氏はトリクルダウンを強烈に支持していると思っていた私にとって、この発言は非常に衝撃的だった。
今回は、少しこのブログの趣旨とは異なるが、インパクトがあったのでTV内容の詳細を記載しておこうと思う。
竹中平蔵氏の朝まで生テレビでの発言
竹中平蔵氏の発言に至る前フリとして、ツイッター・メールによる以下のような視聴者からの意見が司会者に読み上げられた。
- ボーナスないです。有給ありません。
- 賃金上がったことないけど、働き詰めです。
- いつも、どのレベルを中小企業と言っているのか疑問を感じます。自分が枠の外の底辺なのだといつも再認識しながら話を聞いてしまっていて悲しい。でも、これも自己責任になるんですよね。
- 中小企業の経営者がチャレンジしていないとか生産性を上げる努力をしていないとかよく言えますね。原資が無いから出来ないのが一番の理由です。湯水のごとく国民の血税を使える人達はそこを勘違いしないでほしいです。
- 日本人には日本人に合ったやり方がある。ドイツドイツって煩わしい。終身雇用の悪い部分はもちろんあるけれど、それこそ海外での評価は低くないはずだ。
これらのコメントが読み上げられた後、沖縄県在中の50歳女性で一般事務休職中の方からの電話質問として、以下の内容が読み上げられた。
『いくら待たされても貧富の差が縮まないのはどういうことか?』
そして、この問いに対する回答を、司会者が竹中平蔵氏に振った際の発言が以下になる。
「えっとね、格差は日本でも拡大しています。
で、実は重要な点は90年代から25年間世界で(格差は)拡大しているってことなんですよね。
だから、日本だけの現象じゃなくて世界の中でみると、日本の格差拡大はまだマシなほうで、
でもマシなほうだからほっといて良いということでは全くなくて、
根本的な政策をやらなくてはいけない。
それがアベノミクス第2ステージの重要な課題だと思います。
その意味では民主党の掲げた『給付月税額控除制度』を入れていくというのは自民党も真面目に考えてもらいたい。
同時にもう一つ、凄まじく厳しいグローバル化とIT化が進んでいるので、それに合わせた形での職業訓練の機会を確保して、その中で一人ひとりが世界的に厳しい競争の中で頑張っていくと。
で、さっきから実はトリクルダウンっていう言葉が出てきてるんですけどね。
私はそういう言葉を使ったことは一度もなくて、
(大企業の恩恵が中小零細企業に)したたり落ちてくるなんて無いですよ。
そりゃ、ありえないですよ。
だって自分がぽかんと口を開けてね、そして何か良くなってくるなんてことはやっぱりなくて、
一人一人がやっぱり頑張っていかないと、この厳しい世界の中ではやっていけない。」
ここまでが竹中平蔵氏のトリクルダウンに関する発言になる。
視聴者の「いくら待たされても貧富の差が縮まないのはどういうことか?」という問いに対して、様々な政策提言をしつつも、最後に「トリクルダウンは起きないから一人ひとり頑張れ」ということを言っている。
確かに、ウィキペディアにはトリクルダウンに関して以下のように書かれてある。
2014年12月にOECD(経済協力開発機構)が発表した報告書では、OECD加盟国における富裕層と貧困層の所得格差が、過去30年で最大となり、上位10%の富裕層の所得が下位10%の貧困層の9.5倍に達していると指摘。
「所得格差は経済成長を損ない、所得格差を是正すれば経済成長は活性化される」とし、トリクルダウン効果を否定。
つまり、世界的にトリクルダウンは否定されているようだ。
一方で、ウィキペディアには以下のようにも書かれてあります。
前記のOECD報告書によってトリクルダウンが否定された後の2015年1月28日、安倍晋三首相は、「安倍政権として目指すのはトリクルダウンではなく、経済の好循環の実現であり、地方経済の底上げだ」と国会において答弁し、以後安部政権の経済政策および安倍を支持するエコノミストたちはトリクルダウンという言葉を用いなくなった。
これを別の角度から読み解くと、安倍政権発足後から2015年1月28日までは安倍政権およびエコノミストたちはトルクダウンという言葉を用いていた、すなわちトリクルダウンを信じていた人もいたといえる。
事実、「トリクルダウン」という言葉は2014年の新語・流行語大賞の候補50語にも選出されている。
流行語大賞にノミネートされたということは、いかに政治家やエコノミストがトリクルダウンという言葉を用いたか、そしていかに一般庶民が自身の生活が苦しい中にあっても「トリクルダウンによりいつかは恩恵がもたらされるはずだ」とポジティブに捉えようとしたかを表しているのではないだろうか?
私は竹中平蔵氏はトリクルダウン理論を支持していると思っていた。
なので、出演番組ではトリクルダウンを連発していると思っていた。
しかし、竹中平蔵氏は朝まで生テレビで「私は一度もトリクルダウンという言葉を使ったことがない」と断言していることから、私の思い過ごしのようだ・・・・
しかし、竹中平蔵氏が出演している討論番組で、相対するエコノミストが「トリクルダウンなんて全然起こらないではないか?説明しろ!」「あたなたがいざなみ景気と言われた小泉政権下で大臣をしていた際も、結局トリクルダウンなど起こらなかったではないか?」といった発言を浴びせられている場面が、いくつも頭にこびりついている。
※それも朝まで生テレビだった気がする(森永氏や荻原氏とのやりとりだった気がする)。
もちろん、それらの発言に対して竹中氏は悠々と反論していたが、その反論内容はトリクルダウンを支持するような内容であった(つまりいずれは庶民に恩恵が及ぼされるはずだといった内容)と記憶している。
しかし、もしその当初からトリクルダウンが起こらないと思っていたのであれば、そこでは反論ではなく「そうだよ。トリクルダウンなんて起こらないと私も思っているよ。いくら待っても庶民に恩恵がしたたり落ちるなんて無いんだよ」と言うべきだったのではないだろうか?
竹中氏自身が言っているので、今まで一度も「トリクルダウン」とい言葉を使ったことがないというのは事実かもしれない。
しかし、エコノミストにトリクルダウンという言葉を使って批判された際も、その言葉を否定していなかったことを考えると、それはトリクルダウンを肯定していると言われても仕方がないのではないだろうか?
私は構造改革や規制緩和を否定しているわけではなく、アベノミクスに関してもむしろ肯定的だ。
※医療従事者なので診療報酬・介護報酬に関しては何とかしてほしいとは思ってはいるがが・・・
ただ、竹中平蔵氏の手のひらを返したような、国民をバカにした発言に憤りを感じているだけだ。
竹中氏と同様に、政治家はその時々で発言を軌道修正する。
そして、その時の発言だけを切り取ってしまうと、誤ったことを言っているようには聞こえない(むしろ真っ当なことを言っているようにすら聞こえる)ことが多い。
今回の竹中氏の「だって自分がぽかんと口を開けてね、そして何か良くなっていくなんてことはやっぱりなくて、一人一人がやっぱり頑張っていかないと、この厳しい世界の中ではやっていけない」という発言も、私自身は間違っているとは思わない。
ただ、過去の発言も注視していると、今回のように話が二転三転していることが見えてくる。
つまり、政治家やそのブレーン、エコノミストはご都合主義であり、安易に発言を信用できないなとつくづく感じた。
今回は、このブログの趣旨とは少し外れてしまいましたが、非常に気になる発言であったため記事にしてみた。
補足①トリクルダウンとは何か
ここからは、トリクルダウンといざなみ景気という用語を知らない方のために記載しておく(ご存知の方は蛇足な内容となる)。
まずトリクルダウンとは、どんな理論なのだろうか?
ウィキペディアによると『富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が滴り落ちる(トリクルダウンする)」とする経済理論または経済思想である』とのこと。
現在、日本での経済政策は「アベノミクス」などと呼ばれており、円安・株高による大企業有利な政策を推し進めている。
しかし大企業が潤って過去最大の利益を更新している反面、日本の大半を占める中小零細企業にはアベノミクスの恩恵が十分に及んでいるとは言い難い現状にあるようだ。
同様に、一部大企業の社員たちの賃金は上昇しているものの、中小零細企業の社員たちには殆ど及んでいないのが現状だ。
そこにきて、アベノミクスが推し進めている物価の上昇は、すなわち私たちが購入する物の価格が上昇するということを意味し、「少しばかり給料が上がっても、それ以上に物価が上昇しているので、(給料が上がっているのに)今まで以上に家計が厳しい」といった負の側面も出ている。
前置きが少し長くなったが、トリクルダウンとは上記のように「恩恵の受けていない中小零細企業およびその社員であっても、大企業が高収益を生むことで、時間をかけて少しずつ恩恵を得れるようになる」という理論のことを指す。
そして、なぜ大企業が高収益を生むと中小零細企業にも恩恵及ぶかは以下のような流れで説明される。
①大企業の収益が向上して、その社員たちの給料が大幅に上がる。
↓
②給料が大幅に上がった大企業の社員たちが、そのお金を使ってファミレスへ行ったり、旅行へ行ったりと、中小企業を含めた様々な方面へお金を使うようになる
↓
③中小企業を含めた様々な方面も潤って、それらの従業員の賃金も上がる
↓
④給料が上がった中小企業の社員たちも、ファミレスや旅行へ行ったり、今まで買わなかった住宅や車を購入したりするようになる。
↓
⑤景気の好循環が生まれる
つまり、「ピラミッドの頂点に位置する大企業が潤うことで、それより下位に位置する企業にも、利益がしたたり落ちるようにして降りてくる」という理論が、『トリクルダウン』ということになる。
そして、数年前に安倍政権が誕生した当初は「トリクルダウン」の理論が叫ばれていたが、一方で「小泉政権時代もいざなみ景気と言われながらもトリクルダウンは起きなかったじゃないか」という批判が、その当時からあった。
補足②いざなみ景気とは何か
最後にいざなみ景気についても記載して終わりにする。
いざなみ景気とは、小泉政権下で景気が拡大した時期を含めた「2002年2月から2009年3月までの86ヵ月間」を指す。
※小泉政権では、当時大臣であった竹中平蔵氏の辣腕もあって、規制緩和・構造改革を推し進めていくことになる。
しかし、この当時の景気拡大は、よくよく中身を見てみれば、大企業の収益が拡大する一方で、中小零細企業の社員たちには好景気の恩恵が全く受れないものであった。
つまり、現在の安倍政権と全く同様な状況だったと言える。
しかし、小泉政権時代も政権側は「トリクルダウンによって皆が恩恵が受けれるはずだ。しかし、それにはタイムラグがあるから、もう少し待ってほしい」と言い続けました。
そして、庶民は我慢して待っている間に、アメリカのサブプライムローン・リーマンショックが起こってしまい、恩恵を受けることなく、再び不景気に戻ってしまうこととなる。
そのため、小泉政権下で国民生活が苦しい際を引き合いに出した「いざなみ景気でもトリクルダウンが起こらなかったではないか!」という批判に対して、アベノミクスを支持する側は「これからトリクルダウンが起ころうとした矢先に外部要因(リーマンショックなど)による打撃をうけたからだ」とか「大企業の収益が向上していて、飛行機に例えると助走が完了してもうすぐ飛び立つ(トリクルダウンが起こる)矢先に政権交代が起こったからだ」などの言い訳をして、今回のアベノミクスとは異なるといった主張を展開していた。
しかし、今回の竹中平蔵氏の発言でトリクルダウン(この用語だけでなく、それが意味するところの庶民まで恩恵が回ってくると言われている要素も含む)はあり得ないことなのだという事が良く分かったのではないだろうか。
弱肉強食の世の中ということだ・・・・
コトラー:マーケティングの未来と日本
最後に、マーケティングを学んでいる人で知らない人はいないであろうコトラー氏の書籍より、トリクルダウンに関する項目が出てくるので、これを引用して終わりにする。
富が「滴り落ちる」という勘違い:
残念なことに、いまやわれわれの経済は、あまりにも金融によって動かされている。金融部門がGDPに占める割合は、1947年にはわずか2.5%にすぎなかったが、2013年末には8パーセントにも達した。彼らは実物の製品やサービスなどを提供しているわけではなく、主にお金を運用することによって利益を得ている。
彼らはいうだろう。資本主義がもたらす富は「トリクルダウン(滴り落ちる)」するものである、と。トリクルダウンとは、イギリスの精神科医、経済学者であったバーナード・デ・マンデヴィル(1670~1733年)の思想を端緒とするもので、資本を有する者が、それをもとにさらなる富を生み出し、その富が社会の構成員全員に対してより多くの仕事や収入をもたらす、という考え方である。
富裕層は、「経済が成長する、つまり上げ潮になれば、すべての船が浮上する」と語ってきた。経済成長すれば、富裕層はもちろん中間層も貧困層も豊かになる、ということだ。
しかし現実を見るかぎり、残念ながらその理念が実現しているようには思えない。そこで富は「滴り落ちる(トリクルダウン)」のではなく、「滴りあがる(トリクルアップ)」のが正しいようだ。いまやGDPが成長するということは、貧困層を減少させるということに直結しない。それは富裕層をますます富ませるだけで、それ以外の人たちが恩恵を被るとしても、十分なものとは言えないのだ。
~書籍『コトラー マーケティングの未来と日本 時代に先回りする戦略をどう創るか』より引用~
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一方で私も含めた「医療受持者」は、一般的なサラリーマンとは好景気・不景気による影響が異なっており、そんな医療従事者にフォーカスを当てた「給料と景気の因果関係」に関しては、以下で解説してみたので興味がある方は参考にしてみてほしい。