この記事では、理学療法士に馴染み深い『肩甲上腕リズム』について記載していく。

 

目次

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肩甲上腕リズムとは

 

肩甲上腕リズム(Scapula humeral rhythm)とは、以下の動きを指す。

 

肩関節を外転した際に起こる、上腕骨と肩甲骨の連動した動き

 

 

そして、この上腕骨と肩甲骨の連動した動きは、外転時に2対1の割合で起こると一般的には言われている。

 

例えば、「肩関節が90°外転している状態」というのは以下を指すという理屈になる。

 

上腕骨(肩甲上腕関節)の60°外転」と「肩甲骨(肩甲胸郭関節)30°上方回旋」が起こっている状態

 

以下のイラスト真ん中が、肩関節外転90°を表している。

肩甲上腕リズム

肩関節の運動に関する古典的な研究を、1944年にInmanらが行っている。

 

この研究は個々の関節によってつくられる肩複合体の全体的な運動への関与を理解する基礎をなしてきた。

 

これらの研究者は.異常のない肩関節における矢状前額面上での肩複合体の自動・随意的動作に関して報告している。

 

彼らは、「肩甲上腕関節の屈曲あるいは外転2」ごとに「肩甲胸郭関節での上方回旋を1」伴い、結果的に屈曲・外転ともに肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節との比が2:1であったと述べている。

 

つまり、肩甲上腕関節では屈曲あるいは外転が約120°生じ、肩甲胸郭関節では肩甲骨の上方回旋を約60°生じて、合計約180°の腕-体幹挙上をつくり出すことを示している。

 

ちなみにインマン(Inmann)は、肩甲上腕リズムにおける以下の動きも発見したとしている。

 

上腕骨30°外転するまで肩甲骨は静止しており、その後は上腕骨が2°動けば、肩甲骨が1°動く

 

余談ではあるが、肩関節外転80~120°の範囲で起こる「大結節がアーチに衝突しない為に起こる肩甲上腕関節の外旋運動」は『上腕関節窩リズム(Glenohumeral rhythm』と呼ばれるらしい。

 

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肩甲上腕リズムは嘘か?真か?

 

Inmanらにより『肩甲上腕リズム』なるものが報告されたが、Inman以外にも肩甲上腕リズムに関する様々な報告がなされている。

 

そして、肩甲上腕リズムにおける様々な報告の共通点に関して『書籍:オーチスのキネシオロジー』では以下の様にまとめられている。

 

  • 肩甲胸郭関節と肩甲上腕関節は肩関節挙上のほぼ全可動域を通して同時に運動する。
  • 肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節の両者が、肩関節の屈曲と外転の全体的な運動に大いに貢献する。
  • 肩甲骨と上腕骨は体系的で、調和的なリズムで運動する。
  • 肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節の運動の比率は、運動面と関節可動域内の角度に依存して変動する。
  • 自動運動における肩甲上腕関節と肩甲胸郭関節の可動域の比率は、筋活動に依存する可能性がある。
  • 各個人間で有意な変動がみられる

 

これらをまとめると、以下になる。

 

  • 「肩甲上腕リズム=肩関節を外転した際に起こる、上腕骨と肩甲骨の連動した動き」は存在する。
  • 必ずしも2:1の割合ではないが、調和的なリズムで動くことは確かである。
  • 肩甲上腕関節のみならず、肩甲胸郭関節の動きも肩関節の動きにとって重要である。

 

 

また、補足的な内容として『書籍:結果の出せる整形外科理学療法』の記述も引用しておく。

 

上肢挙上の際に、上腕骨と肩甲骨が動く比が一定という協同運動を示したもので、一般的には上肢の動きの内、上腕骨の動きが2に対し肩甲骨の動きが1の割合で運動が遂行される(30°の挙上であれば、上腕が20・肩甲骨が10°)といわれている。

 

しかし、近年の報告では、上肢挙上の方向の違い(屈曲、scapular plane、外転)や、体型の個人差、肘関節の肢位などにより、その値は異なることが確認されている。

 

ただし、同一個人の同じ運動であれば、挙上だけではなく、他の運動にも、肩甲骨と上腕骨の定率的な協調運動が認められることも確認されている。

 

 

肩関節外転による筋活動

 

肩関節の外転(肩甲上腕関節の外転+肩甲骨上方回旋回)に必要な筋活動は以下となる。

 

  • 僧帽筋上部線維
  • 僧帽筋中部線維
  • 僧帽筋下部線維
  • 前鋸筋
  • 三角筋中部線維
  • 棘上筋
  • 肩甲骨下筋・棘下筋・小円筋

 

僧帽筋上部線維の「拳上・上方回旋」と、僧帽筋下部線維の「下制・上方回旋」の動きが同時に生じ、挙上と下制が相殺されて純粋な上方回旋が生じる。

さらに、僧帽筋中部線維の「内転・上方回旋」と、前鋸筋の「外転・上方回旋」の働きが同時に生じ、内転と外転が相殺されて純粋な上方回旋(あるいは外転・上方回旋)が生じる。

 

肩関節の外転では三角筋中部線維が活動するが、その活動に先行して棘上筋が活動する。さらに骨頭の上方変位を防ぐために、前面の肩甲下筋と後面の棘下筋・小円筋が上腕骨頭を下方に引き、関節窩に安定させるように働く。

 

※棘上筋・棘下筋・肩甲下筋・円筋をの4つの筋は、上腕骨頭を包み込んで『回旋筋腱板(ローテータカフ)』を形成している。

 

※これは、上腕骨頭と肩甲骨にある関節窩を安定させる重要な役割がある。
以下の動画は肩関節外転時の肩甲上腕リズムを伴った筋収縮が視覚的にイメージしやすい。

 

 

 

また、余談になるが以下の動画は外転最終域で脊柱の動きも重要な点が視覚的にイメージしやすい(特に画像の前半部分)。これは屈曲にも言えることだが、脊柱の機能障害は肩関節複合体に影響を及ぼす可能性がある。

 

 

 

様々な機能障害が肩甲上腕リズムに与える影響

 

当然のことながら、様々な機能障害が肩甲骨上腕リズムに影響を与える。

 

例えば、機能障害の結果、肩甲上腕リズムの運動比率が反対になったり、さらに肩甲帯が挙上方向に動くなど、肩甲帯に外転運動を回避するような連動が見られるようになることもある。

 

これらの原因は、オーチスのキネシオロジーにも記載れているように、様々な筋活動が異常をきたしているから生じている可能性もあったり、その原因は肩関節の非収縮組織の炎症・癒着などが影響しているのかもしれない。

 

※高齢者の場合は、肩甲胸郭関節の不安定性(+αとして一部の筋過緊張など)によって起こっている場合も多い。

 

あるいは脊柱の機能障害(あるいは姿勢)が肩甲上腕リズムに影響を与えることも当然あり得る。

 

円背姿勢と直立姿勢での肩甲骨および肩関節の機能の違いを比較した研究によると、円背姿勢では直立姿勢よりも0~90°までの外転運動時に肩甲骨が挙上位にあり、90°以上で肩甲骨の後傾が減少すること、また、円背姿勢では肩関節の外転角度が減少し、外転筋出力も低下することが報告されている。

 

このように脊柱アライメントは肩関節の機能との関連性が深い。

運動療法学―障害別アプローチの理論と実際より~

 

そして、これら機能障害を改善し、(2:1の比率はともかくとして)、可能な限り上腕骨と肩甲骨の調和的な動きを引き出してあげることは重要と言える。

 

 

肩甲上腕リズムの評価ポイント

 

肩甲上腕リズムの評価ポイント(ここまでの、おさらいも含む)は以下の通り。

 

  • 外転30°・屈曲60°までは、肩甲骨の動きがほとんどない『静止期setting phase』である。以後の挙上角度で肩甲骨回旋と肩甲上腕関節での運動がほぼ2:1の比で行われる。(前述したように、個人差あり)

    ※ちなみに屈曲は60°までが『静止期』とされている。

 

  • 評価は立位で行う

    ※前述したように、脊柱のアライメントは肩甲上腕リズムに影響を及ぼすため。

 

  • 上肢を肩甲骨面上で挙上してもらう。挙上後、上肢を下降してもらう。挙上時よりも下降時に特徴的な問題を示す場合が多い。

 

  • 肩甲上腕関節の拘縮がある場合、静止期が少ない、また挙上開始時より肩甲骨と上腕骨が一体となって動く場合が多い。

 

  • 肩甲骨周囲筋に機能低下がある場合、挙上障害や下降時に肩甲骨の翼状化(翼状肩甲)がみられる。