この記事では「股関節の(深層)外旋六筋」について、筋力トレーニング・ストレッチングなどのリハビリ(理学療法)も含めて記載していく。
外旋六筋の基礎情報
深層外旋六筋の基礎情報は以下となる。
筋名 | 起始 | 停止 | 作用 | 神経支配 |
梨状筋 | 仙骨の前面で、上位3つの前仙骨孔の周辺 | 大腿骨の大転子の後近位端 | 股関節の外旋・外転 |
仙骨神経叢
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上双子筋 | 坐骨の坐骨棘 |
内閉鎖筋の腱 大腿骨の転子窩 |
股関節の外旋 |
仙骨神経叢
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下双子筋 | 坐骨の坐骨結節の上部 | ※上双子筋と同じ | ※上双子筋と同じ |
仙骨神経叢
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内閉鎖筋 | 寛骨の内面で閉鎖筋膜とその周り | 大腿骨の転子窩 | 股関節の外旋 |
仙骨神経叢
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外閉鎖筋 | 寛骨の外面で閉鎖膜とその周り | 大腿骨の転子窩 | 股関節の外旋、内転 |
閉鎖神経
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大腿方形筋 | 坐骨の坐骨結節の外面 | 大腿骨の大転子の遠位部と転子間稜 | 股関節の外旋、内転 |
仙骨神経叢
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~筋連結~
- 梨状筋⇒中殿筋(腱)・小殿筋(腱)と連結
- 上双子筋⇒内閉鎖筋(腱)と連結
- 下双子筋⇒内閉鎖筋(腱)と連結
- 内閉鎖筋⇒外閉鎖筋(閉鎖膜)・上双子筋(腱)・下双子筋(腱)と連結
- 外閉鎖筋⇒内閉鎖筋(閉鎖膜)・大腿方形筋(腱)と連結
- 大腿方形筋⇒外閉鎖筋(腱)・外側広筋(腱膜)と連結
外旋六筋の特徴
深層外旋六筋は、大殿筋の深層に位置する筋長の短い回旋群であり、文字通り股関節の外旋」に重要な作用を有する。
大きな大殿筋の深層に位置しているため、直接触診することができず、間接的にも個別に触診するのは難しい。
ただし、大殿筋を弛緩させた状態では、梨状筋は比較的触診しやすい筋と言える(⇒梨状筋の触診方法を紹介)
外旋六筋の外旋作用
各筋における外旋作用の特徴は以下の通り。
大腿方形筋:
股関節屈曲角度に関わらず大きな外旋モーメントを発揮する
内閉鎖筋、上・下双子筋:
股関節伸展位で外旋モーメントが生じるが、股関節屈曲位ではこれらのモーメントアームは0に近づくため、発揮されるモーメントは全くみられない(あるいは極僅か)。
梨状筋:
股関節伸展位で外旋、股関節屈曲位で内旋へとその作用が変化する
外閉鎖筋:
梨状筋とは対照的に、外旋モーメントアームは股関節屈曲位で増加する。
外旋六筋の内・外転作用
外旋六筋は内転あるいは外転作用を有している。
例えば、梨状筋は股関節の位置に影響されない外転モーメントアームを有している。
※なので、ストレッチングをする際は内転方向への可動はポイントの一つとなる(⇒梨状筋のストレッチングを紹介)
一方で、内閉鎖筋は股関節屈曲位でのみ外転が可能とされている。
また、外閉鎖筋・大腿方形筋は、股関節伸展位あるいは軽度屈曲位において内転作用がみられる。
ただし、外旋六筋の股関節内・外転作用は、主要な『外転筋(中殿筋など)』や『内転筋』と比べて非常に小さい。
まとめ:外旋六筋は股関節の安定性に寄与
前述したように、外旋六筋の「股関節外旋作用」を考えた際に、それぞれの役割は多少異なっており、複雑である。
また、(前述したように)外旋六筋は、股関節外旋機能のみならず「股関節内転や外転作用」も有しており、それらの作用は「主要な内外転筋の機能」には遠く及ばないものの、補助的に貢献してくれている。
そして、上記に示した外旋六筋の個別の特徴を覚える必要は全くないが、この記事を通して以下のポイントだけ覚えておくと良い。
- 外旋六筋は、深く分析してみると、複雑で異なった機能を有していることがわかる。
- そして、この複雑な機能こそが、どの様な肢位・場面であっても「股関節の安定性」への貢献できる理由となる。
- また、(発揮される筋力は小さいものの)股関節周囲に位置し、関節の近位部を事実上取り囲んでいるという「ローカルマッスル」の特徴も、股関節の動的安定性の供給に繋がっている。
外旋六筋のリハビリ(理学療法)
大殿筋は最も強靭な股関節外旋筋である。
そして、大殿筋と、小さな筋群である外旋六筋の筋力低下や筋短縮を分離して見つけることは非常に困難である。
一方で、梨状筋は筋機能障害が分かりやすく『梨状筋症候群(坐骨神経痛も含む)』として問題が起こりやすいので、個別に着目すべき筋と言える
関連記事⇒『梨状筋症候群を解説』
ここから先は、外旋六筋のリハビリ(理学療法)として、筋トレ―ニングとストレッチングについて記載していく。
外旋六筋の筋力トレーニング
必ずしも、外旋六筋に特異的な筋力トレーニングではないものの、以下の手法は筋力トレーニングとなり得る。
②股関節を開排するようにして、股関節を外旋していく。
※ちなみに、外旋筋群に挟まれている坐骨神経が筋収縮によって絞扼されて、疼痛が誘発されることもある。
開排動作は求心性収縮・開排位のキープは静止性収縮、ゆっくりと戻す動作は遠心性収縮となり、「股関節の安定性」を考えた場合は、様々な収縮様式が重要となる。
関連記事⇒『筋には様々な収縮様式があるよ』
また、この筋力トレーニングは体幹インナーマッスルとの協調した「難易度の低いトレーニング」としても最適だったりする。
※股関節を開排する際に、外旋六筋が弱化している場合は「骨盤を後方へ倒すこと」で代償しやすい(弱化していなくとも、その方が楽なのでエラーとして起こりやすい)。
なので、「自身の力で(インナーマッスルを含めた)体幹筋群で骨盤のブレを制御しつつ開排してもらうという行為」は、個人的にはコアエクササイズとしても好んで使う。
関連記事⇒『インナーマッスル(コアマッスル)の段階的トレーニングを紹介』
※外旋六筋以外にも「コアマッスルとの協調したトレーニング」として以下を紹介してきたが、その中でも「難易度が低く、エラーを自身でも自覚しやすい」という意味でおススメのトレーニングとなる。
ただし、股関節の安定性は「荷重下」で特に重要となるため、OKCでのトレーニングのみならず、他の筋群とも強調させたCKCのトレーニングへと段階的に進んでいく必要がある。
関連記事⇒『CKCとOKC(+違い)』
ちなみに、腹臥位が辛くない人であれば、ボールを活用した以下のようなアイデアもある。
※ゴムボールを潰す方向に力を加えることで、外旋筋群の等尺性収縮が可能。
※収縮様式が限られるが、前述した手法と比べて「最大収縮」が引き出しやすかったり、特殊な肢位なため「様々な肢位での収縮を試みる」という意味では選択の余地がある(意外と「この肢位での筋収縮は苦手」ということもあったいるする。
外旋六筋のストレッチング
冒頭の『外旋六筋の外旋作用』でも記載したが、一概に「外旋筋」と言っても肢位によって作用が若干異なる。
しかし、股関節屈伸中間位においては、ほとんどが外旋筋として作用するため、この肢位で「内旋方向」へ可動すると外旋六筋のストレッチングとなる。
つまり、「腹臥位+膝屈曲位で、下腿を外側へ倒して股関節を内旋していく」と外旋筋がストレッチされるという事になる。
ここでは、外旋六筋に対する「PIR(等尺性収縮後弛緩テクニック)+ストレッチング」の動画を示しておく。
まずは、筋性のエンドフィールを感じるポイントまで、股関節を内旋していく。
その肢位を療法士は保持しつつ、対象者に「足を動かそうとするので止めていて」と指示しながら療法士の「股関節外旋方向への軽微な力」に外旋筋で抗してもらうことで等尺性収縮を引き出す。
5~10秒収縮させた後、リラックスさせて、再びバリアの感じるポイントまで股関節を内旋していく。
これを数回繰り返す。
※単なるストレッチングをしたいのであれば、そのまま内旋方向へ外旋六筋を伸張しても良い。
※PIRは「(ソフトな手法なため)筋スパズム・痛みを伴う場合に有効」や「(筋収縮も活用するので)ストレッチング後もパフォーマンスが落ちにくい」などのメリットがあるが、それらにメリットを感じなければストレッチングで構わない(好みの問題)。
※ストレッチングの際は、反側の骨盤が浮いてしまわないよう固定。
※腹臥位での内旋可動域の改善(外旋ストレッチングも含む)は、ベースラインとしての可動域の左右差を(動画の様に)効率的に評価しやすいというメリットとなる。
※内旋方向へ捻じったらササッと左右差の比較ができる。
※外旋筋の短縮が無い場合は、腹臥位で股関節を内旋していった際は、『関節包(+靭帯性)エンドフィール(Firm:固定された弾性)』となり、この様なエンドフィールに可動域制限も伴っていれば、そのまま持続的伸張を加えることで「関節包(+靭帯)のストレッチングテクニック」となる。
関連記事⇒『エンドフィールで治療選択』
外旋六筋のリハビリ(理学療法)関連記事
外旋六筋の中でも梨状筋にフォーカスした記事は以下になる。
⇒『梨状筋の触診とストレッチを知って、梨状筋症候群のリハビリに活用しよう』
他の筋に対するストレッチングに関しては、以下の記事にまとめているので興味がある方はチェックしてみてほしい。