この記事は、後縦靭帯骨化症についてまとめた記事である。

 

リハビリ(理学療法・作業療法)の従事者は参考にしてみて欲しい。

スポンサーリンク

 

目次

閉じる

脊髄靭帯骨化症について

 

背骨(脊柱)は椎骨が積み重なってできており、その一つ一つの椎骨をいくつもの靭帯が繋いで支えている。

 

背骨を支える靭帯には、以下などがある。

 


②後縦靭帯⇒椎体の後面を縦に走行
①前縦靭帯⇒椎体の前面を縦に走行

③黄色靭帯⇒椎弓を繋いでいる

 

※このうち、後縦靭帯横色靭帯は脊柱管の中にある。

 

※椎骨を繋いでいる靭帯は、その他にも棘間靭帯・棘上靭帯などがあるが、この記事には不要な情報なので割愛する。

 

これらの靭帯が硬く厚くなって(骨化)、脊髄障害などを起こす病気の総称を『脊髄靭帯骨化症』と呼ぶのだが、
脊髄靭帯骨化症」の中でも特に「後縦靭帯」と「横色靭帯」は脊柱管の中を走行しているので、重症な脊髄障害を起こすことから難病(特定疾患)にも指定されている。

 

 

後縦靭帯骨化症と横色靭帯骨化症

 

靭帯の骨化は背骨のどの部位でも起こり得るが、最も大きな問題となりやすいのが頸椎後縦靭帯骨化症ossification of posterior longitudinal ligament(OPLL)である。

 

後縦靭帯骨化症は頸椎に多くみられるが、まれに胸椎にもみられる。

 

※ちなみに、黄色靭帯骨化症ossification of yellow ligament(OYL)という。OYLは胸腰椎移行部に好発する。

 

※頸椎後縦靭帯骨化症に黄色靭帯骨化症を合併する頻度は約半数といわれ、脊柱管は後縦靭帯骨化症によって前方から、黄色靭帯骨化症によって後方から狭窄を生じ、脊髄や神経根が圧迫され麻痺などの症状を呈することになる。

 

以降の記事は、後縦靭帯骨化症にフォーカスを当てて記載していく。

 

後縦靭帯骨化症の発症原因

 

後縦靭帯骨化症を起こしてしまう成因は不明との報告が多いが、一般的には以下などが示唆されている。

・遺伝との関連性(家族に靭帯骨化症と言われた人はいないか)

・糖尿病の合併(糖尿病がないか)

・肥満

・カルシウム代謝異常

・脊柱の加齢的年齢変化

・持続可動学的負荷

・「全身性突発性骨増殖症」(DISH)との関連性

・「強直性脊椎骨増殖症」(ASH)との関連性

・・・・・・・・・・・などなど

 

集団検診による頸椎X線検査による後縦靭帯骨化症の発見頻度は2%といわれるが、その割に受診患者数が少ないのは無症状の人(後縦靭帯が骨化しているものの症状が無い人)が多いためと考えられている。

 

好発年齢は50歳代がもっとも多く、次いで60歳代、40歳代となり、30歳代未満の発症はきわめて稀とされている。

 

性別では頸椎後縦靭帯骨化症は男性が女性の約2倍である。

※一方で、胸・腰椎後縦靭帯骨化症は逆に女性に多いといわれる。

 

 

後縦靭帯骨化症の分類

 

後縦靭帯骨化症のX線所見によって分類される。

 

後縦靭帯骨化症のX線所見上の特徴は、頚椎X線側面像で椎体後縁に沿って、後縁と接触するかまたは明らかに間隙を有する均等な縦走する棒状陰影であり、このX線所見に基づき以下の4型に分類される。

 

1)分節型(骨化が1椎体の高さを越えない)

2)連続型(骨化が2椎体以上に連続して存在する)

3)混合型(分節型、連続型の混在)

4)その他(上記以外の分類)

 

また、脊柱管前後径に対する骨化している靭帯の厚みの割合を狭窄率とよび、40%を越えると脊髄症が発生しやすいと言われている。

 

 

後縦靭帯骨化症の症状

 

後縦靭帯骨化症の症状としては以下が挙げられる。

 

  • 初期症状:

    手足のしびれ感や巧緻動作障害

    首部~肩甲帯の痛みや凝り

    下肢のしびれや痛み

 

  • 主症状:

    頸部・体幹の症状

    ⇒強張り・痛み・圧迫感

    ⇒頸部の運動制限

    ⇒頸部屈伸時の電撃様痛

 

  • 上下肢の症状:

    ⇒手指の運動制限・身辺動作困難。

    ⇒下肢の運動障害・歩行障害。

 

  • 膀胱直腸障害:

    ⇒頻尿・開始遅延・残尿感。便秘など。

 

  • その他:

    ⇒重症例では振動覚や位置覚が障害

    ⇒腱反射は上下肢ともに亢進することが多く、Hoffmann反射、Wartenberg反射、膝クローヌス、足クローヌスなどもみられる

 

 

骨化が起きても軽度のうちは症状が現れない。

 

頸椎の靭帯骨化症の場合、局所症状として首の痛みがあるが、よくある症状なので、最初に異常に気づくことが多いのは手のしびれである。

 

手のしびれは末梢神経障害の可能性もあるが、続いて脚のしびれも出てきたら、頸椎の病気が疑われる。

 

手の動きがぎこちなくなり、箸が使いづらく、文字を書きづらくなるといった巧緻運動障害も頸椎での脊髄障害の典型的な症状となる。

 

進行すると、足が突っ張って歩きにくいといった歩行障害や、頻尿・尿漏れといった膀胱直腸障害なども現れる。

 

ここまで記載して分かると思うが、これらは以下の記事にも記載している「変形性頸椎症」や「頸椎椎間板ヘルニア」によって起こる脊髄症状と同じである。

 

つまり、原因はバラバラであるが、「脊髄を圧迫して症状が起こる」という点では共通している。

 

なので、以下の「脊髄症」の項目も併せて観覧すると理解しやすい(少し角度は変わるが全く同じことを記載している)
⇒『頸椎椎間板ヘルニアの治療まとめ
⇒『変形性頸椎症(頸髄症・神経根症)の上肢痛に対するエビデンス

スポンサーリンク

 

後縦靭帯骨化症の治療

 

残念ながら、現在のところ靭帯の骨化を止めたり、一度起こった骨化を治したりする治療法はない。

 

治療は、症状の軽減を図る保存療法と、神経への圧迫を取り除く手術に大きく分けられる。

 

 

後縦靭帯骨化症の保存療法(リハビリも含む)

 

頸椎の靭帯骨化症では、頸椎の安静を保つために頸椎カラーを使って首の動きを制限することがある。

 

動きに伴う神経の圧迫を防ぐことで一時的に症状が改善することもある。

 

痛みに対しては、非ステロイド性抗炎症薬や神経障害性疼痛緩和薬などを用いる薬物療法、温熱療法などの物理療法が行われる。

 

しかし、いずれにしても「症状を多少なりとも緩和すること」を目的とした対処療法となる。

 

また、関節を動かすことで疼痛が誘発されるが、一方で安静にしすぎると抗重力筋である頸部周囲筋が弱化してしまい、それが更なる二次的な障害(姿勢を保持すると疲れる・疼痛が出現しやすい)などが起こる可能性がある。

 

なので、以下の様な等尺性収縮「関節を動かさずに筋収縮を促す」によって筋力低下を予防するなどのリハビリ(理学療法)が指導されることもある。

 

※頭の位置(頸部の傾き)を変えずに行うのがポイント

 

 

 

※上左の画像⇒頸部屈筋群に対する等尺性収縮

※上右の画像⇒頸部伸筋群に対する等尺性収縮

※下 の画像⇒頸部側屈筋に対する等尺性収縮

 

『等尺性収縮』という用語は以下でも解説しているので、興味がある方は観覧してみてほしい。

 

筋の収縮様式(求心性/遠心性/静止性/等尺性/等張性収縮)の違い

 

 

後縦靭帯骨化症に対する手術

 

手足にしびれがあって、動きが悪くなってきたら、手術が選択される場合がある。

 

前方除圧固定術:

 

前方(イラストでは上側が前方)から椎体を取り除き、靭帯の骨化部分を摘出、あるいは前方へ逃がし、骨移植をして固定する。

頸椎 前方除圧固定術

 

 

 

①骨化した靭帯(一部を摘出・あるいは前方へ逃す)

②移植した骨(椎体を取り除いた後に、移植)

 

 

 

後方除圧術:

 

背側から椎弓の一部を切り開いて脊柱管を後方に広げ、脊髄を圧迫から逃がす。

最近では、さらに固定を加えることもある⇒②

頸椎 後方除圧術(脊柱管拡大術)

 

 

①骨化した靭帯

②移植した骨

 

繰り返しになるが、後縦靭帯骨化症によって狭まった脊柱管のスペースの、前方を広げるか(前方除圧術)、後方を広げるか(後方除圧術)の違いとなる。