この記事では、頸椎椎間板ヘルニアについて、リハビリ(理学療法)も含めて記載していく。
ヘルニアって何だ?
脊柱(の第2頸椎以下)における椎体と椎体の間には『椎間板』が挟まっている。
この「椎間板」は、中心にゼリー状の髄核があり、その外側を線維の層が何層にも重なった線維輪が取り巻く、弾力性の組織である。
そして、この椎間板が背骨に加わる衝撃を吸収するクッションの役目を果たし、脊柱の様々な運動をする際の関節の一つとして働いている。
椎間板は加齢とともにヘタってくるよ
椎間板は体の中でも早く老化が始まるところで、加齢とともに髄核の水分が減って、クッションとしての働きも衰え、線維輪も亀裂が生じてくる。
また、線維輪の痛みは修復されにくいため、そのうち亀裂が入り、何らかの拍子に髄核が飛び出してしまう事がある。
これが『椎間板ヘルニア』である。
そして、「何らかの拍子に起こる髄核の脱出」を含めた椎間板障害は、「働き盛り(退行変性し線維輪に亀裂が生じつつも、髄核の水分はある程度残存している年齢)で、急激な外力(重たいものを持ち上げるなど)が加わった際」に腰部へ発症しやすい。
つまり、椎間板ヘルニアは一般的に「腰部椎間板ヘルニア」として知られている。
一方で、この椎間板ヘルニアが首に起こる事も少なくない。
~画像引用:パンフレット 整形外科シリーズ 頸椎椎間板ヘルニア~
※ちなみに、加齢とともに髄核の水分は減っていく(椎間板がヘタっていく)ので、高齢者になると椎間板の厚みが無くなるとともにヘルニアの発症頻度は下がる。
※逆に(椎間板のクッションが無くなり、その負担が椎間関節に及ぶため)高齢者では、変形性関節症・脊柱管狭窄症などが起こりやすくなってくる。
頸椎椎間板ヘルニアの特徴
椎間板ヘルニアが頸椎に生じた場合を『頸椎椎間板ヘルニア』と呼ぶ。
椎間板ヘルニアの頻度は腰より低くいため「椎間板ヘルニアは腰に起こるもの」と思っている人も多いが、首に起こる事も少なくない。
頸椎椎間板ヘルニアは、特に以下の2か所で発症しやすい。
・第5頸椎と第6頸椎の間の椎間板
・第6頸椎と第7頸椎の間の椎間板
発症年齢は前述したように、若年~中年者に多い。
頸椎椎間板ヘルニアの症状
頸椎椎間板ヘルニアの症状は、いかの3つに分類される。
頸椎症状:
線維輪の断裂やヘルニアが生じると、まず起こるのが椎間板に分布する神経が刺激されたことによる頸椎症状である。
急性期には首から肩の強い痛みが現れ、首を動かしくにくくなる(痛みや恐怖で動かせない)。
痛みは(一般論として)1週間以内に軽くなることが多いが、次第に後頭部から首・背中の凝りを感じるようになったり、頭痛やめまい、耳鳴りを訴える人もいる。
頸椎症状だけの場合で、尚且つ頸椎の変形も伴っている場合(50代くらいの人に多い)は、「頸椎椎間板ヘルニア」ではなく「変形性頸椎症」という診断名が付く場合もある。
※なぜなら症状の原因が、ヘルニアなのか頸椎の変形なのか定かではないから(実際は、画像所見とは関係ない機能異常な可能性もある)。
神経根症状:
ヘルニアが椎間孔へ飛び出すと、そこを通る神経根を圧迫して神経症状を起こす。
首から肩・腕へと走るような痛みが、(通常は)左右どちらか片方に起こる。
また、特定の部位に痺れや感覚障害が現れたり、脱力が生じたりすることもある。
脊髄症:
ヘルニアが脊柱管内に飛び出すと、脊髄を圧迫して脊髄症状を起こす。
両手の痺れ、脱力などが現れ、次第に手の動きっぎこちなくなる。
さらに重篤な症状として、以下が起こる事もある。
・歩きにくいなどの脚の症状
・排尿・排便の異常
検査と診断
痛みの出方や部位、感覚や運動、反射の障害を検査する。
また、疼痛誘発テストを実施して、神経根症状が誘発されるかを確認したりもする。
あるいは、「両手でグーとパーを素早く繰り返し、10秒以内に何回出来るか」を調べる『10秒テスト』などで脊髄障害が起こっていないかを実施したりもする。
こうした検査で、どの神経が障害されているかも含めて臨床推論していくが、最終的な診断確定には画像診断が行われる。
エックス線検査で「変形しているかどうか」は把握できるが、ヘルニアは前述したように若年者にも起こり、そういう人たちには骨変化はあまり見られない。
そして、椎間板や神経の状態を確かめるにはMRI検査が必要となり、この『MRI検査』によって椎間板ヘルニアかどうかを確定していくこととなる。
※「理学検査と画像診断が一致している」となって初めて椎間板ヘルニアと診断されるということになる(MRI画像でヘルニアが見られても無症状な人も多いため、画像だけで診断されるわけではない)。
理学検査(スパーリングテストなど)に関しては、変形性頸椎症とほぼ同じであり、詳細は以下を確認して頂きたい。
⇒『変形性頸椎症(頸髄症・神経根症)の上肢痛に対するエビデンス』
頸椎椎間板ヘルニアに対する一般的な治療法
ここから先は、頸椎椎間板ヘルニア(脊髄症・神経根症も含む)に対する一般的な保存療法について記載していく。
以下の様な保存療法を実施することで「頸椎症状や神経症状」であれば、大抵治まる。
頸椎椎間板ヘルニアの治療① 安静
激痛が起きた急性期には、ひとまず安静にして経過観察をする。
また、患部の安静を保って痛みを軽くするために、首の動きを制限する頸椎カラーが勧められる場合がある。
頸椎椎間板ヘルニアの治療② 鎮痛剤
病院では炎症を抑える薬剤(NSAID)が処方されることが多い。
※例えば、ボルタレンやロキソニンはNSAID(非ステロイド性抗炎症薬)である。
関連記事⇒『NSAIDは世界で最も売れている鎮痛剤だよ』
NSAIDには副作用があるので、長期の服用は控えたほうが良い。
その他では、筋肉の緊張を和らげる筋弛緩薬などが用いられる場合がある。
※筋肉の緊張は頸椎椎間板ヘルニアによって起こる「痛みや恐怖に対する防御性収縮」として副次的に生じるものだが、、筋スパズムに移行して、筋自体が痛みの原因となることがある。
関連記事
⇒『防御性収縮と筋スパズム』
あるいは、神経障害性疼痛緩和薬のプレガバリンなどが処方されることもある。
関連記事⇒『カルシウムイオンチャネルブロッカー(神経障害性疼痛の第一選択薬)!』
ただし、こちらも(短期的な副作用のみならず)長期的な副作用が少なからず存在している(まぁ、椎間板ヘルニアは慢性痛ではなく急性痛に該当するので、長期的な服用の心配は少ないかもしれないが)。
一般的な痛みどめの薬で収まらない強い痛みがある際は、局所麻酔などを注射する『ブロック療法』が行われることがある。
頸部~肩甲帯に痛みが限局している場合には、痛い部位に直接注射する『トリガーポイントブロック』が行われることがある。
神経根症で激しい痛みがある時には神経ブロック(神経根ブロック・星状神経節ブロックなど)が行われることもある。
ただし、頸部の場合は、食道や頸動脈などが通っているため、腰部に比べて行われるケースは限られる。
脊柱に関する神経ブロックについては以下で解説しているので、興味があれば観覧してみてほしい。
⇒『脊柱の痛み(腰痛・頸部痛など)に対する神経ブロック療法(ブロック注射)を解説』
頸椎椎間板ヘルニアの治療③ リハビリ(理学療法)⇒物理療法
頸椎椎間板ヘルニアのリハビリ(理学療法)として、『頸椎牽引(機械で首を引っ張る)』という物理療法が処方される場合がある。
関連記事⇒『牽引療法(腰椎牽引・頸椎牽引)って効果ある?徒手的な牽引法も紹介!』
ただし、効果としては賛否あり、症状が改善されるという人がいる一方で、悪化したという人もいる(変わらないという人もいる)。
そんなこともあって、推奨グレードは低い。
頸部痛に対する牽引療法(traction)
推奨グレード:D エビデンスレベル:1
機械的牽引の効果を検証したシステマティックレビューにおいて、間歇牽引は急性もしくは慢性の頚部障害や根症状を伴う頚部障害,ならびに退行性変化に対して疼痛を軽減する効果が示され、一方、持続牽引については疼痛の軽減効果がないことが示されている。
また、頚椎牽引が頚背部痛に対して有効または他の治療法に比べても有効であることを示すエビデンスは不十分であり、有効でないとも言い切れない。
例えば、(カルテンボーンのグレードⅠ~Ⅱの範囲での)神経生理学的刺激を狙った『療法士による徒手的な頸椎牽引』であれば(変化が起こらないとうことはあっても)悪化することは無いため、安全に実施することが可能である。
あるいは、温熱療法が実施されることもある。
患部を温めることで筋肉の緊張を緩めて、痛みが軽くなることが期待できる(機序は「筋弛緩薬」での解説と同様)。
病院ではマイクロ波など特殊な機械で実施されることもあるが、自宅での入浴なども効果的となる。
関連記事⇒『温熱療法の作用まとめ!『温熱の良し悪し』を把握して臨床に活かそう♪』
頸椎椎間板ヘルニアの治療④ リハビリ(理学療法)
基本的にリハビリ(理学療法)は疾患(この場合は頸椎椎間板ヘルニア)毎に実施するわけではなく、生じている機能障害に合わせて実施しすることが基本となる。
例えば徒手療法に関して言えば、軽微な刺激でも疼痛が誘発される場合は機械的刺激よりも神経生理学的な刺激が中心なアプローチになるだろう。
これらの判断の一つにイリタビリティーの概念は判断材料の一つとなり得るため、以下も参照してみてほしい。
基本的に(椎間板ヘルニアも含めた)急性痛はイリタビリティーが強い場合が多く、神経の感作を招く可能性があるため注意が必要である。
イリタビリティーが低い場合は、マニュアルセラピーの概念に沿って機能障害を改善していくこととなる。
⇒『マニュアルセラピーとは?』
イリタビリティーが低い場合は、尚更「椎間板ヘルニア」という疾患名囚われすぎないほうが上手くいく場合も多い。
例えば、頸椎は必ず退行変性が進んでいるので、加齢とともに大なり小なりヘルニアが起こってくる場合も少なくない。
一方で、画像所見でヘルニアが認められるにも関わらず無症状の人がいたりする。
この辺りの考えは、以下の記事も参考になると思う
⇒『(HP)徒手理学療法におけるクリニカルリーズニングの前提条件とは?』
頸椎椎間板ヘルニアと手術療法
頸椎椎間板ヘルニアは自然に治ることも多いので、まずは保存療法で様子を見るのが基本となる。
ただし、日常の生活動作が不自由になる手指の運動障害や、歩行障害、排尿障害など、重症の脊髄症状が出てきた場合は、手術も検討することとなる。
頸椎椎間板ヘルニアと変形性頸椎症の違い
頸椎椎間板ヘルニアと同じく神経症状を併発する可能性のあるものに、『変形性頸椎症』がある。
これら鑑別のにおいて、最初の段階でカルテから読み取れる貴重な情報は「年齢」である。
つまり同じ神経症状を有していても、「変形性頸椎症は加齢とともに発症頻度が増える」「頸椎椎間板ヘルニアは加齢とともに発症頻度が減る」という特徴を(一般的には)有している。
また、変形性頸椎症での神経の圧迫は、頸椎椎間板ヘルニアと比べて「広範で多方向に起こりやすい」という特徴もある(つまり、変形性頸椎症の方が脊髄を圧迫する確率が高くなる)。
あるいは神経根症状に関しては、椎間板ヘルニアに比べて変形性頸椎症の方が「症状が左右両側に出現したり、いくつもの神経根が同時に圧迫されるケース」が多くなる。
そんな変形性頸椎症に関する詳細は以下を参照してもらいたい。